遺産分割協議書-まずは協議

1 遺産分割協議とは

相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。

相続人のひとりが勝手に処分することはできません。

相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意をして、分け方を決める必要があります。

相続財産の分け方について、相続人全員でする話し合いのことを遺産分割協議と言います。

遺産分割協議は、必ず、全員で合意する必要がありますが、全員が一つの場所に集まる必要はありません。

電話でもメールでも差し支えありません。

一度に全員合意する必要もありません。

一部の相続人と合意をして、次に、残りの相続人と合意をすることでも問題ありません。

最終的に相続人全員が合意できれば良いのです。

全ての財産をまとめて合意しなければならないといったこともありません。

一部の財産についてだけ合意をすることもできます。

2 相続財産の分け方

相続財産にはいろいろな財産が含まれています。

不動産のように分けにくい財産もあるし、金銭のように分けやすい財産もあります。

相続財産の大部分が、不動産のような分けにくい財産で場合、相続財産の分け方についての合意が難しくなるでしょう。

不動産のように分けにくい財産をどう分けるか、その方法をご紹介します。

お話合いがまとまるのであれば、2つ以上の方法を併用することもできます。

① 現物分割

広大な土地などを相続人の人数で分割して、相続する方法です。

広大な土地でないと実現しにくい方法です。

もともと広大な土地であればいいのですが、極端に小さい土地になると使い勝手が悪くなりますから価値が下がってしまいます。

あまり現実的ではありません。

② 代償分割

一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分のお金をもらう方法です。

土地を分割するわけではないので、極端に小さな土地になって価値が下がる心配はありません。

不動産を相続する相続人が残りの相続人に払うお金を用意する必要があります。

相続財産の大部分が不動産で、かつ、値段の高い不動産だった場合、残りの相続人に払うお金が用意できない場合があります。

不動産の値段をいくらと考えてお金を払うことにするのか、相続人のうちだれが現実に不動産を相続することにするのかで、話し合いがまとまらないおそれがあります。

③ 換価分割

不動産を売却してお金に換えた後、お金を分ける方法です。

実際に売れてからお金で分けるので、不動産の値段をいくらと考えるか、だれが実際に不動産を相続するのかで話し合いがまとまらないという心配はありません。

せっかく家族が守ってきた不動産を手放すことへの罪悪感にかられて、話し合いがまとまらないおそれがあります。

売却しようとしたのに買い手がつかないと相続手続きが長引くおそれがあります。

④ 共有

相続人全員で共有する方法です。

相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意ができない場合、最も公平に見えることから、共有が選ばれることもあります。

