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生前贈与を受けても相続放棄
1生前贈与を受けていても相続放棄ができる
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
被相続人に多額の借金がある場合、相続放棄を考えるといいでしょう。
相続放棄は、家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の届出をします。
この届出は相続があったことを知ってから、原則として、3か月以内にする必要があります。
相続があったことを知ってから、なので、被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。
被相続人は生前に贈与することができます。
贈与は財産を譲ってあげる人と譲ってもらう人の契約です。
贈与契約は書面を作成しても口頭でも有効です。
家庭裁判所に届出が必要になることもありません。
相続放棄と生前贈与はまったく関係ない制度です。
原則として、相続放棄をしたからと言って生前贈与に影響を与えることはありません。
生前贈与で財産を受け取って後で、相続放棄をすることができます。
2詐害行為とは
お金を借りた人は、借りたお金を返さなければなりません。
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくなることがあります。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
お金を返してもらうため、お金を貸した人は詐害行為を取り消すことができます。
詐害行為として取り消すことができるのは、財産行為のみです。
お金を返さなければならないのに、自分の財産の大部分を贈与した場合、お金を返せなくなるでしょう。
自分の財産の大部分を贈与した場合、お金を返せなくなって、お金を貸した人が困るのは知っていると言えます。
このような贈与は、合法であっても、詐害行為にあたります。
お金を貸した人は、詐害行為を取り消すことができます。
3生前贈与は詐害行為で取り消すことができる
原則として、生前贈与を受けた場合であっても、相続放棄をすることができます。
被相続人の財産がわずかなプラスの財産と莫大なマイナスの財産ということがあります。
この状況で、わずかなプラスの財産を相続人に生前贈与することがあります。
わずかなプラスの財産と莫大なマイナスの財産の場合、贈与契約はできないというルールはありません。
財産を譲ってあげる人と譲ってもらう人の契約で贈与をすることができます。
おそらく、被相続人と相続人が相談してこのような契約をしたのでしょう。
この後、被相続人が死亡した場合、相続人は相続放棄をすることができます。
原則どおりでは、相続放棄をしているから、相続人は莫大なマイナスの財産を受け継ぐことはありません。
原則どおりでは、遺贈は相続放棄と別物だから、わずかなプラスの財産を受け取ることができるとなってしまいます。
このようなことが許されると、債権者にとってあまりに理不尽です。
債権者は、裁判所に訴えて、理不尽な生前贈与の取り消しを請求することができます。
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくしているからです。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
理不尽な遺贈として裁判所に認められれば、詐害行為は取り消すことができます。
適切な遺言書によってされた遺贈であっても、理不尽な遺贈は詐害行為にあたります。
4相続放棄は詐害行為で取消ができない
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
被相続人の財産は、プラスの財産もマイナスの財産も相続財産です。
被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡した場合、お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうとするでしょう。
相続人は被相続人の借金を引き継がないために、相続放棄をすることが考えられます。
お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、請求できなくなって困ります。
お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。
このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。
相続放棄をしても、自己の財産を不当に減らしたわけではありません。
お金を貸す人は、お金を借りた人が生前に自己破産するリスクを検討してお金を貸すか貸さないか決めているはずです。
お金を借りた人が死亡した後、相続人が相続放棄するリスクも検討してお金を貸すか貸さないか決めべきと言えます。
相続放棄は、被相続人の借金から免れるためにある制度です。
お金を貸す人が負うべきリスクを相続人に押し付けると、相続人の人生が破綻します。
相続放棄の制度は、相続人の人生を守るために存在します。
被相続人の借金から免れるために相続放棄をしたのに、相続放棄を取り消せるとなったら、制度の存在意義がなくなります。
そもそも、相続放棄は身分行為であって、財産行為ではありません。
身分行為とは、結婚、離婚、子の認知、養子縁組、養子の離縁といった行為のことです。
身分行為は他人から強制されるものではありません。
被相続人の借金から免れるために相続放棄をしたのに、相続放棄を取り消せるとなったら、事実上、相続放棄はできなくなります。
相続放棄ができないことが、強制されてしまいます。
身分行為は、強制されるものではありません。
相続放棄は詐害行為ではないから、お金を貸した人がとやかく言うことはできないのです。
5生前贈与は遺留分を侵害するおそれがある
被相続人は、原則として、自分の財産をどのように使うかは自由に決めることができます。
とはいえ、財産は被相続人が1人で築いたものではなく、家族の協力があって築くことができたもののはずです。
被相続人の名義になっているからといって、まったく無制約の自由にすると今まで協力してきた家族に酷な結果となることもあります。
このため、被相続人に近い関係の相続人には相続財産に対して最低限の権利が認められています。
相続財産に対して、認められる最低限の権利のことを遺留分と言います。
財産の状況によっては、生前贈与によって他の相続人の遺留分を侵害してしまうことがあります。
遺留分を侵害された相続人は、遺留分額侵害額請求をすることができます。
6生前贈与後に相続放棄をした場合、税金に注意
相続放棄をした相続人は、相続財産を受け取ることはできません。
相続税は相続財産を受け取った場合に課されるものだから、原則として、相続税が課されることはありません。
①相続開始前3年以内の生前贈与は相続税の対象
被相続人の死亡前3年以内に多額の財産を受け取っていた場合、相続税が課されます。
相続開始前3年以内の生前贈与と他の相続人が受け取った相続財産の合計額が、基礎控除を超した場合、相続税の対象になります。
基礎控除を計算する場合は、相続放棄をした人も計算に含めることができます。
②相続時精算課税制度の適用を受けていた場合
相続時精算課税制度とは、子どもや孫に生前贈与する場合、最大2500万円まで贈与税がかからないとする制度です。
贈与税がかからなかった財産は、相続時に相続税評価をして相続税がかかります。
生前贈与を受けた人が相続放棄をしても、相続税がかかります。
相続時精算課税制度を使って生前贈与を受けた財産との相続人が受け取った相続財産の合計額が、基礎控除を超した場合、相続税の対象になります。
相続時精算課税制度の適用を受けるためには、税務署に特別の申請書を提出する必要があります。
税務署は相続税の申告義務があることを当然に把握しています。
相続時精算課税制度の適用を受けて生前贈与を受けた場合、忘れずに相続税の申告の有無を確認しましょう。
そもそも相続税申告が必要な人は、全体の10%未満のわずかな人です。
申告が必要なだけで相続税がかからないケースもたくさんあります。
7相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
相続放棄をする場合、相続問題だけでなく、被相続人や相続人の借金の問題が隠れている場合が多いです。
このような複雑な事情がある場合、相続人だけでなく債権者を巻き込んでトラブルになりがちです。
あいまいな知識では、余計トラブルが大きくなります。
相続放棄を考えている人は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
子どもが相続放棄すると孫は代襲相続をしない
1相続人になる人とは
相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になる人は次のとおりです。
①配偶者は必ず相続人になる
②被相続人に子どもがいる場合、子ども
③被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
④被相続人に子どももいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
相続人になるはずだった人が被相続人より先に死亡したため、相続人になるはずだった人の子どもや子どもの子どもが相続することがあります。
これを代襲相続と言います。
相続人になるはずだった人の子どもの子どもが相続することを再代襲相続と言います。
代襲相続ができるのは、相続人になるはずだった人の子どもなど被代襲者の直系卑属だけです。
相続人になるはずだった人を被代襲者と言います。
被代襲者の子どもなど被代襲者の直系卑属以外は代襲相続ができません。
被代襲者の配偶者も、被代襲者の親などの直系尊属も、被代襲者の兄弟姉妹も、代襲相続ができません。
2代襲相続になる原因
①相続人が死亡したら代襲相続する
相続人になるはずだった人が被相続人より先に死亡した場合です。
実際に死亡した場合の他に、失踪宣告を受けて死亡したものと扱われる場合も、代襲相続が発生します。
被相続人の死亡後、相続手続の途中で相続人が死亡した場合には、数次相続になります。
相続が発生したときに相続人が健在であれば、その後死亡しても代襲相続にはなりません。
②相続人が欠格になったら代襲相続する
欠格とは、相続人としてふさわしくない人の相続資格を奪う制度のことです。
