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相続放棄は家庭裁判所で手続
1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は被相続人ごとに判断できますから、例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は相続人ごとに判断しますから、例えば、父の相続ついて長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2相続放棄は家庭裁判所で手続
①相続放棄の管轄は被相続人の最後の住所地
相続放棄は、本来、家庭裁判所に対する手続です。
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
申立てをする先の家庭裁判所は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所です。
相続が開始した地とは、被相続人の最後の住所地です。
裁判所のホームページで管轄する家庭裁判所を調べることができます。
被相続人の最後の住所地が分からない場合、被相続人の除票や戸籍の附票を取得すると判明します。
被相続人の除票は、被相続人が住民票を置いていた市区町村役場に請求します。
被相続人の戸籍の附票は、被相続人の本籍地の市区町村役場に請求します。
被相続人に関する情報が全く分からない場合、自分の戸籍謄本を取得して順にたどっていきます。
被相続人の戸籍までたどり着いたら、被相続人の本籍地が判明します。
除票や戸籍の附票は、永年保管ではありません。
今でこそ保存期間は150年ですが、令和元年までは5年でした。
保存期間が経過した書類は、順次廃棄されます。
被相続人の除票や戸籍の附票を取得できない場合、死亡届の記載事項証明書で住所を調べることができます。
古い死亡届は、法務局が保管しています。
法務局は、市区町村役場から送付を受けた年度の翌年から27年間保管しています。
戸籍の附票や住民票が廃棄された後でも、死亡届の記載事項証明書を取得できることがあります。
相続放棄をしたい旨の申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
②相続放棄の期限は知ってから3か月
相続放棄は、家庭裁判所に申立てをする必要があります。
申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。
被相続人が死亡してから3か月以内ではなく、相続財産を相続することを知ってから3か月以内です。
相続放棄ができる期間は3か月を知らないまま3か月経過した場合、相続放棄は認められません。
法律の定めを知らなくても、3か月過ぎてしまえば、単純承認になります。
単純承認になったら、相続放棄は認められません。
③相続放棄の期限は延長してもらえる
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
被相続人の財産状況を詳しく知らない場合、3か月はあっという間です。
相続放棄をするべきか単純承認をするべきか判断するために時間がかかる場合があります。
相続放棄をするべきか単純承認をするべきか判断するための資料を集めるため、相続放棄の期間3か月を延長してもらうことができます。
相続放棄の期間3か月を延長してもらうことを相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てと言います。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てを受け付けた場合、家庭裁判所が期間延長を認めるか判断します。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てには、期間内に相続放棄をすべきか単純承認すべきが判断ができない具体的理由や延長が必要な期間を記載します。
判断ができない具体的理由を根拠づける資料を添付して、説得力を持たせるといいでしょう。
期間延長の必要性や理由が妥当なものであると家庭裁判所に納得してもらうことが重要です。
家庭裁判所で期間延長が認められた場合、原則として3か月延長されます。
④相続放棄は郵送で手続できる
相続放棄の申立てをする先の家庭裁判所は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所です。
相続が開始した地とは、被相続人の最後の住所地です。
相続人の住所地を管轄する家庭裁判所ではありません。
被相続人の最後の住所地が相続人の住所地からはるか遠方であることがあります。
相続放棄申述書は、家庭裁判所に出向いて提出することができるし郵送で提出することができます。
郵送する場合は、期限に間に合うように余裕を持って提出しましょう。
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
普通郵便で送った場合、家庭裁判所に届いたか分かりません。
郵便が迷子になると、探せなくなります。
書留やレターパックなど記録の残る郵便は、追跡番号で探してもらうことができます。
郵送するときは、記録の残る郵便で提出することをおすすめします。
⑤家庭裁判所から照会文書が届く
家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをすると、相続放棄照会書が届きます。
相続放棄照会書とは、家庭裁判所から届く相続放棄についての意思確認です。
相続放棄照会書は、家庭裁判所によって名前が違うことがあります。
相続放棄は、影響の大きい手続なので間違いがないように慎重に確認します。
万が一、不適切な回答をすると相続放棄を認めてもらえなくなるかもしれません。
相続放棄の申立ての内容と食い違いが出ないように、書類を提出する前に控えをとっておくといいでしょう。
質問内容は、難しいものではありません。
事実をありのままに書けばいいでしょう。
被相続人が死亡してから3か月以上経過してから申立てをした場合、いつ死亡の事実を知ったかが重要なポイントになります。
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内だからです。
相続があったことを知ってからですから、知らなかったのであれば3か月がスタートしません。
相続があったことを知ってから3か月以内であれば、相続放棄ができます。
家庭裁判所は、相続があったことを知ったのがいつなのか分かりません。
相続放棄照会書に対して回答する場合、いつ知ったのかを具体的に記載します。
何らかの書類が届いたことによって、自己のために相続があったことを知ったのであれば、この書類は重要な証拠になります。
回答書に添付して提出するといいでしょう。
電話連絡であれば電話連絡で知ったと書けば差し支えありません。
⑥相続放棄申述受理通知書で完了
相続放棄の申立てを受け付けた後、家庭裁判所は認めるか認めないか審査します。
相続放棄を認める判断をした場合、本人に対して、相続放棄申述受理通知書を送ります。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄を認めましたよという本人あてのお知らせです。
相続放棄申述受理通知書が届けば、相続手続は完了です。
相続放棄を認めた場合、家庭裁判所は本人にだけ通知をします。
家庭裁判所から、他の相続人や債権者などに自主的に相続放棄を認めましたと通知することはありません。
債権者などは、相続放棄が認められたことを知りません。
何も知らないから相続人に借金を返してもらおうと考えて、催促をしてきます。
相続放棄が認められたから、被相続人の借金を相続しません。
債権者に相続放棄受理通知書を見せると、分かってくれるでしょう。
相続放棄受理通知書は、本人あてのお知らせです。
いったん本人にお知らせをしたらお知らせは完了するから、再発行はされません。
相続放棄申述受理通知書の原本は保管しておいて、コピーを渡すといいでしょう。
多くの場合、相続放棄申述受理通知書のコピーを渡せば充分です。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまっても、相続放棄は無効になりません。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまった場合、家庭裁判所で相続放棄の証明をしてもらうことができます。
相続放棄の証明を相続放棄申述受理証明書と言います。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄をした人だけでなく債権者や他の相続人など法律上の利害関係がある人は取得することができます。
債権者などの利害関係人は、自分で相続放棄申述受理証明書を取り寄せることができます。
3家庭裁判所で手続しないと相続放棄はできない
①家庭裁判所で相続放棄をしたら相続人でなくなる
相続放棄は、本来、家庭裁判所に対する手続です。
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。
被相続人の債権者は、被相続人の借金を払って欲しいと請求することはできません。
②遺産分割協議で相続放棄はできない
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
被相続人の財産は、プラスの財産もマイナスの財産も相続財産になります。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議において、一部の相続人が相続財産の受け取りをご辞退することがあります。
相続財産の受け取りをご辞退した人は、相続放棄をしたと表現するかもしれません。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いでご辞退しても、相続放棄ではありません。
相続放棄は、家庭裁判所で手続が必要だからです。
家庭裁判所で認めてもらわないと、相続放棄の効果は得られません。
③相続財産をご辞退しても借金を相続
相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。
被相続人の債権者は、被相続人の借金を払って欲しいと請求することはできません。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いでご辞退しても、相続放棄ではありません。
被相続人の債権者は、相続財産をご辞退した人に被相続人の借金を払って欲しいと請求することはできます。
相続財産の分け方についての相続人全員の合意事項は、相続人内部の合意に過ぎないからです。
相続人内部の合意事項だから、債権者などには関係ない話です。
債権者は、相続人全員に対して法定相続分で借金の返済を請求することができます。
相続財産の受け取りをご辞退すると相続人全員の合意で決めても、相続人のままです。
相続財産の受け取りをご辞退するする場合、プラスの財産を受け取っていないでしょう。
プラスの財産を受け取っていなくても、被相続人の借金は負担しなければなりません。
自称専門家は家庭裁判所で相続放棄の手続をするのは面倒だから、相続人間で決める方がいいとアドバイスしています。
自称専門家から自信満々に言われたら、信じてしまうかもしれません。
相続放棄と遺産分割協議は、別の手続です。
充分注意しましょう。
4相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられません。
家庭裁判所で相続放棄が認められたとしても、絶対的なものではありません。
相続放棄の要件を満たしていない場合、その後の裁判で相続放棄が否定されることもあり得ます。
相続が発生すると、家族はお葬式の手配から始まって膨大な手続きと身辺整理に追われます。
相続するのか、相続を放棄するのか充分に判断することなく、安易に相続財産に手を付けて、相続放棄ができなくなることがあります。
相続に関する手続の多くは、司法書士などの専門家に任せることができます。
