相続放棄は詐害行為にならない

1過大な贈与は詐害行為になる

お金を借りた人は、借りたお金を返さなければなりません。

借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくなることがあります。

自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。

お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。

お金を返してもらうため、お金を貸した人は詐害行為を取り消すことができます。

詐害行為として取り消すことができるのは、財産行為のみです。

お金を返さなければならないのに、自分の財産の大部分を贈与した場合、お金を返せなくなるでしょう。

自分の財産の大部分を贈与した場合、お金を返せなくなって、お金を貸した人が困るのは知っていると言えます。

このような贈与は、合法であっても、詐害行為にあたります。

お金を貸した人は、詐害行為を取り消すことができます。

2相続放棄は詐害行為で取消ができない

相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になります。

被相続人の財産は、プラスの財産もマイナスの財産も相続財産です。

①被相続人が借金をしていた場合、相続放棄は詐害行為で取消ができない

被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡した場合、お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうとするでしょう。

相続人は被相続人の借金を引き継がないために、相続放棄をすることが考えられます。

お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、請求できなくなって困ります。

お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。

このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。

相続放棄をしても、自己の財産を不当に減らしたわけではありません。

お金を貸す人は、お金を借りた人が生前に自己破産するリスクを検討してお金を貸すか貸さないか決めているはずです。

お金を借りた人が死亡した後、相続人が相続放棄するリスクも検討してお金を貸すか貸さないか決めべきと言えます。

相続放棄は、被相続人の借金から免れるためにある制度です。

お金を貸す人が負うべきリスクを相続人に押し付けると、相続人の人生が破綻します。

相続放棄の制度は、相続人の人生を守るために存在します。

被相続人の借金から免れるために相続放棄をしたのに、相続放棄を取り消せるとなったら、制度の存在意義がなくなります。

そもそも、相続放棄は身分行為であって、財産行為ではありません。

身分行為とは、結婚、離婚、子の認知、養子縁組、養子の離縁といった行為のことです。

身分行為は他人から強制されるものではありません。

被相続人の借金から免れるために相続放棄をしたのに、相続放棄を取り消せるとなったら、事実上、相続放棄はできなくなります。

相続放棄ができないことが、強制されてしまいます。

身分行為は、強制されるものではありません。

相続放棄は詐害行為ではないから、お金を貸した人がとやかく言うことはできないのです。

②相続人が借金をしている場合、相続放棄は詐害行為で取消ができない

被相続人が多額のプラスの財産を残して死亡することがあります。

相続人が多額の借金を抱えている場合、お金を貸した人は相続した財産からお金を返してもらいたいと期待するでしょう。

プラスの財産が多いことを知っていても、他の相続人のために相続放棄をすることがあります。

例えば、被相続人のお世話をしていた人に相続させたい場合、被相続人と相続人の今までの経緯から相続したくない場合などです。

相続すれば多額の財産がたやすく手に入るのに、相続放棄をしたら相続財産は受け継ぐことはできません。

お金を貸した人は相続財産からお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、返してもらえなくなって困ります。

お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。

このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。

相続放棄をしても、自己の財産を積極的に減らしたわけではありません。

自己の財産が増えるのを消極的に妨げたにすぎないからです。

被相続人が借金をしていた場合と同様に、相続放棄は身分行為だからです。

身分行為は他人から強制されるものではありません。

自分が借金をしている場合、相続放棄を取り消せるとなったら、事実上、相続放棄はできなくなります。

相続放棄ができないことが、強制されます。

身分行為は、強制されるものではありません。

相続人が借金をしている場合でも、相続放棄は詐害行為ではありませんから、お金を貸した人がとやかく言うことはできません。

3 遺産分割は詐害行為で取消ができる

相続放棄は、家庭裁判所に対して必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の届出をすることです。

他の相続人に、プラスの財産を受け取らないことを申し入れをすることは、相続放棄ではありません。

相続人全員の話し合いで、プラスの財産を受け取らない人について合意をすることは、相続放棄ではありません。

相続財産は、相続人全員の話し合いによる合意で分け方を決める必要があります。

プラスの財産を受け取らないことを申し入れをすることは、相続人全員の話し合いによる合意の一部と言えます。

遺産分割協議とは、相続が発生したことにより、相続人全員の共有になった相続財産の分け方を決めることです。

遺産分割協議は、財産を目的とする財産行為です。

お金を借りている人が、法定相続分よりはるかに少ない財産で相続する合意をした場合、自己の財産を減少させる合意と言えます。

お金を借りている人が、プラスの財産を一切受け取らない合意をした場合、自己の財産を減少させる合意と言えます。

自己の財産を減少させる遺産分割協議は、詐害行為にあたります。

お金を貸した人は、詐害行為を取り消すことができます。

4相続放棄の取消は理由が限られている

法律行為は、一定の事情がある場合、取消をすることができます。

取消とは、相続放棄が受理されたときに既に何か問題が起きていて、問題に気付かずに受理されてしまったので、後からなかったことにすることです。

相続放棄は法律行為なので、一定の事情があれば、取り消しができます。

取り消しができるときは、相続放棄の申立をした家庭裁判所に、取消の申立をします。

①詐欺や強迫があった場合

詐欺とは、周囲の人から事実でない情報を聞かされてその情報を信じてしまったために相続放棄をした場合です。

強迫とは、相続放棄をしないと危害を加えるぞと迫られていた場合です。

②錯誤があった場合

錯誤とは、相続放棄をしようという意思決定をする際に、重要なことが事実と違っていた場合です。

③未成年者がひとりで相続放棄をした場合

未成年者は物事のメリットデメリットを充分判断することができません。

通常、親などの親権者が未成年者の代わりに法律行為をします。

家庭裁判所の担当者は必ず年齢を点検しますから、よほどのことがない限り、相続放棄が受理されません。

④成年被後見人などがひとりで相続放棄をした場合

成年被後見人とは、認知症や知的障害などで、物事のメリットデメリットを充分判断することができない人として認められた人です。

成年後見人などの保護者が成年被後見人の代わりに手続をします。

5相続放棄を司法書士に依頼するメリット

相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。

相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。

つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。

相続放棄は取消できないと言われますが、これは撤回できないの意味で使われています。

日常使う言葉が法律上異なる意味で使われると分かりにくくなります。

相続放棄は撤回できませんが、条件を満たせば取消できるし、無効になることもあります。

家庭裁判所から相続放棄を認められた後でも、お金を貸した人から取立が続くこともあります。

相続放棄は無効だと主張されることもあります。

詐害行為にあたるから取り消すなどと主張されることがあります。

お金を貸した人に詐害行為取消権がありますが、相続放棄は詐害行為ではありません。

さらに、詐害行為取消権は、裁判で主張する必要があります。

このようなことは、法律知識がないと対応できないでしょう。

詐害行為でなくても、相続放棄することは権利濫用だなどと主張されることもあります。

相続放棄することは権利濫用だという主張も意味がない主張です。

相続放棄は、相続人が多大な借金を引き継いでしまうことで人生が破綻することから守るための制度です。

お金を貸す人が負うべきリスクを押し付けられるいわれはありません。

相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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