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1法定相続人と遺留分権利者とは
相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になる人は、次のとおりです。
②~④の場合、先順位の人がいる場合、後順位の人は相続人になれません。
①配偶者は必ず相続人になる
②被相続人に子どもがいる場合、子ども
③被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
④被相続人に子どもがいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
相続人になるはずだった人が被相続人より先に死亡したため、相続人になるはずだった人の子どもや子どもの子どもが相続します。
このような相続を代襲相続と言います。
遺留分は①配偶者②子ども③直系尊属に認められます。
④兄弟姉妹は遺留分がありません。
遺留分が認められる人のことを遺留分権利者と言います。
代襲相続があった場合、法定相続分と遺留分は受け継がれます。
④兄弟姉妹は遺留分がありませんから、兄弟姉妹が被相続人より先に死亡したため、兄弟姉妹の子どもが相続する場合、兄弟姉妹の子どもは遺留分がありません。
故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を殺害した人や殺害しようとした人などは、相続欠格者となります。
相続欠格者は相続資格を失いますから、遺留分も失います。
被相続人に対して、虐待や重大な侮辱をした人は、廃除されます。
相続廃除者は相続資格を失いますから、遺留分も失います。
2絶縁しても絶交しても相続人
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になるかどうかは、法律の定めで決まります。
被相続人と絶縁していても、相続人になるかどうかとは関係ありません。
絶縁していたとか、絶交していたとかいう事情は、法律の定めとは無関係です。
たとえ何十年も音信不通でも親子は親子です。
何十年も会っていなくても兄弟姉妹は兄弟姉妹です。
子どもが重大な親不孝をした場合に、親が子どもを勘当にすることがあります。
子どもを勘当にして、絶縁状を作ることがあります。
絶縁状を配達証明付き内容証明郵便で送られてきても、法的な効力はありません。
家の敷居をまたぐなとか、お葬式に呼ばないなども法的効力はありません。
生まれる前に父母が離婚したので、一度も被相続人に会ったことがない人もいます。
生まれてから一度も会ったことがなくても、子どもであることには変わりはありません。
3相続させたくない場合は廃除の申立て
被相続人を虐待したなど重大な理由がある場合、相続をさせたくないと考えることは自然と言えます。
絶縁状に法的な効力はありません。
家の敷居をまたぐなとか、お葬式に呼ばないなども法的効力はありません。
生きている間、交際をしない宣言に過ぎません。
相続をさせたくないと思ったら、まず、遺言書に虐待などをした相続人に相続をさせないと書くことが思い浮かぶでしょう。
虐待などをした相続人が兄弟姉妹であれば、遺言書を作成することで相続させないことが実現できます。
配偶者、子ども、親などの直系尊属に関しては、遺言書に書くだけでは不十分です。
兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺留分があるからです。
遺言書を書いても、遺留分を奪うことはできません。
遺留分侵害額請求をしたら、相続財産のいくらかは虐待した相続人が受け継いでしまいます。
被相続人の意思で、相続人の資格を奪うのが、相続人廃除です。
相続人の資格を奪うというのは、実質的には、遺留分を奪うことです。
相続人廃除は家庭裁判所に申立てをして、家庭裁判所が判断します。
相続人が廃除されると、遺留分が奪われます。
相続人廃除の申立は被相続人が生前に申立てることもできるし、遺言書で行うこともできます。
遺言書で相続人廃除の意思表示を行った場合、相続が発生した後、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行います。
遺言書で遺言執行者が選任されていない場合、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらわなければなりません。
4「相続させない」遺言はトラブルのもとになる
絶縁状を渡した子どもに相続させたくない場合、「〇〇に相続させない」という遺言書を書くことが考えられます。
①子どもには遺留分がある
絶縁していたとか、絶交していたとかいう事情は、法律の定めとは無関係です。
たとえ何十年も音信不通でも親子は親子です。
子どもは、相続人になります。
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分があります。
子どもには、遺留分があります。
絶縁状を渡していても、子どもは相続人になります。