共有は弊害が多く、安易に共有にする方法はもっとも避けるべきです。

共有にした場合、全員の同意がなければ売却することはできません。

共有者が死亡したら、相続が発生して関係者が増えることが予想されます。

関係者が多くなればなるほど、権利関係が複雑になります。

後々、共有物分割をしようという話になりますから、結局のところ問題の先送りになるだけです。

相続トラブルが長期化しますから、家族の絆が壊されてしまいます。

⑤ 用益権の設定による分割

用益権とは、不動産を自分で使ったり、人に貸して賃料を得たりする権利のことです。

一部の相続人に使う権利を設定して、他の相続人が使う権利のない所有権を相続する方法です。

家族が守ってきた不動産を手放すことなく相続ができます。

相続人のうち、だれが使う権利を得るのかで、使う権利のない所有権をだれが相続するのかで話し合いがまとまらないおそれがあります。

3 相続人本人が話し合いできない場合

相続財産は、相続人全員で、話し合いによる合意で、分け方を決める必要があります。

相続人で合意をしても、相続人全員の合意でない場合、無効になります。

一部の相続人を含めない遺産分割協議はやり直しになってしまいます。

相続人には、赤ちゃんや認知症の人や行方不明の人が含まれていることがあります。

このような相続人も相続人ですから、合意がないと遺産分割協議は無効になります。

行方不明の人は連絡が取れないので、本人と合意をすることは難しいでしょう。

赤ちゃんや認知症の人は物事のメリットデメリットを充分に判断できないので、本人が有効な合意をすることはできません。

このような場合、家庭裁判所にお願いして、代わりの人を選んでもらいます。

家庭裁判所が選んだ代わりの人とお話合いをして、分け方の合意をします。

合意を文書に取りまとめる場合も、代わりの人が記名押印します。

① 行方不明の場合

相続人調査をすると見ず知らずの相続人が判明することがあります。

戸籍の附票を確認しても、そこに住んでいない場合もあるし、住民票が消されている場合もあります。

  1. 不在者財産管理人選任の申立
    家庭裁判所に行方不明の相続人の代わりの人を決めてもらいます。
    家庭裁判所に行方不明の相続人の代理の人を決めてもらうことを不在者財産管理人選任の申立と言います。
    相続人に行方不明の相続人がいる場合、不在者財産管理人が代わりに合意します。
  2. 失踪宣告の申立
    長期間、行方不明になっている人の中には死亡している可能性が高い人もいます。
    このような場合、条件を満たせば失踪宣告の申立をすることができます。
    失踪宣告とは、行方不明の人が死亡した取り扱いとする手続です。
    失踪宣告がされたら、たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをしますから、行方不明の人を含めず、遺産分割協議をすることができます。
    失踪宣告がされた人に子どもがいたら、子どもが相続人になりますから子どもと遺産分割協議をします。

② 赤ちゃんなど未成年者の場合

通常、未成年者が契約などの法律行為をする場合、親などの法定代理人が代わりに法律行為をすることができます。

相続財産の分け方の合意も法律行為なので、原則として、親などの法定代理人が代わりに合意することができます。

未成年者が相続人になる場合、親などの法定代理人も同じく相続人になることがあります。

未成年者と親などの法定代理人が相続人になる場合、親などの法定代理人は未成年者を代理できません。

親がトクすると、子どもがソンするからです。

このような親がトクすると子どもがソンする場合を利益相反する場合と言います。

利益相反する場合、子どもの利益を守るため、親などの法定代理人は子どもを代理できません。

親などの法定代理人が子どもを代理できない場合、家庭裁判所に子どもの代わりの人を決めてもらいます。

家庭裁判所に子どもの代理の人を決めてもらうことを特別代理人選任の申立と言います。

相続人に赤ちゃんなどの未成年者が含まれている場合、原則として、親などの法定代理人が代わりに合意します。

親などの法定代理人が未成年者の代理ができない場合、特別代理人が代わりに合意します。

③ 認知症になっている場合

認知症になると物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなったり、記憶があいまいになったりします。

物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、相続財産の分け方について、有効な合意をすることは難しいでしょう。

認知症で物事のメリットデメリットを充分に判断できないのなら、子どもなどが代わりに判断すればいいと考えるかもしれません。

幼い子どもの代わりに、親などの法定代理人が法律行為ができるのは、未成年だからです。

認知症になっている人は、未成年ではないでしょう。

だから、子どもなどが勝手に合意をすることはできません。

認知症で物事のメリットデメリットを充分に判断できない人が、契約や遺産分割協議をする場合は、後見人に代理してやってもらいます。

家庭裁判所に代理人を決めてもらうことを後見の申立と言います。

相続財産の分け方についても、後見人が代わりに合意します。

後見人は家庭裁判所が決めますが、認知症になった人の家族の人を後見人に選任する場合があります。

家族が後見人である場合、認知症になった人と後見人が相続人になることがあり得ます。

認知症になった人と後見人が相続人になった場合、一方がトクをすると、他方がソンをする関係になります。

このような一方がトクをすると他方がソンをする場合のことを利益相反する場合と言います。

利益相反する場合、後見人は本人を代理できません。

このような場合、さらに家庭裁判所に本人の代理の人を決めてもらいます。

家庭裁判所に代理人を決めてもらうことを特別代理人選任の申立と言います。

相続人に認知症の人が含まれている場合、原則として、後見人が代わりに合意します。

後見人が認知症の相続人の代理ができない場合、特別代理人が代わりに合意します。

4 遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット

遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。

前提として、話し合いによる合意ができていなければ、文書にできません。

銀行などの金融機関から遺産分割協議書を提出するように言われて、とにかく書きたいという方もいます。

遺産分割協議書があるとトラブル防止になりますが、相続人全員の合意があり、合意を取りまとめているからです。

有効な合意を文書にしているから、後々のトラブルを防止できるのです。

相続人全員が有効な合意をしていない場合、かえってトラブルになってしまいます。

相続人に行方不明の人や未成年者や認知症の人がいる場合、信託銀行などは対応できなくて家族に丸投げします。

家庭裁判所に手続きが必要になると、相続手続の専門家と称している税理士なども対応できません。

司法書士は裁判所に提出する書類作成の専門家です。

このような複雑な相続においても対応しています。

適切な遺産分割協議書を作り、家族のトラブルを避けたい方は、司法書士などの専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

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