相続発生から10年後でも相続放棄ができる

1相続放棄の期限は3か月

①相続放棄は家庭裁判所の手続

相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。

相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する申立てをします。

家庭裁判所が相続放棄を認める決定をしたら、相続放棄申述受理通知書が届きます。

相続放棄が認められたら、はじめから相続人でなくなります。

②期限3か月のスタートは知ってから

相続放棄には、期限があります。

相続があったことを知ってから、3か月です。

相続があったことを知ってからとは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。

3か月以内に何もしないと、単純承認したと見なされます。

相続放棄の期限3か月に区切ることで、相続関係を早期に安定させることができます。

遺産分割や債務処理を円滑に進めるためにも、相続放棄の期限3か月は重要です。

③熟慮期間伸長の申立て

相続を単純承認するか相続放棄をするか、相続人の自己責任と考えられています。

相続人は財産を調査して、判断しなければなりません。

相続財産が海外に多数存在するなどの事情があると、3か月の期限内に調査しきれないことがあるでしょう。

家庭裁判所に対して、熟慮期間伸長の申立てをすることができます。

家庭裁判所の判断で、熟慮期間を伸長してもらうことができます。

2相続発生から10年後でも相続放棄ができる

ケース①相続発生を知らなかったから相続放棄

(1)被相続人や被相続人の家族と疎遠

大切な家族が死亡したら、他の家族や知人には真っ先に連絡するでしょう。

さまざまな家族の事情から、被相続人や被相続人の家族と疎遠になっていることがあります。

(2)相続人が行方不明

長期間疎遠になったまま行方不明になって、連絡が取れなくなることがあります。

(3)被相続人の死亡を連絡しない

相続人調査をすると、思いもよらない相続人が見つかることがあります。

見知らぬ相続人と交流がないから、連絡をためらってしまうことがあります。

(4)上申書に書くべきポイント

被相続人の死亡を知らなかった場合、相続があったことを知らないと言えます。

熟慮期間3か月がスタートするのは、相続があったことを知ったときです。

被相続人の死亡を知らなかったから、熟慮期間3か月がスタートしません。

相続発生から10年後でも、熟慮期間3か月以内に相続放棄をすることができます。

上申書を作成して、次の点を詳細に説明するといいでしょう。

・被相続人や被相続人の家族と疎遠になっていること

・被相続人の死亡を知ったきっかけ

手紙などを受け取ったことで死亡を知った場合、手紙や封筒は重要です。

被相続人の死亡を知ったきっかけを裏付ける証拠になるからです。

ケース②相続人であることを知らなかったから相続放棄

(1)先順位相続人が相続放棄をしたことを知らなかった

家庭裁判所で相続放棄が認められたら、はじめから相続人でなくなります。

被相続人に子どもがいる場合、子どもが相続人になると考えるのが自然です。

家庭裁判所で相続放棄が認められても、次順位相続人に連絡されません。

相続放棄をした人に、次順位相続人に連絡する義務はありません。

(2)先順位相続人が先に死亡したことを知らなかった

被相続人の子どもが相続人になると信じていたのに、先に死亡することがあります。

被相続人や被相続人の交流が少ないと、家族関係は良く分からないでしょう。

(3)被代襲者が生きていると信じていた

代襲相続とは、被相続人の子どもが被相続人より先に死亡した場合に先に死亡した子どもの子どもが相続することです。

先に死亡した子どもが被代襲者で、先に死亡した子どもの子どもが代襲相続人です。

被代襲者が死亡したことを知らないと、相続人であること知ることができません。

(4)上申書に書くべきポイント

自分が相続人であることを知らなかった場合、相続があったことを知らないと言えます。

熟慮期間3か月がスタートするのは、相続があったことを知ったときです。

自分が相続人であることを知らなかったから、熟慮期間3か月がスタートしません。

相続発生から10年後でも、熟慮期間3か月以内に相続放棄をすることができます。

上申書を作成して、次の点を詳細に説明するといいでしょう。

・被相続人や被相続人の家族と疎遠になっていること

・相続人であることを知ったきっかけ

手紙などを受け取ったことで死亡を知った場合、手紙や封筒は重要です。

被相続人の死亡を知ったきっかけを裏付ける証拠になるからです。

ケース③相続財産があることを知らなかったから相続放棄

(1)債務を知らなかった

被相続人と別居している場合、被相続人の経済状況を詳しく知らないことが多いでしょう。

被相続人の死亡を知っても、債務の存在を知らないことがあります。

(2)被相続人の保証債務を知らなかった

被相続人が第三者の債務について、連帯保証人になっていることがあります。

連帯保証人とは、債務者が借金を返せなくなったときに肩代わりをする人です。

連帯保証人が死亡した場合、保証債務は相続人が相続します。

保証債務とは、連帯保証人が負う肩代わりの義務です。

債務者が順調に借金を返済している間は、連帯保証人に連絡することはありません。

被相続人が死亡し長期間経過してから、肩代わりをして欲しいと言ってくることがあります。

(3)財産調査しても財産が見つからなかった

被相続人に目立った財産がない場合、相続手続は不要と考えるでしょう。

相続手続をしないまま長期間経過した後、借金を催促されることがあります。