手続を任せることで、大切な家族を追悼する余裕もできます。
相続人の調査や相続財産調査など適切に行って、充分に納得して手続を進めましょう。
相続放棄は3か月以内の制限があります。
3か月の期間内に手続をするのは思うよりハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
借金を知らなかったから相続放棄
1相続放棄は3か月以内に手続
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
相続放棄は、いつでもできるわけではありません。
相続人は、相続を単純承認するか相続放棄するか選択することができます。
相続を単純承認するか相続放棄するか決める期間を熟慮期間と言います。
熟慮期間は、3か月以内です。
相続放棄を希望する場合、熟慮期間内に家庭裁判所に必要書類を添えて手続をします。
2借金を知らなかったから相続放棄
①被相続人の死亡後3か月以内に相続放棄
相続放棄ができるのは3か月以内の制限があることは、比較的知られています。
熟慮期間は3か月だから、被相続人の死亡後3か月以内であれば熟慮期間中です。
被相続人の死亡後3か月以内に莫大な借金が見つかった場合、相続放棄の手続をすることができます。
②被相続人の死亡を知ってから3か月以内に相続放棄
被相続人や被相続人の家族と常時連絡を取っていた場合、被相続人の死亡はすぐに連絡されます。
さまざまな家庭の事情から、被相続人や被相続人の家族と疎遠になっている相続人がいるかもしれません。
被相続人や被相続人の家族と音信不通の場合、死亡直後に連絡はされないでしょう。
相続発生から長期間経過してから、相続発生を知ることがあります。
熟慮期間の起算点は、被相続人の死亡時ではありません。
知ってから、3か月以内です。
被相続人の死亡を知ってから3か月以内に莫大な借金が見つかった場合、相続放棄の手続をすることができます。
③自分が相続人と知ってから3か月以内に相続放棄
相続が発生した場合、相続人になる人は法律で決まっています。
相続人になる人は、次のとおりです。
(2)~(4)の場合、先順位の人がいる場合、後順位の人は相続人になれません。
(1)配偶者は必ず相続人になる
(2)被相続人に子どもがいる場合、子ども
(3)被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
(4)被相続人に子どももいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
相続放棄をすることができるのは、相続人のみです。
先順位の相続人がいる場合、後順位の人は相続放棄の手続をすることはできません。
先順位の相続人が相続放棄をした場合、はじめから相続人でなかったと扱われます。
先順位の相続人全員が相続放棄をして相続人でなくなった場合、相続放棄の手続をすることはできます。
被相続人の死亡を知った後、長期間経過してから相続人になることがあります。
先順位の相続人について家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、家庭裁判所は本人にだけ通知します。
家庭裁判所から自主的に次順位相続人に連絡することはありません。
先順位の相続人が積極的に相続放棄をしたことを連絡する義務はありません。
相続人になった後、長期間経過してから相続人になったことを知ることがあります。
熟慮期間の起算点は、被相続人の死亡時ではありません。
知ってから、3か月以内です。
相続人になったことを知ってから3か月以内の場合、相続放棄の手続をすることができます。
④借金を相続すると知ってから3か月以内に相続放棄
相続が発生した場合、被相続人のものは相続財産になります。
相続財産には、プラスの財産もマイナスの財産も含まれます。
被相続人と別居していた場合、被相続人の経済状況を詳しく知らないことがほとんどでしょう。
被相続人の自宅などで重要な書類を探しても何も見つからなかった場合、めぼしい財産はないと判断するのも止むを得ません。
めぼしい財産はないと思っていたのに長期間経過してから、借金の支払いの催促を受けることがあります。
熟慮期間の起算点は、被相続人の死亡時ではありません。
知ってから、3か月以内です。
借金を相続すると知ってから3か月以内の場合、相続放棄の手続をすることができます。
⑤上申書を提出して3か月以内を説明
相続放棄を希望する場合、熟慮期間内に家庭裁判所に必要書類を添えて手続をします。
必要書類は、戸籍謄本や除票などです。
家庭裁判所は、提出された書類を見て審査をします。
被相続人の死亡後3か月以上経過しているのに、熟慮期間内であることがあります。
熟慮期間の起算点は、知ってからだからです。
提出された戸籍謄本や除票を見ても、いつ相続人になったことを知ったのか分かりません。
いつ借金の存在を知ったのか家庭裁判所には伝わりません。
被相続人の死亡後3か月以上経過している場合、詳しい事情を分かってもらう必要があります。
詳しい事情を記載した上申書を添えて、家庭裁判所を説得します。
何らかの手紙を受け取ったことで相続人であることや借金の存在を知ったのであれば、この手紙は重要です。
相続人であることや借金の存在を知った証拠になるからです。
この手紙を一緒に家庭裁判所に提出すると説得力が増します。
家庭裁判所が納得してくれた場合、相続放棄が認められます。
3遺産がないと信じることに相当な理由がある
①単に知らなかっただけは認められない
相続放棄ができるのは、3か月以内の制限があります。
被相続人が死亡したことと自分が相続人になったことの両方を知ってから、3か月以内に手続をしなければなりません。
悪質な貸金業者などは、被相続人が死亡してから3か月以上経過してから取立を開始することがあります。
相続人には、相続を単純承認するか相続放棄するか選択する権利があります。
被相続人が死亡してから3か月以上経過してから取立を開始した場合、相続人は借金の存在を知ることができません。
借金の存在を知らない場合、相続人は相続放棄をすることはないでしょう。
実質的に、相続放棄をする権利を奪っていると言えます。
相続人が相続放棄をする権利を不当に奪うことは、許されません。
特別な事情があると認められれば、相続放棄が認められます。
特別な事情とは、相続人が借金は存在しないと信じており、かつ、信じたことに正当な理由がある場合です。
単に、知らなかっただけでは、特別な事情とは認められません。
うっかりしていたなどの理由も、相続放棄が認められるのは難しいでしょう。
相続人が充分に調査をしても借金が判明しなかった場合や被相続人と音信不通であったなどの事情がある場合、信じたことに正当な理由があると認められるでしょう。
②被相続人の借金を調査する方法
相続人が借金は存在しないと信じており、かつ、信じたことに正当な理由がある場合、相続放棄をすることができます。
相続人は、充分な調査をしていたことを分かってもらう必要があります。
被相続人が借金をしていた場合、次の信用情報機関に調査をすることができます。
(1)消費者金融からの借入 日本信用情報機構(JICC)
(2)クレジット会社からの借入 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
(3)銀行からの借入 全国銀行協会全国銀行個人信用情報センター
信用情報機関に連帯保証人が登録されている場合があります。
信用情報機関に照会することで、被相続人が連帯保証人になっていたことが判明するかもしれません。
不動産がある場合、抵当権や根抵当権が登記されている場合があります。
不動産を担保として借入がある可能性が高いので必ず確認しましょう。
③個人間の貸し借りは分からない
個人間の貸し借りや金融業者以外の会社からの借り入れは、信用情報機関に登録されていません。
被相続人の保管していた書類を丹念に調べることになります。
④上申書を提出して相当な理由を説明
被相続人の死亡後3か月以上経過している場合で、かつ、借金の存在を知ってから3か月以内に相続放棄をする場合、上申書の提出が有効です。
熟慮期間の起算点は、知ってからだからです。
提出された戸籍謄本や除票を見ても、いつ借金の存在を知ったのか分かりません。
いつ借金の存在を知ったのか家庭裁判所には伝わりません。
被相続人の死亡後3か月以上経過している場合、詳しい事情を分かってもらう必要があります。
詳しい事情を記載した上申書を添えて、家庭裁判所を説得します。
4単純承認をしていると相続放棄はできない
相続人には、相続を単純承認するか相続放棄するか選択する権利があります。
法律で定められた一定の条件にあてはまるときは、単純承認したとみなされます。
単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐものです。
単純承認とみなされたら、相続放棄はできません。
被相続人が払うべきお金を相続財産から支払う場合、単純承認とみなされます。
相続財産を処分したと判断されるからです。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は撤回ができないので、慎重に判断する必要があります。
被相続人の死亡後3か月以内の相続放棄と較べると、3か月以上経過した相続放棄は難易度が高くなります。
認められる条件を満たしていても、書面で適切に表現しなければ伝わらないからです。
家庭裁判所が知りたいことを無視した作文では何の意味もありません。
相続放棄が認められる条件を満たしていることを家庭裁判所に納得してもらう必要があります。
相続放棄を自分で手続したい人の中には、戸籍や住民票だけで認められるとカンタンに考えている人がいます。
司法書士は、このような難易度が高い相続放棄にも対応しています。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
自己破産した人が相続放棄
1自己破産した人は相続人になる
①相続人になる人は法律で決まっている
相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になる人は次のとおりです。
(2)~(4)の場合、先順位の人がいる場合、後順位の人は相続人になれません。
(1)配偶者は必ず相続人になる
(2)被相続人に子どもがいる場合、子ども
(3)被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
(4)被相続人に子どももいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
②自己破産しても相続欠格にならない
相続欠格とは、相続人としてふさわしくない人の相続資格を奪う制度です。
相続人になれない人は、民法で決められています。
欠格になるのは、次のような理由がある人です。
(1) 故意に被相続人、同順位以上の相続人を死亡させた人、死亡させようとした人
(2) 被相続人が殺害されたのを知って、告訴や告発をしなかった人
(3) 詐欺・脅迫で遺言の取消・変更をさせたり、妨害した人
(4) 遺言書を偽造・変造・廃棄・隠匿した人
相続人が自己破産をしただけであれば、欠格になることはありません。
③自己破産しても相続人廃除できない
相続人廃除とは、被相続人の意思で、相続人の資格を奪う制度です。
相続人の資格を奪うというのは、実質的には、遺留分を奪うことです。
相続人の廃除は遺留分を奪う重大な決定だから、家庭裁判所は慎重に判断します。
相続人の廃除は、次のような理由があるときに認められます。
(1)被相続人に虐待をした
(2)度重なる重大な親不孝をした
(3)被相続に重大な侮辱をした
(4)重大犯罪をして有罪判決を受けた
(5)多額の借金を被相続人に払わせた
(6)愛人と暮らすなどの不貞行為をする配偶者
単に、相続人が自己破産をしただけであれば相続人廃除が認められることはないでしょう。
自己破産の理由によっては、廃除されるかもしれません。
2相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
被相続人に多額の借金がある場合、相続放棄を考えるといいでしょう。
