相続放棄しても入院費介護費の支払

1相続の承認と相続放棄

相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。

相続財産というとプラスの財産だけイメージしがちですが、マイナスの財産も含まれます。

マイナスの財産が多い場合、相続放棄をすることができます。

法律で定められた一定の条件にあてはまるときは、単純承認したとみなされます。

単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐものです。

単純承認とみなされたら、相続放棄はできません。

相続放棄はできないのに、家庭裁判所に相続放棄の手続をして、相続放棄が認められても無効です。

家庭裁判所が事情を分からずに相続放棄を認めてしまっても、後から無効になります。

単純承認したとみなされる行為は、法律で定められています。

相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。

相続財産の名義変更をした、相続財産である銀行の預貯金を引き出して使ってしまった場合が典型的です。

単に、引き出しただけであれば、処分とは言えないことが多いでしょう。

引き出したうえ、自分の口座に送金して保管すると、「処分した」と評価される可能性が高くなります。

相続財産の分け方について、相続人全員で合意をした場合も、相続財産を「処分した」場合に当たります。

2相続放棄をした後の入院費や介護費の支払

①相続放棄をした場合、被相続人の債務は支払不要

相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も相続人が受け継ぎます。

被相続人のプラスの遺産もマイナスの遺産も受け継がないことを相続の放棄といいます。

相続放棄をすると、プラスの遺産を引き継がなくなりますが、マイナスの遺産も引き継ぐことがなくなります。

病院や介護施設から本人の相続人として入院費や介護費の支払を請求してきた場合、支払いを拒むことができます。

②相続人が連帯保証人の場合、連帯保証人として支払が必要

病院に入院する場合や介護施設に入所する場合、入院契約や入所契約をします。

契約を締結した場合、入院費や介護費が発生します。

これらの費用をきちんと払ってもらえるか心配なので、払ってもらえないとき肩代わりをする連帯保証人を立ててもらいます。

肩代わりの人は、多くの場合、被相続人の家族でしょう。

病院や介護施設と本人の家族は、入院費や介護費の肩代わりの約束をします。

入院費や介護費の肩代わりの約束のことを、連帯保証契約と言います。

入院契約や入所契約は、病院や介護施設と本人の契約です。

連帯保証契約は、病院や介護施設と本人の家族の契約です。

入院契約や入所契約と連帯保証契約は、当事者が異なるまったく別の契約です。

病院や介護施設は本人の入院費や介護費を、通常、本人の相続人に請求します。

相続人は相続放棄をしたことを理由として、支払いをしてくれません。

支払いをしてもらえないときに備えて、肩代わりの人を立ててもらっています。

相続人に支払いをしてもらえないから、肩代わりの人に請求をします。

連帯保証契約に基づく肩代わりの義務は、本人の家族の固有の義務です。

相続が発生しても、連帯保証契約は影響を受けません。

相続とは無関係だから、相続放棄をしても相続放棄をしなくても、肩代わりの義務はなくなりません。

病院や介護施設から連帯保証人として入院費や介護費の支払を請求してきた場合、支払いを拒むことができません。

③入院費や介護費を支払いたい場合、固有の財産から支払うのが安全

相続放棄が認められた場合、本人の債務を引き継ぐことはありません。

入院や入所のときに、連帯保証人になっていなければ本人の債務を支払う必要はありません。

債務の支払義務はなくても、お世話になった病院や施設だから、本人の入院費や介護費を支払いたい場合があります。

相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。

本人の預貯金で入院費や介護費の支払をした場合、相続財産を処分したと判断されるおそれがあります。

相続財産を処分した場合であっても、保存行為にあたる場合は、単純承認したとみなされません。

期限到来後の入院費や介護費であれば、本人の預貯金から支払をしても単純承認にあたらないという意見があります。

本人に莫大な借金がある場合、債権者は単純承認をしたと言って取立をしてくるおそれがあります。

あえてトラブルに巻き込まれる危険を冒す必要はありません。

相続人の固有の財産から支払をした場合、相続財産を処分したと言われることはありません。

お世話になった病院や施設だから、本人の入院費や介護費を支払いたい場合、相続人の固有の財産から支払をすることをおすすめします。

3生命保険は受け取れるものと受け取れないものがある

入院費や介護費の支払は高額になりがちです。

将来の備えとして、被相続人が生命保険に加入している場合があります。

①生命保険の死亡保険金は受け取れる

相続が発生したときは、被相続人が死亡したときですから、被相続人に生命保険がかけてあれば、保険金が支払われます。

原則として、生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産です。

受取人として「相続人」と指定してある場合であっても、相続放棄した人が受け取ることができます。

生命保険の死亡保険金は、相続財産ではありません。

相続財産ではないのに、相続税の課税対象になります。

相続税の課税対象になるから相続財産であると誤解している人は多いです。

家庭裁判所で相続放棄の手続をした人も、生命保険の死亡保険金は受け取ることができます。

生命保険の死亡保険金を病院に支払った場合、単純承認になりません。

生命保険の死亡保険金は被相続人の相続財産でないから、相続放棄とは関係がないからです。

②生命保険の入院給付金は受け取れない

生命保険の中には死亡保険金以外の給付金を重視した設計の商品があります。

入院給付金や手術一時金がその代表例です。

入院給付金の受取人は、被相続人が指定されているでしょう。

入院給付金は相続財産になります。

相続放棄をしたのに入院給付金を受け取ったら、単純承認したとみなされます。

生命保険の入院給付金を病院に支払った場合、単純承認になります。

給付金を受け取ったから、支払いができたからです。

4健康保険の高額療養費を受け取れる場合と受け取れない場合がある

①協会けんぽ、健康保険組合、共済の場合

健康保険の高額療養費は、被保険者に支給されます。

被相続人が被扶養家族の場合、高額療養費を請求し給付金を受け取ることができるのは、健康保険の本人である被保険者です。

健康保険の本人である被保険者の資格で受け取りますから、相続放棄は有効です。

被相続人が扶養家族でなく被保険者本人の場合、高額療養費の給付金は相続財産になります。

被相続人が被保険者本人の場合で、かつ、高額療養費を請求し給付金を受け取った場合、相続放棄は無効です。

②国民健康保険の場合

健康保険の高額療養費は、世帯主に支給されます。

被相続人が世帯主でない場合で、かつ、高額療養費を請求し給付金を受け取った場合、相続放棄は有効です。

被相続人が世帯主の場合、高額療養費の給付金は相続財産になります。

被相続人が世帯主の場合で、かつ、高額療養費を請求し給付金を受け取った場合、相続放棄は無効です。

③限度額認定証がおすすめ

健康保険の高額療養費は、高額な医療費を払ったときに後から現金で払い戻しを受ける制度です。

限度額認定証は、病院から高額療養費分を差し引いて請求してもらう制度です。

病院への支払いが少なく済むうえ、後から高額療養費の請求する必要がなくなります。

入院など医療費が高額になる見込みの場合、限度額認定証を発行してもらうといいでしょう。

高額療養費を受け取ることがないから、相続放棄が無効になる心配がなくなります。

5相続放棄を司法書士に依頼するメリット

実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。

家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。

家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。

一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。

相続放棄は撤回ができないので、慎重に判断する必要があります。

せっかく、相続放棄が認められても、相続財産を処分した判断されたら無効になりかねません。

このような行為をしてしまわないように、予め知識を付けておく必要があります。

相続放棄を自分で手続きしたい人の中には、相続放棄が無効になることまで考えていない場合が多いです。

司法書士は、相続放棄が無効にならないようにサポートしています。

せっかく手続しても、相続放棄が無効になったら意味がありません。

相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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