Archive for the ‘財産調査’ Category
住宅ローンを残して死亡したときの相続
1住宅ローンは相続財産
①住宅を相続する人=住宅ローンを相続する人ではない
住宅ローンの対象になっている住宅と住宅ローンは、別の相続財産です。
住宅ローンの対象になっている住宅と住宅ローンを、セットにして考えがちです。
住宅ローンの対象になっている住宅を相続した人が、住宅ローンを自動的に相続するわけではありません。
住宅ローンの対象になっている住宅と住宅ローンは、別の財産だからです。
住宅ローンの対象になっている住宅は、相続人全員の合意で分け方を決めることができます。
住宅ローンは、法定相続分で相続人が相続します。
②住宅ローンを負担する人を相続人で合意できる
住宅ローンは、相続財産です。
相続が発生した場合、相続人に引き継がれます。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決めることができます。
住宅ローンの分け方を相続人全員で合意することができます。
マイナスの財産の分け方を相続人全員の合意で決めた場合、相続人の内部的な合意に過ぎません。
③債権者は法定相続分で相続人全員に対して請求できる
住宅ローンは、相続財産です。
住宅ローンを返済する人を相続人全員の合意で決めることができます。
相続人全員で住宅ローンを返済する人を決めたとしても、債権者は法定相続分で相続人全員に対して請求することができます。
銀行がローンの法定相続分の返済を請求してきた場合、相続人全員の合意でローンを返済する人を決めたからその人に請求して欲しいということはできません。
ローンを返済する人を決める合意は、相続人の内部的な合意だからです。
銀行には無関係な合意だから、銀行は相続人全員に対して法定相続分で請求することができます。
④債権者が法定相続分で相続人全員に対して請求できる理由
仮に相続人内部の取り決めで銀行からの請求を拒むことができるとすると、銀行が困ります。
相続人には、さまざまな経済状況の人がいるでしょう。
相続人の中には、債務超過の人がいることがあります。
相続人全員の合意で、債務超過の相続人がローンを返済する合意をすることが考えられます。
債務超過の相続人は、債務超過のうえにローンを返済することになります。
自分の債務のうえにローンを返済することはできないでしょう。
債務もローンも返済できなくなったら、自己破産をすることになります。
自己破産をされたら、ローンは返済してもらえません。
他の相続人はプラスの財産を受け取ってマイナスの財産を免れることができてしまいます。
銀行からすると、理不尽でしょう。
このような理不尽を許さないため、銀行は法定相続分で相続人全員に対してローンの返済を請求することができるのです。
⑤銀行に返済した後に住宅ローンを負担する人に請求できる
住宅ローンの対象になっている住宅を相続した人以外の人にも、銀行はローンの返済を求めることができます。
住宅ローンの対象になっている住宅を相続していないのに、ローンを返済したくないなどと文句を言うことはできません。
銀行にローンを返済した人は、ローンを相続すると合意した相続人に払った分を請求することができます。
⑥住宅ローンの名義変更は銀行の承諾
相続人全員で合意しても、銀行は相続人全員に対して法定相続分でローンの返済を求めることができます。
銀行の承諾がある場合、一部の相続人が住宅ローンを引き継ぐことができます。
住宅ローンを組む場合、銀行は対象になっている住宅を担保に取っています。
住宅ローンを引き継ぐ相続人に問題がなければ、多くの場合、銀行は承諾するでしょう。
住宅ローンを引き継ぐ相続人の返済能力に多少の問題があった場合でも、担保権を実行することができるからです。
担保権を実行するとは、担保に取った住宅を売却して売却代金から借金を返してもらうことです。
⑦抵当権の変更登記が必要になる
ローンの名義変更をした場合、登記が必要になります。
抵当権債務者が変更になるからです。
住宅ローンの対象になっている住宅の相続登記の他に、忘れずに抵当権の変更登記をしましょう。
2団体信用生命保険で住宅ローンが免除される
①住宅ローンは団体信用生命保険で返済できる
被相続人が住宅ローンを組む場合、団体信用生命保険に加入していることがあります。
団体信用生命保険は、加入者が住宅ローンを返済中に死亡や障害状態になったとき、保険金によって住宅ローンが弁済される保険です。
住宅ローンを組む場合、団体信用生命保険の加入が条件になっているケースが多いものです。
団体信用生命保険加入が任意である場合や年齢制限などで加入できない場合があります。
団体信用生命保険に加入している場合、契約書面が渡されているはずです。
契約書面が見つからない場合、借入先の金融機関に尋ねてみましょう。
借入先の金融機関で答えてもらえない場合、住宅金融支援機構のコールセンターに確認することができます。
団体信用生命保険に加入していた場合、保険金で住宅ローンの返済が不要になります。
②団体信用生命保険の保険金が支払われるのは1~2か月後
団体信用生命保険の保険金は、死亡後すぐに支払われるわけではありません。
保険金の請求後、保険会社の審査があるからです。
通常、保険会社の審査は1~2か月ほどかかります。
保険会社の審査中は、住宅ローンの返済が必要です。
住宅ローンの債務者が死亡した場合、収入が途絶えていることが多いでしょう。
保険金が支払われれば、審査中の返済分は返金されます。
後から返ってくるとは言え、ひとまず返済をしなければならないことを知っておく必要があります。
③住宅ローンに延滞があると団体信用生命保険の保険金が支払われない
団体信用生命保険に加入した場合、保険料が発生します。
団体信用生命保険の保険料は、住宅ローンの返済金に含まれています。
住宅ローンの返済が滞った場合、団体信用生命保険の保険料も滞ります。
一定期間保険料が滞納になった場合、団体信用生命保険は失効になります。
団体信用生命保険が失効した後、住宅ローン債務者が死亡した場合、保険金は支払われません。
④団体信用生命保険で完済できたら抵当権抹消登記
住宅ローンがなくなった場合、銀行の抵当権がなくなります。
抵当権は自動で抹消になりますが、抵当権の登記は自動で抹消されることはありません。
銀行などが自動で手続してくれることはほとんどありません。
法務局が自動で消してくれることもありません。
住宅ローンの対象になっている住宅の相続登記の他に、忘れずに抵当権の抹消登記を申請しましょう。
3住宅ローンは相続放棄ができる
相続人が相続放棄をした場合、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
住宅を売却しても返済の見込みがない場合は、相続放棄をするといいでしょう。
相続放棄は、家庭裁判所に対してする手続です。
相続発生を知ってから、3か月以内に手続をしなければなりません。
相続放棄をした場合、住宅ローンから免れますが住宅も相続することはできなくなります。
4住宅ローンの相続を司法書士に依頼するメリット
大切な家族を失ったら、大きな悲しみに包まれます。
やらなければいけないと分かっていても、気力がわかない方も多いです。
相続財産の大部分は自宅不動産というケースはとても多いです。
資産としての住宅だけに注目しがちですが、住宅ローンが残っている場合もあります。
住宅ローンが残っている住宅となると、住宅と住宅ローンを一体化して考えがちです。
住宅と住宅ローンは一体化して考える面と一体化して考えることができない面があります。
住宅ローンは銀行との関係があるからです。
住宅ローンの対象になっている住宅を相続しないのに、住宅ローンの請求を受ける可能性があります。
このようなことはあまり知られていません。
住宅ローンの対象になっている住宅の相続登記をすることには気づけても、抵当権の登記が必要になることは見落としがちです。
何となく銀行や法務局が自動でやってくれているはずだと思うかもしれません。
銀行が自動でやってくれることはほとんどありません。
法務局は申請しないと何もしてくれません。
団体信用生命保険で住宅ローンが完済になった場合、抵当権は自動で消えます。
抵当権は自動で消えますが、抵当権の登記は自動で消えません。
住宅ローン完済後、長期間経過して、抵当権がついたままであることが発覚します。
長期間経過してから抵当権を抹消するのは、手間も時間も負担になることが多いです。
司法書士が、必要な手続や適切な対応についてサポートします。
相続登記を済ませていない方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
相続土地国庫帰属制度を利用する要件
1相続土地国庫帰属制度とは
相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度ができました。
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日からスタートします。
望まないで不動産を所有している場合、管理が負担になりがちです。
管理負担の重さから、適切な管理ができなくなり不動産が荒廃します。
適切な相続登記がされず、所有者不明土地の対策になると期待されています。
2相続土地国庫帰属制度を利用できる人とは
①土地の単独所有者で相続や遺贈で土地を受け継いだ人
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
だれでも利用できるわけではありません。
相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、土地を相続で取得した人です。
法定相続人が土地を遺贈で取得した場合は、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
遺贈とは、被相続人が遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげることです。
相続人以外の人が遺贈によって財産を譲ってもらうことができます。
遺贈によって土地を譲ってもらった人が相続人の場合、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
遺贈によって土地を譲ってもらった人が相続人でない場合、相続土地国庫帰属制度を利用できません。
②土地の単独所有者で土地の共有持分を相続や遺贈で土地を受け継いだ人
被相続人とお金を出し合って、土地を購入することがあるでしょう。
被相続人と土地を共有している場合があります。
被相続人の土地の共有持分が相続財産になります。
土地の共有者の一方が相続人である場合、被相続人の土地の共有持分を相続します。
相続人は相続によって単独所有者になります。
土地の共有持分の一部は売買によるものですが、残りは相続によって受け継いだものです。
土地の単独所有者は土地の所有権の一部を相続や遺贈によって受け継いだ場合、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
土地の所有権の一部を遺贈によって譲ってもらった人が相続人の場合、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
土地の所有権の一部を遺贈によって譲ってもらった人が相続人でない場合、相続土地国庫帰属制度を利用できません。
③土地の共有者で土地の共有持分を相続や遺贈で土地を受け継いだ人
被相続人と第三者がお金を出し合って、土地を購入することがあるでしょう。
被相続人と第三者が土地を共有している場合があります。
被相続人の土地の共有持分が相続財産になります。
相続人が被相続人の土地の共有持分を相続します。
相続人は第三者と土地を共有することになります。
相続土地国庫帰属制度を利用する場合、土地の共有持分を対象にすることはできません。