欠格になる理由は法律で定められています。
主な理由は、被相続人を殺害したり、殺害しようとしたり、遺言書を偽造したり、遺言書を隠したりしたなどです。
法律で決められた理由があれば、家庭裁判所などの手続はなく、当然に、相続資格を失います。
相続人が相続欠格になる場合、代襲相続ができます。
③相続人が廃除されたら代襲相続する
相続人廃除とは、被相続人の意思で、相続人の資格を奪う制度のことです。
例えば、被相続人に虐待をした人に、相続をさせたくないと考えるのは自然なことでしょう。
相続人廃除は家庭裁判所に申立をして、家庭裁判所が判断します。
被相続人が相続人廃除したいと言い、相続人が廃除されていいと納得していても、家庭裁判所が相続人廃除を認めないことがあります。
相続人が相続人廃除になる場合、代襲相続ができます。
3子どもが相続放棄をしても子どもの子どもは相続しない
被相続人の子どもが相続放棄をした場合、子どもの子どもは相続しません。
子どもが相続放棄をした場合、代襲相続が発生しないからです。
被相続人の子どもが相続放棄をした場合、はじめから相続人でなかったとみなされます。
相続人でなくなるから、代襲相続もあり得ません。
被相続人の借金から逃れるために相続放棄をした場合、代襲相続がされないので安心です。
被相続人の子ども全員が相続放棄をした場合、子どもがいない場合になります。
子どもがいない場合、親などの直系尊属が相続します。
4被相続人の親が死亡した場合、代襲相続ができる
被相続人が死亡したときに、被相続人の親が健在の場合があります。
被相続人に子どもがいる場合、子どもが相続人になります。
子どもが被相続人を相続したくない場合、相続放棄の手続をします。
相続放棄の手続は、相続ごとにしなければなりません。
相続放棄の効力は、他の相続には及びません。
今回の相続で子ども全員が相続放棄をした場合、子どもはいないものと見なされます。
子どもがいない場合、親などの直系尊属が相続人になります。
今回相続人になった親などの直系尊属が死亡した場合、最初の被相続人の子どもは代襲相続人になります。
最初の被相続人は、親などの直系尊属の子どもになるからです。
子どもが先に死亡している場合、子どもの子どもが代襲相続人になります。
最初の相続で相続放棄をしたことは、親などの直系尊属の相続では関係ありません。
親などの直系尊属の相続で、単純承認をすることも相続放棄をすることもできます。
親などの直系尊属の相続で相続放棄を希望する場合、あらためて、相続放棄の申立てをしなければなりません。
5被相続人が孫と養子縁組をしていたら
①養子は相続人になる
被相続人に子どもがいる場合、子どもは相続人になります。
相続人になる子どもとは、血縁関係がある子どもだけではありません。
被相続人と養子縁組をした養子も、被相続人と血縁関係がある子どもで第三者と養子縁組をした子どもも相続人になります。
養子縁組をした養子と第三者と養子縁組をした子どもと血縁関係がある子どもは、同じ被相続人の子どもです。
被相続人が孫と養子縁組をした場合、養子は被相続人の子どもであり、子どもの子どもでもあります。
養子の親は、被相続人の血縁関係のある子どもだから相続人になります。
被相続人の子どもが相続放棄をした場合、子どもの子どもは相続しません。
被相続人の子どもが相続放棄をした場合でも、被相続人が孫と養子縁組をしていたら孫は相続人になります。
孫は、子どもの子どもの身分と養子の身分があるからです。
子どもの子どもとして相続人にはならないけど、養子として相続人になります。
②養子の親が死亡していた場合、養子は代襲相続人になる
被相続人が孫と養子縁組をした場合、養子は被相続人の子どもであり、子どもの子どもでもあります。
被相続人の子どもが被相続人の死亡する前に死亡した場合、子どもの子どもが代襲相続をします。
養子の親が被相続人の死亡する前に死亡した場合、養子が代襲相続をします。
被相続人の養子は、子どもの子どもでもあるからです。
被相続人の養子は、被相続人の子どもの地位と代襲相続人の地位があります。
③相続したくないのであれば養子は相続放棄が必要
被相続人と養子縁組をした養子は、被相続人の子どもです。
被相続人の子どもだから、相続人になります。
被相続人を相続したくないのであれば、相続放棄の申立てが必要です。
被相続人の子どもである養子の親が相続放棄をしている場合でも相続放棄をしていない場合でも必要です。
被相続人の養子は、相続人の地位があるからです。
④養子と代襲相続人である場合はまとめて相続放棄ができる
被相続人の子どもが被相続人の死亡する前に死亡した場合、子どもの子どもが代襲相続をします。
養子の親が被相続人の死亡する前に死亡した場合、養子が代襲相続をします。
被相続人の養子は、被相続人の子どもの地位と代襲相続人の地位があります。
被相続人を相続したくない場合、子どもの地位と代襲相続人の地位両方をまとめて相続放棄をすることができます。
⑤養子が未成年の場合は自分で相続手続ができない
未成年者は、物事のメリットデメリットを充分に判断することができません。
通常、契約などの法律行為をする場合、親などの親権者が代わりに手続をします。
被相続人が単独親権者である場合、家庭裁判所に未成年後見人を選んでもらう必要があります。
未成年後見人と未成年の養子が2人とも相続人になる場合、未成年後見人は未成年者を代理することができません。
一方がソンすると他方がトクする関係になるからです。
一方がソンすると他方がトクする関係のことを利益相反と言います。
利益相反になる場合、未成年後見人は未成年者を代理できません。
未成年後見人が未成年者を代理できない場合、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります。
特別代理人は、相続に利害関係がない親戚などが選ばれることが多いです。
特別代理人が未成年者の代わりに相続手続をします。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
実は、相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は慎重に判断する必要がありますが、いろいろな誤解から利用をためらう人が多いのも事実です。
利用をためらっていると3か月はあっという間です。
相続が発生すると、家族は親戚や知人へ連絡などで悲しみに浸る暇もないくらい忙しくなります。
3か月以内に必要書類を揃えて手続をするのは想像以上にハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
相続放棄なのに実印と印鑑証明書
1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は被相続人ごとに判断できますから、例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は相続人ごとに判断しますから、例えば、父の相続について長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2相続放棄申述書の押印は認印でいい
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の届出をします。
届出をする先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は裁判所のホームページで調べることができます。
相続放棄をしたい旨の届出の書類のことを、相続放棄申述書と言います。
相続放棄申述書は、相続放棄の届出をする人が押印をします。
実印で押印してももちろんいいのですが、押印は認印で充分です。
わざわざ実印である必要はありません。
認印でいいのだから、印鑑証明書が必要になることはありません。
朱肉を使う印章であれば、構いません。
相続放棄申述書に押印した印章がどれであったのか、覚えておきましょう。
家庭裁判所は、相続放棄の届出を受け付けた後、相続放棄照会書を送ってきます。
家庭裁判所から届く相続放棄照会書とは、相続放棄についての意思確認です。
相続放棄は、影響の大きい手続なので間違いがないように慎重に確認します。
相続放棄回答書の押印で使う印章は、相続放棄の届出に使った印象と同一印で押印します。
同一印で押印をすることで、相続放棄の届出をした人と同一人物が回答をしたと確認ができます。
3遺産分割協議で相続放棄はできない
相続放棄は、本来、家庭裁判所に対する手続です。
家庭裁判所に提出する書類には実印を押す必要はありません。
実印を押さないから、印鑑証明書を提出することもありません。
にもかかわらず、相続放棄の手続のため実印と印鑑証明書を用意して欲しいと他の相続人に言われたというケースがあります。
相続放棄のためと称していますが、相続放棄の手続のはずがありません。
相続放棄の手続は、相続放棄をする相続人が自分でするものだからです。
他の相続人が相続放棄の手続をするものではありません。
相続放棄の手続には、実印も印鑑証明書も不要です。
実印と印鑑証明書を渡して欲しいと言ってきた場合、別の手続をしようとしています。
具体的には、遺産分割協議と相続放棄を混同していると言えます。
自称専門家の場合、遺産分割協議と相続放棄を混同しているケースは度々あります。
他の相続人に対してプラスの財産を相続しないと宣言することを相続放棄と誤解しているケースでしょう。
プラスの財産を受け取らないことを相続放棄の手続と、表現しているのです。
相続財産の分け方は、相続人全員の話し合いによる合意が不可欠です。
話し合いがまとまったら、合意内容を文書に取りまとめます。
合意内容を取りまとめた文書を遺産分割協議書と言います。
相続人は遺産分割協議書の内容に間違いがないことを確認して、記名し実印で押印をします。
実印であることの証明として印鑑証明書を添付します。
他の相続人に対してプラスの財産を相続しないと宣言したのだから、遺産分割協議書に取りまとめたのでしょう。
遺産分割協議書に取りまとめた場合、記名し実印で押印をします。
遺産分割協議書だから印鑑証明書が必要になります。
相続放棄と遺産分割は、まったく別の効果の別の手続です。
4マイナスの財産は遺産分割協議は引き継ぐが、相続放棄は引き継がない
家庭裁判所で相続放棄を認めてもらった場合、被相続人のマイナスの財産は引き継ぎません。
相続放棄が認められた場合、はじめから相続人でなかったとみなされるためです。
相続放棄をしたら相続人でなくなるから、プラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐことがありません。
