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1相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続の放棄は、被相続人ごとに判断できます。
例えば、父について相続放棄をするが、母について単純承認するでも差し支えありません。
相続の放棄は、相続人ごとに判断します。
例えば、父の相続ついて長男は相続放棄するが、長女は単純承認するでも差し支えありません。
2 認知症になると相続手続ができない
①認知症になると自分で相続放棄ができない
認知症になると、物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなります。
記憶があいまいになる人もいるでしょう。
物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、有効に相続放棄の申立てをすることはできません。
認知症になったら、自分で相続放棄の申立てをすることはできなくなります。
②子どもなどが代理で相続放棄ができない
認知症で物事のメリットデメリットを充分に判断できないのなら、子どもなどが代わりに判断すればいいという考えもあるでしょう。
幼い子どもは、物事のメリットデメリットを充分に判断できません。
親などの法定代理人が代わりに、契約などの法律行為をすることができます。
幼い子どもの代わりに、親などの法定代理人が法律行為ができるのは、未成年だからです。
認知症になっている人は、未成年ではないでしょう。
子どもなどが勝手に相続放棄をすることはできません。
③相続手続の放置はデメリットが大きい
認知症の相続人がいると、相続手続全体が止まってしまいます。
どうしていいか分からずに、なんとなく先延ばししがちです。
相続手続の放置は、おすすめできません。
先延ばしすることにメリットはほとんどなく、デメリットが大きいからです。
3認知症の人は成年後見人が判断して相続放棄
①成年後見人は認知症の人をサポートする人
認知症になると、物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなったり記憶があいまいになったりします。
物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、自分で適切な判断をすることができません。
成年後見人は、認知症の人をサポートする人です。
認知症の人は相続放棄をしたらどういう結果になるのかメリットデメリットを充分に判断できないから、成年後見人が代わりに判断します。
②成年後見人は本人の財産を守るために代理する
成年後見人は、認知症の人をサポートします。
認知症の人をサポートするとは、認知症の人の財産を守るという意味です。
認知症の人の利益にならないことや認知症の人の財産を守れない行為はすることができません。
成年後見人は認知症の人の財産を守るために、認知症の人の代わりをします。
認知症の家族の人の望みをかなえてくれる人ではありません。
③本人の利益を害する相続放棄はできない
相続の放棄は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことです。
一般的に、相続放棄をする理由は被相続人の借金を受け継ぎたくないためとか、費用がかかるだけであまり価値のない財産を受け継ぎたくないためといった理由が多いです。
被相続人の借金を受け継ぎたくないためであれば、本人の利益を害することはありません。
費用がかかるだけであまり価値のない財産を受け継ぎたくないためであれば、本人の利益になると言えます。
相続放棄の理由は、それだけではありません。
・裕福で生活に困らないから他の相続人に相続させたい
・一部の相続人に財産を集中させたい
上記の理由で相続放棄をする人がいます。
物事のメリットデメリットを充分に判断できる人が納得して相続放棄をするのであれば、何も問題はありません。
成年後見人は、認知症の人の財産を守るために代理をします。
裕福で生活に困らないから他の相続人に相続させたい場合、本人の利益にならないと判断されます。
相続税対策のため、相続放棄をすることもできません。
相続税対策は、相続人の利益のためにされるからです。
家族が成年後見人であっても家族以外が成年後見人であっても、本人の利益にならない相続放棄をすることはできません。
④成年後見人は利益相反行為ができない
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
成年後見開始の申立てをする際に、本人の家族を成年後見人の候補者として推薦することができます。
家庭裁判所は、家族の人を選任することもあるし、まったく別の人を選任することもあります。
本人の家族が成年後見人に選任された場合、成年後見人は本人の子どもなど近い関係の人が多いでしょう。
本人と成年後見人が同時に相続人になることがあります。
成年後見人は、本人が判断できないことを代わりに判断する人です。
本人の代わりに成年後見人が判断した場合、不適切なことがあります。
本人がソンすると成年後見人がトクをする場合です。
本人と成年後見人が同時に相続人になる場合、一方がトクをすると他方がソンする関係になります。
一方がトクをすると他方がソンする関係のことを利益相反と言います。
成年後見人が実際にトクするかどうかは、関係ありません。
成年後見人がトクしようとしたかどうかも、関係ありません。