土地の共有者の一部が相続や遺贈によって土地を受け継いだ場合、他の共有者全員が共同申請をすることで相続土地国庫帰属制度を利用できます。
他の共有者は、株式会社などの法人でも差し支えありません。
他の共有者が土地を取得した理由は、売買や贈与であっても差し支えありません。
3相続土地国庫帰属制度を利用できる土地とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
国に引き取ってもらえるのは、土地だけです。
建物は、引き取ってもらえません。
宅地や雑種地だけでなく、山林、原野や農地を引き取ってもらうことができます。
農地の取引には、通常、農業委員会の許可等が必要になります。
相続土地国庫帰属制度を利用する場合、農業委員会の許可等は不要です。
土地であればどんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。
相続で取得した土地だけです。
法定相続人が遺贈で取得した土地は、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
売買や贈与で取得した土地は、引き取ってもらうことができません。
原野商法の被害を受けて所有している土地は、引き取ってもらうことができません。
被相続人が原野商法の被害を受けて所有していた土地は、相続人が相続した後に、引き取ってもらうことができます。
4相続土地国庫帰属制度で門前払いになる土地とは
次の土地は、国に引き取ってもらうことはできません。
①建物がある土地
国に引き取ってもらうことができるのは、土地のみです。
建物は引き取ってもらえません。
建物がある場合、土地も引き取ってもらえません。
建物自体は取り壊されているのに、建物の登記が残っている場合があります。
建物が取り壊されている場合、建物滅失登記が必要です。
②担保権や利用権がある土地
お金の貸し借りをするとき、返済が滞るときに備えて不動産などを担保に差し出すことがあります。
お金を貸した人は、不動産を担保に取ります。
順調に返済されているときは、不動産は担保に差し出した人が使うことができます。
返済が滞った場合、担保に取った人は不動産を取り上げて売り払うことができます。
不動産の売却金から貸したお金を返してもらうことができます。
担保権とは、返済が滞った場合に取り上げて売り払うことができる権利です。
担保権がある土地を国に引き取ってもらえるとすると、国の財産が急に取り上げられることになりかねません。
担保権がある不動産を国に引き取ってもらうことはできません。
利用権とは、地上権、地役権、賃借権など土地を使う権利のことです。
土地を使う権利がある人がいる土地を国に引き取ってもらえるとすると、国は土地を使う権利について配慮をしなければならなくなります。
利用権がある土地を国に引き取ってもらうことはできません。
③他人が利用する土地
地上権、地役権、賃借権など土地を使う権利がなくても、他人が土地を使用することが予定されている土地があります。
他人の使用が予定されている土地とは、次の土地です。
以下に該当する土地を国に引き取ってもらうことはできません。
(1)通路の土地
現在通路として使われている土地です。
(2)墓地内の土地
墓地として都道府県知事の許可を受けた土地です。
(3)境内地
宗教法人が所有していない土地も含まれます。
(4)水道、悪水路、ため池の土地
水道の水源地、貯水池として現在使用されている土地です。
かんがい用や悪水路として現在使用されている土地です。
生活用水、農業用水、工業用水のための水路を含みます。
耕地かんがい用ため池、防災用用水貯留池として現在使用されている土地です。
④土壌汚染など有害物質がある土地
土壌汚染がある土地は、有害物質の除去に多大な費用がかかります。
土壌汚染がある土地を国に引き取ってもらうことはできません。
⑤境界不明の土地
隣接する土地と境界について争いがある土地です。
申請する人以外に、その土地の所有権を主張する人がいる土地も含まれます。
このような土地を国に引き取ってもらえるとすると、国が争いに巻き込まれて土地が管理できなくなります。
測量や境界確認書を提出する必要はありませんが、争いがないことが条件です。
申請をした場合、法務局から隣接所有者に境界争いがないかお尋ねがあります。
境界不明の土地を国に引き取ってもらうことはできません。
5相続土地国庫帰属制度の審査で引き取ってもらえない土地とは
次の土地は、審査のうえで承認してもらうことはできません。
①崖地
勾配30度以上で、かつ、高さ5メートル以上の土地で、通常の管理に過分の費用や労力がかかる土地を国に引き取ってもらうことはできません。
通常の管理に過分の費用や労力がかかる土地とは、土砂災害が起きる土地や擁壁工事が必要な土地などです。
②工作物、車両、樹木がある土地
工作物、車両、樹木があるだけで引き取ってもらえない土地になるわけではありません。
工作物、樹木があって、かつ、土地の管理処分が困難になる場合、国に引き取ってもらえなくなります。
民家、公道、線路近くで倒木のおそれがある場合や災害防止のため定期的伐採が必要になる場合は、国に引き取ってもらえません。
放置すると周辺の土地に侵入する竹がある場合、定期的伐採が必要になるから、国に引き取ってもらえません。
建物がある土地は、国に引き取ってもらえません。
建物と言えないまでも、廃屋がある土地も、国に引き取ってもらえません。
放置車両がある土地は車両、国に引き取ってもらえません。
③地下にある有体物の除去が必要な土地
産業廃棄物や建築資材、建物基礎やコンクリート片がある土地は、国に引き取ってもらえません。
古い水道管、浄化槽、井戸、大きな石がある土地は、国に引き取ってもらえません。
④袋地、不法占拠者がいる土地
他の土地を通らないと行動に出られない土地は、国に引き取ってもらえません。
第三者が不法占拠している土地は、国に引き取ってもらえません。
別荘管理組合から管理費用を請求されるなどトラブルになる可能性の高い土地は、国に引き取ってもらえません。
⑤管理に費用や労力が多くかかる土地
(1)災害の危険がある土地
土砂崩れ、地割れ、陥没、水の漏出などの災害が起きるおそれがある土地は、国に引き取ってもらえません。
(2)鳥獣、病害虫などが生息している土地
スズメバチ、ヒグマなどにより周辺土地に被害が起きるおそれがある土地は、国に引き取ってもらえません。
(3)森林整備が必要な土地
造林、間伐、保育が必要な山林は、国に引き取ってもらえません。
(4)国に金銭負担が発生する土地
(5)所有者が負担すべき債務を国が負担することになる土地
土地改良事業の負担金などが発生する土地は、国に引き取ってもらえません。
6相続土地国庫帰属制度の利用を司法書士に依頼するメリット
土地を証有している場合、管理をしなければなりません。
希望せずに土地を所有している場合、管理が負担になることがあります。
管理負担の重さから、適切な管理が難しくなります。
希望しないのであれば、相続放棄をすることができます。
相続放棄をしたら、他の財産を相続することもできなくなります。
管理負担の重い土地だけ選択して、放棄をすることはできません。
相続土地国庫帰属制度を利用した場合、管理負担の重い土地だけ選択して利用することができます。
相続人にとって選択肢が増えたと言えるでしょう。
相続土地国庫帰属制度を利用するハードルは低いものではありません。
条件に合う土地だけ国は引き取ってくれます。
相続は、家族ごとに事情が違います。
制度をよく知って、適切に対応しましょう。
適切な選択ができるように司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続土地国庫帰属制度とは
1相続土地国庫帰属制度とは
相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度ができました。
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日からスタートします。
望まないで不動産を所有している場合、管理が負担になりがちです。
管理負担の重さから、適切な管理ができなくなり不動産が荒廃します。
適切な相続登記がされず、所有者不明土地の対策になると期待されています。
2相続土地国庫帰属制度を利用できる人とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
だれでも利用できるわけではありません。
相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、土地を相続で取得した人です。
法定相続人が土地を遺贈で取得した場合は、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
相続土地国庫帰属制度が始まる前に相続した人であっても、制度を利用することができます。
3相続土地国庫帰属制度を利用できる土地とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を手放して国に引き取ってもらう制度です。
国に引き取ってもらえるのは、土地だけです。
建物は、引き取ってもらえません。
宅地や雑種地だけでなく、山林、原野や農地を引き取ってもらうことができます。
農地の取引には、通常、農業委員会の許可等が必要になります。
相続土地国庫帰属制度を利用する場合、農業委員会の許可等は不要です。
土地であればどんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。
相続で取得した土地だけです。
法定相続人が遺贈で取得した土地は、相続土地国庫帰属制度を利用できます。
売買や贈与で取得した土地は、引き取ってもらうことができません。
原野商法の被害を受けて所有している土地は、引き取ってもらうことができません。
被相続人が原野商法の被害を受けて所有していた土地は、相続人が相続した後に、引き取ってもらうことができます。
4相続土地国庫帰属制度で門前払いになる土地とは
次の土地は、国に引き取ってもらうことはできません。
①建物がある土地
②担保権や利用権がある土地
③他人が利用する土地
④土壌汚染など有害物質がある土地
⑤境界不明の土地
5相続土地国庫帰属制度の審査で引き取ってもらえない土地とは
次の土地は、審査のうえで承認してもらうことはできません。
①崖地
②工作物、車両、樹木がある土地
③地下にある有体物の除去が必要な土地
④袋地、不法占拠者がいる土地
⑤管理に費用や労力が多くかかる土地
(1)災害の危険がある土地
(2)害獣などが生息している土地
(3)森林整備が必要な土地
(4)国に金銭負担が発生する土地
(5)所有者が負担すべき債務を国が負担することになる土地
6相続土地国庫帰属の承認申請書の注意点
①提出先は土地の所在地の法務局本局のみ
相続土地国庫帰属制度の利用を希望する場合、相続土地国庫帰属の承認申請書を提出します。
提出先は、土地が所在する法務局本局の国庫帰属申請窓口です。
法務局の出張所や支局に提出することはできません。
②相続土地国庫帰属の承認申請書は自分で作成
相続土地国庫帰属の承認申請書は専用の様式があるわけではありません。
相続土地国庫帰属の承認申請書は、自分で作成する必要があります。
自分で作る代わりに、弁護士、司法書士、行政書士に作成してもらうことができます。
申請代理人になることができるのは、法定代理人のみです。
法定代理人とは、親権者、未成年後見人、成年後見人などです。
弁護士、司法書士、行政書士であっても、申請代理人になることはできません。
③相続土地国庫帰属の承認申請書は郵送提出ができる
相続土地国庫帰属の承認申請書は、窓口に出向いて提出することもできるし郵送で提出することもできます。
郵送で提出する場合は、書留郵便かレターパックプラスにします。