自己破産をした人だから相続放棄をしなければならないといったことはありません。
相続放棄は、家庭裁判所に対して必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の申立てをします。
相続放棄の申立ては相続があったことを知ってから、原則として、3か月以内にする必要があります。
3自己破産をすると破産者の財産は債権者に配当される
自己破産とは、借金の支払を免除してもらう手続のことです。
破産者のプラスの財産を債権者に公平に分配して、マイナスの財産をなしにします。
マイナスの財産の財産が無くなるから、人生のやり直しの機会を得ることができます。
自己破産では、自己破産の申立ての後に破産手続開始決定がされます。
破産手続開始決定がされた後、相続が発生しても破産手続が取り消されたり止まったりすることはありません。
4相続が発生した後に破産手続開始決定がされた場合
相続人が自己破産する場合、相続人は多額の借金があります。
被相続人に莫大なプラスの財産がある場合、相続人の債権者はプラスの財産から借金を返してもらいたいと期待するでしょう。
被相続人に莫大なプラスの財産があるのに、自己破産する相続人が相続放棄をすることがあります。
相続放棄をした場合、通常であれば、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐことがありません。
プラスの財産もマイナスの財産も受け継がないとすると、債権者の利益が損なわれることになります。
そこで債権者の利益を確保するため、破産手続開始決定後の相続放棄は限定承認として効力が認められます。
限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続するものです。
破産手続開始決定がされた時点で、破産者のプラスの財産は債権者に公平に分配されます。
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続した後、債権者に公平に分配されます。
自己破産した人の相続分が債権者に回収されて分配されてしまいます。
相続財産には、自宅不動産など分けにくいものもあるでしょう。
自己破産した人の相続分を回収するため、自宅を売却することになることがあります。
売却手続などを必要とする管財手続になった場合、手続に費用と時間がかかります。
被相続人に莫大なプラスの財産があるだけでなく圧倒的なマイナスの財産がある場合があります。
圧倒的なマイナスの財産がある場合まで、限定承認として手続するのは面倒です。
破産管財人は、相続放棄があったことを知ってから3か月以内に相続放棄のままでいいと家庭裁判所に申立てをすることができます。
破産手続開始決定前の相続放棄は、通常どおり、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐことがありません。
5破産手続開始決定がされた後に相続が発生した場合
破産手続開始決定がされた後に取得した財産は、破産手続と関係がありません。
債権者に公平に分配される財産は、破産手続開始決定がされた時点の財産だからです。
破産手続開始決定以降に取得した財産は、破産者が自由に処分することができます。
自己破産の制度は、マイナスの財産の財産を無くして、人生のやり直しの機会を得るための制度だからです。
被相続人に莫大なプラスの財産がある場合、相続人は相続することができます。
もちろん、相続放棄をすることもできます。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
自己破産をするといろいろなことが制限されるというイメージがある方は少なくありません。
そのイメージとあいまって、相続することもできないという誤解があります。
自己破産をしても相続権は失われません。
自己破産をしたから相続放棄をしなければならないといったことはありません。
自己破産を検討しているのであれば、早めに準備を進めるのがいいでしょう。
相続の発生が予想されるのであれば、なおさら早めに破産手続き始決定を受けておくことを目指しましょう。
破産手続開始決定を受けた後であれば、取得した財産は破産手続とは無関係になるからです。
大切な家族を失ったら家族は大きな悲しみに包まれます。
大きな悲しみで何もする気になれないことも多いでしょう。
相続手続は一生に何度も経験するものではありません。
だれにとっても不慣れでだれにとっても聞き慣れない言葉でいっぱいです。
相続放棄をはじめとして相続手続全般をサポートしています。
相続放棄を検討している方は、すみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
損害賠償債務があっても相続放棄
1損害賠償債務とは
社会生活を送っていると、わざとでなくても他の人のものを壊してしまったりケガをさせてしまったりすることがあります。
法律や契約に違反して、損害を与えてしまうこともあるでしょう。
他の人の財産や身体に損害を与えてしまった場合、損害を償う必要があります。
損害を償う義務が損害賠償債務です。
物を壊してしまったときの修理代やケガをさせてしまったときの治療費は、損害賠償債務です。
2損害賠償債務は相続放棄ができる
①マイナスの財産もプラスの財産も相続財産
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産というとプラスの財産だけをイメージしがちですが、マイナスの財産も相続財産です。
被相続人が他の人の財産や身体に損害を与えてしまった場合、相続人が損害を賠償しなければなりません。
例えば、交通事故で被害者にケガをさせてしまった場合、被害者の治療費や慰謝料などを負担することになります。
例えば、ビルの高層階から転落して地上の施設を破壊した場合、施設の原状回復費用を賠償することになります。
この後に被相続人が死亡した場合、相続人が損害賠償債務を相続することになります。
②相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
③損害賠償債務は相続放棄ができる
被害者に大きなケガをさせてしまった場合、被害額が高額になることがあります。
相続人は家庭裁判所で相続放棄の申立てをすることができます。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、損害賠償債務を免れることができます。
相続放棄をした場合、プラスの財産も相続することができなくなります。
相続によって巨額の債務を相続することになると、相続人の人生が破綻してしまいます。
相続放棄の制度は、相続人の人生が破綻しないように相続人を守るためにあります。
相続人が損害賠償債務を免れると、被害者に酷だという意見があるでしょう。
家族が責任を取るべきだと考えるかもしれません。
相続放棄は、相続人の人生を守るためにあるから、やむを得ないと言えます。
3損害賠償額が分からなくても相続放棄をすることができる
相続放棄の申立ては、家庭裁判所に対して手続をします。
家庭裁判所に提出する相続放棄申述書を見ると、相続財産の概略を記載する欄があります。
相続財産の概略で資産と負債の書く様式になっています。
資産と負債を記載しなければならないように感じるかもしれません。
相続財産の概略は、相続人の分かる範囲で記載すれば充分です。
分からなければ、分かりませんと書いて問題はありません。
例えば、鉄道におけるホームからの転落事故など賠償額が甚大になる場合、鉄道会社であっても賠償額はすぐには判明しません。
調査を終えないと、被害額を計算することができないからです。
鉄道会社が損害額を計算するためには、長期間かかるのが通常です。
相続放棄の期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。
被相続人にめぼしいプラスの財産がなく、かつ、明らかに甚大な損害賠償債務がある場合、相続放棄の手続をするといいでしょう。
4自己破産の場合は免責されない債務がある
損害賠償額が甚大である場合、まず相続放棄をすることが最初の選択肢です。
相続放棄ができなかった場合、相続してしまった相続人が自己破産をする方法が考えられます。
自己破産をする場合、債務のすべてが免責されるとは限りません。
他の人の生命や身体に対して損害を与えた場合で、かつ、故意や重大な過失がある場合、その損害賠償債務は免責されません。
被相続人が故意や重大な過失で他の人の生命や身体に対して損害を与えた場合であっても、相続人は相続放棄をすることで、損害賠償債務を免れることができます。
相続放棄は、自己破産と較べると強い効力があります。
5相続放棄をした後に自己の財産から支払をすることができる
①相続放棄が認められたら支払いは不要
相続放棄が認められた場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことはありません。
損害を賠償して欲しいと要求されても、応じる必要はありません。
②相続放棄申述受理通知書の提示が有効
相続放棄が認められたと口頭で伝えるだけでは、信用してもらえないかもしれません。
家庭裁判所が相続放棄を認めた場合、相続放棄申述受理通知書を送ってきます。
相続放棄申述受理通知書のコピーを提示すると納得してもらうことができるでしょう。
③相続放棄をした後に自己の財産から支払をすることができる
相続放棄が認められた場合、本人の債務を引き継ぐことはありません。
債務の支払義務はなくても、家族が迷惑をかけたのだから、いくらか支払いたい場合があります。
相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。
本人の預貯金で支払をした場合、相続財産を処分したと判断されるおそれがあります。
相続財産を処分した場合であっても、保存行為にあたる場合は、単純承認したとみなされません。
あえてトラブルに巻き込まれる危険を冒す必要はありません。
相続人の固有の財産から支払をした場合、相続財産を処分したと言われることはありません。
家族が迷惑をかけたのだから、被害者に支払いたい場合、相続人の固有の財産から支払をすることをおすすめします。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄では、戸籍や住民票が必要になります。
お仕事や家事、通院などでお忙しい人には平日の昼間に役所にお出かけになって準備するのは負担が大きいものです。
戸籍や住民票は郵便による取り寄せもできますが、書類の不備などによる問い合わせはやはり役所の業務時間中の対応が必要になりますから、やはり負担は軽いとは言えません。
このような戸籍や住民票の取り寄せも司法書士は代行します。
3か月の期限が差し迫っている方や期限が過ぎてしまっている方は、すみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄の熟慮期間3か月を延長
1相続放棄は家庭裁判所へ手続
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄は、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する旨の申立てをします。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続が発生した場合、被相続人の財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決めます。
相続人の中には、プラスの財産をまったく受け取らないことがあります。
相続人全員が合意できれば、財産をまったく受け取らない合意をすることができます。
プラスの財産をまったく受け取らないことを相続放棄をしたと表現することがあります。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いは、遺産分割協議を言います。
プラスの財産をまったく受け取らない合意をする場合でも、遺産分割協議です。
プラスの財産をまったく受け取らない合意は、相続放棄と表現しても相続放棄ではありません。
