相続人が認知症

1相続財産の分け方

①遺言書のとおり分ける

被相続人が生前遺言書を作成している場合があります。

相続財産の分け方について、遺言書に記載があればそのとおりに分けることができます。

遺言書で、遺言執行者を指名することができます。

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する人です。

遺言執行者がいれば、わずらわしい相続手続をすべてお任せすることができます。

②遺産分割協議で分け方を決める

相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。

相続財産の分け方を相続人全員の合意で決めることができます。

相続財産の分け方を決めるためには、相続人全員の合意が不可欠です。

相続人のうち一人でも反対したら、遺産分割協議は無効になります。

相続人のうち一人でも合意していない人がいたら、遺産分割協議は無効になります。

③法定相続に従って分ける

相続が発生した場合、一定の範囲の人が相続人になります。

だれが相続人になるのかは、法律で決められています。

それぞれの相続人が相続する相続割合も、法律で決められています。

法律の定めに基づいて、法律の定めどおりの相続分を相続することができます。

法律の定めどおりの相続分を相続する方法を法定相続と言います。

法律の定めに従うだけだから、相続人の関与は不要です。

2認知症の人は法律行為ができない

①認知症の人は遺産分割協議ができない

認知症になると物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなったり、記憶があいまいになったりします。

物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、法律行為をすることはできません。

相続財産の分け方の合意は、法律行為です。

物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、相続財産の分け方について有効な合意をすることはできません。

相続財産の分け方を決めるためには、相続人全員の合意が不可欠だからです。

認知症だからと言って、一部の相続人を含めないで合意をしても無効になります。

遺産分割協議が無効だから、相続手続を進めることはできません。

②認知症の人は相続放棄ができない

相続財産の分け方について有効な合意ができないのであれば、相続放棄をすればいいと考えるかもしれません。

認知症になると物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなったり、記憶があいまいになったりします。

相続放棄をする場合、家庭裁判所に相続放棄をする申立てをします。

物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、有効に相続放棄の申立てをすることはできません。

認知症になったら、自分で相続放棄の申立てをすることはできなくなります。

③子どもなどは代理できない

認知症で物事のメリットデメリットを充分に判断できないのなら、子どもなどが代わりに判断すればいいという考えもあるでしょう。

幼い子どもは物事のメリットデメリットを充分に判断できないので、親などの法定代理人が代わりに、契約などの法律行為をすることができます。

幼い子どもの代わりに、親などの法定代理人が法律行為ができるのは、未成年だからです。

認知症になっている人は、未成年ではないでしょう。

だから、子どもなどが勝手に合意をすることはできないのです。

3認知症の人は成年後見人が代理で相続手続をする

①成年後見人とは

認知症になったら物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなります。

成年後見制度はひとりで決めることが心配になった人をサポートするための制度です。

本人が物事のメリットデメリットが充分に判断できなくなった後、法律行為をする必要があることがあります。

成年後見人は、本人を代理して物事のメリットデメリットを判断し、本人のために法律行為をします。

遺産分割協議は法律行為だから、認知症の人を代理して成年後見人が遺産分割協議に参加します。

②成年後見開始の申立て

成年後見人は、ひとりで決めることが心配になった人をサポートする人です。

サポートする人を選んでもらうことを、成年後見開始の申立てと言います。

成年後見開始の申立ては、法定後見の申立てのことです。

成年後見開始の申立てをする先の家庭裁判所は、本人の住民票の住所地を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所の管轄は裁判所のホームページで調べることができます。