表書きに「国庫帰属申請書在中」などと記載して、相続土地国庫帰属の承認申請書であることが分かるようにします。
本人が相続土地国庫帰属の承認申請書を作成し実印を押印した場合、家族が使者として法務局の窓口に持っていって提出することができます。
家族が使者として法務局の窓口に持っていった場合、申請書の補正はできません。
④相続土地国庫帰属の承認申請書には手数料がかかる
相続土地国庫帰属の承認申請には、手数料がかかります。
手数料は、収入印紙で納入します。
収入印紙は、法務局が割印をします。
申請者は貼るだけで、割印はしません。
相続土地国庫帰属の承認申請書を取り下げた場合であっても却下や不承認になった場合でも、手数料は返してもらえません。
7相続土地国庫帰属の承認申請書の添付書類
添付書類のうち印鑑証明書以外の書類は、原本還付してもらうことができます。
原本還付を希望する場合、書類のコピーを一緒に提出します。
書類のコピーに「原本に相違ありません」と記載する必要があります。
相続土地国庫帰属の承認申請書の添付書類は、次のとおりです。
①土地の位置及び範囲を明らかにする図面
国土地理院地図や登記所備付地図等に、申請者が認識している土地の範囲をマーキングする方法で作成します。
②隣接する土地との境界点を明らかにする写真
①の土地の図面に境界点の場所を記載して、境界点の写真を添付します。
どの境界点の写真であるか分かるように写真に番号を付けて①の土地の図面に記載します。
境界点に目印がない場合、ポール、プレートなどで目印を設置して写真を取ります。
現地調査で確認してもらうためです。
③土地の形状を明らかにする写真
近景と遠景の写真を添付します。
建物や工作物の有無が分かるように、複数の写真を添付します。
④印鑑証明書
印鑑証明書の期限はありません。
印鑑証明書は、原本還付をしてもらうことはできません。
⑤相続人が遺贈を受けたことを証する書面
⑥土地の所有権登記名義人(表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証する書面
登記名義人と申請人が異なる場合に必要になります。
⑦固定資産税評価額証明書(任意)
⑧承認申請土地の境界等に関する資料(任意)
8承認された土地だけ国に引き取ってもらえる
①国に引き取ってもらうために審査がある
法務局は、相続土地国庫帰属の承認申請書を受け付けたら書面審査をします。
相続土地国庫帰属制度で門前払いになる土地に該当した場合、却下になります。
書面審査を通過したら、実地調査をします。
申請者に実地調査の同行を求められる場合があります。
相続土地国庫帰属制度の審査で引き取ってもらえない土地に該当した場合、不承認になります。
承認された土地だけ国に引き取ってもらえます。
②審査にかかる期間は半年~1年程
相続土地国庫帰属制度の標準審査期間は、半年~1年程です。
相続土地国庫帰属制度の審査期間中に申請人が死亡した場合、申請者の地位を承継することができます。
申請者の地位を承継する申出は、相続があった日から60日間です。
申請者の地位を承継する申出には、相続があったことが分かる書類が必要です。
申請者の地位を承継する申出がない場合、申請は却下されます。
③承認になったら負担金を納めなければならない
相続土地国庫帰属制度で国が引き取ってくれる場合、負担金を納付しなければなりません。
負担金は、土地管理費の10年分相当額とされています。
法務省のホームページに計算シートが掲載されています。
相続土地国庫帰属の承認がされた場合、負担金は30日以内に納入しなければなりません。
負担金が30日以内に納入されない場合、相続土地国庫帰属の承認は失効します。
隣接する複数の土地が同じ区分の土地の場合、一つの土地として負担金の計算をしてもらうことができます。
一つの土地として負担金の計算をしてもらうためには、合算負担金申出書を提出する必要があります。
合算負担金申出書を提出できるのは、申請書提出から承認がされるまでの間です。
9相続土地国庫帰属制度の利用を司法書士に依頼するメリット
相続土地国庫帰属制度を利用した場合、負担の重い土地を国に引き取ってもらうことができます。
管理負担から解放される選択肢が増えたと言えるでしょう。
一方で、相続土地国庫帰属制度を利用できる土地には、条件があります。
他に相続する人がいるのであれば、相続放棄をした方がいいかもしれません。
だれも相続したがらない場合、不動産の押し付け合いになりがちです。
相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産管理人が選任されるまで管理義務があります。
家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうには、予納金の納付が必要です。
予納金は、100万円以上になる場合があります。
どのような選択をするのがいいのかは、ケースバイケースと言えます。
スムーズに相続手続を進めたい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
貸したお金と抵当権を相続
1被相続人が貸したお金は相続財産
マイホームを購入したときに、銀行などから融資を受けることがあるでしょう。
お金の貸し借りというと、銀行などの金融機関でローンを組むことをイメージするかもしれません。
銀行などの金融機関からお金を借りるだけでなく、個人間でお金の貸し借りをすることがあります。
個人間でお金を借りることも、個人間でお金を貸してあげることもあるでしょう。
被相続人がお金の貸し借りをしているケースがあります。
第三者にお金を貸している場合、お金を借りた人から貸したお金を返してもらう権利があります。
被相続人がお金を貸していた場合、被相続人はお金を返してもらう権利を持っていたはずです。
お金を貸した人に相続が発生した場合、貸したお金を返してもらう権利は相続財産になります。
貸したお金を返してもらう権利は相続財産として、相続人に相続されます。
お金を貸した人が死亡した場合に、借金が消えてなくなることはありません。
相続人は、貸したお金を返してもらう権利を相続しますから、お金を借りた人に対して、貸したお金を返すように請求することができます。
2抵当権は相続財産
第三者に対してまとまった額を貸してあげる場合、借金の返済が滞ったときに備えて、不動産を担保に取ります。
返済が滞ったときに備えて、担保にする権利を抵当権と言います。
お金を貸した人を債権者と言います。
担保に取った人を抵当権者と言います。
お金を貸した人が担保に取りますから、債権者は抵当権者です。
貸したお金を返してもらう権利は相続財産として、相続人に相続されます。
担保にする権利は相続財産として、相続人に相続されます。
抵当権は、借金の返済が滞ったときに備えて、担保に取る権利です。
具体的には、借金の返済が滞った場合、担保に取った不動産を競売にかけて売却代金から優先的に借金を返してもらうことができます。
担保に取った不動産を競売にかけて売却代金から優先的に借金を返してもらう権利が相続されます。
お金を貸した人が死亡した場合に、担保に取る権利が消えてなくなることはありません。
担保に取る権利は借金が滞ったときの備えですから、借金が消えるときまで一緒についています。
貸金債権と抵当権は、抵当権者(債権者)の財産です。
貸金債権と抵当権は、抵当権者(債権者)のプラスの財産のひとつとして、抵当権者(債権者)の相続人に受け継がれます。
原則として、貸金債権と抵当権は一緒についていくことになります。
3被相続人が貸したお金を相続人が返してもらうことができる
①まずは遺産分割協議
貸金債権と抵当権は、相続財産になります。
相続財産の分け方は、相続人全員で話し合いによる合意が不可欠です。
貸金債権と抵当権を、だれが引き継ぐのか決めましょう。
貸金債権と抵当権を相続する人の合意がまとまったら、合意内容を書面に取りまとめます。
②債権者が死亡しても時効は進行する
お金を貸した人が死亡した場合、生きているときと同様に時効は進行します。
時効期間が経過すると、お金を借りていた人は時効を援用することができます。
債務者が時効を援用した場合、貸したお金を返してもらうことができなくなります。
時効が完成しないようにするために、時効中断する必要があります。
時効中断の代表例は、債務者に対して、お金を返してくださいと請求することです。
単に、お手紙などでお金を返してくださいと請求した場合、6か月以内に裁判などの強力な手続をしなければなりません。
6か月以内に裁判などの強力な手続をした場合、時効は中断します。
時効が中断した場合、今まで経過した期間が無効になります。
今まで経過した期間が無効になったら、あらためて、時効が進行します。
③相続人が請求すると債務者からあやしまれる
個人間でお金の貸し借りをする場合、親しい関係の人であることが多いでしょう。
お金を貸した人とは親しい間柄だったとしても、お金を貸した人の相続人と面識がないことがあります。
被相続人が貸したお金は、相続人が返してもらうことができます。
お金を貸した人の相続人と面識がない場合、被相続人が貸したお金を返して欲しいと言われても戸惑うでしょう。
本当にお金を貸してくれた人の相続人なのか、不安になります。
お金を貸した人が死亡した後、無関係の人なのに相続人と称して、被相続人が貸したお金を返して欲しいと要求するケースがあるからです。
本当は無関係の人なのに、借りたお金を返すつもりで安易にお金を支払った場合、返済したとは認められません。
本当の相続人から被相続人が貸したお金を返して欲しいと請求された場合、あらためて、返済しなければなりません。
お金を返済する人が安易にお金を支払った場合、二重払いをしなければなりません。
借りたお金を返すつもりで無関係の人に支払ったお金は、ほとんどの場合、返ってこないでしょう。
④債務者は弁済供託をすることができる
お金を返す人は、誠実に借りたお金を返したいと思っているでしょう。
次々と相続人と称する人が現れて被相続人が貸したお金を返して欲しいと要求するケースがあります。
だれもが自分こそは本当の相続人であると称するから、困ってしまいます。
本当は無関係の人なのに、借りたお金を返すつもりで安易にお金を支払った場合、返済したとは認められません。
まとまったお金の貸し借りの場合、利息を付ける約束をしているでしょう。
返済期限に返済できなかった場合、遅延損害金も支払わなければなりません。
誠実に借りたお金を返したいと思っている誠実な債務者のため、一定条件の下で法務局にお金を預けることができます。
法務局にお金を預けた場合、お金を返したと扱われます。
法務局にお金を預けることを、弁済供託と言います。
弁済供託ができるのは次のとおりです。
(1)受領拒否:債権者が受け取りをしてくれないとき
(2)不受領意思が明確:債権者が受け取りをしない意思を明確にしているとき
(3)債権者不確知:債権者がだれか分からないとき
(4)受領不能:債権者が受け取りができないとき
次々と相続人と称する人が現れた場合であれば、債権者不確知を理由として、弁済供託をすることができます。
お金を返したと扱われますから、二重払いや利息、遅延損害金の心配がなくなります。
供託した後は、被相続人が貸したお金を返して欲しいと言われても応じる必要はありません。
被相続人が貸したお金を返したと扱われるからです。
本当の債権者であれば、法務局に対してその事実を証明して供託したお金を払ってもらうことができます。
4抵当権が消えるのは借りたお金を完済したとき
抵当権は、返済が滞ったときに備えて、担保にする権利です。
貸したお金が返し終わるまで、いつ返済が滞るか分かりません。
抵当権は、原則として、貸したお金を返し終わるまで消えません。
貸したお金が相続人に相続された場合、抵当権も一緒に相続人に相続されます。
抵当権が相続されても、抵当権の登記は自動で移転することはありません。
抵当権の相続登記が必要です。