遺産分割をした場合、債権者は相続人全員に対して法定相続分で債務の支払を請求することができます。
マイナスの財産も相続財産ですから、財産の分け方を相続人全員で決めることができます。
債務は特定の相続人が引き継ぐことを相続人全員で合意することができます。
特定の相続人が引き継ぐ合意をした場合、合意は相続人間でのみ有効です。
相続人間でのみ有効な内輪の合意だから、債権者には関係ありません。
相続人間の合意があっても合意がなくても、債権者は相続人全員に対して法定相続分で債務の支払を請求することができます。
家庭裁判所で相続放棄を認めてもらった場合、相続放棄申述受理通知書が交付されます。
債権者に相続放棄申述受理通知書を提示すれば、それ以上の請求はされないでしょう。
5遺産分割協議は詐害行為になるおそれがあるが、相続放棄は詐害行為にならない
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくなることがあります。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
①被相続人が借金をしていた場合相続放棄は詐害行為で取消ができない
被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡した場合、お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうとするでしょう。
相続人は被相続人の借金を引き継がないために、相続放棄をすることが考えられます。
お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、請求できなくなって困ります。
お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。
このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。
②相続人が借金をしている場合、相続放棄は詐害行為で取消ができない
被相続人が多額のプラスの財産を残して死亡することがあります。
相続人が多額の借金を抱えている場合、お金を貸した人は相続した財産からお金を返してもらいたいと期待するでしょう。
プラスの財産が多いことを知っていても、他の相続人のために相続放棄をすることがあります。
例えば、被相続人のお世話をしていた人に相続させたい場合、被相続人と相続人の今までの経緯から相続したくない場合などです。
相続すれば多額の財産がたやすく手に入るのに、相続放棄をしたら相続財産は受け継ぐことはできません。
お金を貸した人は相続財産からお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、返してもらえなくなって困ります。
お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。
このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。
③遺産分割は詐害行為で取消ができる
プラスの財産を受け取らないことを申し入れをすることは、相続人全員の話し合いによる合意の一部と言えます。
遺産分割協議とは、相続が発生したことにより、相続人全員の共有になった相続財産の分け方を決めることです。
遺産分割協議は、財産を目的とする財産行為です。
お金を借りている人が、法定相続分よりはるかに少ない財産で相続する合意をした場合、自己の財産を減少させる合意と言えます。
お金を借りている人が、プラスの財産を一切受け取らない合意をした場合、自己の財産を減少させる合意と言えます。
自己の財産を減少させる遺産分割協議は、詐害行為にあたります。
お金を貸した人は、詐害行為を取り消すことができます。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
相続放棄は取消できないと言われますが、これは撤回できないの意味で使われています。
日常使う言葉が法律上異なる意味で使われると分かりにくくなります。
相続放棄は撤回できませんが、条件を満たせば取消できるし、無効になることもあります。
家庭裁判所から相続放棄を認められた後でも、お金を貸した人から取立が続くこともあります。
相続放棄は無効だと主張されることもあります。
詐害行為にあたるから取り消すなどと主張されることがあります。
お金を貸した人に詐害行為取消権がありますが、相続放棄は詐害行為ではありません。
さらに、詐害行為取消権は、裁判で主張する必要があります。
このようなことは、法律知識がないと対応できないでしょう。
詐害行為でなくても、相続放棄することは権利濫用だなどと主張されることもあります。
相続放棄することは権利濫用だという主張も意味がない主張です。
相続放棄は、相続人が多大な借金を引き継いでしまうことで人生が破綻することから守るための制度です。
お金を貸す人が負うべきリスクを押し付けられるいわれはありません。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄でやってはいけないこと
1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄は、家庭裁判所の書類審査だけで認められます。
相続放棄の要件をきちんと満たしているか、家庭裁判所が独自で調査することはありません。
相続放棄の要件を満たしていないのに、相続放棄の書類がきちんと揃っている場合、家庭裁判所は事情が分からず、相続放棄を認めてしまいます。
本当は要件を満たしていないから相続放棄は無効のはずです。
家庭裁判所は事情が分からないから、相続放棄を認めてしまうケースがあります。
2単純承認をすると相続放棄が無効になる
相続放棄をする前に単純承認をしていた場合、相続放棄はできません。
相続放棄が撤回できないように、単純承認も撤回できないからです。
相続財産を処分したり、利用した場合、単純承認をしたとみなされます。
相続財産を処分したり、利用した場合は相続放棄ができなくなります。
家庭裁判所は事情が分からないから相続放棄を認めてしまうケースがありますが、後から無効になります。
3相続放棄で心配になる具体例
①葬儀費用の支払いとお香典の受け取り
葬儀費用はお香典で賄われるのが一般的でしょう。
葬儀の参列者から受け取るお香典は、葬儀の主宰者への贈与です。
相続とは関係ない財産です。
お香典を受け取っても、相続放棄に影響はありません。
受け取ったお香典を葬儀費用に使っても、相続放棄に影響はありません。
お香典で足りない分については、原則として、相続財産から支払をしても差し支えありません。
葬儀は人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものだからです。
葬儀を執り行うためには、相当額の支出を伴います。
相続財産を被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとは言えません。
相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果になるからです。
もちろん、相続財産からでなく自分の固有の財産から支払をした方が安心です。
葬儀費用は、相続人が払うというより喪主が支払をしているでしょう。
相続放棄をすることと喪主として葬儀を主宰することはまったく別物です。
喪主として葬儀を主宰して自分の固有の財産で葬儀費用を支払っても、相続放棄に影響はありません。
②入院費用や介護費用の支払い
入院費用を相続財産から支払った場合、相続財産の処分にあたると判断されるおそれがあります。
すでに期限が到来した債務の弁済であれば、相続財産から支払っても差し支えありません。
入院費用の支払はすでに期限が到来した債務の弁済に、あたることもあたらないこともあります。
まだ期限が到来していない債務の支払の場合、相続財産の処分にあたると判断されることになります。
支払をしないままにしておくのが心苦しいのであれば、相続人の固有の財産から支払をしておくのがいいでしょう。
領収書の宛名は、相続人にしてもらいましょう。
相続人が入院時の身元保証人になっている場合があります。
身元保証人とはいうものの、入院費用の連帯保証人になっていることが多いです。
相続放棄をした場合、被相続人の入院費用などの債務は支払う必要がありません。
相続人として被相続人の債務を受け継がなくなったとしても、連帯保証人として入院費用は支払わなければなりません。
連帯保証人の義務は、相続人の義務と別の義務だからです。
③賃貸マンションの解約と家財道具の片付け
お部屋を借りる権利のことを、賃借権と言います。
原則として、お部屋を借りている人が死亡しても、賃貸借契約は終了しません。
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続財産はプラスの財産とマイナスの財産があります。
どちらも、相続財産です。
賃借権などの権利もプラスの財産になります。
賃貸マンションを解約すると、賃借権を処分したと言われます。
お部屋の中の家財道具のうち、明かなゴミや腐りやすいものは処分しても差し支えありません。
家具や家電品などは、処分したり売却したりすることはおすすめできません。
貸主から片づけて欲しい、明け渡して欲しいと言われますが、相続放棄をしていることを伝えましょう。
貸主の責任で貸主が何かすることについては、相続人の相続放棄と関係ないのは当然です。
貸主が費用を出して、お部屋の中のものを処分しても、相続放棄をした相続人には請求できません。
通常は、このようなときのために敷金を受け取っていますから、敷金から差引します。
被相続人が借りていたお部屋に相続人が住み続けたい場合があるかもしれません。
このような場合、退去するのが建前です。
賃借権は相続財産だからです。
相続しないのなら、賃借権がありません。
同じお部屋に住み続けたい場合、あらためて貸主と賃貸借契約をし直します。
相続人と貸主が、賃貸マンションの契約をするだけですから、相続財産は関係ありません。
賃貸マンションの契約をしても、相続放棄に影響はありません。
未払家賃があると、貸主としてもいい印象は持ちません。
相続人が固有の財産で被相続人の未払家賃を払うのであれば、相続財産の処分と言われることはありません。
④賃貸マンションの家賃の支払い
すでに期限が到来した債務の弁済であれば、相続財産から支払っても差し支えありません。
わざわざ相続放棄が無効だと言われるリスクを取るメリットはないでしょう。
相続人の固有の財産から被相続人の未払い家賃を支払った方が安心です。