成年後見開始の申立てができるのは次の人です。

(1)本人

(2)配偶者

(3)4親等内の親族

(4)未成年後見人

(5)未成年後見監督人

(6)保佐人

(7)保佐監督人

(8)補助人

(9)補助監督人

(10)検察官

(11)任意後見人

(12)任意後見監督人

(13)任意後見受任者

次の人は成年後見人になれません。

(1)未成年者

(2)後見人を解任されたことのある人

(3)破産者で復権していない人

(4)本人に訴訟をした人と訴訟をした人の配偶者、直系血族

(5)行方不明の人

成年後見開始の申立てに添付する書類は以下のとおりです。

(1)本人の戸籍謄本

(2)本人の住民票か戸籍の附票

(3)成年後見人の候補者の住民票か戸籍の附票

(4)本人の診断書

(5)本人情報シート

(6)本人の健康状態に関する資料

(7)本人に成年後見等の登記がされていないことの証明書

(8)本人の財産に関する資料

(9)本人の収支に関する資料

基本的には(1)~(9)の書類を添えて申立てをすれば充分ですが、場合に応じてこの他のものが必要になることもあります。

申立ては直接、出向いて提出してもいいし、郵便で送っても差し支えありません。

申立ての書き方や提出書類が心配な方は、出向いて裁判所の受付で目を通してもらうと安心です。

成年後見開始の申立てをしてから選任されるまでは、おおむね3~4か月ほどです。

③成年後見人が代理をできない場合がある

成年後見人は、本人を代理して物事のメリットデメリットを判断し、本人のために法律行為をする人です。

成年後見人であっても、本人を代理できない場合があります。

一方がトクをすると他方がソンをする場合です。

成年後見人がトクをすると本人がソンをする場合、本人を代理することができません。

一方がトクをすると他方がソンをする場合を利益相反と言います。

家族が成年後見人に選ばれた場合、本人の子どもなど本人と近い関係の場合がほとんどです。

本人が相続人になる場合、成年後見人も相続人になることがあります。

通常は、成年後見人は法定代理人ですから、本人のために代わりに契約などの法律行為ができます。

しかし、本人と成年後見人が相続人になった場合、一方がトクをすると、他方がソンをする関係になります。

利益相反になる場合、成年後見人は本人を代理することができません。

利益相反になるかどうかは客観的に判断されます。

本人も、成年後見人も相続人である場合、どんな分け方をしていても利益相反になります。

このような場合、家庭裁判所に本人の代理の人を決めてもらいます。

家庭裁判所に代理人を決めてもらうことを特別代理人選任の申立てと言います。

特別代理人が本人を代理して、遺産分割協議をします。

④成年後見人は家族以外が8割

多くの方は、本人の財産管理について、外部の人にあれこれ言われたくないと思うでしょう。

成年後見人を選任するのは家庭裁判所です。

成年後見開始の申立の際に、成年後見人の候補者を立てることはできますが、家庭裁判所が候補者を選任することも候補者を選任しないこともあります。

家族以外の専門家が成年後見人に選任されるのはおおむね8割くらいです。

家族の中でトラブルがあったり、多額の財産がある場合は、家族が成年後見人に選任されることは少ないです。

選ばれた人が家族でないからとか、意見の合わない人だからなどの理由で、家庭裁判所に不服を言うことはできません。

選ばれた人が家族でないからなどの理由で、成年後見開始の申立を取り下げることはできません。

成年後見開始の申立を取り下げる場合、家庭裁判所の審査中であっても、家庭裁判所の許可が必要です。

⑤成年後見人が解任されても成年後見をやめることはできない

成年後見人を選任するのは家庭裁判所です。

家庭裁判所が選んだ人に不服を言うことはできません。

選んだ後も、意見の合わない人だから、とか家族ではないからなどの理由で、成年後見人を解任することはできません。

横領をしたなど相当の理由があると家庭裁判所が認めた場合に限り、家庭裁判所が解任します。

成年後見人が解任されたとしても、成年後見制度をやめることはできません。

本人が死亡するまで、成年後見制度をやめることはできません。

⑥家族以外が成年後見人になったら報酬が発生する

まったく知らない専門家が後見人に選ばれた場合、本人の財産からその人に報酬を払う必要があります。

家族が成年後見人に選ばれた場合、多くは報酬を辞退するでしょう。

報酬を辞退しても、後見事務の負担が軽くなるわけではありません。

4成年後見人をつけたくないのなら法定相続

①共有すると不動産の利活用ができない

法定相続とは、相続人全員が法律の定めどおりの相続分で相続する方法です。

相続人全員が法定相続分で相続するから、成年後見人の判断を必要としません。

不動産を法定相続分で相続した場合、相続人全員で共有することになります。

共有物を売却する場合や賃貸する場合、共有者全員の合意が必要になります。

共有者に認知症の人がいる場合、売却や賃貸ができなくなります。

認知症の人は、物事のメリットデメリットを充分に判断することができないからです。

相続手続ができても、資産を利活用ができなくなります。

②預貯金は法定相続ができない

預貯金の払戻や解約をする場合、遺産分割協議が必要になります。

不動産のように共有することができないからです。

(1)150万円

(2)その銀行の預貯金額×3分の1×法定相続分

(1)(2)のうちどちらか低い額までなら、遺産分割協議をせずに預貯金の払戻ができる制度があります。

5遺言書があれば遺産分割協議は不要

①家族の仲が良くても遺言書の作成がおすすめ

遺言書の作成というと、相続でもめないために作るというイメージがあるかもしれません。

うちは家族仲がいいから遺言書は作らなくていいという人は少なくありません。

家族仲良くしていても、認知症になると相続手続は難航します。

遺産分割協議をするために、成年後見を利用しなければならなくなるからです。

遺言書があれば遺産分割協議を回避できるから、家族に苦労をかけなくて済みます。

②遺言書は書き直しができる

遺言書は、何度でも書き直しができます。

家族が認知症になると相続手続は難航します。

保険をかけるつもりで遺言書作成しておくことをおすすめします。

③元気なうちに遺言書作成

遺産分割協議を回避するため遺言書を作成する場合、遺言者が元気なうちに作成することが重要です。

遺言者が認知症になっていたら、遺言書が無効であると判断されるかもしれないからです。

物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態で、有効な遺言書を作成することはできません。

高齢で物忘れがある人が遺言書を作成する場合、医師に診断書を書いてもらっておくといいでしょう。

6認知症の相続人がいる相続を司法書士に依頼するメリット

相続が発生した後、相続手続を進めたいのに認知症の相続人がいて困っている人はたくさんいます。

認知症の人がいるとお世話をしている家族は家を空けられません。

このうえ、家庭裁判所に成年後見開始の申立や特別代理人の申立をするなど、法律の知識のない相続人にとって高いハードルとなります。

信託銀行などは、高額な手数料で相続手続を代行しています。

被相続人が生前、相続人のためを思って、高額な費用を払っておいても、信託銀行はこのような手間のかかる手続きは知識のない遺族に丸投げします。

知識のない相続人が困らないように高額でも費用を払ってくれたはずなのに、これでは意味がありません。

税金の専門家なども対応できず、困っている遺族はどうしていいか分からないまま途方に暮れてしまいます。

裁判所に提出する書類作成は司法書士の専門分野です。

途方に暮れた相続人をサポートして相続手続を進めることができます。

自分たちでやってみて挫折した方も、信託銀行などから丸投げされた方も、相続手続で不安がある方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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