抵当権が消滅する前に相続が発生していますから、抵当権の相続登記が必要になります。
抵当権の相続登記は、所有権の相続登記と同様に、相続人の単独申請です。
借りたお金を完済した場合、借金が消滅します。
借金が消滅した場合、抵当権は一緒に消滅します。
借金が相続された後に借金を完済した場合、抵当権の相続登記を省略することはできません。
抵当権は、被相続人→相続人→消滅になったからです。
実体のない登記を認めた場合、登記制度への信頼が失墜します。
このようなことは許されません。
抵当権の相続登記をした後、抵当権抹消登記を申請します。
抵当権抹消登記は、抵当権者になった相続人と不動産の所有者の共同申請です。
5抵当権抹消登記はすみやかに
わざわざ抵当権付き不動産を買う人はいません。
不動産を売却するときになって抵当権がついたままになっていることに気がつきます。
おそらく借金の返済が終わったことで安心したのでしょう。
安心して抵当権の登記がついたままであることを忘れてしまったのでしょう。
借金がすべて返済されれば、抵当権は消滅します。
抵当権が消滅しても、抵当権の登記は自動で消滅することはありません。
法務局が自動で消してくれることもありません。
担保に取った人と担保に差し出した人が一緒に、法務局に抵当権を消す申請しなければ、抵当権の登記は登記簿に残り続けます。
抵当権は、返済が滞ったときに備えて、担保にする権利です。
返済が滞ったら、抵当権者は不動産を売り払って、借金の返済に充てることができます。
このような権利が付いた不動産は、いつ抵当権者が現れて売り払われるか分からないので、怖くて売買できません。
借金の返済が終わった後、すみやかに抵当権抹消登記をしておかないと手間と時間が余計にかかります。
借金の返済が終わったのか終わっていないのか事実関係が分からなくなるからです。
借金の返済が終わったはずであっても、証拠を用意できないこともあります。
事情を知らない相続人がいる場合、抵当権抹消に協力してくれない可能性もあります。
相続人が行方不明になって連絡が取れないこともあります。
抵当権抹消登記に協力しない相続人がいた場合、裁判を起こして判決をとる必要があります。
長期間経過するほど、難易度は上がります。
抵当権消滅登記はすみやかに済ませましょう。
6抵当権移転登記と抵当権抹消登記を司法書士に依頼するメリット
借金の返済が終わると、ほっとします。
抵当権の抹消登記は多少遅くなっても特段の不都合がないから、多忙にまぎれがちです。
不動産を売却したり、相続が発生したときに気がつくことが多いです。
借金返済が完了してから長期間経過すると、事実関係が確認できなくなったり、関係者と連絡が取れなくなったり、連絡を無視されたりします。
通常の抵当権抹消登記は、司法書士であれば難しい手続ではありません。
借金返済が完了してから長期間経過すると、関係者の協力を得るのが難しくなりがちです。
関係者の協力を得られない場合、裁判所の助力が必要になります。
抵当権の抹消登記を先延ばしした代償は、非常に高くつきます。
抵当権消滅登記はすみやかに済ませましょう。
スムーズに登記を完了させたい方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
お墓を相続
1お墓は相続財産でない
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
被相続人の財産であっても、相続人に相続されない財産があります。
一身専属権や祭祀用財産は相続の対象になりません。
一身専属権とは、その人個人しか持つことができない権利や資格のことです。
権利行使をするかしないか、本来の権利者個人の意思次第とするのが適当とされる権利です。
祭祀用財産とは、墓地、墓石、仏壇、家系図などの先祖祭祀のための財産のことです。
お墓は相続財産ではなく、祭祀用財産です。
相続財産ではないから、遺産分割協議は必要ありません。
祭祀用財産は、祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
祭祀を主宰すべき人を、祭祀承継者と言います。
相続財産の分け方についての合意とは別に決定します。
お墓は相続財産ではありませんから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継ぐことができます。
お墓を受け継ぐのは、祭祀承継者だからです。
2祭祀承継者とは
祭祀を主宰すべき人を、祭祀承継者と言います。
お墓は、祭祀承継者が受け継ぎます。
①祭祀承継者の主な役割
祭祀承継者は祭祀を主宰する人ですから、お墓や仏壇などの管理が主な役割です。
定期的なお墓参りの他に、霊園への管理料や使用料の支払を負担します。
お墓にだれの遺骨を納めるか、お墓を移転するかなども単独で判断することができます。
祭祀承継者になった場合、一周忌などの法要を主宰して、お布施などの支払をすることになるでしょう。
祭祀承継者になった場合であっても、祭祀を行う法的義務を負うものではありません。
②祭祀承継者になるメリット
祭祀承継者は祭祀を主宰することになります。
被相続人の一周忌や三回忌などの法要をどのような形で行うか決めることができます。
このような先祖供養を主宰することで家族の中で一定の役割を果たすことになります。
責任感がある人にとっては、家族の中で一定の責任を果たすことがやりがいにつながります。
お墓や仏壇の管理を任されることから、お墓や仏壇を自宅に引き取りたいという希望のある人にはメリットになるでしょう。
③祭祀承継者になるデメリット
祭祀承継者になった場合、お墓を管理することになります。
日常的なお墓参りやお墓の掃除をしなければなりません。
霊園に対して、管理料や使用料の支払を負担しなければなりません。
お墓が災害や老朽化で倒壊した場合まず祭祀承継者に連絡が来ますから、対応する必要があります。
これらの負担が大きいのが祭祀承継者になるデメリットです。
④祭祀承継者の決め方
相続人のうちのひとりが祭祀承継者になるのが一般的です。
お墓が複数ある場合、それぞれに祭祀承継者がいる場合もあります。
祭祀を主宰すべき人になる資格は、特にありません。
相続人であっても相続人以外の人でも、親族であっても親族でなくても、祭祀を主宰すべき人になることができます。
苗字が同じでない人であっても祭祀承継者になることができます。
ときには霊園管理者が祭祀承継者になる場合もあります。
相続のルールが適用されるものではありません。
先祖を祀ることは、親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないからです。
祭祀用財産は親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないから、相続財産一般と同様に分配することはできません。
祭祀承継者は、次のように決められます。
(1)被相続人の指定に従う
(2)慣習に従って決める
(3)家庭裁判所で決定する
被相続人が祭祀を主宰すべき人として指定する場合、一方的に指定することができます。
トラブル防止のために、本人の同意をもらっておく方がいいでしょう。
被相続人が指定しておらず慣習も明らかでない場合、家庭裁判所が指名します。
被相続人の意思、相続人の身分関係、過去の生活感情、祭祀を主宰する意欲や能力、他の相続人や周りの人の意見を聞いて総合的に判断します。
家庭裁判所は、総合的に考えて最もふさわしい人を祭祀承継者に指名します。
3お墓の承継の方法
①お墓の永代使用権の場合は霊園で手続
被相続人が霊園のお墓を購入している場合があります。
寺院の檀家になっていてお墓を受け継いでいる場合もあります。
お墓は祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
祭祀を主宰すべき人を祭祀承継者と言います。
お墓の販売や墓地の分譲の広告を目にしたことがある人も多いでしょう。
お墓を購入したのだから、墓地の所有権を得たと思うかもしれません。
通常、霊園には管理規約があります。
お墓を購入するとは、霊園と使用契約を結ぶことです。
霊園の区画を使う権利を得て、使用料や管理料を支払います。
霊園の区画を使う権利のことを永代使用権とか墓地利用権と言います。
永代利用権はお墓そのものではありませんが、お墓に付随するものとして祭祀用財産に含まれます。
永代使用権は、霊園を使う権利に過ぎません。
墓地を所有するものではありません。
お墓の契約者が死亡した場合、霊園の管理規約に基づいて家族が引き続き使うことができます。
霊園の管理規約で一定の範囲の親族のみが受け継ぐことができると決められている場合があります。
お墓をだれが引き継ぐか決めるときに、霊園の管理規約を確認しておきましょう。
永代使用権は、登記とは無関係です。
霊園の管理規約に従って、永代使用権を引き継いだ届出をします。
②お墓の相続放棄はできない
被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の選択などで祭祀承継者に選ばれると、祭祀承継者になることを拒否することはできません。
相続が発生した後、相続放棄をした場合、相続人でなくなります。
祭祀承継者には放棄する制度がありません。
お墓は相続財産ではありませんから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継ぐことができます。
祭祀承継者に指名されたら、相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継がなければなりません。
③墓地を所有している場合は登記が必要
現在では、墓地の永続性や非営利性を確保するため墓地を作るためには都道府県知事の許可が必要です。
都道府県知事の許可が得られるのは、原則として、墓地を作ることができる地方自治体や宗教法人などのみです。
昭和23年施行の墓地埋葬法ができる前には、個人が自分の土地に墓地を作ることができました。
これらの個人墓地は、現在も墓地として使い続けることができます。
個人墓地は永代使用権を得ているのではなく、所有権を保有しています。
所有権の移転があった場合、所有権の移転の登記をする必要があります。
④墓地が相続財産の場合がある
お墓は、原則として、相続財産ではなく祭祀用財産です。
相続財産でないから、財産の分け方を相続人全員で合意する必要はありません。
被相続人が所有する土地が、墓地である場合があります。
登記簿謄本の表題部の地目の欄に「墓地」と書いてある場合です。
墓地に先祖や親族が葬られている場合、祭祀用財産で相続財産ではありません。
墓地に先祖や親族以外の人が葬られている場合、祭祀用財産ではなく相続財産です。
先祖や親族以外の人が葬られている場合、先祖祭祀とは無関係だからです。
先祖祭祀と無関係な一般の財産と同様に相続財産になります。
相続財産だから、財産の分け方を相続人全員で合意する必要があります。
4墓じまいと墓開きは多額の費用がかかる
祭祀承継者に選ばれた場合、お墓を含む祭祀用財産を受け継ぐことになります。
祭祀承継者には放棄する制度がありません。
自宅から遠方のお墓を受け継ぐことになったら、自分でお墓を管理することができなくなります。
祭祀承継者がお墓を移転したい場合、他の親族の同意が必要になることはありません。
お墓の移転をするには、墓じまいと墓開きをすることになります。
墓じまいをするには、改葬許可申請が必要になる他、墓地の使用契約を解約する必要があります。
お墓開きをするには、改葬許可申請が必要になる他、墓地の使用契約をする必要があります。
寺院や霊園の手続や墓石の撤去と設置に思わぬ高額の費用がかかる場合があります。
祭祀承継者がこれらの負担をした場合、他の親族に当然に分担を求めることができるものではありません。
相続財産の分け方を話し合うときにお墓の移転の費用負担を含めて決めておくといいでしょう。