相続人が固有の財産から未払い家賃を支払った場合、領収書の宛名は相続人にしてもらいましょう。
通常は、未払家賃も敷金から差引します。
⑤借金や未払金の支払い
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
借金や未払金は支払う必要がありません。
催促が来たら、相続放棄申述受理通知書を提示しましょう。
⑥電気、ガス、水道などの公共料金の支払い
電気、ガス、水道などの公共料金の未払金は支払う必要がありません。
しかし、公共料金は支払わないと電気、ガス、水道などが止められてしまいます。
同じ場所で住み続けるとしたら、困ってしまいます。
相続人が、固有の財産から支払えば安心です。
固有の財産から支払ったうえで、あらためて、相続人名義で契約をし直せばいいでしょう。
⑦預貯金の引き出しと解約
預貯金の引き出しや解約をする場合、相続人全員で相続財産の分け方の合意をする必要があります。
通常、分け方の合意がまとまったら文書に取りまとめて、銀行などの金融機関に提出します。
このような遺産分割協議は、単純承認にあたります。
預貯金の引き出し、解約、名義変更をすると、相続放棄は無効になります。
銀行には、口座の名義人が死亡したことを伝えれば十分です。
⑧クレジットカードの支払い
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
クレジットカードの支払もする必要がありません。
カード会社に契約者が死亡したこと、相続放棄をしたことを伝えるだけで十分です。
⑨お墓や仏壇の購入
お墓や仏壇は、原則として、相続財産から支払をしても差し支えありません。
葬儀は人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものです。
過分な葬儀の費用を相続財産から支出した場合、相続放棄が無効になる可能性があります。
一般的に、お墓や仏壇は、葬儀より必要性が低いと考えられています。
お墓や仏壇の費用を相続財産から支出した場合、相続放棄が無効になる可能性があります。
葬儀の費用とお墓や仏壇の費用を比べた場合、お墓や仏壇の費用を支出した場合の方が相続放棄が無効になるリスクが高いです。
お墓や仏壇は、葬儀より必要性が低いと考えられているからです。
あえてリスクを取るより、相続人の固有の財産から支払する方が安心でしょう。
⑩生命保険の受け取り
生命保険の受取人が相続人である場合、保険金を受け取る権利は相続人の固有の権利です。
相続財産ではありませんから、受け取っても相続放棄に影響はありません。
生命保険の受取人が被相続人である場合、保険金を受け取る権利は相続財産です。
相続財産を受け取ると、相続放棄が無効になります。
⑪年金の受け取り
遺族年金は遺族に支払われるものです。
遺族の固有の権利であって、相続とは関係ありません。
遺族年金を受け取っても、相続放棄に差し支えることはありません。
口座の持ち主が死亡した場合、銀行など金融機関は口座を凍結します。
口座凍結などで支払われるべき年金を受け取ることができなくなることがあります。
被相続人が受け取ることができなかった年金のことを、未支給年金と言います。
未支給年金を受け取る権利は、一定の遺族の固有の権利です。
遺族の固有の権利であって、相続とは関係ありません。
未支給年金を受け取っても、相続放棄に差し支えることはありません。
4相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることができます。
即時抗告は高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は、撤回ができません。
相続放棄をする前に、慎重に判断する必要があります。
せっかく相続放棄が認められても、相続財産を処分したら無効になりかねません。
このような行為をしてしまわないように、あらかじめ知識を付けておく必要があります。
相続放棄を自分で手続したい人の中には、相続放棄が無効になることまで考えていない場合が多いです。
司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。
せっかく手続しても、相続放棄が無効になったら意味がありません。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄しても入院費介護費の支払
1相続の承認と相続放棄
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
相続財産というとプラスの財産だけイメージしがちですが、マイナスの財産も含まれます。
マイナスの財産が多い場合、相続放棄をすることができます。
法律で定められた一定の条件にあてはまるときは、単純承認したとみなされます。
単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐものです。
単純承認とみなされたら、相続放棄はできません。
相続放棄はできないのに、家庭裁判所に相続放棄の手続をして、相続放棄が認められても無効です。
家庭裁判所が事情を分からずに相続放棄を認めてしまっても、後から無効になります。
単純承認したとみなされる行為は、法律で定められています。
相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。
相続財産の名義変更をした、相続財産である銀行の預貯金を引き出して使ってしまった場合が典型的です。
単に、引き出しただけであれば、処分とは言えないことが多いでしょう。
引き出したうえ、自分の口座に送金して保管すると、「処分した」と評価される可能性が高くなります。
相続財産の分け方について、相続人全員で合意をした場合も、相続財産を「処分した」場合に当たります。
2相続放棄をした後の入院費や介護費の支払
①相続放棄をした場合、被相続人の債務は支払不要
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの遺産を引き継がなくなりますが、マイナスの遺産も引き継ぐことがなくなります。
病院や介護施設から本人の相続人として入院費や介護費の支払を請求してきた場合、支払いを拒むことができます。
②相続人が連帯保証人の場合、連帯保証人として支払が必要
病院に入院する場合や介護施設に入所する場合、入院契約や入所契約をします。
契約を締結した場合、入院費や介護費が発生します。
これらの費用をきちんと払ってもらえるか心配なので、払ってもらえないとき肩代わりをする連帯保証人を立ててもらいます。
肩代わりの人は、多くの場合、被相続人の家族でしょう。
病院や介護施設と本人の家族は、入院費や介護費の肩代わりの約束をします。
入院費や介護費の肩代わりの約束のことを、連帯保証契約と言います。
入院契約や入所契約は、病院や介護施設と本人の契約です。
連帯保証契約は、病院や介護施設と本人の家族の契約です。
入院契約や入所契約と連帯保証契約は、当事者が異なるまったく別の契約です。
病院や介護施設は本人の入院費や介護費を、通常、本人の相続人に請求します。
相続人は相続放棄をしたことを理由として、支払いをしてくれません。
支払いをしてもらえないときに備えて、肩代わりの人を立ててもらっています。
相続人に支払いをしてもらえないから、肩代わりの人に請求をします。
連帯保証契約に基づく肩代わりの義務は、本人の家族の固有の義務です。
相続が発生しても、連帯保証契約は影響を受けません。
相続とは無関係だから、相続放棄をしても相続放棄をしなくても、肩代わりの義務はなくなりません。
病院や介護施設から連帯保証人として入院費や介護費の支払を請求してきた場合、支払いを拒むことができません。
③入院費や介護費を支払いたい場合、固有の財産から支払うのが安全
相続放棄が認められた場合、本人の債務を引き継ぐことはありません。
入院や入所のときに、連帯保証人になっていなければ本人の債務を支払う必要はありません。
債務の支払義務はなくても、お世話になった病院や施設だから、本人の入院費や介護費を支払いたい場合があります。
相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。
本人の預貯金で入院費や介護費の支払をした場合、相続財産を処分したと判断されるおそれがあります。
相続財産を処分した場合であっても、保存行為にあたる場合は、単純承認したとみなされません。
期限到来後の入院費や介護費であれば、本人の預貯金から支払をしても単純承認にあたらないという意見があります。
本人に莫大な借金がある場合、債権者は単純承認をしたと言って取立をしてくるおそれがあります。
あえてトラブルに巻き込まれる危険を冒す必要はありません。
相続人の固有の財産から支払をした場合、相続財産を処分したと言われることはありません。
お世話になった病院や施設だから、本人の入院費や介護費を支払いたい場合、相続人の固有の財産から支払をすることをおすすめします。
3生命保険は受け取れるものと受け取れないものがある
入院費や介護費の支払は高額になりがちです。
将来の備えとして、被相続人が生命保険に加入している場合があります。
①生命保険の死亡保険金は受け取れる
相続が発生したときは、被相続人が死亡したときですから、被相続人に生命保険がかけてあれば、保険金が支払われます。
原則として、生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産です。
受取人として「相続人」と指定してある場合であっても、相続放棄した人が受け取ることができます。
生命保険の死亡保険金は、相続財産ではありません。
相続財産ではないのに、相続税の課税対象になります。
相続税の課税対象になるから相続財産であると誤解している人は多いです。
家庭裁判所で相続放棄の手続をした人も、生命保険の死亡保険金は受け取ることができます。
生命保険の死亡保険金を病院に支払った場合、単純承認になりません。
生命保険の死亡保険金は被相続人の相続財産でないから、相続放棄とは関係がないからです。
②生命保険の入院給付金は受け取れない
生命保険の中には死亡保険金以外の給付金を重視した設計の商品があります。
入院給付金や手術一時金がその代表例です。
入院給付金の受取人は、被相続人が指定されているでしょう。
入院給付金は相続財産になります。
相続放棄をしたのに入院給付金を受け取ったら、単純承認したとみなされます。
生命保険の入院給付金を病院に支払った場合、単純承認になります。
給付金を受け取ったから、支払いができたからです。