相続放棄は、家庭裁判所に対して申立てが必要な手続だからです。
2熟慮期間は原則3か月
①相続放棄の期間3か月のスタートは知ってから
相続放棄は、家庭裁判所に申立てをする必要があります。
相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
相続があったことを知ってから3か月以内の期間のことを熟慮期間と言います。
「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。
被相続人が死亡してから3か月以内ではなく、相続財産を相続することを知ってから3か月以内です。
3か月以内に戸籍や住民票などの必要書類を揃えて管轄の家庭裁判所に提出しなければなりません。
②熟慮期間3か月経過すると単純承認
相続放棄の申立てができるのは、3か月以内です。
3か月が経過すると、相続放棄の申立てができなくなります。
熟慮期間3か月経過すると、単純承認するしか選択肢がなくなります。
単純承認をする場合、手続はありません。
熟慮期間中に何もしなかった場合、自動的に単純承認になります。
3熟慮期間3か月は延長してもらえる
①相続の承認または放棄の期間の伸長の申立て
相続放棄は家庭裁判所に申立てをする必要があります。
この申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
被相続人の財産状況を詳しく知らない場合、3か月はあっという間です。
相続放棄をするべきか単純承認をするべきか判断するために時間がかかる場合があります。
相続放棄をするべきか単純承認をするべきか判断するための資料を集めるため、相続放棄の期間3か月を延長してもらうことができます。
相続放棄の期間3か月を延長してもらうことを相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てと言います。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てを受け付けた場合、家庭裁判所が期間延長を認めるか判断します。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てには、期間内に相続放棄をすべきか単純承認すべきが判断ができない具体的理由や延長が必要な期間を記載します。
判断ができない具体的理由を根拠づける資料を添付して、説得力を持たせるといいでしょう。
期間延長の必要性や理由が妥当なものであると家庭裁判所に納得してもらうことが重要です。
家庭裁判所で期間延長が認められた場合、原則として3か月延長されます。
②相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てができる人
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立ての申立人は、次のとおりです。
(1)利害関係人
(2)検察官
利害関係人には、相続人も含まれます。
③相続の承認または放棄の期間の伸長の申立ての申立先
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立書は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで調べることができます。
④相続の承認または放棄の期間の伸長の申立ての申立費用
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てには手数料がかかります。
手数料は、申立書に収入印紙を貼り付けて納入します。
収入印紙は貼り付けるだけで、消印は裁判所の人がします。
収入印紙は、郵便局やコンビニエンスストアで購入することができます。
手数料の他に、家庭裁判所で使う連絡用の郵便切手を納入します。
必要な郵便切手の金額や枚数は、家庭裁判所によって異なります。
⑤相続の承認または放棄の期間の伸長の申立ての必要書類
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立書の必要書類は、次のとおりです。
(1)被相続人の住民票除票又は戸籍附票
(2)利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料
(3)伸長を求める相続人の戸籍謄本
(4)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(5)相続人であることを証明する戸籍謄本
4ルールを知らなかったときは延長されない
①熟慮期間3か月を知らなかった
相続放棄の申立てができるのは、3か月以内です。
3か月が経過すると、相続放棄の申立てができなくなります。
相続手続は、何度も経験するものではありません。
だれにとってもはじめてで、不慣れなことばかりです。
相続放棄ができる熟慮期間は3か月というルールを知らないことがあります。
相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てを受け付けた場合、熟慮期間の延長を認めるか認めないか家庭裁判所が判断します。
熟慮期間の延長を認めるか判断するときに、ルールを知らなかったという点は考慮されません。
②家庭裁判所に手続が必要であることを知らなかった
相続放棄は、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する旨の申立てをします。
家庭裁判所が相続放棄を認める決定をしたときだけ、相続放棄になります。
相続が発生した場合、被相続人のものは相続人全員の共有財産になります。
相続財産を分けるには、相続人全員の合意が必要です。
相続財産の分け方を決めるための相続人全員による話し合いを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議で、プラスの財産を受け取らないと申し入れをすることがあります。
プラスの財産を何も受け取らないという合意も有効な合意です。
プラスの財産を受け取らない合意をした場合、相続放棄をしたと表現することがあります。
相続放棄をしたと表現しても、相続放棄ではありません。
家庭裁判所に手続をしていないからです。
家庭裁判所で相続放棄が認められていないから、相続放棄の効果はありません。
相続放棄は家庭裁判所で手続が必要であるというルールを知らないケースと言えます。
熟慮期間の延長を認めるか判断するときに、ルールを知らなかったという点は考慮されません。
5熟慮期間3か月の延長が認められるケース
①書類が揃わないケース
相続放棄は、必要な書類を添えて相続放棄を希望する旨の申立てをします。
相続放棄ができるのは、相続人だけです。
相続人でない人は、相続放棄の手続をすることができません。
後順位の相続人は、先順位の相続人がいないことが分かる戸籍を提出する必要があります。
先順位の相続人がいる場合、後順位の人は相続人ではないからです。
先順位の相続人がいないことを証明するために、たくさんの戸籍が必要になります。
例えば、被相続人に子どもがいないことを証明するためには被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を準備しなければなりません。
被相続人が本籍地を転々としていた場合、順番にたどる必要があります。
本籍地が遠方である場合、本籍地の市区町村役場に出向いて請求するのは難しいでしょう。
戸籍謄本は、郵送で取り寄せることができます。
郵送で取り寄せる場合、往復の郵便の時間がかかります。
熟慮期間3か月では、戸籍謄本が準備できないことが考えられます。
このような事情の場合、延長が認められやすいと言えます。
②財産調査に時間がかかるケース
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続人の気持ちとしては、プラスの財産が多ければ相続を承認したいでしょう。
マイナスの財産が多ければ相続放棄をしたいでしょう。
相続放棄をするか相続を単純承認するか判断するため、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を調査する必要があります。
被相続人と離れて住んでいた場合、被相続人の経済状況を詳細に知っていることはあまりありません。
マイナスの財産がたくさんある場合、時効が完成していることがあります。
借金の消滅時効が完成している場合、相続を単純承認して時効を援用することができます。
被相続人に複数の借金がある場合、一部の借金は消滅時効が完成していても他の借金は消滅時効が完成していないかもしれません。
不用意に消滅時効を援用した場合、相続放棄ができなくなります。
被相続人の借金の消滅時効を援用することは、相続財産の処分にあたるからです。
相続財産の処分は、相続の単純承認と見なされます。
相続を単純承認して時効を援用しようと考える場合、取引履歴を詳細に確認する必要があります。
取引履歴の調査には、時間がかかることが通常です。
熟慮期間3か月では、財産調査が間に合わないでしょう。
このような事情の場合、延長が認められやすいと言えます。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続が発生してから3か月以内に申立てができなかったのは止むを得なかったと家庭裁判所に納得してもらって、はじめて、家庭裁判所は相続放棄を認めてくれます。
通常は家庭裁判所に対して、上申書や事情説明書という書類を添えて、説得することになります。家庭裁判所が知りたいことを無視した作文やダラダラとした作文では認めてもらうことは難しいでしょう。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知していますから、認めてもらえやすい書類を作成することができます。
さらに、通常の相続放棄と同様に戸籍や住民票が必要になります。
お仕事や家事、通院などでお忙しい人には平日の昼間に役所にお出かけになって準備するのは負担が大きいものです。
戸籍や住民票は郵便による取り寄せもできますが、書類の不備などによる問い合わせはやはり役所の業務時間中の対応が必要になりますから、やはり負担は軽いとは言えません。
このような戸籍や住民票の取り寄せも司法書士は代行します。
3か月の期限が差し迫っている方や期限が過ぎてしまっている方は、すみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄で収入印紙と予納郵券
1相続放棄は家庭裁判所へ手続
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄は、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する旨の申立てをします。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続が発生した場合、被相続人の財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決めます。
相続人の中には、プラスの財産をまったく受け取らないことがあります。
相続人全員が合意できれば、財産をまったく受け取らない合意をすることができます。
プラスの財産をまったく受け取らないことを相続放棄をしたと表現することがあります。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いは、遺産分割協議を言います。
プラスの財産をまったく受け取らない合意をする場合でも、遺産分割協議です。
プラスの財産をまったく受け取らない合意は、相続放棄と表現しても相続放棄ではありません。
相続放棄は、家庭裁判所に対して申立てが必要な手続だからです。
2相続放棄の必要書類
相続放棄は、必要な書類を添えて相続放棄を希望する旨の申立てをします。
この申立ては、相続があったことを知ってから、原則として、3か月以内にする必要があります。
相続放棄を希望する旨の申立てを相続放棄申述書と言います。
相続放棄申述書に添付する書類は、次のとおりです。
