相続放棄しても不動産の管理義務

1相続放棄とは

相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。

被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。

相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。

相続放棄をする前に単純承認をしていた場合、相続放棄はできません。

相続放棄が撤回できないように、単純承認も撤回できないからです。

相続財産を処分したり、利用した場合、単純承認をしたとみなされます。

相続財産を処分したり、利用した場合は相続放棄ができなくなります。

家庭裁判所は事情が分からず書類に問題がなければ、相続放棄を受理してしまいます。

家庭裁判所が相続放棄を受理した後でも、相続財産を処分したり、利用した場合は、無効です。

2相続放棄が認められても無効になるリスクがある

被相続人が自宅を所有して住んでいることがあります。

相続人が就職や進学で実家を離れた後、そのまま実家に住んでいないこともあるでしょう。

相続人が実家を離れて遠方に住んでいる場合、実家を使う人がいないかもしれません。

実家に高い資産価値がある場合、相続して売却するのが選択肢のひとつでしょう。

老朽化しているなど資産価値が低い場合、売却することが難しいかもしれません。

ある程度の資産価値があっても、不便な立地の場合、売却できるまでに長期間かかるかもしれません

実家を売却できるまで、固定資産税などの費用がかかり続けます。

実家以外にめぼしい財産がなく、実家自体にも価値が感じられない場合、相続放棄をすることが考えられます。

家庭裁判所で相続放棄をした場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。

プラスの財産もマイナスの財産も引き継いでいませんから、実家の中のものは勝手に処分することはできません。

相続財産を処分した場合、相続を単純承認したとみなされます。

家庭裁判所が事情を知らずに相続放棄を認めると決定しても、相続放棄は無効になります。

実家の中のものを処分した場合、相続放棄が無効になるおそれがあります。

だれの目にも明らかにゴミであるようなものや腐りやすいものを処分した場合、相続放棄が無効になることはありません。

家財道具とはいっても財産的価値がない日用品や着古した衣類などを形見分けとして持ち帰った場合、相続放棄が無効になるリスクはないでしょう。

経済的価値があるような美術品や宝飾品などを持ち帰った場合、相続財産の処分と判断されるでしょう。

相続財産を処分したと判断された場合、相続を単純承認したとみなされます。

3相続放棄をした後も遺産の管理義務がある

相続放棄をするとはじめから、相続人でなかったと扱われます。

プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなるから、被相続人の遺産などに関与しなくていいと考えてしまうかもしれません。

相続放棄をした人は、相続財産を管理すべき人が管理を始めるまで管理を続けなければなりません。

自分が相続放棄をしたことによって次順位の人が相続人になる場合、その人が相続財産を管理してくれます。

固定資産税などの費用や実家の管理なども、次順位の相続人が引き受けてくれます。

自分の他に相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をした場合、相続放棄をした人は相続財産の管理を続けなければなりません。