4健康保険の高額療養費を受け取れる場合と受け取れない場合がある
①協会けんぽ、健康保険組合、共済の場合
健康保険の高額療養費は、被保険者に支給されます。
被相続人が被扶養家族の場合、高額療養費を請求し給付金を受け取ることができるのは、健康保険の本人である被保険者です。
健康保険の本人である被保険者の資格で受け取りますから、相続放棄は有効です。
被相続人が扶養家族でなく被保険者本人の場合、高額療養費の給付金は相続財産になります。
被相続人が被保険者本人の場合で、かつ、高額療養費を請求し給付金を受け取った場合、相続放棄は無効です。
②国民健康保険の場合
健康保険の高額療養費は、世帯主に支給されます。
被相続人が世帯主でない場合で、かつ、高額療養費を請求し給付金を受け取った場合、相続放棄は有効です。
被相続人が世帯主の場合、高額療養費の給付金は相続財産になります。
被相続人が世帯主の場合で、かつ、高額療養費を請求し給付金を受け取った場合、相続放棄は無効です。
③限度額認定証がおすすめ
健康保険の高額療養費は、高額な医療費を払ったときに後から現金で払い戻しを受ける制度です。
限度額認定証は、病院から高額療養費分を差し引いて請求してもらう制度です。
病院への支払いが少なく済むうえ、後から高額療養費の請求する必要がなくなります。
入院など医療費が高額になる見込みの場合、限度額認定証を発行してもらうといいでしょう。
高額療養費を受け取ることがないから、相続放棄が無効になる心配がなくなります。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は撤回ができないので、慎重に判断する必要があります。
せっかく、相続放棄が認められても、相続財産を処分した判断されたら無効になりかねません。
このような行為をしてしまわないように、予め知識を付けておく必要があります。
相続放棄を自分で手続きしたい人の中には、相続放棄が無効になることまで考えていない場合が多いです。
司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。
せっかく手続しても、相続放棄が無効になったら意味がありません。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄しても未支給年金
1相続放棄をしても相続財産以外は受け取りができる
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
相続財産というとプラスの財産だけイメージしがちですが、マイナスの財産も含まれます。
マイナスの財産が多い場合、相続放棄をすることができます。
法律で定められた一定の条件にあてはまるときは、単純承認したとみなされます。
単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐものです。
単純承認とみなされたら、相続放棄はできません。
被相続人が払うべきお金を相続財産から支払う場合、単純承認とみなされます。
相続財産を処分したと判断されるからです。
被相続人が払うべきお金であっても、相続人が自分の財産から払う場合、単純承認とみなされません。
被相続人が死亡したことをきっかけに受け取るお金には、被相続人の財産を引き継ぐものと相続人自身の固有の権利として受け取るものがあります。
被相続人の財産を引き継ぐ場合、単純承認とみなされます。
相続人自身の固有の権利として受け取る場合、単純承認とみなされません。
相続放棄をした場合、相続財産を受け取ることはできませんが、相続財産以外であれば受け取ることができます。
2預金者が死亡すると口座凍結で年金を受け取ることができない
銀行などの金融機関は預金者が死亡したことを確認すると、口座の取引をできなくします。
この口座の取引をできなくすることを口座の凍結といいます。
口座取引をできなくしますから、ATMや窓口での引き出しはできません。
振込みもできないし、公共料金などのお引落もできなくなってしまいます。
口座が凍結された場合、年金の振込みを受けることができなくなります。
年金は死亡した月の分まで支給されます。
年金は、後払いで支給されます。
例えば、4月分と5月分の年金は、6月に支給されます。
年金を受け取っている人が4月に死亡した場合、4月分の年金まで支給されます。
4月分の年金は、6月に振込みがされます。
多くの場合、6月の年金支払い日には、口座が凍結されているでしょう。
6月に支給される年金の振込みを受けることができません。
年金を受け取っている人が死亡した場合、口座が凍結されていれば年金を受け取ることができなくなります。
年金は後払いだから、必ず、まだ受け取っていない年金が発生します。
口座が凍結されたことなどで、まだ受け取っていない年金のことを、未支給年金と言います。
3未支給年金は相続財産ではない
死亡した被相続人が受け取るはずの年金だから、相続財産の一部に見えるかもしれません。
相続財産を処分した場合、単純承認をしたとみなされます。
単純承認をした場合、相続放棄をすることはできません。
未支給年金を受け取る権利は、相続財産ではありません。
未支給年金は、法律で一定の遺族に認められた権利です。
死亡した被相続人が受け取るはずの年金を受け継いだものではありません。
法律で認められた遺族の固有の権利です。
被相続人から相続した相続財産ではないから、相続放棄とは無関係です。
相続人が相続放棄をした場合でも相続放棄をしない場合でも、法律の定めに基づいて未支給年金を受け取ることができます。
未支給年金を受け取っても、相続の単純承認をしたと言われることはありません。
未支給年金を受け取る権利は、相続財産ではなく遺族の固有の財産だからです。
相続放棄をした後に未支給年金を請求した場合、相続放棄が無効になることはないし、未支給年金を返還するように言われることはありません。
未支給年金を受け取った後に相続放棄をした場合、相続放棄が無効になることはないし、未支給年金を返還するように言われることはありません。
未支給年金を受け取る権利は、遺族の固有の権利だから、相続放棄とは無関係です。
すでに相続放棄をした場合でも、これから相続放棄をするつもりでも、未支給年金を受け取ることができます。
4未支給年金を受け取る方法
①未支給年金を請求できる人
未支給年金は、年金を受け取っていた人と生計を同じくしていた人が受け取ることができます。
遺族年金と未支給年金は、別の制度です。
遺族年金を受け取ることができる場合で、かつ、未支給年金を受け取ることができる場合、それぞれの手続が必要です。
未支給年金を受け取ることができるのは、次の人のうち優先順位の高い人です。
(1)配偶者
(2)子
(3)父母
(4)孫
(5)祖父母
(6)兄弟姉妹
(7)その他これら以外の3親等内の親族
②未支給年金を請求に必要な書類
未支給年金を受け取るためには、受給権者死亡届と未支給年金・未払い給付金請求書の提出が必要です。
受給権者死亡届に添付する書類は、次のとおりです。
(1)年金証書
(2)死亡の事実を明らかにできる書類
(2)死亡の事実を明らかにできる書類は、戸籍謄本、市区町村長に提出した死亡診断書のコピー、死亡届の記載事項証明書などです。
未支給年金・未払い給付金請求書に添付する書類は、次のとおりです。
(1)年金証書
(2)被相続人と請求者の続柄が分かる戸籍謄本
(3)被相続人と請求者が生計を同じくしていたことが分かる住民票と除票
(4)受け取りを希望する金融機関の通帳
(5)生計同一についての申立書(被相続人と請求者が別世帯の場合)
(2)戸籍謄本(3)住民票は、死亡日より後に発行されたものが必要です。
(2)戸籍謄本(3)住民票は、原本を返してもらうことができます。
③未支給年金は5年で時効消滅する
未支給年金を受け取るためには、請求をしなければなりません。
未支給年金を受け取る権利は、何もしないで放置すると時効で消滅します。
年金支払い日の翌月の初日から起算して5年で時効になります。
これを過ぎると、未支給年金を受け取ることができなくなります。
未支給年金を受け取る権利が亡くなる前に、請求しましょう。
④繰り下げ受給の待機中の死亡は未支給年金で請求できる
被相続人が年金の繰り下げ受給の待機中に死亡する場合があります。
年金の繰り下げ受給の待機中に死亡した場合、本人が受け取るはずだった年金を遺族が請求することができます。
65歳から死亡した月の分までの年金が、未支給年金として支給されます。
未支給年金には、待機した分の増額は反映されません。
この場合、時効の起算は65歳からです。
⑤未支給年金は受取人の所得になる
未支給年金は、法律で一定の遺族に認められた権利です。
受取人の固有の財産だから、受取人の所得になります。
受け取る金額によっては、所得税がかかります。
受け取った年の翌年3月15日までに確定申告が必要になる場合があります。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は撤回ができないので、慎重に判断する必要があります。
せっかく、相続放棄が認められても、相続財産を処分した判断されたら無効になりかねません。
このような行為をしてしまわないように、予め知識を付けておく必要があります。
相続放棄を自分で手続きしたい人の中には、相続放棄が無効になることまで考えていない場合が多いです。
司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。
せっかく手続しても、相続放棄が無効になったら意味がありません。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄のデメリット
1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は、被相続人ごとに判断できます。
例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は、相続人ごとに判断できます。
例えば、父の相続人ついて長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2相続放棄のデメリット
①プラスの財産も相続できない
相続放棄をするとプラスの財産を相続できなくなります。
マイナスの財産だけ放棄したいといった希望はできません。
例えば、被相続人所有の家に住んでいる場合、住んでいる家であっても相続できなくなります。
住居を明け渡すことになりますから、大きなデメリットと言えます。
相続放棄をした後に、プラスの財産が見つかることがあります。
プラスの財産が見つかっても、相続放棄をした後は相続できません。