①被相続人の戸籍謄本
②被相続人の除票
③相続放棄する人の戸籍謄本(3か月以内のもの)
④収入印紙
⑤裁判所が手続で使う郵便切手
基本的には①~⑤の書類を添えて届出をすれば充分ですが、場合に応じてこの他のものが必要になることがあります。
相続放棄申述書は、窓口に出向いて提出することもできるし郵送で提出することもできます。
提出書類や相続放棄申述書の書き方に不安な人は、家庭裁判所の受付で目を通してもらうと安心です。
3相続放棄の申立てで収入印紙が必要になる
①相続放棄の申立書に収入印紙800円貼付
相続放棄は、相続放棄申述書に必要な書類を添えて家庭裁判所に提出します。
相続放棄申述書の様式や記入例は、裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
家庭裁判所の窓口で受け取ることもできます。
相続放棄申述書の様式を見ると、右上に収入印紙の貼り付け欄があります。
相続放棄を希望する人1人あたり、収入印紙800円分必要です。
成年も未成年も、同じ金額です。
1枚で800円の収入印紙はありません。
400円の収入印紙2枚など複数の枚数で準備します。
複数の相続人がまとめて相続放棄をする場合、連名で相続放棄申述書を作成することはできません。
1人1通相続放棄申述書を作成します。
1通づつ収入印紙800円分貼り付けて納入します。
②収入印紙に消印をしない
収入印紙は、相続放棄をするときの手数料を納入するために貼り付けます。
手数料を受け取った家庭裁判所が消印を押します。
相続放棄を希望する人は、消印を押しません。
一般的に、領収書や契約書などに収入印紙を貼り付けます。
領収書や契約書などに収入印紙を貼り付けるのは、印紙税の課税文書だからです。
収入印紙を貼って消印をすることで、印紙税を納入します。
相続放棄をするときに収入印紙を貼るのは、手数料納入のためです。
印紙税の納入のためではないから、提出する人は消印を押してはいけません。
③収入印紙を購入できる場所
(1)郵便局
郵便局の郵便窓口で収入印紙を購入することができます。
大きな郵便局には、ゆうゆう窓口が設置されています。
ゆうゆう窓口も収入印紙を取り扱っています。
ゆうゆう窓口であれば24時間利用可能だから、好きなときに収入印紙を購入することができます。
(2)コンビニエンスストア
コンビニエンスストアは、いたるところにあり24時間営業しています。
昼間に時間が取れない人にとって、コンビニエンスストアで購入できるのは便利です。
コンビニエンスストアでは、主に200円印紙のみの取り扱いです。
収入印紙を4枚貼り付けることになります。
手間がかかりますが、貼り付けてあれば差し支えありません。
(3)法務局の印紙売りさばき窓口
法務局の印紙売りさばき窓口で収入印紙を購入することができます。
法務局の業務時間中のみ購入することができます。
(4)裁判所の売店
裁判所に売店が設置されていることがあります。
裁判所の売店で収入印紙を購入できることがあります。
裁判所の業務時間中のみ購入することができます。
名古屋家庭裁判所では、収入印紙を購入することはできません。
2相続放棄の申立てで予納郵券が必要になる
①予納郵券は裁判所が使う連絡用の切手
相続放棄の申立てをする場合、相続放棄申述書と一緒に予納郵券を提出します。
予納郵券とは、家庭裁判所が手続や連絡用で使う郵便切手のことです。
相続放棄申述書を提出した後、家庭裁判所から相続放棄照会書が送られてきます。
相続放棄照会書を送るときや回答書を返送するときの郵便料は、予納郵券で提出した切手を使います。
家庭裁判所は、切手代を負担してくれません。
②相続放棄の提出先は最後の住所地の家庭裁判所
相続放棄申述書は、担当の家庭裁判所へ提出します。
提出先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
被相続人の最後の住所地は、被相続人の除票を取得すると判明します。
相続放棄の申立てをする場合、相続放棄申述書を一緒に被相続人の除票を提出します。
家庭裁判所は、被相続人の除票を確認して、管轄が間違いないか点検します。
③予納郵券は家庭裁判所ごとにちがう
相続放棄の申立てをする場合、相続放棄申述書を一緒に予納郵券を提出します。
予納郵券は、家庭裁判所ごとに事件の種類ごとに異なります。
名古屋家庭裁判所で相続放棄申述書を提出する場合、予納郵券は次のとおりです。
84円切手 5枚
10円切手 5枚
名古屋家庭裁判所で失踪宣告の申立書を提出する場合、予納郵券は次のとおりです。
500円切手 2枚
320円切手 8枚
84円切手 20枚
10円切手 10枚
5円切手 1枚
2円切手 10枚
名古屋家庭裁判所のホームページに、申立添付書類等一覧表が出ています。
収入印紙と予納郵券を申立添付書類等一覧表で確認することができます。
切手の種類と枚数を間違えないように準備しましょう。
合計額が同じでも、切手の種類と枚数が間違っている場合、後から切手を追送することになります。
ホームページに掲載していない家庭裁判所は、電話などで直接問い合わせをします。
④余った切手は返してもらえる
予納郵券は、家庭裁判所が手続や連絡用で使う郵便切手です。
手続や連絡用で使わなかったら、事件が完了したときに返してもらうことができます。
事件の内容によっては郵送物が増えてしまうことがあります。
予納郵券が不足した場合、追加で予納するよう指示されます。
⑤切手を貼り付けて送らない
予納郵券は、家庭裁判所が手続や連絡用で使う郵便切手です。
家庭裁判所が郵送物に貼り付けて使用します。
切手を紙に貼り付けて提出した場合、家庭裁判所が困ります。
切手をそのまま提出すると扱いにくく、紛失する心配があります。
小さな袋に切手を入れて相続放棄申述書にクリップ止めをするといいでしょう。
切手に直接クリップをつけると、クリップで切手が破損してしまうおそれがあります。
3相続放棄申述受理証明書申請書に収入印紙が必要になる
家庭裁判所が相続放棄を認める場合、本人に対して相続放棄申述受理通知書を送ります。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄を認めましたよという本人あてのお知らせです。
家庭裁判所は、相続放棄を認めた場合、本人にだけ通知をします。
相続放棄が認められた人や債権者などの利害関係人は、相続放棄が認められたことを証明してもらうことができます。
相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所で相続放棄を認められたことの証明書です。
相続放棄申述受理証明書を取得するためには、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書申請書を提出します。
相続放棄申述受理証明申請書は、家庭裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
家庭裁判所によっては、相続放棄申述受理通知書と一緒に、送られてくることもあります。
手数料を払って手続をすれば何枚でも発行してくれるし、再発行もしてくれます。
相続放棄申述受理証明申請書の手数料は、証明書1通あたり150円です。
相続放棄申述受理証明書申請書に150円分の収入印紙を貼り付けて納入します。
4相続放棄の有無の照会は収入印紙不要
相続放棄申述受理証明書を取得したい場合、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書申請書を提出します。
相続放棄申述受理証明書申請書には、事件番号を記載する必要があります。
事件番号は、相続放棄申述受理通知書を確認すると判明します。
事件番号が分からない場合、家庭裁判所に照会することができます。
家庭裁判所に照会する制度を相続放棄の有無の照会と言います。
相続放棄の有無の照会をした場合、相続放棄がされたか、されていないか、相続放棄がされた場合は事件番号を回答してもらうことができます。
相続放棄申述の有無の照会に手数料はかかりません。
相続放棄申述の有無の照会は、手数料がかからないから収入印紙は不要です。
郵送で相続放棄申述の有無の照会をすることができます。
相続放棄申述の有無の照会を郵送で提出する場合、返信用の封筒と切手を同封すると送り返してもらえます。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
実は、相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知していますから、認めてもらえやすい書類を作成することができます。
先順位の相続人がいる場合、相続放棄をしたのかしていないのか分からないと、不安な日々を送ることになります。
相続放棄は簡単そうに見えて、考慮しなければならないことがたくさんある手続です。
3か月の期間内に手続きするのは思ったよりハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続時精算課税制度を選択しても相続放棄
1相続放棄をするととプラスの財産もマイナスの財産も相続しない
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に手続をする必要があります。
一般的に、相続人同士の話し合いにおいて相続財産を受け取らない申出をしたことを相続放棄と表現することがあります。
家庭裁判所で手続をしない場合、相続放棄の効果はありません。
相続人同士で話し合いをしただけでは、相続放棄と認められません。
2相続財産を処分したら相続放棄が無効になる
相続放棄はできないのに、家庭裁判所に相続放棄の手続をして、相続放棄が認められても無効です。
単純承認したとみなされる行為は、法律で定められています。
相続財産の名義変更をした、相続財産である銀行の預貯金を引き出して使ってしまった場合が典型的です。
単に、引き出しただけであれば、処分とは言えないことが多いでしょう。
引き出したうえ、自分の口座に送金して保管すると、「処分した」と評価される可能性が高くなります。
銀行の預貯金を引き出してお葬式の支払にあてた場合、状況によっては、処分したと判断されることもあります。
被相続人が払い過ぎた税金などの還付金の支払を受けた場合、「処分した」と判断されます。
相続財産の分け方について、相続人全員で合意をした場合も、相続財産を「処分した」場合に当たります。
相続財産に株式がある場合、株式に基づく株主権の行使が「処分した」になることがあります。
被相続人が会社役員かつ株主の場合、安易に株主総会を開催して、役員変更すると相続放棄が無効になるおそれがあります。
3相続時精算課税制度を選択しても相続放棄ができる
①相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、贈与税の計算方法のひとつです。
贈与をする人と贈与を受ける人が一定の条件にあてはまる場合に、相続時精算課税制度を選択することができます。
相続時精算課税制度を選択した場合、贈与した財産の累計2500万円までは贈与税がかかりません。
与した財産の累計2500万円を超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。
贈与者に相続が発生した場合、贈与財産と相続財産を合計して相続税を計算します。
支払い済みの贈与税がある場合、相続税から差し引いて残額の相続税を納めます。
②相続時精算課税制度を選択できる人
相続時精算課税制度は、贈与をする人と贈与を受ける人が一定の条件にあてはまる場合に選択することができます。
贈与をする人の条件は、60歳以上であることです。
贈与を受ける人の条件は、18歳以上であることです。
贈与をする人と贈与を受ける人は、直系の血族でなければなりません。
相続時精算課税制度は、高齢者が持つ資産を現役世代に移転しやすくするための制度だからです。
③相続時精算課税制度を選択しても単純承認にならない
相続時精算課税制度は、高齢者が持つ資産を現役世代に移転しやすくするための制度です。
相続時精算課税制度を選択できる人は、直系血族です。
贈与をする人に相続が発生した場合、贈与を受ける人が相続人なるでしょう。