5お墓の相続を司法書士に依頼するメリット
お墓の分譲とかお墓の販売と聞くと、お墓を所有している気持ちになるかもしれません。
現代では、お墓を買うことは永代使用契約をすることです。
単に永代使用契約をして永代使用権を得るだけであれば、登記は無関係です。
一方で、道路わきや集落の外れなどに作られた個人墓地は現在でも使い続けることができます。
個人墓地は、多くの場合、土地を個人で所有しています。
集落の人などと共有している場合もあります。
所有権が移転した場合、登記をしておく必要があります。
墓地には固定資産税がかからないことが多いため、所有していることを認識していないかもしれません。
遠方の墓地が不便な場合、お墓のお引越しをしようとすることがあります。
墓じまいをしようとしたときに、登記が必要であることに気がつきます。
ときには、祖父やそれ以前の先祖の名義のままになっていることがあります。
お墓として利用し続けているときは気づかないものの、お墓を引っ越すときにタイヘンになります。
お墓を相続する場合は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
抵当権付き不動産を相続
1抵当権付き不動産は相続財産
マイホームを購入したときに、銀行などから融資を受けることがあるでしょう。
ローンの返済が滞ったときに備えて、銀行は不動産を担保にします。
返済が滞ったときに備えて、担保にする権利を抵当権と言います。
銀行だけでなく、個人間でお金の貸し借りをすることがあります。
まとまった額の貸し借りになると、不動産を担保に取ります。
担保に取った人を抵当権者と言います。
担保に差し出した人を抵当権設定者と言います。
お金を貸した人という意味では、抵当権者は債権者です。
お金を借りた人が自分の不動産を担保に差し出すこともあるし、お金を借りた第三者のために自分の不動産を担保に差し出すこともあります。
抵当権付き不動産は被相続人の財産だから、相続財産になります。
お金を借りたのが被相続人の場合、借金は相続財産になります。
抵当権付き不動産の所有者に相続が発生しても、抵当権は消えません。
お金を借りた人に相続が発生しても、借金は消えません。
抵当権は、借金の返済が滞ったときに備えて、担保に取る権利です。
原則として、借金と抵当権は一緒についていくことになります。
具体的には、借金の返済が滞った場合、担保に取った不動産を競売にかけて売却代金から優先的に借金を返してもらうことができます。
相続が発生した後は、抵当権者が担保に取った不動産を競売にかけて売却代金から優先的に借金を返してもらう義務が受け継がれます。
2 抵当権は登記されている
被相続人の財産に抵当権がついている場合、借金の内容を確認しましょう。
抵当権がついている場合、抵当権の登記がされています。
登記簿謄本を取得すれば、大まかな内容を確認することができます。
登記簿謄本は、法務局で手続をすればだれでも見ることができます。
多くの場合、お金を貸した人が不動産を担保に取ったときに抵当権の登記をします。
抵当権の登記は、借りたお金の金額が登記されます。
借りたお金は、時間が経つと利子がつきます。
借金が膨れ上がっているかもしれません。
借りたお金を返していたら、借金は少なくなっているかもしれません。
借金の詳しい内容は、お金を貸した人に確認します。
お金を貸した人は抵当権者ですから、登記簿謄本に書いてあります。
3まずは遺産分割協議
①借金が完済になる場合
お金を借りた人は債務者ですから、登記簿謄本に書いてあります。
被相続人が住宅ローンを組んでいて、かつ、団体信用生命保険に加入している場合、住宅ローンの残りは保険金で完済されます。
住宅ローンが完済される場合、借金のことは心配せずに相続財産の分け方の話し合いをすることができます。
団体信用生命保険に加入していたか分からない場合、金融機関に確認することができます。
②被相続人が借金をしていた場合
被相続人の借金は、マイナスの財産として相続財産になります。
相続財産だから相続人全員の話し合いで、借金の分け方を決めることができます。
相続人全員で借金の分け方を決めた場合であっても、お金を貸した人は相続人全員に対して法定相続分で借金の返済を求めることができます。
相続人全員の話し合いで、借金の分け方を決めた場合、合意内容は相続人間の内部的な合意に過ぎないからです。
お金を貸した人には関係ない話だからです。
抵当権付き不動産は、プラスの財産として相続財産になります。
相続財産だから相続人全員の話し合いで、抵当権付き不動産の分け方を決めることができます。
一部の相続人が不動産を相続する場合であっても、抵当権は消えません。
借金を相続する相続人と不動産を相続する相続人が違う場合があります。
借金と不動産を別々の相続人が相続する場合であっても、抵当権は消えません。
抵当権は、借金の返済が滞ったときに備えて、担保に取る権利だからです。
借金を相続した相続人が返済を滞らせた場合、お金を貸した人は抵当権を実行することができます。
抵当権を実行するとは、担保に取った不動産を競売にかけて売却代金から優先的に借金を返してもらうことです。
借金を相続した相続人と別の人が抵当権付き不動産を相続した場合であっても、担保に取った不動産を競売にかけることができます。
③第三者が借金をしていた場合
被相続人が第三者に頼まれて、自分の財産を第三者のために担保に差し出した場合があります。
借金は、第三者がしたものなので相続とは関係ありません。
相続人は、抵当権付き不動産の分け方だけを合意します。
自分の不動産を担保に差し出した人が死亡しても、抵当権は消えません。
抵当権は、借金の返済が滞ったときに備えて、担保に取る権利だからです。
借金をした人が返済を滞らせた場合、お金を貸した人は抵当権を実行することができます。
担保に取った不動産を競売にかけることができます。
不動産を競売にかけるから、抵当権付き不動産の所有者は所有権を失います。
所有権を失った場合、抵当権者に対して優先的に支払われた金額分を借金をした人に対して請求することができます。
借金をした人は、抵当権者に対して優先的に支払われた金額分を支払わなければなりません。
多くの場合、優先的に支払われた金額分を借金をした人が支払うことは困難でしょう。
優先的に支払われた金額分を支払うことができるのであれば、借金の返済を滞らせることがないからです。
抵当権付き不動産の分け方を合意する場合、このような事情を相続人全員が考慮する必要があります。
4抵当権の登記を消すためには申請が必要
抵当権は、借金を完済すれば消滅します。
抵当権が消滅しても、抵当権の登記は自動で消えることはありません。
法務局は、借金が完済されたかどうか分からないからです。
銀行などが自動で手続してくれることもほとんどありません。
抵当権を抹消する登記は、申請する必要があります。
借金を完済すると、ほっとします。
ほっとして、抵当権抹消登記を先延ばしすることがあります。
被相続人が借金を完済した後、抵当権抹消登記を先延ばししていた場合があります。
抵当権抹消登記を先延ばししていると、借金を完済した事実があいまいになりがちです。
抵当権抹消登記は、不動産の所有者を権利者、抵当権者を義務者とする共同申請です。
原則として、抵当権者の協力がないと抵当権抹消登記の申請はできません。
抵当権抹消登記を先延ばししていると、抵当権者の協力が得られなくなるかもしれません。
借金を完済した事実を証明できなくなるかもしれません。
完済した直後の抵当権抹消登記は、登記手続の中では、難しいものではありません。
完済した後、長期間経過すると、時間も手間もかかる難易度の高い手続になります。
借金を完済したら、すみやかに抵当権抹消の手続きをしましょう。
5抵当権付き不動産の相続を司法書士に依頼するメリット
借金の返済が終わると、ほっとします。
抵当権の抹消登記は多少遅くなっても特段の不都合がないから、多忙にまぎれがちです。
不動産を売却したり、相続が発生したときに気がつくことが多いです。
借金返済が完了してから長期間経過すると、事実関係が確認できなくなったり、関係者と連絡が取れなくなったり、連絡を無視されたりします。
通常の抵当権抹消登記は、司法書士であれば難しい手続ではありません。
借金返済が完了してから長期間経過すると、関係者の協力を得るのが難しくなりがちです。
関係者の協力を得られない場合、裁判所の助力が必要になります。
抵当権の抹消登記を先延ばしした代償は、非常に高くつきます。
抵当権消滅登記はすみやかに済ませましょう。
スムーズに登記を完了させたい方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
借地権付き建物を相続
1借地権は相続財産
被相続人がマイホームを持っている場合、土地は被相続人が所有しているケースと土地は借りているケースがあります。
被相続人が土地を借りてマイホームを持っている場合、土地を借りる権利、土地を使う権利があると言えます。
土地の上に建物を所有する目的で、土地を使う権利や土地を借りる権利のことを借地権と言います。
建物を所有する目的があるときだけ、借地権です。
更地で、資材置き場として使う目的や青空駐車場として使う目的の場合、土地を使う権利があったとしても、借地権とは言いません。
借地権は、法律的に言うと、賃借権の場合と地上権の場合があります。
賃借権は土地を借りて使う権利、地上権は土地を使う権利です。
地上権は、賃借権と比べると使う人の権利が強く保護されている権利です。
一般的には、借地権のほとんどは賃借権です。
借地権は、普通借地権と定期借地権があります。
被相続人がマイホームと借地権を持っていた場合、マイホームと借地権は相続財産になります。
2借地権には普通借地権と定期借地権がある
①普通借地権
契約で期限を定めておいても、自動的に借地契約が更新される契約です。
地主側に土地を返してもらう正当な理由がある場合だけ、土地の返還を請求できます。
土地を返してもらう正当な理由を認められるのは非常に限られた場合だけです。
借地人が望む場合、半永久的に借りることができます。
契約終了になったら、地主に建物の買取請求をすることができます。
②定期借地権
定期借地契約は50年以上の期間を決めて土地を利用することができる契約です。
契約更新はできないし、存続期間の延長はできません。
契約終了になっても、建物買取請求をすることはできません。
定期借地契約が終了したら、建物を取り壊して、土地を更地にして地主に返さなければなりません。
3借地権の相続に地主の承諾不要
マイホームなどの建物は被相続人の所有していたものなので、相続人全員で分け方の合意をすれば遺産分割をすることができます。
一般的に、賃借権をだれかに譲渡する場合やだれかに又貸しする場合、地主の承諾が必要になります。
多くの場合、地主の承諾を得るために、承諾料の支払が必要になります。
借地権を相続する場合、地主の承諾は必要ありません。
相続は被相続人の死亡という事実によって発生するものなので、地主といえども承諾の余地がないからです。
地主の承諾の余地がないから、承諾料の支払も必要ありません。
相続財産の分け方について、相続人全員で合意した結果、一部の相続人が相続することになることもあるでしょう。
一部の相続人が相続することになったとしても、地主の承諾は不要ですし、承諾料の支払も不要です。
一部の相続人が相続する合意をした場合であっても、相続によって受け継ぐことに変わりはないからです。
賃借権の相続にあたっては地主の承諾が不要であることを知らずに、当然のことのように承諾料を請求してくることがあります。
地主の承諾不要なのですから、承諾料の支払も不要です。
被相続人のマイホームであったとしても、相続人はそれぞれ自分の自宅があったり、遠方に住んでいる場合もあるでしょう。
建物に住まないのなら土地を明け渡して欲しいと請求してくる場合があります。
このような請求に応じる必要もありません。