②相続放棄の撤回ができない
相続放棄をした後にプラスの財産が見つかることがあります。
プラスの財産が見つかっても、相続放棄をした後は相続できません。
相続放棄を撤回することはできません。
とりあえず相続放棄をしてプラスの財産が見つかったら、撤回するといったことはできません。
相続放棄をするとき、他の相続人から強迫をされていることやだまされている場合があります。
強迫をされていることやだまされている場合、相続放棄を取り消すことができます。
撤回はできないけど、取消はすることができます。
取消ができるのは、気づいてから6か月、相続放棄のときから10年以内です。
③次順位の人が相続人になる
相続放棄をすると相続人でなくなります。
例えば、相続人が配偶者と子どもである場合、子ども全員が相続放棄をしたら子どもはいないものとして扱われます。
子どもがいない場合、次順位の相続人は親などの直系尊属になります。
配偶者は常に相続人になりますから、配偶者と親などの直系尊属が相続人になります。
相続放棄した子どもに子どもがいても、子どもの子どもは相続人になりません。
子ども全員が相続放棄したら「配偶者が全財産相続できる」は誤解です。
相続人が配偶者と子どもである場合で、子ども全員が相続放棄をすることがあります。
子ども全員が相続放棄をした場合、配偶者と親などの直系尊属が相続人になります。
多額の借金があることを理由として相続放棄をした場合、債権者は相続放棄をした相続人には返済をしてもらうことができません。
債権者は、次順位の相続人に返済を請求することになります。
次順位の相続人は、債権者から借金の返済を求められて相続人になったことを知ることになります。
相続放棄をしたことを連絡する義務はありませんが、次順位の相続人が不満に思うかもしれません。
このような場合、借金があることを説明したうえで、自分の相続放棄が認められたら、このことを知らせてあげると親切でしょう。
次順位の人は先順位の人の相続放棄が認められるまで相続人ではありませんから、相続放棄をしたくても手続きできません。
先順位の人の相続放棄が認められたら、すぐ手続きできるように準備をしてもらうようにしましょう。
④相続財産を処分すると相続放棄が無効になる
すでに相続を単純承認してしまっている場合、相続放棄をすることはできません。
例えば、次のような行為をした場合、相続を単純承認してしまっていると判断されます。
(1)財産をすでに使っている
(2)相続財産の分け方について合意をしている
(3)経済的価値の高い形見分けを受け取っている
(4)被相続人あての請求を相続財産で支払っている
(5)被相続人の債権を取り立てて支払を受けた
(6)相続財産を隠したり、財産がないと偽った
⑤生命保険の保険金を受け取れるとき税金の面で不利になることがある
被相続人に生命保険が掛けられている場合、被相続人の死亡すれば生命保険の保険金が支払われます。
生命保険の保険金は相続財産ではなく、保険契約による受取人の固有の財産です。
だから、生命保険の受取人が相続放棄をした場合でも、生命保険の保険金を受け取ることができます。
生命保険の保険金は相続財産でないにもかかわらず、原則として、相続税の課税対象です。
生命保険の保険金について、相続人全体の非課税枠は 500万円×法定相続人の人数 です。
相続人全員の非課税枠を計算するときは、相続放棄した人も含めて計算します。
相続放棄した人は、相続人全員の非課税枠を計算するときは含めるのに、その人の相続税を計算するときには、500万円の非課税枠を使うことはできません。
500万円分非課税にできないので、その分だけ税金を余計に負担しなければなりません。
税金の専門家からは、相続放棄をすると税金がソンになるといって、相続放棄をしないように説得されることがあります。
税金について検討するのは重要ですが、税金のメリットだけで判断すると失敗します。
税金以外のメリット、デメリットも充分検討して、相続放棄をした方がいいか相続放棄をしない方がいいのか、総合的に判断しましょう。
3遺産分割協議で相続放棄はできない
相続放棄は、家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の届出をします。
家庭裁判所に対して、相続放棄をしたい旨の届出をしない場合、相続放棄はできません。
被相続人が生前、相続人になる予定の人と相続放棄をすると約束している場合があります。
相続放棄をすると約束しても、意味はありません。
家庭裁判所に届出をしていないからです。
相続人間で相続放棄をすると念書を書いている場合があります。
相続放棄をすると念書を書いても、無効です。
家庭裁判所が関与していないからです。
父母が離婚する際に、子どもが相続放棄をすると誓約書を渡している場合があります。
子どもが相続放棄をすると誓約書を書いても、子どもには関係ない話です。
家庭裁判所に手続をしていないからです。
被相続人の債権者に相続放棄をすると申し入れをしている場合があります。
債権者に申し入れをするだけでは、何の価値もありません。
家庭裁判所が相続放棄を認めていないからです。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
実は、相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知していますから、認めてもらえやすい書類を作成することができます。
相続放棄をしたい旨の届出には戸籍や住民票が必要になります。
お仕事や家事、通院などでお忙しい人には平日の昼間に役所にお出かけになって準備するのは負担が大きいものです。
戸籍や住民票は郵便による取り寄せもできますが、書類の不備などによる問い合わせはやはり役所の業務時間中の対応が必要になりますから、やはり負担は軽いとは言えません。
このような戸籍や住民票の取り寄せも司法書士は代行します。
3か月の期間内に手続きするのは思ったよりハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談しましょう。
相続放棄後の共有持分
1共有者は共有持分を放棄することができる
①共有者の一方的意思だけで共有持分の放棄ができる
共有者は自分の持分を放棄することができます。
持分を放棄した場合、放棄した共有持分は他の共有者のものになります。
他の共有者の持分割合に応じて、分割されます。
共有者の一方的な意思表示だけで、共有持分の放棄ができます。
他の共有者の承諾は必要ありません。
共有物を放棄するのに、決まった文書が必要といったことはありません。
口頭の意思表示であっても効果が発生します。
口頭で通知するより、文書で通知することをおすすめします。
後でトラブルになることを防止するため、内容証明郵便で通知するといいでしょう。
②持分移転登記は共同申請
共有者が持分を放棄した場合、他の共有者に持分が移転します。
他の共有者に持分が移転した場合、持分移転登記の申請が必要です。
持分の放棄は、一方的な意思表示で効果が発生しますが、登記は単独で申請することができません。
持分の放棄をする人を登記義務者、他の共有者全員を登記権利者として共同申請をします。
持分の放棄は、口頭の意思表示であっても効果が発生しますが、登記申請においては持分の放棄があったことを証明する書類が必要になります。
③共有持分が高額である場合、税金に注意
共有者の一方的な意思表示で、共有持分の放棄をすることができます。
財産を譲ってあげる人と譲ってもらう人の契約である贈与とは別物です。
法律においては贈与ではないにもかかわらず、税金においては贈与税が課されます。
共有持分が移転するという意味では、贈与と実質的に同じ効果だからです。
贈与税の免脱行為として、持分の放棄を使うことを防ぐためです。
共有持分の評価額が高額である場合、他の共有者に贈与税が課される場合があります。
固定資産税は、1月1日現在の登記名義人が課税対象者になります。
年内に持分の放棄の意思表示をした場合、年内に他の共有者に権利が移転します。
持分移転の登記が年を越した場合、所有権がないのに固定資産税の納税義務者のままになります。
2相続人全員が相続放棄してもいい
相続放棄は、多くの場合、被相続人のマイナスの遺産を引き継がないために行われます。
相続人が全員相続放棄をしたら、被相続人の借金なのに、相続人のだれも責任をとらないことになります。
相続人がだれも責任をとらないことに対して、後ろめたく思う人もいるかもしれません。
相続放棄は、相続人ひとりひとりが自分の意思で自由に判断できるものです。
結果として、相続人全員が相続放棄を選択することになっても、法律上、やむを得ないことです。
配偶者と子ども全員が相続放棄をした場合、次順位の親などの直系尊属が相続人になります。
親などの直系尊属全員が相続放棄をした場合、次順位の兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹全員が相続放棄をした場合、次順位の相続人はいません。
相続人全員が相続放棄をした場合、相続人不存在になります。
相続人が全員相続放棄をしたとしても、やむを得ません。
3共有者である被相続人に相続人がいない場合の共有持分の行方
被相続人が天涯孤独で親族がいないこともあります。
相続人がいても相続放棄をして相続人でなくなっている場合があります。
①相続債権者がいる場合
家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらいます。
通常、相続財産清算人を選んでもらうためには家庭裁判所に予納金を納めます。
予納金は管理する財産の状況によって違いますが、100万円程度かかる場合があります。
相続財産清算人によって相続財産は売却されて、相続債権者への支払にあてられます。
通常、共有持分は売却しようとしても、買い手が見つかりません。
買い手が見つかったとしても、著しく価格が低くなってしまいます。
共有持分を買い取る業者がいますが、買い取り額はおおむね時価の1~3割程度です。
多くの場合、被相続人と共有していた人に買取をお願いすることになります。
被相続人と不動産を共有していた人が対価を支払って、被相続人の共有持分を買い取ることになります。
②特別縁故者がいる場合
特別縁故者とは、内縁の配偶者や事実上の養子など被相続人と生計を同じくしていた者や被相続人の療養看護に努めた者など特別な縁故のあった人のことです。
家庭裁判所に認められれば、特別縁故者は被相続人の財産を受け取ることができます。
受け取る財産は、家庭裁判所が決めます。
被相続人の財産の全部のこともあるし、一部だけのこともあります。