相続時精算課税制度を選択して財産の贈与を受けた場合、相続財産の前渡しに見えます。
財産の贈与を受けても一定額までは贈与税がかからず、贈与財産は相続財産と合計して課税するからです。
財産の贈与を受けた場合、受け取った財産を使ってしまいます。
相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。
単純承認をしたとみなされた場合、撤回することはできません。
単純承認をした後で、相続放棄をすることはできません。
単純承認をした事情を知らずに、家庭裁判所が相続放棄を認める決定をすることがあります。
事情を知らずに相続放棄が認められても、後から無効になります。
相続時精算課税制度を選択して財産の贈与を受けた後に財産を使ってしまっても、単純承認になりません。
相続時精算課税制度を選択して財産の贈与を受けることは、単なる生前贈与だからです。
受け取った財産を使ってしまっても、相続放棄は無効になりません。
生前贈与を受けた場合、贈与された財産は贈与を受けた人の固有の財産です。
相続財産ではありません。
相続時精算課税制度を選択して財産の贈与を受けた後に財産を使ってしまっても、相続放棄をすることができます。
④相続放棄をしても相続税申告
相続放棄をした相続人は、相続財産を受け取ることはできません。
相続税は相続財産を受け取った場合に課されます。
相続放棄をした相続人は、原則として、相続税が課されることはありません。
相続時精算課税制度を選択して財産の贈与を受け取った場合、贈与財産は相続財産と合計して相続税を計算します。
贈与財産と相続財産の合計が基礎控除を超える場合、相続税の対象になります。
財産の贈与を受け取った人が相続放棄をした場合でも、相続税の対象になります。
相続時精算課税制度を選択した場合、税務署に対して相続時精算課税選択届出書を提出します。
税務署は、相続税の申告義務があることを把握しています。
相続時精算課税制度の適用を受けて生前贈与を受けた場合、忘れずに相続税の申告の有無を確認しましょう。
4債権者は詐害行為を取り消すことができる
①詐害行為とは
お金を借りた人は、借りたお金を返さなければなりません。
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくなることがあります。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
お金を返してもらうため、お金を貸した人は詐害行為を取り消すことができます。
詐害行為として取り消すことができるのは、財産行為のみです。
お金を返さなければならないのに、自分の財産の大部分を贈与した場合、お金を返せなくなるでしょう。
自分の財産の大部分を贈与した場合、お金を返せなくなって、お金を貸した人が困るのは知っていると言えます。
このような贈与は、合法であっても、詐害行為にあたります。
お金を貸した人は、詐害行為を取り消すことができます。
②債権者は生前贈与を取り消すことができる
被相続人の財産がわずかなプラスの財産と莫大なマイナスの財産ということがあります。
この状況で、わずかなプラスの財産を相続人に生前贈与することがあります。
わずかなプラスの財産と莫大なマイナスの財産の場合、贈与契約はできないというルールはありません。
財産を譲り渡す人と譲り受ける人の契約で贈与をすることができます。
被相続人と相続人が相談してこのような契約をしたのでしょう。
贈与契約をした後、被相続人が死亡した場合、相続人は相続放棄をすることができます。
原則どおりでは、相続放棄をしているから、相続人は莫大なマイナスの財産を受け継ぐことはありません。
原則どおりでは、遺贈は相続放棄と別物だから、わずかなプラスの財産を受け取ることができるとなってしまいます。
このようなことが許されると、債権者にとってあまりに理不尽です。
債権者は、裁判所に訴えて、理不尽な生前贈与の取り消しを請求することができます。
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくしているからです。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
理不尽な遺贈として裁判所に認められれば、詐害行為は取り消すことができます。
③債権者は相続放棄を取り消すことができない
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
被相続人の財産は、プラスの財産もマイナスの財産も相続財産です。
被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡した場合、お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうとするでしょう。
相続人は被相続人の借金を引き継がないために、相続放棄をすることが考えられます。
お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、請求できなくなって困ります。
お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。
このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。
相続放棄をしても、自己の財産を不当に減らしたわけではありません。
お金を貸す人は、お金を借りた人が生前に自己破産するリスクを検討してお金を貸すか貸さないか決めているはずです。
お金を借りた人が死亡した後、相続人が相続放棄するリスクも検討してお金を貸すか貸さないか決めべきと言えます。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
相続放棄をする場合、相続問題だけでなく、被相続人や相続人の借金の問題が隠れている場合が多いです。
このような複雑な事情がある場合、相続人だけでなく債権者を巻き込んでトラブルになりがちです。
あいまいな知識では、余計トラブルが大きくなります。
相続放棄を考えている人は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
兄弟姉妹が相続放棄
1相続人になる人は法律で決まっている
相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になる人は次のとおりです。
①配偶者は必ず相続人になる
②被相続人に子どもがいる場合、子ども
③被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
④被相続人に子どもがいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
2相続人になる兄弟姉妹とは
①父母が同じ兄弟姉妹
先順位の相続人がいない場合、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹というと、父母が同じ兄弟姉妹だけをイメージしがちです。
②父母の一方が同じ兄弟姉妹
父や母の一方だけ同じ兄弟姉妹がいることがあります。
異父兄弟姉妹や異母兄弟姉妹は、兄弟姉妹として相続人になります。
父や母の一方だけ同じ兄弟姉妹を、半血兄弟姉妹と表現することがあります。
③養子に行っても兄弟姉妹
養子縁組とは、血縁関係による親子関係の他に、法律上の親子関係を作る制度です。
養子には2種類あります。
普通養子と特別養子です。
子どものいない夫婦が養子縁組をする、配偶者の連れ子と養子縁組するといったことは日常的に聞くことあります。
一般的に、単に「養子」と言ったら、普通養子を指していることがほとんどです。
普通養子では、養子縁組をした後、血縁関係のある実親との親子関係は続きます。
特別養子では、養子縁組をした後、血縁関係のある実親との親子関係がなくなります。
被相続人が第三者と普通養子による養子縁組をして養子になっていることがあります。
普通養子による養子縁組をした場合、実親との親子関係は続きます。
被相続人の実親の他の子どもは、被相続人の兄弟姉妹です。
被相続人の実親の他の子どもは、被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
④実親の養子が兄弟姉妹
被相続人の血縁関係のある実親が養親になる養子縁組をしていることがあります。
養子縁組は、法律上の親子関係を作る制度です。
実親と養子縁組をした養子は、実親の子どもになります。
養子と血縁関係がある実子と区別はありません。
被相続人に血縁関係がある兄弟姉妹がいる場合でもいない場合でも、実親の養子は兄弟姉妹になります。
被相続人の実親の養子は、被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
⑤養親の実子が兄弟姉妹
被相続人が第三者と普通養子による養子縁組をして養子になっていることがあります。
被相続人の養親に血縁関係がある実子がいることがあります。
養子縁組をした場合、養子は養親の子どもになります。
養子と血縁関係がある実子と区別はありません。
被相続人に血縁関係がある兄弟姉妹がいる場合でもいない場合でも養親の実子は兄弟姉妹になります。
被相続人の養親の実子は、被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
⑥養子同士で兄弟姉妹
被相続人が第三者と普通養子による養子縁組をして養子になっていることがあります。
養子縁組をするのに、法律上人数制限はありません。
養親に複数の養子がいる場合があります。
養親に何人も養子がいたとしても、養親と養子縁組をした養子は、養親の子どもになります。
何人目の養子であっても区別はされません。
養親の他の養子は、被相続人の兄弟姉妹になります。
養子同士であっても、被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
⑦複数の養親と養子縁組ができる
養子縁組をするのに、法律上人数制限はありません。
養親が複数の養子と養子縁組をすることができます。
同様に、養子が複数の養親と養子縁組をすることができます。
普通養子による養子縁組の場合、実親との親子関係は続きます。
養子が複数の養親と養子縁組をする場合、普通養子による養子縁組であれば最初の養親との親子関係は続きます。
養子には、実親と最初の養親と次の養親がいることになります。
養子縁組を解消する手続は、離縁と言います。
離縁をした場合、戸籍の身分事項で確認することができます。
戸籍の身分事項に離縁が記載されていなければ、親子関係は続いていると判断できます。
複数の養子縁組をしても親子関係は続くからです。
戸籍に記載されている者欄で氏名の下に、父の氏名、母の氏名、養父の氏名、養母の氏名が記載されます。
複数の養子縁組をしている場合、最終の養父の氏名、最終の養母の氏名のみ記載される取り扱いです。
戸籍に記載されている者欄に記載されていない養父や養母がいる場合があり得ます。
被相続人が複数の養親と養子縁組をしている場合、すべての養親のすべての子どもはすべて兄弟姉妹になります。
最初の養親と次の養親に区別はないからです。
すべての養親の子どもは、被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
⑧親が認知した子どもが兄弟姉妹
婚姻関係にないカップルの間に生まれた子どもについて、自分の子どもと認めることを認知と言います。
実親であっても養親であっても、認知した子どもは兄弟姉妹になります。 親が認知した子どもは、被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
3相続放棄とは
①相続放棄は家庭裁判所の手続
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの遺産を引き継がなくなりますが、マイナスの遺産も引き継ぐことがなくなります。
借金を引き継がないために相続放棄をするなどのケースが一般的です。