被相続人の権利をそのまま受け継ぐものなので、相続が発生したからといって明渡を請求できるものではないからです。
地上権をだれかに譲渡する場合やだれかに又貸しする場合、賃借権と違い、地主の承諾が不要です。
地上権を相続する場合も、地主の承諾は不要です。
地主には相続したことを伝えておくだけでいいでしょう。
4借地権付き建物の相続登記
①登記された建物の相続の場合
相続財産の分け方について、相続人全員の話し合いによる合意ができたら、合意内容を遺産分割協議書に取りまとめます。
借地権と建物があるので、それぞれ忘れずに記載しましょう。
書類ができたら、通常どおり相続登記をします。
めったにありませんが、借地権が地上権であれば一緒に登記されているでしょう。
建物の相続登記をするとき、地上権も一緒に相続登記をするといいでしょう。
一般的に言って、借地権が賃借権の場合、登記されていることはめったにありません。
賃借権は希望すれば登記する制度がありますが、ほとんどの場合、地主が登記に協力しないからです。
登記されていない賃借権が借地権である場合、建物の登記があれば借地権も登記してあるものと同じ効力があります。
②未登記建物の相続の場合
建物の中には登記されていないものがあります。
登記がされていなくても、被相続人のものであれば、相続財産になります。
相続財産なので、相続人全員で分け方の合意をすれば遺産分割をすることができます。
未登記建物と登記されていない借地権を相続する場合、登記がない状態で相続することになります。
この状態で、地主が第三者に土地を売却した場合、土地の買主が土地の明渡を請求してくる心配があります。
この場合、借地権があっても登記がないので、明渡に応じなければなりません。
土地の買主に、借地権があるから出ていきたくないなどと文句を言うことはできません。
この点、登記された建物を所有している場合は、土地に買主に借地権があるから明け渡しには応じないと言うことができます。
建物の登記があれば借地権も登記してあるものと同じ効力があるからです。
土地の買主が現れて、土地の明渡を請求してくる前に建物の登記をした方がいいでしょう。
5借地権が定期借地権の場合
被相続人がマイホームと借地権を持っていた場合、マイホームと借地権は相続財産になります。
借地権が定期借地権である場合も、相続財産になります。
相続人は、被相続が地主と契約した内容を引き継ぐことになります。
定期借地契約は、原則として、解約することができません。
一方的な解約を認めてしまうと、貸主は予定していた賃料が得られなくなるし、借主はせっかく建てた建物を取り壊して明渡をする必要があるからです。
解約が認められるのは、地震や火災などで建物がなくなってしまった場合などごく限られた場合のみです。
地主が解約に応じてくれるのであれば解約できます。
予定していた賃料と残った契約期間を考えて相応の違約金を払うことになるでしょう。
原則として解約できませんから、相続人は別の場所に住んでいたとしても、契約で定められた地代を支払わなければなりません。
契約終了になったら、取壊し費用を負担して建物を取壊して、更地にして返さなければなりません。
このような負担を考えると、定期借地権付き建物を売却したいと思うでしょう。
法律上、定期借地権付き建物を売ることはできます。
法律上、売ることはできますが、買いたい人がいて売れるかというのは別問題です。
定期借地権付き建物を売却したら、買主が契約終了になったら、取壊し費用を負担して建物を取壊して、更地にして返さなければなりません。
このような負担をしてでも、買いたい人はあまりいないでしょう。
さらに、このような負担のある建物に対して銀行などの金融機関は財産価値をあまり認めていません。
買いたい人が見つかったとしても、銀行のローンが通りにくいものです。
ローンがなくても買える人でないと、定期借地権付き建物を買えません。
賃借権をだれかに譲渡する場合やだれかに又貸しする場合、地主の承諾が必要になります。
借地権が定期借地権であっても、賃借権であれば地主の承諾が必要です。
定期借地権付き建物を売却したら、地主に承諾をもらわなければなりません。
地主としても、定期借地権付き建物の買主がきちんと地代を払ってくれる人でないと承諾はできないでしょう。
さらに、譲渡承諾料も負担しなければなりません。
6負担が重いのであれば相続放棄も
被相続人に多額の借金がある場合、相続放棄を検討します。
家庭裁判所で相続放棄を認めてもらったら、相続人でなくなります。
相続人でなくなれば、多額の借金も賃借権も相続することはなくなります。
相続していないので、借金も地代も支払う必要がありませんし、賃貸借契約を解除する必要がありません。
地主から土地を明け渡して欲しいと請求されることがありますが、建物を取壊しをしてはいけません。
建物を処分したことになりますから、相続放棄が無効になります。
相続放棄をした人も、他の人が管理するまで適切に管理する必要があります。
物件を放置して周りの人に迷惑をかけてしまったら、損害賠償請求される可能性があります。
必要であれば、家庭裁判所に相続財産管理人を選んでもらうように申立をすることも考えましょう。
7借地権付き建物の相続を司法書士に依頼するメリット
相続財産の分け方は、相続人全員で合意する必要があります。
相続人全員で話し合いによる合意は、トラブルが起きやすいものです。
相続は、相続人間だけでトラブルが起きるのではありません。
借地に建物を所有している場合、地主が関係します。
相続をきっかけに、譲渡承諾料を請求してくることがあります。
相続を理由に、契約内容をうやむやにすることもあります。
意図的でないにしてもトラブルに巻き込まれがちです。
司法書士は単なる登記の書類を書いているだけではありません。
法律の知識があれば防げるトラブルは多いです。
相続が発生してから、相続人は相続手続に追われてへとへとになっているでしょう。
スムーズに相続手続を完了させたい方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
分譲マンションを相続
1相続財産とは
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
相続財産はプラスの財産とマイナスの財産があります。
どちらも、相続財産です。
①プラスの財産
一般的に不動産、預金、株式や投資信託などの有価証券、現金などです。
さらに、宝飾品や美術品など価値があるものはプラスの財産といえるでしょう。
多くの方が財産と言われてたときにイメージしやすいものです。
これ以外にも、賃借権や借地権などの権利もプラスの財産になります。
②マイナスの財産
一般的に借金やローンなどです。
未払の税金や未払の入院費用などもマイナスの財産になります。
被相続人が住宅ローンを払っていれば、住宅ローンは相続財産になります。
2敷地権のないマンションと敷地権付マンションがある
分譲マンションのように1棟の建物の一部を独立して所有できる建物を区分建物と言います。
区分建物が建っている土地が敷地です。
敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利を一体化して処分するようにしたのが、敷地権付区分建物です。
敷地権付区分建物の場合、マンションを売買するとき敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利は一緒についてきます。
敷地を使う権利だけ取引することやお部屋だけ担保に差し出すことはできません。
敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利は、命運を共にする運命共同体です。
新しいマンションのほとんどは、敷地権付区分建物です。
敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利は切り離すことができないから、権利証は1つだけです。
古いマンションの中には、敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利を一体化して処分できるルールができる前に建てられた場合があります。
ルールができる前に建てられたマンションは、敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利を一体化していない場合があります。
マンションのお部屋の権利とは別に、敷地を使う権利があります。
多くの場合、敷地を使う権利はマンションのお部屋の持ち主全員で共有しています。
敷地を使う権利とマンションのお部屋の権利が一体化していないから、敷地の権利証とマンションのお部屋の権利証は別々です。
何筆もの土地の上にマンションが建っている場合、その土地の数の分の権利証があります。
敷地権付区分建物であるか敷地権のない区分建物であるか確認する方法は登記簿謄本を見ることです。
敷地権付区分建物の場合、表題部(専有部分の建物の表示)に続いて、表題部(敷地権の表示)が記載されています。
敷地権のない区分建物の場合、表題部(専有部分の建物の表示)のみで、敷地権の表示は記載されていません。
レアケースですが、同じマンションなのに敷地権付区分建物と敷地権のない区分建物が混在している場合があります。
該当のお部屋の登記簿謄本を見て確認しましょう。
3別で登記されている共用部分は見落としがち
共用部分というと、まず支柱、廊下、階段、エレベーター、電気ガス水道などのライフライン設備などをイメージするでしょう。
これらは、法定共用部分と言います。
法定共用部分は、登記することができません。
構造上、利用上の独立性がないからです。
法定共用部分は、お部屋の権利と一緒に移転します。
共用部分には、法定共用部分の他に、規約共用部分があります。
規約共用部分とは、マンション管理のための施設のことです。
例えば、集会所、管理人室、駐車場、ポンプ室、ごみステーションなどが代表例です。
上記のような施設は、単独で建物として登記することができます。
その後、規約によって共用部分になったことを登記することができます。
規約によって共用部分になったことが登記してあれば、お部屋の権利と一緒に権利が移転します。
共用部分の権利はお部屋の権利と一体化しています。
一体化していれば、共用部分だけ権利が移ったり、お部屋の権利だけ移って共用部分はそのままになることがありません。
規約によって共用部分になったことが登記してない場合、規約共用部分を使う権利とマンションのお部屋の権利が一体化していません。
規約によって共用部分になったことが登記してない場合、規約共用部分がお部屋の持ち主全員で共有しています。
規約共用部分を使う権利とマンションのお部屋の権利が一体化していないから、規約共用部分の権利証とマンションのお部屋の権利証は別々です。
お部屋の権利証とは別に、集会所の権利証、駐車場の権利証など施設の数だけ権利証があります。
権利証が別々になっているかどうかは、登記簿謄本を見て確認することができます。
建物の表題部を見て、「〇年〇月〇日規約設定 共用部分」と記載がある場合、規約によって共用部分になったことが登記されています。
相続登記をするする場合、原則として、権利証は必要ありません。
相続登記で権利証を必要とする例外がありますから、権利証を確認しておくとお部屋と一体化していない権利を見つけられることがあります。
マンションを購入したときにローンを組んでいる場合、抵当権を設定します。
多くの場合、お部屋の権利だけでなくその他の権利も一緒に抵当権を設定します。
登記簿謄本の共同担保目録の欄を確認するといいでしょう。
お部屋の権利と一体化していない場合、他の権利は見落としがちです。
お部屋の権利にだけ注目している場合、一体になっていない権利について分け方の合意を忘れられることが多いでしょう。
