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1家族信託とは
所有者はものを自由に売ったり、自由に管理したりして、ものから利益を受け取ることができます。
だから、所有権は、自由にものを売る権利であるし、自由に管理する権利であるし、ものから利益を受け取る権利であるといえます。
所有権はよく見ると、たくさんの権利の集合体といえます。
たくさんの権利の集合体である所有権から、自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡して、自分はものから利益を受け取る権利だけ持っていることができます。
自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡して、自分はものから利益を受け取る権利だけ持つ仕組みを家族のための信託といいます。
この仕組みを利用すると、信頼できる家族は自由にものを売ることができるし、自由に管理することができます。
自由に売る権利や自由に管理する権利を渡す相手は信頼できる家族であればよく、親子でなくても差し支えありません。
2家族信託のメリット
①本人が認知症になっても資産凍結がされない
平均寿命は男性も女性も80歳を超して、認知症になる方が多くなりました。
認知症になると、記憶があいまいになったり、物事のメリットデメリットを適切に判断することができなくなります
自分の財産を管理したり処分したりすることができなくなります。
自分の不動産を売却したり、定期預金を解約したり、預貯金を引き出したりできなくなります。
認知症になったら「老人ホームに入るから自宅を売る」ことはできなくなるのです。
親が認知症などで財産管理ができないのであれば、子どもなどが代わりに管理すればいいと考えるかもしれません。
幼児の銀行口座から、親が引き出しをすることができます。
子どもなどが代わりに、親の銀行口座から引き出しをすることは原則として認められません。
親が幼児の口座管理をすることができるのは、幼児が未成年だからです。
認知症になった親は、未成年ではないでしょう。
だから、子どもなどが代わりに財産管理をすることはできないのです。
財産管理をすることができるのは、財産の持ち主本人だけです。
家族信託を活用すれば、自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡しておくことができます。
本人が認知症で判断能力が低下しても、財産を活用することができます。
「認知症になったら老人ホームに入るから自宅を売ってね」を実現できます。
②不動産共有のトラブルを回避できる
親から受け継いだ収益不動産を兄弟で共有することは多くあります。
長い時間が経過して兄弟が高齢者になるとやはり認知症のリスクがあります。
例えば、3人兄弟で共有していれば、だれか1人が認知症になる確率は3倍になるでしょう。
判断能力が低下すると、賃貸借契約の締結や解除ができなくなります。
収益不動産は自宅とは違い、建て替えや大規模な修繕が必要になったり、賃貸借契約の締結や解除があります。
認知症によるリスクは何としても避けなければなりません。
ここでも、共有者全員が自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡してあれば、修繕や賃貸借契約に困ることを回避できます。
③財産から利益を受け取る人を先々まで決めることができる
遺言書で財産の受取人を指定できるのは、次の人のみです。
財産を受け取った人が次にだれに受け継がせるかは受け取った人が決めます。
遺言書で次の次にだれに受け継いでもらうかを決めることはできません。
次に受け継いだ人に、次の次に受け継いでもらう人に相続や遺贈をしてもらう旨の遺言書を書いてもらえばいいと考えることもできます。
しかし、次に受け継いだ人が遺言書を書くかどうかは、その人次第です。
遺言書を書いてくれたとしても、後から書き換えることも、撤回することもできます。
遺言書は何度でも書き直しができるし、何度でも撤回ができます。
書き直しや撤回はしませんという約束は無効です。
家族信託の仕組みを使うと、次の人を決めたうえで、次の次の人を決めておくことができます。
受け継ぐ人を決めてあるので現実に相続が発生したときに、トラブルになりにくいです。
④積極的な資産運用ができる
認知症になってしまった後、成年後見をするしか選択肢がありません。
成年後見は、本人の財産を守ることに重点が置かれているので、財産を減らすおそれがあることはできません。
収益不動産を所有している場合、将来に向けて建て替えなどや収益物件の組み換えなど大きな投資が必要になることもあるでしょう。
成年後見では、大規模な出費は本人の財産を減らす行為と判断して許可をしない可能性があります。
この点、家族信託では財産処分や管理の方向性を定めて、その範囲であれば信頼する家族に自由に資産運用をしてもらうことができます。
このような投資は成年後見ではできないことです。
⑤事務負担と費用負担が少ない
成年後見では、定期的に家庭裁判所に報告をしなければなりません。
報告の内容が不十分である場合、やり直しを求められます。
今まで、家族の中で細かく収支報告をすることがなかったでしょう。
家庭裁判所に対する報告の事務負担は今までの家事の延長と比べると、想像以上に重いものです。
事務仕事は苦手とか、今まで細かくやってなかったなど理由になりません。
不十分な報告であると、家庭裁判所から調査があったり、成年後見人を解任されることもあります。
家族で事務負担ができなければ、司法書士などの専門家に依頼することになります。
成年後見人が家族以外の専門家である場合、報酬がかかります。
成年後見は、原則として、本人が死亡するまで終了しません。
報酬は1か月2~5万円ほどですが、本人が死亡するまでかかり続ける費用です。
長い目で見ると大きな出費になるでしょう。
家族信託では信託契約をする際に高額な費用がかかりますが、全体ではリーズナブルになることが多いです。
⑥家族の事情に応じて柔軟な設計ができる
家族信託では財産処分や管理の方向性を定めて、その範囲であれば信頼する家族に自由に資産運用をしてもらうことができます。
財産処分や管理の方向性をどう決めるか、範囲をどのように設計するか、家族の個別の事情を考慮することができます。
家族の事情や本人の気持ちに寄り添って決めることで、柔軟な設計をすることができます。
一方、信託銀行などでも、家族信託の名前の金融商品を販売しています。
通常であれば本人が信頼する家族が、自由に売る権利や自由に管理する権利を渡してもらうのですが、信頼する家族でなく信託銀行に渡してもらうものです。
信託銀行は信頼する家族ではありませんから、家族の事情や本人の気持ちに寄り添うことは難しいでしょう。
信託銀行などに預けることができるものは原則として現金のみで、かつ、最低預入額はおおむね500万円以上です。
さらに、不動産を自由に売る権利や自由に管理する権利を渡すことはできません。
あらかじめ決められた商品を利用するか、利用しないかになります。
家族のニーズや本人の気持ちに合致するのであれば、利用してもいいでしょう。
⑦資産から受け取る利益は本人のもの
生前贈与と違い、財産から受け取る利益は本人のものにできます。
信託すると家族の名義になりますから、財産を取られたと誤解する人もいますが、信託であることも同時に登記されますから安心です。
3家族信託を司法書士に依頼するメリット
高齢化社会が到来したといわれて、多くの方は長生きになりました。
平均寿命は男性も女性も80歳を超して、認知症になる方が多くなりました。
認知症になると、物事のメリットデメリットが充分に判断できなくなります
本人の財産は本人しか処分できないため、本人が判断できなくなると資産が凍結されてしまいます。
たとえ、本人が介護施設入所のためであっても、本人の不動産を勝手に売却することはできません。
たとえ、本人の実の子どもであっても、本人の定期預金を解約することはできません。
一部の金融機関では、本人以外の家族がキャッシュカードを使っていることを確認したら、キャッシュカードを回収しています。
本人の意思確認を重視する流れは、他の金融機関にも広がっていくでしょう。
認知症対策は、本人の判断能力がしっかりしているうちしかできません。
いつか認知症対策をしようではなく、今なら元気だから対策しようが正解です。
認知症になると、本人はもとより家族も困ります。
家族信託は認知症対策として有効です。
自分のためにも家族のためにも認知症対策を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。