相続財産の管理を続ける義務は、相続財産を管理すべき人が管理を始めるまでです。

相続財産を管理すべき人が管理を始めた場合、管理を終了することができます。

相続財産を管理すべき人が管理を始めるまで、自己の財産と同一の注意をもって管理が必要です。

他人の物を預かる場合、一般的には、善良なる管理者の注意を持って管理しなければなりません。

相続財産を管理するのは、他人の物を預かる場合より軽い注意で済むとされています。

他人の物を預かる場合より軽い注意で済むものの、放置しておくとトラブルに巻き込まれます。

4相続放棄をしても不動産管理をしないとトラブルになる

相続放棄をした人は、相続財産を管理すべき人が管理を始めるまで管理を続けなければなりません。

①被相続人の債権者から損害賠償請求をされるおそれ

被相続人に債権者がいる場合があります。

債権者は相続が発生したら、相続人に払ってもらおうと考えるでしょう。

相続人全員が相続放棄をしていた場合、相続人に払ってもらうことはできません。

相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなるからです。

債権者は、被相続人の財産から返してもらうことができます。

相続放棄をした人であっても、相続財産を管理しなければなりません。

管理が不適切な場合、財産価値が低下してしまうことがあります。

被相続人の債権者は、損害を受けたと考えるでしょう。

管理が不適切なため債権者が損害を受けたと認められた場合、損害賠償をしなければならなくなります。

②近隣住民から損害賠償請求をされるおそれ

空き家を放置していると、老朽化します。

壁や屋根が傷んで崩れることがあります。

通行人や近隣の家に被害を及ぼすことがあるでしょう。

人が住んでいない建物に野生動物や病害虫が住み着くことがあります。

管理が不適切なため近隣住民が損害を受けたと認められた場合、損害賠償をしなければならなくなります。

③倒壊のおそれのある危険な空き家に指定されるおそれがある

空き家を放置していると、倒壊のおそれのある危険な空き家に指定されるかもしれません。

役所から、適切な管理をするように助言、指導、勧告、命令がされます。

助言、指導、勧告、命令がされても無視される場合、行政代執行がされます。

行政代執行では、多くの場合、空き家が解体されます。

④苦情を受けるおそれがある

管理が不適切で雑草が繁茂している場合、粗大ごみなどが不法投棄されるかもしれません。

犯罪者集団の隠れ家に使われるかもしれません。

空き家が放火される危険もあります。

損害賠償請求がされないまでも、付近住民から苦情を受けることになるでしょう。

5相続放棄後の管理義務を免れるには

自分の他に相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をした場合、相続人不存在であることが考えられます。

法定相続人がいない場合、最終的には国のものになります。

国のものになる前にたくさんの手続があります。

相続財産の管理を続ける義務は、相続財産を管理すべき人が管理を始めるまでです。

相続財産を管理すべき人が管理を始めた場合、管理を終了することができます。

相続財産を管理する人を家庭裁判所に選んでもらいます。

相続財産を管理する人を家庭裁判所に選んでもらうことを相続財産管理人選任の申立と言います。

相続財産管理人選任の申立をすることができる人は、被相続人の債権者や利害関係人です。

相続放棄をした後、財産を管理している人は、利害関係人として相続財産管理人選任の申立をすることができます。

相続財産管理人選任の申立をするためには、予納金を納めなければなりません。

事件によって違いますが、予納金はおおむね100万円程度です。

予納金は、相続財産を整理して国に引き継ぐための経費として使われるお金です。

家庭裁判所が相続財産管理人を選んだ場合、相続財産は相続財産管理人に引き継ぐことができます。

相続財産管理人が相続財産を管理し始めたら、相続財産の管理義務がなくなります。

6自治体への寄付は難しい

不動産を相続放棄をしても管理責任があります。

管理責任から逃れるため、相続財産管理人選任の申立てをするためには100万円程度の予納金の負担があります。

自治体に寄付してもいいから手放したいと考えることも少なくありません。

自治体にとってメリットがある不動産であれば、寄付を受け付けてくれます。

自治体で相談するといいでしょう。

自治体にとって使い道のない不動産であれば、ご辞退されるでしょう。

管理責任があるうえに固定資産税という税収を失うことになります。

使い道のない不動産の管理のために、管理費用がかかっても予算がつかないからです。

7相続放棄を司法書士に依頼するメリット

相続放棄するためには、家庭裁判所に手続をする必要があります。

家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。

相続放棄をすると、初めから相続人でなかったと扱われます。

このことから、相続放棄が認められたら相続に関する手続には関与しなくて済むと安心してしまいがちです。

相続財産は引き継ぐことはなくなりますが、管理責任があります。

管理責任があることは、あまり知られていません。

家庭裁判所で相続放棄が認められた場合であっても、相続財産を処分した場合、相続放棄が無効になります。

相続放棄は簡単そうに見えて、実はいろいろなことを考慮しなければならない手続です。

相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

keyboard_arrow_up

0527667079 問い合わせバナー 事前相談予約