相続してから長期間経過してから、一体になっていない権利について分け方の合意をしていないことが発覚します。
分け方の合意をしていない場合、相続人全員の共有財産です。
あらためて、相続人全員で分け方の合意をしなければなりません。
4相続後すぐに売却する場合でも相続登記は必要
不動産そのままでは相続人間で分けようがない場合や遠方で住む予定がない実家を相続した場合など、相続したもののすぐに不動産を売却したい場合もあるでしょう。
相続した後、すぐに売却するのだから登記する費用がもったいないという声を聞きます。
登記するときに国に納める登録免許税は不動産の値段によって決まりますから、値段の高い不動産を相続した人は、なおさら、相続登記を省略したいと思うでしょう。
不動産を相続した後に売却する場合、必ず、相続登記が必要です。
所有権は、被相続人→相続人→買主と移動しているからです。
分譲マンションの場合、お部屋の権利だけに注目しがちです。
敷地を使う権利は別になっているかもしれません。
規約共用部分が別になっているかもしれません。
これらすべてを見落としなく手続する必要があります。
新しいマンションのほとんどは敷地権付区分建物です。
規約によって共用部分になったことが登記してあることが多いでしょう。
お部屋の権利と他の権利が一体化していない場合、注意深く登記簿謄本を読む必要があります。
売却する場合、前提として相続登記は必要です。
相続登記の前提として、相続財産の分け方の合意が不可欠です。
5抵当権の登記の抹消・変更も忘れずに
被相続人がマンションを購入するときに、住宅ローンを組んでいる場合があります。
住宅ローンを組んでいる場合、銀行などに抵当権を設定しているでしょう。
住宅ローンが残っているのであれば、抵当権の債務者の変更の登記が必要になります。
もっとも、住宅ローンを組む場合、債務者が団体信用生命保険に加入しているケースが多いです。
債務者が死亡したことで、団体信用生命保険の保険金が支払われる場合、住宅ローンの残りは保険金で返済されます。
団体信用生命保険の保険金で住宅ローンの支払いがなくなった場合、抵当権は消滅します。
抵当権が消滅しても、抵当権の登記は自動で消えません。
法務局は住宅ローンがなくなったかどうか分からないからです。
相続登記とは別に、抵当権の抹消登記の申請が必要です。
相続登記は、相続人が単独申請をすることができます。
抵当権の抹消登記は、相続人を権利者、銀行を義務者として共同申請をしなければなりません。
6相続登記を司法書士に依頼するメリット
大切な家族を失ったら、大きな悲しみに包まれます。
やらなければいけないと分かっていても、気力がわかない方も多いです。
相続手続きは一生のうち何度も経験するものではないため、誰にとっても不慣れで手際よくできるものではありません。
相続手続で使われる言葉は、法律用語なので一般の方にとって、日常で聞き慣れないものでしょう。
不動産は重要な財産であることも多いので、登記手続きは一般の方から見ると些細なことと思えるようなことでやり直しになることも多いです。
やり直しで済めば、良かったと言えるかもしれません。
敷地権のない古いマンションの場合、敷地を使う権利が別になっていたり、規約共用部分が別になっていたりします。
一般の方が登記簿謄本から見落としなく読み解くのは難しいものです。
日常のお仕事や家事をこなしたうえに、これらのことがあると、疲労困憊になってしまうことも多いです。
司法書士などの専門家から見れば、トラブルのないスムーズな相続手続であっても、多くの方はへとへとになってしまうものです。
相続手続きに疲れてイライラすると普段は温厚な人でも、トラブルを引き起こしかねません。
司法書士などの専門家はこのような方をサポートします。
相続手続でへとへとになったから先延ばしするより、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
アパートローンを相続
1相続財産とは
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
相続財産はプラスの財産とマイナスの財産があります。どちらも、相続財産です。
①プラスの財産
一般的に不動産、預金、株式や投資信託などの有価証券、現金などです。
さらに、宝飾品や美術品など価値があるものはプラスの財産といえるでしょう。
多くの方が財産と言われたときにイメージしやすいものです。
不動産には、自宅だけでなく収益不動産も含みます。
②マイナスの財産
一般的に借金やローンなどです。
賃貸マンションや賃貸アパートを経営している場合、アパートローンが残っていることが多いでしょう。
アパートローンは相続財産です。
アパートローンは、相続で相続人に受け継がれます。
未払の税金や未払の入院費用などもマイナスの財産になります。
被相続人が賃貸マンションや賃貸アパートを保有している場合、被相続人は大家の地位があります。
大家の地位は相続財産です。
大家の地位は、相続で相続人に受け継がれます。
被相続人が第三者の連帯保証人であった場合、連帯保証人の地位は相続財産です。
連帯保証人の地位は、相続で相続人に受け継がれます。
被相続人がローン組むときに相続人が連帯保証人になることがあります。
この場合の連帯保証人の地位は相続財産ではありません。
相続とは関係ない相続人の固有の義務です。
2まずは遺産分割協議
相続が発生すると、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
被相続人がアパート経営をしている場合、賃貸アパート、アパートローン、貸主の地位などが相続財産になります。
これらの相続財産は、相続人全員の共有財産になります。
2人以上相続人がいる場合や遺言書がない場合は、遺産の分け方について相続人全員で話し合いをする必要があります。
この相続人全員で話し合いのことを遺産分割協議といいます。
相続財産の分け方について、相続人全員で、合意が不可欠です。
相続人全員で合意がまとまったら、遺産分割協議書に取りまとめておきます。
賃貸アパートは、相続人全員でだれが受け継ぐか合意すれば、その相続人が受け継ぐことができます。
アパートローンが残っている場合、賃貸アパートを相続する人がアパートローンを引き継ぐ合意をすることが多いでしょう。
賃貸アパートを引き継ぐ人がアパートローンを引き継ぐと相続人全員で合意をした場合、合意は相続人間でのみ有効です。
アパートローンを引き継ぐ合意は、相続人の内輪の合意事項に過ぎません。
相続人の内輪の合意事項だから、銀行には関係ない話です。
相続人の内輪の合意事項に関係なく、銀行は、各相続人に法定相続分でローンの返済を求めることができます。
賃貸アパートを引き継ぐ人がアパートローンを引き継ぐ合意をしたから、アパートローンの返済はしないと文句を言うことはできません。
遺産分割協議書に「賃貸アパートを引き継ぐ人がアパートローンを引き継ぐ」と記載して相続人全員が署名して実印押印しても銀行には関係ありません。
3アパートローンの名義変更は銀行の承諾が必要
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
被相続人の財産は、原則としてプラスの財産もマイナスの財産も相続財産です。
賃貸マンションやアパートを建設するとき、アパートローンを組んでいることがあります。
アパートローンも相続財産です。
相続財産は相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意が不可欠です。
相続人全員の合意でアパートローンを特定の代表相続人が引き継ぐことを決めることができます。
代表相続人がアパートローンを引き継ぐと決めた場合であっても、この取り決めは相続人間の内部的な合意に過ぎません。
被相続人が遺言書に「アパートローンは相続人○○に相続させる」と書いた場合も同様です。
遺言書の内容は、相続人間の内部的な取り決めに過ぎません。
相続人間の内部的な取り決めに過ぎませんから、銀行は相続人全員に対して法定相続分でローンの返済を求めることができます。
アパートを引き継がない相続人に対して、銀行は法定相続分でローンの返済を求めることができます。
ローンを引き継ぐと決められた相続人が、債務超過で資力がない場合があるからです。
債務超過で資力がない場合、多くの場合、自己破産することになるでしょう。
自己破産をした場合、銀行はローンを返済してもらえなくなります。
銀行を保護するため、アパートローンを特定の代表相続人が引き継ぐには金融機関の承諾が必要です。
金融機関は新たにローンを組む時と同様に、相続人の返済能力やアパートの収益性を審査をします。
銀行の審査が通らなかった場合、新たに連帯保証人を立てることを求められるでしょう。
銀行の審査が通った場合、債務引受契約を締結します。
不動産に抵当権が設定されている場合、抵当権の債務者変更登記が必要になります。
アパートを引き継がない相続人は、アパートローンの引継ぎができたのか確認しておく必要があります。
4連帯保証人になるとアパート経営から逃げられない
被相続人が賃貸マンションや賃貸アパートを建築するとき、アパートローンを組むことがあります。
多額の融資を受けることになるので、金融機関は連帯保証人を立てることを求めてきます。
被相続人がローンを組む場合、相続人が連帯保証人になっていることがあります。
連帯保証人は、ローンを組んだ人がお金を返せなくなった場合に肩代わりをしますと銀行に約束した人です。
銀行は、ローンを組んだ人がお金を返せなくなっても、肩代わりの人に請求できるので安心してお金を貸せます。
被相続人が多額のローンを残したまま死亡した場合、相続人は相続放棄をすることができます。
相続人が相続放棄をした場合、被相続人の借金を相続することはありません。
相続人として被相続人のアパートローンを返す義務はなくなりますが、肩代わりの義務は残ります。
借金を肩代わりする義務は、銀行と相続人がした契約だからです。
相続とは関係ない相続人の固有の義務だからです。
被相続人が不動産ローンを残したまま死亡した後、相続人が相続放棄をしたら借金を返してもらえなくなります。
ローンを組んだ人がお金を返せなくなった場合に肩代わりをしますと約束してもらったのだから、銀行は約束どおり肩代わりをしてくださいと言ってきます。
相続放棄したから、肩代わりはしませんということはできません。
肩代わりの義務は、相続とは関係ない相続人固有の義務だからです。
相続人として相続放棄をしても、連帯保証人である相続人は連帯保証人として肩代わりの義務は消えません。
連帯保証人である相続人は実質的に相続放棄をすることができなくなります。
連帯保証人である相続人は相続放棄をした場合、連帯保証人として被相続人の借金から逃れられないからです。
銀行は、相続放棄をしてアパート経営を投げ出すことができないようにするために、連帯保証人を立てるように求めてきます。
アパートローンの連帯保証人になると言うことは、実質的にアパート経営を引き継ぐ義務を負うという意味です。
連帯保証人が死亡した場合、連帯保証人の地位は相続人に相続されます。
連帯保証人の配偶者や子どもなどは何も知らないところで連帯保証人の地位を相続してしまうおそれがあります。
順調に不動産ローンが返済されている間は、連帯保証人に何も言って来ないのが通常です。
アパートローンを組んだ人が順調にローン返済ができている間は、銀行は困ることがないからです。
5アパート経営は相続人を巻き込む事業リスクがある
被相続人が賃貸マンションや賃貸アパートを保有していた大家と聞くと、一般的に資産家のイメージが浮かびます。
被相続人が収益不動産を上手に活用して、大きな収益をあげていたかもしれません。
家族が全く関与していない場合、不動産経営に不安を感じることでしょう。
家族が負担する相続税額を心配して、税金を減らす対策をしようと考えるかもしれません。
確かに、現金を保有し続けるよりアパートを建設した方が相続税を少なくすることができることが多いでしょう。
