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1任意後見契約で認知症に備える
①任意後見契約でサポートを依頼する
任意後見契約を締結するためには、物事のメリットデメリットを適切に判断する能力が必要です。
判断能力がないまま、契約締結をしても無効です。
元気なうちに、任意後見契約でサポートを依頼します。
②自分で選んだ人と任意後見契約
任意後見は、だれと契約するのか本人が自分で決めることができます。
自分の財産管理などを依頼するから、信頼できる人と契約します。
多くの場合、本人の子どもなど近い関係の家族でしょう。
次の人は、任意後見人になれません。
(1)未成年者
(2)後見人を解任されたことのある人
(3)破産者で復権していない人
(4)本人に訴訟をした人と訴訟をした人の配偶者、直系血族
(5)行方不明の人
任意後見契約では、本人が選んだ人にサポートを依頼することができます。
③サポート内容は契約書に明記
任意後見は、サポートを依頼する契約です。
サポート内容は、契約書にはっきり記載します。
サポート内容がはっきりしていないと、サポートする人が困ります。
サポートする人が勝手にやったことと、判断されるからです。
例えば、自宅を売却して施設の入所費用に充てたい場合、売却権限を与えると明記します。
自宅は売却しないで守ってほしい場合、売却権限は与えないと明記します。
任意後見契約の内容は、登記簿に記録されます。
サポートする人の権限は、登記簿謄本で証明することができます。
将来任意後見人が権限不足で困らないように、バランスをとるのがおすすめです。
法定後見では、包括的に代理権が与えられます。
任意後見では、本人の意思が尊重される点が特徴です。
④公証人が法務局に登記嘱託
任意後見契約は、判断能力が低下したときに財産管理を依頼する契約です。
重要な契約だから、公正証書で契約する必要があります。
任意後見契約を締結すると、契約の内容は登記されます。
任意後見契約をした当事者は、自分で登記申請をする必要はありません。
自動的に、公証人が法務局に登記を嘱託するからです。
後見登記簿を確認すると、任意後見人の権限が分かります。
2任意後見人の役割
①財産管理
財産管理とは、本人の財産を適切に守り運用処分を代理することです。
具体的には、次のことを行います。
・預貯金の管理や支払手続
・不動産や株式の維持管理や売却手続
・契約などの締結解約
・定期的な収入と支出の確認
本人の判断能力が低下した後、任意後見契約に基づいて任意後見人が財産管理をします。
任意後見人に権限があるか、後見登記簿謄本で確認することができます。
任意後見契約で依頼されたこと以外は、代理できません。
②身上監護
身上監護とは、本人の日常生活や健康管理、介護など生活全般について重要な決定をすることです。
具体的には、次のことを行います。
・医療機関への入院手続
・介護サービスの利用契約
・介護施設の入所手続
・日常生活環境の整備
財産管理とは異なり、本人の暮らしや尊厳を守る役割です。
本人の判断能力が低下した後、任意後見契約に基づいて任意後見人が身上監護をします。
任意後見人に権限があるか、後見登記簿謄本で確認することができます。
任意後見契約で依頼されたこと以外は、代理できません。
③死亡届を提出できる
本人が死亡したら、死亡届を提出します。
死亡届の届出人になるのは、本人の親族や家主、地主などです。
任意後見人や任意後見受任者は、届出をすることができます。
3任意後見監督人は不要にできない
①任意後見監督人選任でサポート開始
任意後見契約を締結しても、サポートは開始しません。
任意後見契約をするためには、本人に充分な判断能力が必要です。
本人は充分な判断能力があるから、サポートは必要ないはずだからです。
任意後見監督人選任で、任意後見人によるサポートが開始します。
任意後見人によるサポートが必要になるのは、本人の判断能力が低下した後です。
本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所に対して任意後見監督人選任の申立てをします。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任したら、任意後見契約に効力が発生します。
任意後見契約に効力が発生したら、任意後見人がサポートを開始します。
任意後見監督人は、不要にできません。