(4)被相続人が債務を隠していた

借金や保証債務の存在を家族に対して、秘密にしていることがあります。

借用書や保証契約書など債務に関する書類を隠して、自分だけで管理するかもしれません。

被相続人が書類を隠していると、家族は債務の存在に気づくことができないでしょう。

(5)財産価値に重大な誤認があった

被相続人が財産を所有していても、財産価値に重大な誤認をすることがあるでしょう。

専門家の意見を信じ、不動産価値1億円を100万円程度に誤認していました。

被相続人と相続人の交際状況から、負債がないと信じるに相当の理由があると考えられました。

登記簿謄本から根抵当権が設定されており、被相続人に1000万円超の債務が判明しました。

(6)上申書に書くべきポイント

相続財産があることを知らなかった場合、相続があったことを知らないと言えます。

熟慮期間3か月がスタートするのは、相続があったことを知ったときです。

相続財産があることを知らなかったから、熟慮期間3か月がスタートしません。

相続発生から10年後でも、熟慮期間3か月以内に相続放棄をすることができます。

上申書を作成して、次の点を詳細に説明するといいでしょう。

・相続財産状況を調べても、分からなかったこと

・被相続人の債務や保証債務を知ったきっかけ

ケース④期限が3か月であることを知らなかったは認められない

相続放棄には、3か月の期限があります。

法律を勉強したことがないと、3か月の期限があることを知らないかもしれません。

熟慮期間3か月を知らなかったから、教えてもらえなかったからは、通用しません。

熟慮期間3か月の期限を知らなくても、相続放棄は認められません。

ケース⑤相続人でないと誤認したからは認められない

相続人になる人は、法律で決められています。

相続人でないと誤認しても、3か月の期限経過で相続放棄は認められなくなります。

例えば、被相続人と別戸籍だから相続人でなくなるなどの誤認です。

現実は被相続人と別戸籍になっても、相続人になります。

3期限が過ぎてから相続放棄をする注意点

注意①相続放棄が認められるか家庭裁判所が判断

相続放棄の申立てを受付けたら、家庭裁判所は内容を審査します。

家庭裁判所が重視するポイントは、次のとおりです。

・相続があったことを認識した時点

・知らなかった理由に合理性があるか

・相続人が財産調査を行うのに著しい困難があったか

・相続があったことを認識してから3か月以内に手続をしたか

・特別な事情を詳細に説明しているか

・事情を裏付ける証拠資料を提出しているか

相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に相続放棄の申立てをします。

通常、上申書を提出して家庭裁判所を説得します。

相続放棄の申立てや必要書類を見ても、特別な事情は分からないからです。

家庭裁判所が重視するポイントを押さえて、簡潔に書くことが重要です。

上申書に、特別な様式はありません。

家庭裁判所の知りたい事柄を無視した感情論や攻撃的表現は、控えるといいでしょう。

注意②単純承認と見なされるリスクと回避策

相続が発生したら、相続を単純承認するか相続放棄するか選択することができます。

単純承認も相続放棄も、後から撤回することはできません。

撤回を認めると、相続が混乱するからです。

相続財産を利用処分すると、単純承認をしたと見なされます。

次の行為は、単純承認と見なされます。

・相続財産の売却

・遺産分割協議

・債権の取立て

単純承認をした後に、相続放棄をすることはできません。

事情を知らずに家庭裁判所が相続放棄を認める決定をしても、後から裁判などで無効になります。

注意③被相続人の最後の住所地不明でも相続放棄ができる

相続放棄の申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

通常、被相続人の最後の住所地は被相続人の住民票を取得して確認することができます。

被相続人が死亡してから長期間経過している場合、住民票が廃棄されていることがあります。

住民票は、永年保管でないからです。

今でこそ保存期間は150年ですが、令和元年までは5年でした。

市町村役場は、保存期間を過ぎた書類を順に廃棄します。

必要な書類が廃棄されていると、取得できなくなってしまうおそれがあります。

住民票が廃棄されている場合、死亡届の記載事項証明書を取得します。

死亡届の記載事項証明書で、最後の住所地を確認することができます。

死亡届の記載事項証明書は、市区町村役場から送付を受けた年度の翌年から27年間保管されています。

4相続放棄を司法書士に依頼するメリット

相続放棄は、その相続でチャンスは1回限りです。

家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできます。

高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。

家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。

一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。

司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。

相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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