相続財産別調査方法の手順と実践ポイント

1相続財産調査が重要な理由

理由①相続か相続放棄か判断するため

相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄するか選択することができます。

相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをします。

相続を単純承認するか相続放棄するか判断するため、相続財産調査が重要です。

被相続人が莫大な借金を抱えていた場合、相続放棄が選択肢になるでしょう。

相続放棄の期限は、3か月です。

理由1つ目は、相続か相続放棄か判断するためです。

理由②遺産分割協議を円滑にするため

相続が発生したら、被相続人の財産は相続人全員の共有財産です。

相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。

遺産分割協議とは、相続財産の分け方を決めるため相続人全員でする話し合いです。

相続財産全体を把握して、分け方を話し合うといいでしょう。

遺産分割協議を円滑にするため、相続財産調査が重要です。

相続財産全体が分からないと、話し合いができなくなるおそれがあるからです。

理由2つ目は、遺産分割協議を円滑にするためです。

理由③適正な相続税申告をするため

被相続人の財産規模が一定以上である場合、相続税の対象になります。

適正な相続税申告をするため、相続財産調査が重要です。

後から相続財産が見つかると、修正申告が必要になります。

税務署の指摘によって修正申告をすると、ペナルティーの対象になるでしょう。

相続税申告はの期限は、10か月です。

理由3つ目は、適正な相続税申告をするためです。

2相続財産別調査方法の手順と実践ポイント

①預貯金の調査方法

(1)預貯金口座の把握

自宅などを探して、被相続人の通帳やキャッシュカードを確認します。

通帳やキャッシュカードが見つからなくても、金融機関から郵便物が保管してあるかもしれません。

パソコンのメールやスマートフォンのアプリなどから、手掛かりが見つかるかもしれません。

郵便物などを手掛かりに、金融機関に確認するといいでしょう。

手順1つ目は、預貯金口座の把握です。

(2)残高証明書の取得

預貯金口座が把握できたら、残高証明書を請求します。

残高証明書は、一部の相続人が請求することができます。

残高証明書を請求するときに、必要な書類は次のとおりです。

・被相続人の死亡が分かる戸籍謄本

・相続人の現在戸籍

・請求人の本人確認書類(免許証、マイナンバーカード)

・通帳とキャッシュカード

必要書類は、金融機関によって異なります。

残高証明書の取得には、500~1000円程度の手数料がかかります。

手順2つ目は、残高証明書の取得です。

 (3)預貯金の調査における実践ポイント

相続財産調査をする場合、預貯金の調査を最初にするのがおすすめです。

銀行の口座から、取引履歴が分かるからです。

通帳がない場合は、残高証明書の他に取引履歴も請求します。

取引履歴を手掛かりに、他の財産を見つけることができます。

実践ポイントは、預貯金の調査を最初にすることです。

②借金の調査方法

(1)借入先の把握

自宅などを探して、借用書や契約書を確認します。

借用書や契約書が見つからなくても、債権者から郵便物が保管してあるかもしれません。

請求書や督促状は、重要な手掛かりになります。

パソコンのメールやスマートフォンのアプリなどから、手掛かりが見つかるかもしれません。

郵便物などを手掛かりに、債権者に確認するといいでしょう。

(2)信用情報機関に照会

信用情報機関に照会することで、被相続人の借金を調査することができます。

信用情報機関は、次の3つがあります。

・日本信用情報機構(JICC)

・株式会社シー・アイ・シー(CIC)

・全国銀行協会全国銀行個人信用情報センター(KSC)