任意後見監督人選任は、任意後見によるサポート開始の条件だからです。
②任意後見監督人に対して報告義務がある
任意後見人は、任意後見監督人に対して後見事務を報告する義務があります。
任意後見監督人には、次の書類を提出します。
(1)任意後見事務報告書(定期報告)
(2)財産目録(定期報告用)
(3)収支報告書・収支予定表
(4)本人の預貯金通帳のコピー
任意後見人の報告は、家庭裁判所へする報告の基礎資料です。
任意後見監督人は、家庭裁判所へ報告する義務があるためです。
家庭裁判所が間接的に監督するから、任意後見の公平性と透明性を確保されます。
本人の利益を守るため、任意後見監督人に対する報告は重要です。
③任意後見監督人の役割
(1)任意後見人の監督
任意後見監督人は、任意後見人を監督する人です。
任意後見人を監督して、サポート内容の透明性を確保します。
(2)財産管理の監査
任意後見監督人は、本人の財産状況報告書や収支状況報告書を提出してもらいます。
任意後見人は任意後見人の財産管理を監査して、不正を防止する責任があります。
任意後見監督人はただ監視するだけでなく、任意後見人の相談相手になります。
適切な判断ができるように、任意後見人を支援します。
(3)身上監護の確認
任意後見監督人は、福祉サービスの利用状況や医療機関の利用状況を確認します。
任意後見人は身上監護を確認して、本人の生活支援を見守る責任があります。
(4)家庭裁判所へ報告
任意後見監督人は、年に一度家庭裁判所に報告する義務があります。
財産管理状況や本人の生活のサポート状況を家庭裁判所と情報共有します。
本人の財産管理状況や身上監護状況は家庭裁判所と共有されるから、本人の利益が守られます。
(5)任意後見人の解任請求
任意後見人が不適切なサポートをした場合、任意後見監督人には解任請求をする権限があります。
任意後見人は任意後見人の解任請求をして、公平性や透明性を確保する責任があります。
4財産管理のポイント
①預貯金口座の管理や支払手続
本人名義の口座を任意後見人が管理します。
金融機関に成年後見登記事項証明書を提示して、代理人として取引します。
公共料金や税金の支払、医療費や介護費用を期限までに納めます。
任意後見人名義の口座に本人の預貯金を移すと、横領や背任を疑われるでしょう。
財産管理不適切と判断されると、解任されるおそれがあります。
本人の口座の預貯金は、本人の利益のためにのみ利用します。
支出内容を記録し請求書や領収書を添えて、任意後見監督人に報告します。
②不動産や株式の維持管理や売却手続
任意後見人は、本人の口座の資金から固定資産税や管理費を支払います。
必要に応じて修繕や除草などの手配をします。
売却手続をする場合、任意後見契約で明示された売却権限が必要です。
任意後見契約では、やってもらいたいことを契約書で明示してあるはずだからです。
売却権限が明示されていれば、家庭裁判所の許可は不要です。
任意後見契約で売却権限が与えられていない場合、任意後見人は不動産を売却することはできません。
たとえ本人の利益であっても、売却権限がないと売却できません。
売却権限があっても、任意後見監督人や家庭裁判所と協議のうえ進めるのが望ましいと言えます。
③契約などの締結解約
任意後見人は、医療機関への入院手続や介護サービスの利用契約を代理します。
医療機関への入院手続や介護サービスの利用契約は、身上監護であると同時に財産管理です。
医療費や契約に伴う利用料の支払いを伴うからです。
契約などの締結解約にあたっては、次の事項を確認します。
・入所一時金
・月額利用料
・介護保険自己負担額
・解約条項
・解約時の返還金
本人の生活状況と財産状況を考慮して、本人のために合理的判断をすることが重要です。
④投資や資産運用に関する制限
任意後見人は、本人の利益を最大限優先して財産管理をする必要があります。
本人の利益を損なうことは、許されません。
高いリスクを取った資産運用は、本人の利益を損なうおそれがあると判断されるでしょう。
本人が死亡したときの相続税対策のため、生前贈与はできなくなります。
相続税対策は、相続人のためであって本人には利益がないからです。
⑤財産目録の作成
本人の財産内容を整理し財産目録を作成して管理します。
預貯金通帳や各種重要書類を保管管理します。
⑥日々の業務遂行
(1)定期的に訪問面談
本人との面談を定期的に実施します。
生活状況や本人の希望を確認します。
(2)関係機関との連絡調整
本人の生活に関与する機関との連絡役になります。