一般的に、相続人全員の話し合いで相続財産をご辞退することを相続放棄と表現することがあります。
本来、相続放棄は家庭裁判所に対する手続です。
相続人に相続財産をご辞退することではありません。
家庭裁判所に対して手続をしていない場合、相続放棄の効果はありません。
②相続放棄ができるのは相続人だけ
相続の放棄は、被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も受け継がないことの申立てです。
相続放棄ができるのは、相続人だけです。
被相続人の生前は、相続放棄はできません。
相続人になる予定の人であって、まだ相続人でないからです。
先順位の相続人がいる場合、相続放棄はできません。
先順位の人が相続人になるからです。
先順位の相続人全員が相続放棄をした場合、相続放棄の手続をすることができます。
先順位の相続人全員が相続放棄をした場合、相続人になるからです。
順位の異なる相続人は、同時に相続放棄をすることはできません。
先順位の相続人の相続放棄が認められない場合、後順位の人はまだ相続人でないからです。
③相続放棄の期限3か月のスタートは「知ってから」
相続放棄は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内に申立てをする必要があります。
相続があったことを知ってからとは、必ずしも、被相続人の死亡してからではありません。
被相続人が死亡した後3か月以上経過してから、相続放棄の申立てをして認められることがあります。
相続放棄ができる3か月以内のスタートは、相続があったことを知ってからだからです。
相続があったことを知らなかった場合、相続放棄ができる3か月がスタートしていません。
相続放棄の申立てをしてから、家庭裁判所が相続放棄を認める通知が届くまでおよそ1か月程度かかります。
親などの直系尊属は先順位の子ども全員が相続放棄するまで、相続放棄の申立てはできません。
相続放棄の期限3か月が過ぎてしまうのではないかと気が気でないかもしれません。
先順位の子ども全員が相続放棄をしたことを知って自分が相続人であることを知ります。
相続放棄の期限3か月のスタートは知ってからだから、知ってから3か月以内であれば手続をすることができます。
第三順位の兄弟姉妹も同じことです。
第三順位の兄弟姉妹は自分が相続人であることを知るのは、子ども全員が相続放棄をして、次順位の親などの直系尊属全員が相続放棄をした後です。
第三順位の兄弟姉妹は、被相続人が死亡してから3か月以上経過してから自分が相続人であることを知ることになるかもしれません。
相続放棄の期限3か月のスタートは知ってからだから、知ってから3か月以内であれば手続をすることができます。
このポイントは、相続が発生してから3か月以内に届出ができなかったのは止むを得なかったと家庭裁判所に納得してもらうことです。
3か月届出ができなかったのは仕方なかったと家庭裁判所が納得できる理由があるときだけは、家庭裁判所も相続放棄を認めてくれるのです。
家庭裁判所は相続放棄を認めた場合、相続放棄の申立てをした人にだけ通知します。
家庭裁判所から次順位相続人に相続放棄を認めたから相続人になりましたよという通知はありません。
相続放棄が認められた人は、次順位相続人に相続放棄が認められましたと通知する義務はありません。
普段から連絡を取り合っている場合、相続放棄をしたことを知らせてくれるようにお願いしておくといいでしょう。
疎遠な相続人の場合、何も連絡がないことも少なくありません。
債権者や市役所などから手紙が来て相続があったことを知った場合、この通知は大切です。
この手紙を見て相続があったことを知ったという証拠になるからです。
④相続放棄の管轄
相続放棄は、家庭裁判所に対する手続です。
相続放棄の申立ての提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで調べることができます。
被相続人と疎遠である場合、被相続人の最後の住所地が分からなくなっていることがあります。
被相続人の最後の住所地は、被相続人の除票を取得すれは判明します。
被相続人の除票は、住民票を置いていた市区町村役場に請求します。
被相続人の家族と連絡を取り合っていた場合、住民票を置いていた市区町村は容易に判明するでしょう。
生前に連絡をとりあっていなかった場合、相続が発生した後、長期間経過してから相続人であることを知ることがあります。
音信不通であった場合、被相続人に関する情報が全く分からないかもしれません。
被相続人に関する情報が全く分からない場合、被相続人の最後の住所地を探さなければなりません。
被相続人がどこに住民票を置いていたか分からない場合、戸籍の附票で調べることができます。
被相続人の戸籍の附票は、被相続人の本籍地の市区町村役場に請求します。
被相続人に関する情報が全く分からない場合、まず自分の本籍地の市区町村役場に自分の戸籍謄本を請求します。
自分の本籍地が分からない場合、自分の住民票のある市区町村役場に自分の住民票を請求します。
自分の住民票を請求するときに、本籍地の記載のある住民票と指定します。
自分の住民票に自分の本籍が記載されているから、自分の本籍地は判明します。
自分の戸籍謄本を取得したら、順番に被相続人の戸籍までたどっていきます。
死亡時の戸籍までたどり着いた場合、戸籍の附票を請求すると死亡時の住所が判明します。
4相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄するためには、家庭裁判所に手続をする必要があります。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったと扱われます。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、相続に関する手続には関与しなくて済むと安心してしまいがちです。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合であっても、相続財産を処分した場合、相続放棄が無効になります。
相続放棄は簡単そうに見えて、実はいろいろなことを考慮しなければならない手続です。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
相続放棄しても公共料金
1未払い公共料金は相続財産
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
相続財産はプラスの財産とマイナスの財産があります。
どちらも、相続財産です。
プラスの財産は、財産と言われたときにイメージしやすいでしょう。
マイナスの財産は、一般的に借金やローンなどです。
被相続人に未払いの公共料金がある場合、未払いの公共料金は相続財産です。
未払いの公共料金は、相続で相続人に受け継がれます。
2相続放棄をしたら相続財産は受け継がない
①相続放棄が認められたら未払い公共料金の支払いは不要
相続放棄をするためには、家庭裁判所に対して必要書類を添えて申立てをします。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
マイナスの財産を引き継ぐことがなくなるから、未払い公共料金を支払う必要はありません。
②相続財産を処分したら相続放棄は無効になる
法律で定められた一定の条件にあてはまるときは、単純承認したとみなされます。
単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐものです。
単純承認とみなされた場合、相続放棄はできません。
相続放棄はできないのに家庭裁判所に相続放棄の手続をして、相続放棄が認められても無効です。
家庭裁判所が事情を分からずに相続放棄を認めてしまっても、後から無効になります。
単純承認したとみなされる行為は、法律で定められています。
相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。
相続財産である銀行の預貯金を引き出して使ってしまった場合が典型的です。
相続財産を使って未払い公共料金を支払った場合、単純承認になります。
③相続放棄が認められても債権者に連絡されない
家庭裁判所は相続放棄を認めた場合、申立てをした人に通知します。
相続放棄の申立てをする場合、家庭裁判所にたくさんの必要書類を提出します。
相続放棄の申立てで提出する書類は、次のとおりです。
(1)被相続人の戸籍謄本
(2)被相続人の除票
(3)相続放棄する人の戸籍謄本
この他に、裁判所が使う郵便切手や収入印紙が必要です。
必要書類には、債権者の名簿などはありません。
家庭裁判所は、提出された書類を見て審査をします。
被相続人がだれから借金していたのか家庭裁判所は知りません。
家庭裁判所は、被相続人が何を滞納していたのか自主的に調査をすることはありません。
家庭裁判所は債権者がだれなのか知らないから、債権者に連絡することはありません。
債権者から見ると、知らないうちに相続放棄の申立てがされて知らないうちに相続放棄が認められたとなります。
何も知らないから、債権者は被相続人の未払い金を相続人に払ってもらいたいと考えて催促をしてきます。
債権者は何も知らないから、催促されたら相続放棄が認められたことを知らせてあげるといいでしょう。
ほとんどの場合、相続放棄申述受理通知書のコピーを渡せば分かってくれます。
④未払い公共料金は相続人の固有の財産で支払いができる
相続財産を使って未払い公共料金を支払った場合、単純承認になります。
相続人の固有の財産を使って未払い公共料金を支払った場合、単純承認になりません。
相続人の固有の財産を使ったのだから、相続財産の処分ではないからです。
相続放棄が認められた場合、被相続人の債務を引き継ぎません。
被相続人に公共料金の未払いがあっても、支払う義務はありません。
支払い義務はなくても、事業者に申し訳がないから相続人が支払いたいケースがあります。
未払いの公共料金は、相続人の固有の財産から支払うことができます。
電気や水道などの公共料金の未払いが続いた場合、供給が止められてしまいます。
被相続人と相続人が同居していた場合、ライフラインの供給が止められると困ってしまいます。
ライフラインの供給を維持するため、公共料金の未払いを解消する必要があります。
未払いの公共料金は、相続人の固有の財産から支払うことが重要です。
⑤解約や名義変更は単純承認にならない
電気、ガスや水道などのライフラインの契約は、名義変更や解約をしても財産処分にはあたりません。
相続放棄をした場合、相続放棄の連絡だけすれば解約手続が不要になることがあります。
被相続人の契約に手を付けずに、新たに契約をする方法で対応してもらうケースがあります。
新たに契約をする方法であれば、より安心できるでしょう。
3日常家事債務は支払義務がある
①夫婦の日常家事債務は連帯債務
被相続人の配偶者は、日常家事債務について連帯責任があります。
日常家事債務とは、夫婦の共同生活で必要となる債務のことです。
日常家事債務は、夫婦2人の連帯債務です。
日常家事債務は、夫婦2人のそれぞれの固有の義務です。
連帯債務は、債務者がそれぞれ独立して全額の債務を負担します。
債務者のひとりが債務を弁済した場合、他の債務者も債務の弁済を免れます。
公共料金の支払いは、日常家事債務にあたります。
被相続人が電気、ガスや水道などのライフラインの契約をした場合、夫婦の共同生活で必要になるから契約しているはずです。
被相続人の配偶者は契約の当事者でない場合であっても、支払義務があります。
日常家事債務は、夫婦2人の連帯債務だからです。
②相続放棄をしても連帯債務は消えない
相続放棄が認められた場合、被相続人の債務を引き継ぎません。
被相続人のマイナスの財産を引き継ぐことがなくなるから、未払いがあっても支払う必要はありません。
日常家事債務は、夫婦2人の連帯債務です。
被相続人の配偶者は、独立して全額の債務を負担しています。
被相続人のマイナスの財産を引き継がない場合、連帯債務に影響はありません。
日常家事債務は、被相続人の配偶者の固有の義務だからです。
被相続人の配偶者は、独立して全額の債務を負担しています。
債務の2分の1だけ払えば済むといったものではありません。