音信不通でも、子どもには遺留分があります。
「〇〇に相続させない」という遺言書を書いた場合、家族のトラブルに発展するでしょう。
子どもは遺留分侵害額請求をすることができます。
②「相続させない」遺言は廃除の意思があるのか分からない
遺言書を書く場合は、内容を明確にしておかなければなりません。
「〇〇に相続させない」という遺言書は、遺言者の意思があいまいです。
(1)〇〇に財産を相続させないけど、遺留分侵害額請求をすることを認める。
(2)〇〇に財産を相続させないうえに、遺留分侵害額請求をすることも許さない。
「〇〇に相続させない」という遺言書は、(1)と(2)のいずれなのか分からないからです。
(2)「遺留分侵害額請求をすることも許さない」場合、遺言執行者は家庭裁判所に対して、相続人廃除の申立てをしなければなりません。
遺言書で遺言執行者を選任しておいても、明らかにトラブルになる遺言書であれば、就任をご辞退されるでしょう。
遺言執行者に選任しても、就任前であれば、ご辞退ができます。
「〇〇に相続させない」という遺言書の解釈をめぐって、家族のトラブルになるのは明らかです。
遺言書で遺言執行者が選任されていない場合、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらわなければなりません。
家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合、司法書士などの専門家が選ばれることがほとんどです。
家庭裁判所が選任した遺言執行者は家族の事情を全く知りません。
専門家は遺言執行者に選任されたら、遺言書に書いてあるとおりに相続人廃除の申立てをしてくれるでしょう。
相続人廃除の申立てをしてくれた場合であっても、相続人廃除が認められる可能性はとても低いでしょう。
家庭裁判所が選任した遺言執行者は、家族の事情を全く知らないからです。
家族の事情を全く知らない場合、相続人廃除が認められるような証拠を集めることは困難です。
家族のトラブルになるのは明らかですから、他の相続人が積極的に協力することは望めません。
被相続人は死亡していますから、家庭裁判所で証言することもできません。
(1)「遺留分侵害額請求をすることを認める」場合、遺留分に相当する財産を相続させる方がいいでしょう。
相続させたくない気持ちは分かりますが、家族をトラブルにしてまで相続させたくないのか充分に考える必要があります。
(2)「遺留分侵害額請求をすることも許さない」場合、生前に自ら相続人廃除の申立てをする方がいいでしょう。
家族の事情が分かっているから、証拠を集めることが容易です。
何よりも自ら家庭裁判所で証言することができますから、説得力が違います。
それでも家庭裁判所が廃除を認めることはめったにありません。
相続人廃除は、相続人の遺留分を奪う重大な決定だからです。
単に子どもが気に入らないとか、長期間会っていないからとか、再婚したから前婚の子どもには相続させたくないからなどの理由では認められません。
5遺言書を作れば兄弟姉妹に相続させないことができる
疎遠になっている兄弟姉妹より、配偶者に全財産を渡したい人も少なくありません。
兄弟姉妹には遺留分がありません。
配偶者に全財産を相続させる場合、兄弟姉妹は遺留分侵害額請求はできません。
財産を渡す相手は、親族以外でも構いません。
公益団体などに全財産を遺贈した場合でも、兄弟姉妹は何も言えません。
遺言書を作れば、兄弟姉妹に相続をさせないことが実現できます。
6遺言書作成を司法書士に依頼するメリット
疎遠になっている相続人に相続させたくない人は少なくありません。
自分の財産は、原則として、自分の思いどおりに処分することができます。
だから、自分の財産を自分の思いどおりに相続させたいと思うのでしょう。
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分があります。
遺留分は、遺言書によっても侵害することはできません。
被相続人の名義になっている財産であっても家族の協力によって築いたものだからです。
遺留分を侵害するような遺言書は、トラブルに発展することが予想されます。
生前贈与して相続財産を減らせばよいと指南する自称専門家も散見します。
生前贈与に対して、遺留分侵害額請求をすることができます。
生命保険契約をして相続財産を減らせばよいと指南する自称専門家も散見します。
過大な生命保険に対して、遺留分侵害額請求をすることができます。
被相続人の財産は家族の協力があって築くことができたもののはずです。
すべてを自分の思いどおりにするより、家族へ感謝を伝えてあげる方が家族を幸せにすることができます。
一生をかけて築いた財産は、家族を幸せにするためのものだったでしょう。
せっかく築き上げた財産で家族がトラブルになったら、空しい苦労になります。
疎遠になっている相続人にも感謝を伝えてあげることで、家族も自分も幸せにすることができます。
トラブルになりにくい遺言書作成を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。