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1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は被相続人ごとに判断できますから、例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は相続人ごとに判断しますから、例えば、父の相続について長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2相続放棄申述書の押印は認印でいい
家庭裁判所に対して、必要な書類をを添えて相続放棄をしたい旨の届出をします。
届出をする先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は裁判所のホームページで調べることができます。
相続放棄をしたい旨の届出の書類のことを、相続放棄申述書と言います。
相続放棄申述書は、相続放棄の届出をする人が押印をします。
実印で押印してももちろんいいのですが、押印は認印で充分です。
わざわざ実印である必要はありません。
認印でいいのだから、印鑑証明書が必要になることはありません。
朱肉を使う印章であれば、構いません。
相続放棄申述書に押印した印章がどれであったのか、覚えておきましょう。
家庭裁判所は、相続放棄の届出を受け付けた後、相続放棄照会書を送ってきます。
家庭裁判所から届く相続放棄照会書とは、相続放棄についての意思確認です。
相続放棄は、影響の大きい手続なので間違いがないように慎重に確認します。
相続放棄回答書の押印で使う印章は、相続放棄の届出に使った印象と同一印で押印します。
同一印で押印をすることで、相続放棄の届出をした人と同一人物が回答をしたと確認ができます。
3遺産分割協議で相続放棄はできない
相続放棄は、本来、家庭裁判所に対する手続です。
家庭裁判所に提出する書類には実印を押す必要はありません。
実印を押さないから、印鑑証明書を提出することもありません。
にもかかわらず、相続放棄の手続のため実印と印鑑証明書を用意して欲しいと他の相続人に言われたというケースがあります。
相続放棄のためと称していますが、相続放棄の手続のはずがありません。
相続放棄の手続は、相続放棄をする相続人が自分でするものだからです。
他の相続人が相続放棄の手続をするものではありません。
相続放棄の手続には、実印も印鑑証明書も不要です。
実印と印鑑証明書を渡して欲しいと言ってきた場合、別の手続をしようとしています。
具体的には、遺産分割協議と相続放棄を混同していると言えます。
自称専門家の場合、遺産分割協議と相続放棄を混同しているケースは度々あります。
他の相続人に対してプラスの財産を相続しないと宣言することを相続放棄と誤解しているケースでしょう。
プラスの財産を受け取らないことを相続放棄の手続と、表現しているのです。
相続財産の分け方は、相続人全員の話し合いによる合意が不可欠です。
話し合いがまとまったら、合意内容を文書に取りまとめます。
合意内容を取りまとめた文書を遺産分割協議書と言います。
相続人は遺産分割協議書の内容に間違いがないことを確認して、記名し実印で押印をします。
実印であることの証明として印鑑証明書を添付します。
他の相続人に対してプラスの財産を相続しないと宣言したのだから、遺産分割協議書に取りまとめたのでしょう。
遺産分割協議書に取りまとめた場合、記名し実印で押印をします。
遺産分割協議書だから印鑑証明書が必要になります。
相続放棄と遺産分割は、まったく別の効果の別の手続です。
4マイナスの財産は遺産分割協議は引き継ぐが、相続放棄は引き継がない
家庭裁判所で相続放棄を認めてもらった場合、被相続人のマイナスの財産は引き継ぎません。
相続放棄が認められた場合、はじめから相続人でなかったとみなされるためです。
相続放棄をしたら相続人でなくなるから、プラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐことがありません。
遺産分割をした場合、債権者は相続人全員に対して法定相続分で債務の支払を請求することができます。
マイナスの財産も相続財産ですから、財産の分け方を相続人全員で決めることができます。
債務は特定の相続人が引き継ぐことを相続人全員で合意することができます。
特定の相続人が引き継ぐ合意をした場合、合意は相続人間でのみ有効です。
相続人間でのみ有効な内輪の合意だから、債権者には関係ありません。
相続人間の合意があっても合意がなくても、債権者は相続人全員に対して法定相続分で債務の支払を請求することができます。
家庭裁判所で相続放棄を認めてもらった場合、相続放棄申述受理通知書が交付されます。
債権者に相続放棄申述受理通知書を提示すれば、それ以上の請求はされないでしょう。
5遺産分割協議は詐害行為になるおそれがあるが、相続放棄は詐害行為にならない
借りたお金を返さなければならないのに、自分の財産を不当に減少させて、結果、お金を返せなくなることがあります。
自分の財産を不当に減少させたら、お金を貸した人はお金を返してもらえなくなる結果になります。
お金を貸した人が困ることを知っているのに、自分の財産を不当に減少させることを詐害行為と言います。
①被相続人が借金をしていた場合相続放棄は詐害行為で取消ができない
被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡した場合、お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうとするでしょう。
相続人は被相続人の借金を引き継がないために、相続放棄をすることが考えられます。
お金を貸した人は相続人にお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、請求できなくなって困ります。
お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。
このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。
②相続人が借金をしている場合、相続放棄は詐害行為で取消ができない
被相続人が多額のプラスの財産を残して死亡することがあります。
相続人が多額の借金を抱えている場合、お金を貸した人は相続した財産からお金を返してもらいたいと期待するでしょう。
プラスの財産が多いことを知っていても、他の相続人のために相続放棄をすることがあります。
例えば、被相続人のお世話をしていた人に相続させたい場合、被相続人と相続人の今までの経緯から相続したくない場合などです。
相続すれば多額の財産がたやすく手に入るのに、相続放棄をしたら相続財産は受け継ぐことはできません。
お金を貸した人は相続財産からお金を返してもらおうと思っていたのに、相続放棄をされたら、返してもらえなくなって困ります。
お金を貸した人が困るのは知っていると言えるから、相続放棄を詐害行為として取り消したいと思うでしょう。
このような場合、相続放棄を詐害行為として取り消すことはできません。
③遺産分割は詐害行為で取消ができる
プラスの財産を受け取らないことを申し入れをすることは、相続人全員の話し合いによる合意の一部と言えます。
遺産分割協議とは、相続が発生したことにより、相続人全員の共有になった相続財産の分け方を決めることです。
遺産分割協議は、財産を目的とする財産行為です。
お金を借りている人が、法定相続分よりはるかに少ない財産で相続する合意をした場合、自己の財産を減少させる合意と言えます。
お金を借りている人が、プラスの財産を一切受け取らない合意をした場合、自己の財産を減少させる合意と言えます。
自己の財産を減少させる遺産分割協議は、詐害行為にあたります。
お金を貸した人は、詐害行為を取り消すことができます。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する届出です。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
つまり、家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
相続放棄は取消できないと言われますが、これは撤回できないの意味で使われています。
日常使う言葉が法律上異なる意味で使われると分かりにくくなります。
相続放棄は撤回できませんが、条件を満たせば取消できるし、無効になることもあります。
家庭裁判所から相続放棄を認められた後でも、お金を貸した人から取立が続くこともあります。
相続放棄は無効だと主張されることもあります。
詐害行為にあたるから取り消すなどと主張されることがあります。
お金を貸した人に詐害行為取消権がありますが、相続放棄は詐害行為ではありません。
さらに、詐害行為取消権は、裁判で主張する必要があります。
このようなことは、法律知識がないと対応できないでしょう。
詐害行為でなくても、相続放棄することは権利濫用だなどと主張されることもあります。
相続放棄することは権利濫用だという主張も意味がない主張です。
相続放棄は、相続人が多大な借金を引き継いでしまうことで人生が破綻することから守るための制度です。
お金を貸す人が負うべきリスクを押し付けられるいわれはありません。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。