被相続人の配偶者は、相続放棄をしても公共料金の支払義務があります。
③日常家事債務を相続財産から支出すると単純承認になる
日常家事債務は、夫婦2人の連帯債務です。
被相続人の配偶者は相続放棄をしても、公共料金の支払い義務があります。
被相続人の配偶者に支払い義務があるのは、被相続人の配偶者の固有の義務だからです。
被相続人の配偶者は、固有の財産から公共料金の支払いをする必要があります。
相続財産から支払いをした場合、相続財産の処分になります。
相続財産を処分した場合、単純承認になります。
④夫婦関係が破綻していたら日常家事債務ではない
日常家事債務とは、夫婦の共同生活で必要となる債務のことです。
法律上の夫婦ではあっても夫婦関係が破綻している場合、夫婦の共同生活の実態がなく日常の家事が観念できません。
単なる別居中や離婚のための話し合い中では、夫婦関係が破綻しているとは認められません。
ある程度長期間別居していて生計が別になっている場合、日常の家事が観念できなくなると言えます。
夫婦関係が破綻しており当然に支払い義務がないことは、請求された配偶者が客観的に証明する必要があります。
どのような債務が夫婦の日常家事債務になるのかは、夫婦の関係性によって異なります。
収入や資産規模、地域性によっても一概に言えないから、個別事情を踏まえて判断されます。
4相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
実は、相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は慎重に判断する必要がありますが、いろいろな誤解から利用をためらう人が多いのも事実です。
利用をためらっていると3か月はあっという間です。
相続が発生すると、家族は親戚や知人へ連絡などで悲しみに浸る暇もないくらい忙しくなります。
3か月以内に必要書類を揃えて手続をするのは想像以上にハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
配偶者が相続放棄
1配偶者は常に相続人
相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になる人は次のとおりです。
①配偶者は必ず相続人になる
②被相続人に子どもがいる場合、子ども
③被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
④被相続人に子どももいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
2配偶者は相続放棄ができる
①相続人は相続放棄ができる
相続が発生した場合、被相続人のものは原則として相続財産になります。
相続財産というとプラスの財産だけをイメージするかもしれません。
プラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続財産です。
莫大なマイナスの財産がある場合、財産を引き継ぎたくないと考えるでしょう。
相続人は、家庭裁判所に対して相続を放棄する申立てをすることができます。
相続人でない人は、相続放棄をすることができません。
配偶者は相続人だから、相続放棄をすることができます。
相続放棄は、相続人ひとりひとりが自分の意思で自由に判断できるものです。
相続人は、一人だけ相続放棄をすることができます。
相続放棄をする場合、他の相続人の同意は不要です。
他の相続人が反対していても、一人だけ相続放棄をすることができます。
ときには他の相続人が何も知らないところで相続放棄をすることがあります。
相続放棄をすることで一人だけ借金から逃れたとしても、後ろめたく思うことはありません。
②配偶者が相続放棄をしても相続権は移らない
配偶者は必ず相続人になります。
相続順位とは無関係に、必ず相続人になります。
配偶者が相続放棄をした場合、相続人でなくなります。
先順位の相続人が相続人でなくなった場合、次順位の人が相続人になります。
配偶者が相続人でなくなっても、他の人が相続人になることはありません。
配偶者は相続順位とは無関係の存在だからです。
③配偶者が相続放棄をしたら相続分と遺留分が変更
配偶者が相続放棄をした場合、配偶者以外の相続人で相続財産を分け合います。
配偶者以外の相続人の法定相続分が変わります。
例えば、配偶者と長男、長女の場合の法定相続分
配偶者 2分の1
長男 4分の1
長女 4分の1
配偶者が相続放棄をした場合
配偶者 2分の1 →相続しない
長男 4分の1 →2分の1
長女 4分の1 →2分の1
配偶者以外の相続人に遺留分がある相続人の場合、遺留分が変わります。
遺留分とは、相続財産に対して認められる最低限の権利のことです。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められます。
被相続人の子どもが相続人になる場合、遺留分が認められます。
例えば、配偶者と長男、長女の場合の遺留分
配偶者 4分の1
長男 8分の1
長女 8分の1
配偶者が相続放棄をした場合
配偶者 2分の1 →相続しない
長男 8分の1 →4分の1
長女 8分の1 →4分の1
3相続放棄をしても年金を受け取ることができる
①未支給年金を受け取ることができる
銀行などの金融機関は預金者が死亡したことを確認すると、口座の取引をできなくします。
口座の取引を止めることを口座の凍結といいます。
被相続人が年金受給者である場合、年金の振り込みを受けることができなくなります。
年金は死亡した月の分まで支給されます。
年金は、後払いで支給されます。
例えば、4月分と5月分の年金は、6月に支給されます。
年金を受け取っている人が4月に死亡した場合、4月分の年金まで支給されます。
4月分の年金は、6月に振込みがされます。
多くの場合、6月の年金支払い日には、口座が凍結されているでしょう。
6月に支給される年金の振込みを受けることができません。
口座が凍結などでまだ受け取っていない年金のことを、未支給年金と言います。
未支給年金を受け取る権利は、相続財産ではありません。
未支給年金を請求することができる人は、相続とは別に決められています。
未支給年金を受け取る権利は、未支給年金を請求することができる人の固有の財産です。
配偶者は、未支給年金を請求することができます。
配偶者がすでに相続放棄をした場合でも、これから相続放棄をするつもりでも、未支給年金を受け取ることができます。
②遺族年金を受け取ることができる
遺族年金は、年金に加入していた人が死亡したときに遺族に対して支給される年金です。
遺族年金を受け取る権利は、相続財産ではありません。
被相続人の死亡をきっかけにして、遺族に対して支給されます。
被相続人が生前に遺族年金の受給権を得てはいませんから、被相続人から受け継ぐものではありません。
遺族年金の受給権は、遺族の固有の権利です。
被相続人から相続するものではないから、相続放棄とは無関係です。
配偶者が遺族年金を受け取るための条件をすべて満たしている場合、遺族年金を受け取ることができます。
配偶者が相続放棄をしても相続放棄をしなくても、遺族年金を受け取ることができます。
4相続放棄をしても生命保険の死亡保険金
①生命保険の死亡保険金を受け取ることができる
生命保険の死亡保険金は金額が大きいことが多いので、気になる人も多いでしょう。
原則として生命保険の保険金を受け取る権利は、相続人の固有の財産です。
受取人が「相続人」と指定してあっても、相続で受け取るものではありません。
被相続人の死亡をきっかけにして、保険契約によって受取人が保険金を受け取るものです。
多くの場合、被相続人は生前に生命保険の死亡保険金を受け取る権利を持っていなかったでしょう。
相続によって、被相続人から受け継いだものではありません。
生命保険の死亡保険金の受取人に配偶者が指定されている場合、配偶者は死亡保険金を受け取ることができます。
配偶者が相続放棄をしても相続放棄をしなくても、生命保険の死亡保険金を受け取ることができます。
生命保険の保険金を受け取ったことで、相続放棄が無効になることはありません。
②相続税の生命保険金の非課税枠は使えない
原則として生命保険の保険金を受け取る権利は、相続財産ではありません。
相続財産ではないけど相続税の対象になります。
生命保険の保険金について、相続人全体の非課税枠は 500万円×法定相続人の人数 です。
相続人全員の非課税枠を計算するときは、相続放棄した人も含めて計算します。
相続放棄した人は、相続人全員の非課税枠を計算するときは含めるのに、その人の相続税を計算するときには、500万円の非課税枠を使うことはできません。
500万円分非課税にできないので、その分だけ税金を余計に負担しなければなりません。
5相続放棄をしても配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、被相続人の家に住んでいた配偶者が一定期間無条件かつ無償で住み続けることができる権利です。
相続が発生してから、配偶者が住む場所を失うことがないように保護するために作られた権利です。
次の要件を満たせば、何もしなくても自動的に発生します。
①配偶者であること
配偶者短期居住権を取得する配偶者は、法律上の配偶者のみです。
内縁の配偶者や事実婚の配偶者は、配偶者短期居住権を取得することはできません。
法律上の配偶者でも、相続廃除された人や相続欠格になった人は配偶者短期居住権を取得することができません。
法律上の配偶者が相続放棄をした場合、配偶者であることという条件を満たしていると言えます。
②被相続人の所有していた建物であること
被相続人と配偶者以外の人と共有建物であっても、配偶者短期居住権は成立します。
③相続開始時に無償で居住していたこと
6相続放棄をしても日常家事債務
被相続人の配偶者は、日常家事債務について連帯責任があります。
日常家事債務とは、夫婦の共同生活で必要となる債務のことです。
日常家事債務は、夫婦2人の連帯債務です。
日常家事債務は、夫婦2人のそれぞれの固有の義務です。
連帯債務は、債務者がそれぞれ独立して全額の債務を負担します。
債務者のひとりが債務を弁済した場合、他の債務者も債務の弁済を免れます。
被相続人が電気、ガスや水道などのライフラインの契約をした場合、夫婦の共同生活で必要になるから契約しているはずです。
被相続人の配偶者は、契約の当事者でない場合であっても支払義務があります。
日常家事債務は、夫婦2人の連帯債務だからです。
被相続人の配偶者が相続放棄をした場合、日常家事債務に影響はありません。
相続放棄が認められた場合、被相続人の債務を引き継ぎません。
日常家事債務は、被相続人の配偶者の固有の義務です。
相続放棄をしても相続を単純承認しても、固有の義務に影響はありません。
被相続人の配偶者は、独立して全額の債務を負担しています。
被相続人の配偶者は、相続放棄をしても日常家事債務の支払義務があります。
自称専門家はこの点を強調して配偶者は相続放棄ができないと称して、他の債務の返済を求めます。
日常家事債務の範囲は、夫婦の関係性や収入、資産状況から一概に言えるものではありません。
自称専門家の言うことを鵜のみにする前に、信頼できる専門家に相談しましょう。
7相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄は撤回ができないので、慎重に判断する必要があります。
せっかく、相続放棄が認められても、相続財産を処分した判断されたら無効になりかねません。
このような行為をしてしまわないように、あらかじめ知識を付けておく必要があります。
相続放棄を自分で手続したい人の中には、相続放棄が無効になることまで考えていない場合が多いです。
司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。
せっかく手続きしても、相続放棄が無効になったら意味がありません。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
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