一部の相続人が信用情報機関に照会することができます。

信用情報機関へ照会する場合、500~1500円程度の手数料がかかります。

(3)借金の調査における実践ポイント

借金の調査は、できれば相続が発生してから2か月以内に終わらせるのがおすすめです。

相続放棄には、3か月の期限があるからです。

相続放棄をすると判断してから、書類を準備して家庭裁判所に提出する必要があります。

相続放棄の期限3か月は、想像以上に短いものです。

実践ポイントは、借金の調査は2か月以内に終わらせることです。

③公租公課の調査方法

(1)滞納の把握

公租公課とは、国や地方自治体に対する公的負担です。

税金や健康保険料などの賦課金があります。

自宅などを探して、納税通知書を確認します。

次の税金や賦課金に、注意するといいでしょう。

・住民税

・事業税

・固定資産税

・不動産取得税

・国民健康保険料

(2)公租公課の調査における実践ポイント

公租公課は、信用情報に登録されていません。

信用情報機関へ照会しても、公租公課は調査できません。

実践ポイントは、公租公課は信用情報機関照会で調査できないことです。

④不動産の調査方法

(1)不動産の把握

不動産を持っていると、固定資産税が課されます。

自宅などを探して、固定資産税納税通知書と課税明細書を確認します。

課税明細書を確認すると、固定資産税が課される不動産が分かります。

課税明細書が見つからない場合、市区町村役場で名寄帳を請求します。

名寄帳とは、固定資産税の課税台帳を取りまとめた書類です。

手順1つ目は、不動産の把握です。

(2)登記簿謄本の取得

不動産が把握できたら、登記簿謄本を請求します。

不動産の登記簿謄本は、だれでも取得することができます。

法務局に出向いて請求する他に、スマートフォンやパソコンから請求することができます。

登記簿謄本の請求は、手数料がかかります。

紙で請求するときは1通600円、スマートフォンやパソコンから請求するときは1通490円です。

(3)不動産の調査における実践ポイント

不動産の登記簿謄本を取得したら、登記名義を確認します。

被相続人名義ではなく、先祖の名義のままになっていることがあるからです。

実践ポイントは、登記名義を確認することです。

⑤株式の調査方法

(1)株式の把握

被相続人が株式投資をしている場合、証券会社などで証券口座を持っているでしょう。

証券会社の証券口座は、銀行などの預貯金口座と異なり通帳はありません。

証券会社での取引内容は、取引報告書で確認します。

自宅などを探して、取引報告書や預かり資産残高報告書を確認します。

パソコンのメールやスマートフォンのアプリなどから、手掛かりが見つかるかもしれません。

郵便物などを手掛かりに、証券会社に確認するといいでしょう。

(2)証券保管振替機構に照会

証券保管振替機構へ登録済加入者情報の開示請求をすることで、口座がある証券会社を調査することができます。

一部の相続人が証券保管振替機構に照会することができます。

相続人が証券保管振替機構に照会する場合、5000~6000円程度の手数料がかかります。

登録済加入者情報の開示請求で分かるのは、口座を開設している証券会社のみです。

保有銘柄、保有株式数、取引履歴は、口座がある証券会社に照会します。

⑥貸金庫の調査方法

(1)貸金庫の把握

自宅などを探して、貸金庫の鍵やカードを確認します。

貸金庫の鍵やカードが見つからなくても、金融機関からの契約更新通知書や使用料口座振替通知書が保管してあるかもしれません。

通帳の取引履歴を確認すると、貸金庫使用料の引落しが見つかることがあります。

郵便物や引落記録を手掛かりに、金融機関に確認するといいでしょう。

手順1つ目は、預貯金口座の把握です。

(2)契約者死亡で貸金庫は凍結

被相続人が貸金庫を契約していた場合、中には重要な書類や物品が保管してあるでしょう。

貸金庫契約者が死亡したら、貸金庫は凍結されます。

契約者の死亡後に貸金庫を開けて中を確認するには、原則として相続人全員の同意が必要です。

金融機関によっては、相続人全員の同意だけでなく立会いを求められます。

(3)公証人立会いで貸金庫開扉

相続人調査をすると、思いもよらない相続人が見つかることがあります。

相続人全員の同意を得ることが困難である場合、公証人に立会いを依頼します。

具体的には、貸金庫を開扉において公証人に貸金庫の中を確認してもらいます。

(4)貸金庫の調査における実践ポイント

被相続人が貸金庫契約をしている場合、早めに開扉して中を確認します。