アパート経営は不労所得に見えがちですが、リスクをとって経営する不動産事業です。
相続税を減らすメリットに見合う、事業リスクなのか慎重に判断する必要があります。
相続税を減らすことには成功したが、不動産事業で失敗したら意味はありません。
アパートローンを組む場合、アパート経営を受け継ぐ予定の人は連帯保証人に立てることを求められます。
不動産事業で失敗した場合、連帯保証人でない相続人は相続放棄をすることで、被相続人の借金を相続することはありません。
連帯保証人である相続人は相続放棄をした場合、連帯保証人として被相続人の借金から逃れられません。
アパート経営による事業リスクの大きさを理解していない場合、家族の人生を破綻させる危険があります。
相続人の人生を破綻させないための対策が、相続放棄の制度だからです。
連帯保証人として事実上相続放棄ができない相続人は、借金から逃れられないからです。
6アパート経営は相続トラブルのリスクが大きい
不動産経営がうまくいったとしても、相続トラブルの心配があります。
賃貸マンションや賃貸アパートを複数保有している人の場合、収益のいい不動産と収益の良くない不動産があるでしょう。
大規模の修繕が必要な物件や老朽化した物件がある場合もあるでしょう。
不動産にはそれぞれ個性があるから、簡単に分けることができません。
相続財産が金銭のみであれば、簡単に分けることができます。
分けにくい不動産は、分け方の合意をするのが難しくなります。
収益のいい不動産は価値が高くなります。
収益の高い不動産を受け継ぐ相続人は、他の相続人に代償金を支払わなければならなくなるかもしれません。
代償金の額や支払方法の合意が難しいかもしれません。
相続税を減らす対策のために、家族がトラブルになることは少なくありません。
7賃貸アパートの相続を司法書士に依頼するメリット
賃貸マンションや賃貸アパートを保有している大家と聞くと、資産家のイメージが浮かびます。
相続税を心配してアパート経営を始める人もいるでしょう。
アパート経営は不労所得に見えがちですが、リスクがある不動産事業です。
アパートローンの返済が終わったら、家賃収入を資産として残すことができます。
そのためにはアパート経営をする知識と時間と労力が必要です。
空室にしないためにどのような投資をしていくか経営判断が必要になるでしょう。
被相続人がアパート経営をしていた場合、相続人は関与していなかったことは少なくありません。
相続でアパート経営を引き継ぐ場合、築年数の経過した賃貸アパートになります。
築年数の経過した賃貸アパートは空室が多くなりがちで、修繕の負担が多くなりがちです。
アパート経営に関与していなかった相続人が引き継ぐ場合、難しい経営判断を迫られることになります。
家賃収入を資産として残すどころか、相続人の固有の財産で損失を補填することになるでしょう。
いったん相続をして、損失が大きくならないうちに売却する方がいいかもしれません。
このような相続して売却する場合も司法書士はサポートします。
賃貸マンションや賃貸アパートの相続について、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
アパート経営を相続
1大家の地位は相続財産
被相続人が賃貸マンションや賃貸アパートを保有していることがあります。
お部屋を貸している人が死亡しても、賃貸借契約は終了しません。
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
賃貸マンションやアパートのような収益不動産は、人に貸して収益をあげています。
賃貸マンションやアパートのような物は相続財産としてイメージしやすいでしょう。
これ以外にも、大家の地位つまり貸主の地位も相続の対象になります。
貸主の地位には、賃借人から差し入れられた敷金を返す義務も含まれています。
賃貸マンションやアパートを建設するとき、アパートローンを組んでいることがあります。
アパートローンも相続財産です。
被相続人がアパート経営をしていると、収益不動産の他に、大家の地位、アパートローンが相続財産になります。
2まずは遺産分割協議
相続が発生すると、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人全員は自動的に貸主との地位を受け継ぎます。
貸主の地位は物ではないので、準共有という言い方をします。
賃借人から差し入れられた敷金を返す義務も相続財産として、相続人に受け継がれます。
2人以上相続人がいる場合や遺言書がない場合は、遺産の分け方について相続人全員で話し合いをする必要があります。
相続財産の分け方について、相続人全員で、合意が不可欠です。
貸主の地位は相続財産ですから、相続人全員で、合意が必要になります。
銀行の預貯金などと同じように、貸主の地位をだれが受け継ぐのか決めましょう。
どのように分けるかは、相続人全員で合意できるのであれば、どのように分けても構いません。
相続人全員で合意がまとまったら、遺産分割協議書に取りまとめておきます。
貸主の地位をだれが受け継ぐのかについて、借主や管理会社に相談する必要はありません。
賃借人の同意や承諾は必要ありません。
新しい家主が決まったら、借主に通知しましょう。
相続で自動的に受け継がれるものなので、相続が発生したことによって賃貸借契約を新規締結したり、契約変更したりする手続は必要ありません。
相続があったことで、契約内容がうやむやになったり、賃料や敷金関係があいまいになりがちです。
家主や管理会社と相続人の間で、賃借権の内容を合意事項として文書にしておくと、以降のトラブル防止に役立つでしょう。
相続で貸主の地位を相続した相続人が、賃借人を変更したいと思っても、簡単に契約を終了させることはできません。
建物所有目的の土地賃貸借や建物賃貸借では、借地借家法が適用されます。
借地借家法が適用される場合、貸主から解約や更新拒絶するのは正当理由が必要になります。
正当理由が非常に高いハードルとなっているからです。
3遺産分割までの家賃
①遺産分割までの家賃は法定相続分で分割して取得
相続が発生してから遺産分割までに発生した家賃は、相続財産とは別個の財産です。
相続人の法定相続分に応じて、相続が発生してから遺産分割までに発生した家賃を分配します。
後から、遺産分割によって、賃貸不動産を相続する相続人を決めても、賃貸不動産を相続する相続人が家賃をすべて取得することはできません。
相続財産の分け方について、相続人全員で、合意するまでは、相続財産は相続人全員の共有物だからです。
現実的には、代表相続人が家賃を受け取って管理し、相続財産の分け方について、その賃料についても相続人全員の合意をするのが一般的です。
その合意に基づいて、清算します。
②遺産分割までの家賃は法定相続人の1人に払えばよい
貸主が死亡しても、賃貸借契約は終了しませんから、家賃を払わなければなりません。
死亡した貸主の口座に振り込んでも、差し支えありません。
銀行などの金融機関は、口座の持ち主が死亡したことを知ると口座を凍結します。
家賃を振込しようとしても、振込ができないこともあります。
貸主としての地位は相続人に相続されていますから、相続人に支払うことができます。
相続人の1人に家賃全額を払えば、二重払いを強いられることはありません。
万が一、相続人と称するだけで相続人でない人であった場合、無過失であれば二重払いをしなくて済みます。
無過失の証明のために、戸籍謄本や身分証明書を受領しておくと安心です。
4入居者に家賃を請求するためにはアパートの名義変更が必要
家賃を請求するなど貸主の地位を借主に主張するためには、対抗要件が必要になります。
まず、賃借人が賃借権を対抗する場合、次のような方法があります。
①不動産賃借権の登記
②登記した建物を所有(土地の賃貸借の場合)
③建物の引渡(建物賃貸借の場合)
賃借人が賃借権に①~③の対抗要件を備えた後、貸しているものが譲渡された場合、貸主の地位は自動的に譲受人に移ります。
譲渡によって移った貸主の地位を借主に主張するためには、所有権移転の登記が必要です。
登記があれば、所有権があることを第三者に主張することができます。
第三者に主張することができない状態では、借主から見ると、家賃をだれに払えばいいのか分からなくなって困ります。
所有権移転登記を経ることで、相続人は貸主としての地位を借主に対抗できることになります。
借主が家主と称する人に家賃を払ったのに、家主でなかったというトラブルをなくすためにこのような定めがあります。
5アパートローンの名義変更は銀行の承諾が必要
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
被相続人の財産は、原則としてプラスの財産もマイナスの財産も相続財産です。
賃貸マンションやアパートを建設するとき、アパートローンを組んでいることがあります。
アパートローンも相続財産です。
相続財産は相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意が不可欠です。
相続人全員の合意でアパートローンを特定の代表相続人が引き継ぐことを決めることができます。
代表相続人がアパートローンを引き継ぐと決めた場合であっても、この取り決めは相続人間の内部的な合意に過ぎません。
被相続人が遺言書に「アパートローンは相続人○○に相続させる」と書いた場合も同様です。
遺言書の内容は、相続人間の内部的な取り決めに過ぎません。
相続人間の内部的な取り決めに過ぎませんから、銀行は相続人全員に対して法定相続分でローンの返済を求めることができます。
アパートを引き継がない相続人に対して、銀行は法定相続分でローンの返済を求めることができます。
アパートローンを引き継ぐと決められた相続人が、債務超過で資力がない場合があるからです。
債務超過で資力がない場合、多くの場合、自己破産することになるでしょう。
自己破産をした場合、銀行はローンを返済してもらえなくなります。
銀行を保護するため、アパートローンを特定の代表相続人が引き継ぐには金融機関の承諾が必要です。
金融機関は新たにローンを組む時と同様に、相続人の返済能力やアパートの収益性を審査をします。
銀行の審査が通らなかった場合、新たに連帯保証人を立てることを求められるでしょう。
銀行の審査が通った場合、債務引受契約を締結します。
不動産に抵当権が設定されている場合、抵当権の債務者変更登記が必要になります。
アパートを引き継がない相続人は、アパートローンの引継ぎができたのか確認しておく必要があります。
6賃貸アパートの相続を司法書士に依頼するメリット
大切な家族を失ったら、大きな悲しみに包まれます。
やらなければいけないと分かっていても、気力がわかない方も多いです。
収益物件を保有している人は、資産家であることが多いので収益物件の評価額も気になることが多いでしょう。
借地借家法の適用を受ける不動産は存続期間が長く、更新拒絶理由も厳しいので評価額が低く抑えられているのが通常です。
経済的価値は賃借人に移転していると評価されるからです。
賃貸借契約の取り扱いは、貸主にとって不動産をどのような利用活用できるか、どのように収益をあげることができるかという点から、重要な問題です。
法律上は、貸主も借主も相続が発生すれば相続人にその地位が相続されるだけですが、契約内容や賃料関係、敷金関係があいまいになってトラブルになりがちです。
貸主の地位を主張するためにも、相続登記は不可欠です。
相続するのであれば、まず相続登記を確実に済ませましょう。
登記があれば、特段手続に心配はありませんが、トラブルにならないように適切に対応していくことが重要です。
司法書士が、必要な手続や適切な対応についてサポートします。
相続登記を済ませていない方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
Newer Entries »