被相続人がたくさんの財産を残しても、特別縁故者が受け継ぐ財産はほんの少ししか認められないこともあります。
③相続債権者も特別縁故者もいない場合
被相続人と不動産を共有していた人が共有持分を取得します。
共有持分を持つ人が死亡した場合、まずは相続人、次に相続債権者、その次に特別縁故者、特別縁故者もいなかったら他の共有者が受け継ぎます。
そのためには、手続が複雑で、費用も時間もかかります。
共有者が特別縁故者と話し合いをしたり、財産を勝手に分けたりすることはできません。
被相続人が死亡してから、共有者が受け継ぐまで1年以上の時間がかかります。
4マンションは共有者が取得できない
マンションは、建物部分と敷地権の共有部分があります。
建物部分は単独所有、敷地権は共有です。
建物部分と敷地権の共有部分は、所有者を一致させるルールになっています。
所有者を一致させないと、売却のとき混乱するからです。
相続債権者も特別縁故者もいない場合、相続財産は国庫に帰属します。
建物部分は単独所有なので、国庫に帰属します。
所有者を一致させるルールがあるから、敷地権が共有になっていても、他の共有者が取得することはできません。
所有者を一致させるルールを守れなくなるからです。
建物部分が国庫に帰属しますから、所有者を一致させるルールによって、敷地権も国庫に帰属します。
5生前対策がしてあると手続がラク
相続人がいないおひとりさまは、遺言書を書いて財産の行き先を指定しましょう。
共有持分は、遺言書で共有者に遺贈することや死因贈与をすることができます。
相続財産清算人と家庭裁判所の手を借りて、1年以上の時間をかけて手続するよりはるかにラクです。
遺贈は、相続人や相続人以外の人に、財産を受け取ってもらう制度です。
だれに受け取ってもらうかは遺言者本人が決めることができます
共有持分を特別縁故者に遺贈することや死因贈与をできます。
家庭裁判所は特別縁故者と認めてくれることも、認めてくれないこともあります。
被相続人がたくさんの財産を残しても、特別縁故者が受け継ぐ財産はほんの少ししか認められないこともあります。
6遺言書作成と遺言執行を司法書士に依頼するメリット
相続手続はタイヘンですが、相続人がいない場合もタイヘンです。
相続人がいないから、財産は国に持っていかれて、何もしなくていいと軽く考えがちです。
実際は、被相続人が死亡してから、国庫に帰属するまで1年以上の時間がかかります。
財産の内容によっては、100万円以上の費用の負担があることも見逃せません。
国に持っていかれるよりは、お世話になった人に受け継いでもらいたい、事情を知っている共有者に受け継いでもらいたい人もいるでしょう。
お世話になった人に受け継いでもらいたい、事情を知っている共有者に受け継いでもらいたいという意思は、遺言書で実現できます。
家庭裁判所の手続は一般の人にはハードルが高いものです。
遺言書に、遺贈することを書き、遺言執行者を決めておけば、手間はかかりません。
お世話になった人は待っているだけで済みます。
遺言書は書き方に細かいルールがあります。
適切な遺言書作成と遺言執行者選任は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
公正証書遺言があっても相続放棄
1公正証書遺言があっても相続放棄ができる
被相続人に莫大なマイナスの財産がある場合、まず相続放棄を検討するでしょう。
公正証書遺言に「相続人〇〇に財産〇〇を相続させる」と書いてあったら、相続放棄ができるのか心配になるかもしれません。
公正証書遺言であっても自筆証書遺言であっても、相続放棄をすることができます。
遺言書に何と書いてあっても何も書いてなくても、相続放棄をすることができます。
遺言書があっても遺言書がなくても、相続放棄をすることができます。
相続放棄をする権利は、相続人の固有の権利です。
遺言書で相続放棄をする権利が奪われることはありません。
遺言書の記載内容によって、手続の方法が違います。
2相続と遺贈のちがい
遺贈とは、被相続人が遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげることです。
遺贈で財産を譲ってあげる人のことを遺贈者、譲ってもらう人を受遺者と言います。
相続では、法定相続人だけに譲ってあげることができます。
遺贈では、法定相続人に譲ってあげることもできるし、相続人以外の人に譲ってあげることができます。
遺贈では譲ってあげる相手は、人だけでなく、会社や役所などの団体にすることもできます。
お腹の中の赤ちゃん(胎児)には、相続でも遺贈でも、財産を引き継いでもらうことができます。
相続では、遺言がなくても相続人が受け取ることができます。
遺贈は、遺言があるときだけ譲ってあげることができます。
遺言書は相続人などの関与なしで作ることができます。
遺言で遺贈や相続のことを定める場合、遺言者が一方的に決めることができます。
遺贈や相続とよく似たものに、死因贈与があります。
死因贈与とは、被相続人が生前に、自分が死亡したら財産を贈与する契約です。
契約なので、一方的に決めることはできません。
財産を譲ってあげる人と譲ってもらう人が合意して、契約が成立するからです。
3「相続」を放棄する場合は家庭裁判所へ申立て
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け継ぐことがなくなります。
公正証書遺言に書いてある財産も書いてない財産も、すべて受け継ぐことができません。
申立てをする先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
この申立ては相続があったことを知ってから、原則として、3か月以内にする必要があります。
相続放棄をしたい旨の申立てに添える書類は裁判所のホームページに詳しく書いてあります。
①被相続人の戸籍謄本
②被相続人の除票
③相続放棄する人の戸籍謄本
④収入印紙
⑤裁判所が手続で使う郵便切手
申立ては直接、出向いて提出してもいいし、郵便で送っても差し支えありません。
申立書の書き方や提出書類が心配な方は、出向いて裁判所の受付で目を通してもらうと安心です。
4「特定遺贈」を放棄する場合は遺言執行者・相続人に通知
特定遺贈とは、遺言書に、「財産〇〇〇〇を遺贈する」と財産を具体的に書いてある場合です。
特定遺贈を放棄する場合、遺贈義務者に対して意思表示をします。
遺贈義務者は次のとおりです。
①遺言執行者がいる場合、遺言執行者です。
②遺言執行者がいない場合、相続人です。
③遺言執行者も相続人もいない場合、相続財産清算人です。
口頭で通知しても有効ですが、後のトラブルを防止するために内容証明郵便で通知するといいでしょう。
特定遺贈を放棄する場合、3か月などの期限はありません。
特定遺贈は、一部だけ放棄をすることも、全部を放棄することもできます。
遺言執行者や相続人から、特定遺贈を受けるか、放棄するか質問することができます。
質問に答えない場合、特定遺贈を受けるとみなされます。
5「包括遺贈」を放棄する場合は家庭裁判所へ申立て
包括遺贈を放棄する場合、相続放棄と手続は同じです。
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
申立てをする先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
この申立ては相続があったことを知ってから、原則として、3か月以内にする必要があります。
6相続放棄しても遺贈は受け取れる
①原則として相続放棄しても遺贈は受け取れる
相続放棄をすると、はじめから相続人でなかったものと扱われます。
遺贈では、法定相続人に譲ってあげることもできるし、相続人以外の人に譲ってあげることもできます。
相続放棄をした人に対しても、遺贈をすることができます。
このような遺言書も有効です。
相続と遺贈は別問題だからです。
相続放棄をした後、遺贈を受けるか遺贈を放棄するかあらためて判断することができます。
遺贈も放棄する場合、遺贈を放棄する手続が必要です。
②詐害行為になる場合、遺贈が取り消される
被相続人がわずかなプラスの財産と莫大なマイナスの財産ということがあります。
この状況で、わずかなプラスの財産を相続人に遺贈するという遺言書が見つかることがあります。
おそらく、被相続人に頼んで、このような遺言書を書いてもらった場合でしょう。
原則どおりでは、相続放棄をしているから、相続人は莫大なマイナスの財産を受け継ぐことはありません。
原則どおりでは、遺贈は相続放棄と別物だから、わずかなプラスの財産を受け取ることができるとなってしまいます。
このようなことが許されると、債権者にとってあまりに理不尽です。
債権者は、裁判所に訴えて、理不尽な遺贈を取り消すことができます。
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくしているからです。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
理不尽な遺贈として裁判所に認められれば、詐害行為は取り消すことができます。
適切な遺言書によってされた遺贈であっても、理不尽な遺贈は詐害行為にあたります。
7遺言書の内容と異なる遺産分割をすることができる
遺言書は遺言をした人の意思を示すものです。
相続人は遺言をした人の意思を尊重し、遺言書の内容を実現させてあげたいと思うでしょう。
遺言書の内容があまりに相続人の実情にあわない場合、遺言書の内容をそのまま実現すると相続人が困ってしまう場合があります。
例えば、近くに住む相続人を差し置いて、遠方に住む相続人に不動産を相続させる遺言書です。
相続人が困ってしまうおそれのある遺言書なのに、あえて執行して相続人を困らせる必要はないでしょう。
相続財産の分け方について、相続人全員で合意した方が合理的です。
相続人全員が合意すれば、遺言書の内容と異なる内容で遺産分割することもできます。
相続人全員の合意が必要ですから、一人でも反対の人がいたり、合意できない人がいたら、この方法は取れなくなります。
遺言執行者がいる場合は、遺言執行者の同意も必要になります。
正当理由があれば、遺言執行者は辞任することができます。
「相続人全員の合意で遺言とは異なる内容の遺産分割をしたいから」は、辞任の正当理由に認められます。
遺贈で相続財産を受け取る人がいる場合、その人の同意も必要になります。
財産を受け取れるはずだったのに、相続人が一方的に取り上げるのは理不尽だからです。
相続放棄をすると、遺言書に記載のある財産も遺言書に記載のない財産も、すべて受け継ぐことができなくなります。
相続人全員の話し合いで分け方を決めた方が、合理的なことも考えられます。