貸金庫の中には、重要な書類や物品が保管されているからです。

新たな財産に関する重要な手がかりが保管されている可能性があります。

貸金庫の中に遺言書が見つかることがあります。

遺言書があれば、遺言書の内容どおりに遺産分割をすることができます。

実践ポイントは、早めに開扉して中を確認することです。

⑦遺言書があっても相続財産調査は必要

被相続人が遺言書を作成していることがあります。

遺言書があれば、遺言書の内容どおり遺産分割をすることができます。

遺言書があっても、相続財産調査は必要です。

すべての財産について遺言書に記載されていないことがあるからです。

例えば、遺言書を作成した後に、新たな財産を取得することがあります。

新たに取得した財産について、遺言書に記載されていないでしょう。

相続財産の見落としに、つながります。

遺言書があっても、相続財産調査は必要です。

⑧必要があれば相続財産目録作成

相続財産の内容が判明したら、相続人間で情報共有します。

相続財産が多種類かつ複雑である場合、相続財産目録を作成すると便利です。

相続財産が少なく簡単である場合、わざわざ相続財産目録を作成する必要はありません。

相続財産目録は、単に相続人の情報共有のために作成するに過ぎません。

相続財産目録を作成することが困難である場合、専門家に依頼することができます。

3見落としやすい相続財産と見落とさないためのポイント

①現金・タンス預金

被相続人の自宅などで、現金が保管されていることがあります。

タンスや仏壇に保管されている現金は通帳などに反映されないから、見落としやすい財産です。

見落とさないためのポイントは、自宅などをよく探すことです。

生前に保管場所を共有しておくことができれば、理想的です。

②名義預金

名義預金とは、実質的に被相続人の財産であるのに家族などの名義になっている預金です。

贈与の記録があいまいな場合、相続税の調査で問題になります。

見落とさないためのポイントは、家族名義の口座や過去の贈与記録を確認することです。

③固定資産税非課税の不動産

固定資産税課税明細書は、固定資産税が課される不動産についてのみ記載されています。

私道や用水路、原野などは、固定資産税が非課税になっていることがあります。

見落とさないためのポイントは、不動産を入手したときの売買契約書や権利証を確認することです。

④先代名義の不動産

不動産の名義変更は、相続人が自分で申請する必要があります。

被相続人が不動産を相続したときに、相続登記をしないままになっていることがあります。

見落とさないためのポイントは、登記簿謄本を取得して確認することです。

⑤ネット口座・電子マネー・デジタル資産

ネット銀行や証券会社は、紙の書類が見つからないことが少なくありません。

被相続人のパソコンやスマートフォンにのみ情報があるから、相続人が把握しにくい財産です。

見落とさないためのポイントは、被相続人のパソコンやスマートフォンをよく確認することです。

ネット口座・電子マネー・デジタル資産の存在を聞き取っておくと、理想的です。

4相続財産調査の依頼先

①トラブルがないなら司法書士

司法書士は、登記手続の専門家です。

司法書士は、相続財産調査をすることができます。

相続手続全般を依頼することができ、特に不動産の名義変更がある場合は、司法書士がおすすめです。

②トラブルがあるなら弁護士

弁護士は、法律紛争の専門家です。

弁護士は、相続財産調査をすることができます。

相続人間でトラブルに発展していて交渉、調停、裁判が必要な場合、弁護士がおすすめです。

弁護士に依頼した場合、費用が高くなる傾向があります。

③相続税申告が必要なら税理士

税理士は、税務申告の専門家です。

相続財産の規模が一定以上ある場合、相続税申告が必要です。

税理士は、相続税申告のため相続財産調査をすることができます。

税理士に依頼した場合、費用が高くなる傾向があります。

5財産調査を司法書士に依頼するメリット

もれなく迅速に相続財産を調査するのは、身体的にも精神的にも大きな負担になります。

相続財産調査を司法書士などの専門家に依頼すれば、家族の疲れも軽減されるでしょう。

被相続人の財産は、相続人もあまり詳しく知らないという例が意外と多いものです。

悲しみの中で被相続人の築いてきた財産をたどるのは切なく、苦しい作業になります。

相続財産調査で疲れが出る前に、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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