医療機関、介護施設、役所、金融機関等と連絡を取り合い、必要な手続をします。
(3)支払業務
本人が負担すべき費用は、期日までに間違いなく支払います。
(4)書類の整理保管
契約書、請求書、領収書等の書類を整理し、任意後見監督人へ報告します。
5任意後見で起きやすいトラブルと対策
トラブル①任意後見人による私的流用
任意後見人は、本人の子どもなど近い関係の家族が多いでしょう。
近い関係の家族は、他人の財産であるという意識が薄いことがあります。
軽い気持ちで、財産を流用し使い込むことがあります。
トラブル1つ目は、任意後見人による私的流用です。
対策は、財産管理の透明性を確保することです。
任意後見人になったら、家族であっても本人をサポートする公的な立場になります。
他人の財産を管理する公的な立場を意識し、財産管理の透明性を確保します。
財産管理方針は任意後見契約の中で明文化し、当事者以外の家族にも共有します。
具体的には、任意後見監督人に適切に報告し財産管理の監査を受けることです。
トラブル②他の親族から不信感
任意後見人は、本人に利益のために本人の財産管理をする義務があります。
決して任意後見人がほしいままに、財産を使うことができるわけではありません。
長期間任意後見人として財産管理をすると、他の親族から疑いの目を向けられることがあります。
トラブル2つ目は、他の親族から不信感を持たれることです。
対策は、任意後見監督人の監査を受けることです。
任意後見契約を締結する前から、親族間で財産管理方針を共有するのがおすすめです。
任意後見がスタートした後も、定期的に情報共有をすると不信感が和らぎます。
任意後見監督人の存在は、任意後見の公平性と透明性に大きな意義があります。
任意後見人が不安になりながら後見事務をするより、任意後見監督人に相談することができます。
任意後見監督人が支援し監査があるからこそ、誠実な行動を促し不正防止に役立ちます。
トラブル③契約条項があいまい
任意後見人の権限は、任意後見契約に明記されたことに限定されています。
任意後見契約の内容があいまいな場合、権限範囲が分からなくなります。
トラブル3つ目は、契約条項があいまいです。
対策は、任意後見契約をする際に司法書士などの専門家のサポートを受けることです。
サポートを受けると、必要な条項やあいまいな条項を指摘してもらえます。
ときには、任意後見契約以外の契約が必要になることも指摘してもらえるでしょう。
トラブル④任意後見監督人と関係悪化
任意後見監督人選任が任意後見のスタート条件になっているからです。
任意後見監督人は、家庭裁判所が決定します。
任意後見監督人と関係がうまくいかなくなることがあります。
トラブル4つ目は、任意後見監督人と関係悪化です。
任意後見監督人選任の申立てで、候補者を推薦することができます。
事前に相性のいい専門家を推薦するといいでしょう。
定期的な話し合いの場を設けて日常的なコミュニケーションを促進すると、関係を良好にすることができます。
トラブル⑤報告義務の怠慢
任意後見人は、任意後見監督人に報告する義務があります。
任意後見監督人への報告を怠ると、家庭裁判所から不審視されるでしょう。
ときには、任意後見監督人から解任請求が出されることがあります。
トラブル5つ目は、報告義務の怠慢です。
対策は、任意後見監督人への報告ルールを明示することです。
任意後見契約を締結するときに、充分に納得して契約をすることです。
報告義務の怠慢があると、解任請求がされることを明確化することです。
6任意後見契約を司法書士に依頼するメリット
任意後見は、あらかじめ「必要になったら後見人になってください」とお願いしておく契約です。
認知症が進んでから、任意後見契約をすることはできません。
重度の認知症になった後は、成年後見(法定後見)をするしかなくなります。
成年後見(法定後見)では、家庭裁判所が成年後見人を決めます。
80%のケースで、家族以外の専門家が選ばれます。
任意後見契約では、本人の選んだ人に後見人になってもらうことができます。
家族以外の人が成年後見人になることが不安である人にとって、任意後見制度は有力な選択肢になるでしょう。
本人が自分らしく生きるために、みんなでサポートする制度です。
任意後見制度の活用を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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