8相続放棄を司法書士に依頼するメリット
被相続人に莫大な借金がある場合や相続人間の話し合いに関わりたくない場合、相続放棄をすることが考えられます。
公正証書遺言は、公証人に作成してもらう遺言書です。
高い信頼性がある確実な遺言書の方式として知られています。
公正証書遺言書があることで、相続放棄ができなくなるのでないか心配になることもあるでしょう。
公正証書遺言書の内容に縛られてしまうのではないかを不安になる相続人もいるでしょう。
公正証書遺言書があってもなくても、相続放棄はできます。
公正証書遺言書があっても自筆証書遺言書があっても、相続放棄はできます。
遺言書の内容によって、手続が異なるだけです。
どのように手続するかは、遺言書の記載内容によります。
どのような意図で書いたのか遺言書の記載内容を読み解いて判断します。
相続放棄をするより、他の方法がいいのかもしれません。
相続人全員で相続財産の分け方について話し合いをした方が円満に相続ができるかもしれません。
相続放棄をして、遺贈を受けた方が有利かもしれません。
相続放棄をして遺贈を受けると、債権者とトラブルになるかもしれません。
どうしたらいいのか考えるべきことはたくさんあります。
相続はだれにとっても不慣れでスムーズに行かないことばかりです。
100人いれば100通りの相続があります。
遺言書や相続放棄で困ったら、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄しても遺族年金
1相続放棄をしても相続財産以外は受け取りができる
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
相続財産というとプラスの財産だけイメージしがちですが、マイナスの財産も含まれます。
マイナスの財産が多い場合、相続放棄をすることができます。
法律で定められた一定の条件にあてはまるときは、単純承認したとみなされます。
単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐものです。
単純承認とみなされたら、相続放棄はできません。
被相続人が払うべきお金を相続財産から支払う場合、単純承認とみなされます。
相続財産を処分したと判断されるからです。
被相続人が払うべきお金であっても、相続人が自分の財産から払う場合、単純承認とみなされません。
被相続人が死亡したことをきっかけに受け取るお金には、被相続人の財産を引き継ぐものと相続人自身の固有の権利として受け取るものがあります。
被相続人の財産を引き継ぐ場合、単純承認とみなされます。
相続人自身の固有の権利として受け取る場合、単純承認とみなされません。
相続放棄をした場合、相続財産を受け取ることはできませんが、相続財産以外であれば受け取ることができます。
2相続放棄をしても遺族年金を受け取ることができる
遺族年金は、年金に加入していた人が死亡したときに遺族に対して支給される年金です。
遺族年金を受け取る権利は、相続財産ではありません。
被相続人の死亡をきっかけにして、遺族に対して支給されます。
被相続人が生前に遺族年金の受給権を得てはいませんから、被相続人から受け継ぐものではありません。
遺族年金の受給権は、遺族の固有の権利です。
被相続人から相続するものではないから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、遺族年金を受け取ることができます。
遺族年金を請求しても、相続財産を消費したと判断されることはありません。
相続財産を消費した場合、相続の単純承認をしたと判断されます。
遺族年金を受け取っても、相続の単純承認をしたと言われることはありません。
遺族年金を受け取る権利は、相続財産ではなく遺族の固有の財産だからです。
相続放棄をした後に遺族年金を請求した場合、相続放棄が無効になることはないし、遺族年金が取り消されることはありません。
遺族年金を受け取った後に相続放棄をした場合、相続放棄が無効になることはないし、遺族年金が取り消されることはありません。
遺族年金の受給権は、遺族の固有の権利だから、相続放棄とは無関係です。
すでに相続放棄をした場合でも、これから相続放棄をするつもりでも、遺族年金を受け取ることができます。
3遺族年金等を受け取る方法
遺族年金を受け取るための条件をすべて満たしている場合、遺族年金を受け取ることができます。
①遺族基礎年金
次の要件のいずれかを満たしている人が死亡した場合、遺族基礎年金が支給されます。
(1)国民年金加入中の人
(2)国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた人
(3)老齢基礎年金の受給権がある人
(4)老齢基礎年金の受給資格を満たした人
(1) (2)においては、保険料納付済期間等が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
死亡日が令和8年3月31日までのときは、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされます。
直近1年間に保険料の未納がなければよいのは、死亡した人が65歳未満の場合です。
(3) (4) においては、保険料納付済期間等が25年以上あることが必要です。
遺族基礎年金を受け取ることができるのは、次の人です。
(1)子のある配偶者
(2)子
子は、18歳になった年度の3月31日までになる人、または、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を指します。
子は、婚姻していない場合に限ります。
子のある配偶者が遺族年金を受け取っている場合、子は支給停止になります。
厚生年金加入者は、国民年金2号被保険者として国民年金加入者です。
厚生年金加入者が死亡した場合、条件を満たせば、遺族厚生年金を一緒に受け取ることができます。
②寡婦年金
遺族基礎年金を受け取る条件を満たせない場合であっても、寡婦年金を受け取ることができる場合があります。
寡婦年金を受け取る条件は次のとおりです。
(1)死亡した人が夫であること
(2)死亡した夫に国民年金1号被保険者期間があること
(3)死亡した夫の国民年金1号被保険者期間の保険料納付済期間等が10年(平成29年7月31日以前の死亡の場合25年)以上あること
(4)死亡した夫と10年以上継続して、婚姻関係にあること
(5)死亡した夫に生計を維持されていた妻であること
(6)妻の年齢が60歳から65歳までの間であること
(7)死亡した夫が老齢基礎年金や障害基礎年金を受けていないこと
(8)妻が老齢年金を繰り上げ支給されていないこと
③死亡一時金
死亡一時金は、文字どおり一度だけ支給されます。
年金ではありません。
死亡一時金を受け取る条件は次のとおりです。
(1)死亡した人に国民年金1号被保険者があること
(2)死亡した人の国民年金1号被保険者期間の保険料納付済期間等が36か月以上あること
(3)死亡した人が老齢基礎年金や障害基礎年金を受けていないこと
(4)遺族が遺族基礎年金を受けることができないこと
寡婦年金を受け取る権利がある場合、どちらかを選択することができます。
死亡一時金を受け取る権利は、死亡日の翌日から2年で時効で消滅します。
死亡一時金を受け取ることができる人は次のとおりです。
(1)配偶者
(2)子
(3)父母
(4)孫
(5)祖父母
(6)兄弟姉妹
優先順位の高い人が一度だけ請求することができます。
④遺族厚生年金
次の要件のいずれかを満たしている人が死亡した場合、遺族厚生年金が支給されます。
(1) 厚生年金加入中の人
(2)厚生年金加入中に初診日のある病気やけがで初診日から5年以内に死亡した人
(3)1級2級の障害厚生年金を受給中の人
(4)老齢厚生年金の受給権がある人
(5)老齢厚生年金の受給資格を満たした人
(1) (2)においては、保険料納付済期間等が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
死亡日が令和8年3月31日までのときは、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされます。
直近1年間に保険料の未納がなければよいのは、死亡した人が65歳未満の場合です。
(4) (5)においては、保険料納付済期間等が25年以上あることが必要です。
遺族厚生年金を受け取ることができるのは、次の人です。
(1)子のある妻、子のある55歳以上の夫、子
(2)子のない妻、子のない55歳以上の夫、
(3)55歳以上の父母
(4)孫
(5)55歳以上の祖父母
(2)子のない30歳未満の妻は5年のみ受給ができます。
(1)子(4)孫は、18歳になった年度の3月31日までになる人、または、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を指します。
夫、父母、祖父母の受給開始は、60歳からです。
夫が遺族基礎年金と併給できる場合、55~60歳の間は遺族厚生年金を受け取ることができます。
4確定拠出年金の死亡一時金は5年以内なら受け取りができる
被相続人が確定拠出年金を積み立てている場合があります。
確定拠出年金を積み立てていた場合、死亡一時金が支給されます。
確定拠出年金の死亡一時金を受け取る権利は、相続発生後5年以内は受取人の固有の財産です。
確定拠出年金に加入した後、死亡一時金の受取人を指定することができます。
相続発生後5年以内であれば、相続放棄をしても確定拠出年金の死亡一時金を受け取ることができます。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続きで、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は撤回ができないので、慎重に判断する必要があります。
せっかく、相続放棄が認められても、相続財産を処分した判断されたら無効になりかねません。
このような行為をしてしまわないように、予め知識を付けておく必要があります。
相続放棄を自分で手続きしたい人の中には、相続放棄が無効になることまで考えていない場合が多いです。
司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。
せっかく手続きしても、相続放棄が無効になったら意味がありません。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
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