一方がトクをすると他方がソンする関係は客観的に判断します。
客観的に見て利益相反になる場合、成年後見人は本人を代理することができません。
成年後見人が相続放棄をした後、本人の相続放棄の代理をする場合、利益相反になりません。
成年後見人と本人の相続放棄を同時に手続する場合、利益相反になりません。
利益相反になるかどうかは、客観的に判断されます。
⑤成年後見監督人がいる場合は成年後見監督人が代理する
成年後見人は、利益相反行為をすることができません。
成年後見(法定後見)では、成年後見監督人が置かれる場合があります。
成年後見監督人を置くか置かないかは、家庭裁判所が判断します。
成年後見監督人は、成年後見人を監督する人です。
普段は、成年後見人の監督やサポートをしています。
成年後見人が利益相反で本人を代理することができない場合、成年後見監督人が本人を代理します。
成年後見監督人が本人を代理する場合、本人の利益のために代理します。
⑥成年後見監督人がいない場合は特別代理人が代理する
成年後見人は、利益相反行為をすることができません。
成年後見(法定後見)では、成年後見監督人が置かれる場合もありますが、置かれない場合もあります。
成年後見監督人が置かれない場合、本人を代理する人がいません。
家庭裁判所に申立てをして、本人の代わりの人を決めてもらいます。
家庭裁判所に代理人を決めてもらうことを特別代理人選任の申立てと言います。
本人の家族が特別代理人に選任された場合、本人の利益のために代理をします。
本人の財産を守るため、特別代理人が本人の代理をします。
家族の意向をかなえるための人ではありません。
特別代理人が本人を代理する場合、本人の利益のために代理します。
4成年後見人による相続放棄の起算点
①相続放棄3か月以内の起算点は成年後見人が知ってから
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうことを、成年後見開始の申立てと言います。
事案の複雑さなどで期間は変わりますが、成年後見開始の申立てをしてから成年後見人が選任されるまでは、おおむね3~4か月ほどです。
相続放棄は、期限があります。
家庭裁判所に相続放棄の申立てができるのは、相続があったことを知ってから3か月以内です。
多くの場合、相続が発生してから成年後見開始の申立てをします。
成年後見人が選任されるまでに、3か月以上かかるでしょう。
本人が物事のメリットデメリットを充分に判断できない場合、相続の発生を知っても意味を理解できません。
本人が相続があったことを知ってから3か月以内に手続をしなければならないとしたら、酷な結果になります。
相続があったことを知ってから3か月以内のスタートは、成年後見人が知ってからです。
成年後見人は、認知症の人に代わって判断することができるからです。
②相続放棄3か月以内の起算点は成年後見人に就任してから
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
家庭裁判所が本人の家族を成年後見人に選任することがあります。
本人の家族は、相続の発生を知っているでしょう。
相続放棄は、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申立てをする必要があります。
本人の家族が相続があったことを知ってから3か月以内に手続をしなければならないとしたら、酷な結果になります。
家庭裁判所が成年後見人に選任する前は、本人を代理することができないからです。
相続があったことを知ってから3か月以内のスタートは、成年後見人に就任してからです。
5相続放棄が認められた後でも成年後見を解除できない
成年後見人(法定後見人)が解任された場合、新しい成年後見人(法定後見人)が選任されます。
成年後見制度の利用をやめたわけではないからです。
成年後見制度を使い続ける限り、成年後見人(法定後見人)が死亡しても、解任されても、辞任しても、新しい成年後見人(法定後見人)が選任されます。
成年後見制度は、原則として、やめることができません。
成年後見制度をやめることができるのは、本人の判断能力が回復したときです。
判断能力が回復した診断書がある場合、成年後見制度をやめることができます。
本人や家族が、判断能力が回復したと主張するだけでは、成年後見をやめることができません。
相続手続の必要がある場合、成年後見開始の審判を申し立てるきっかけになります。
成年後見制度を使うきっかけとなった相続手続が終わった場合でも、成年後見をやめることはできません。
ひとりで判断することが不安になったり心細くなったりしてしまう人をサポートする制度が成年後見の制度だからです。
ひとりで判断することができない人を放置することは許されません。
家族が成年後見人(法定後見人)は不要だからやめたいと希望しても、本人の保護のため成年後見(法定後見)は続きます。
6認知症の相続人がいる相続を司法書士に依頼するメリット
相続が発生した後、相続手続を進めたいのに認知症の相続人がいて困っている人はたくさんいます。
認知症の人は、家族がお世話をしているでしょう。
家庭裁判所に後見開始の申立てや特別代理人の申立てをする必要があります。
法律の知識のない相続人にとって高いハードルとなります。
信託銀行などは、高額な手数料で相続手続を代行しています。
被相続人が生前、相続人のためを思って、高額な費用を払っておいても、信託銀行はこのような手間のかかる手続は知識のない遺族に丸投げします。
知識のない相続人が困らないように高額でも費用を払ってくれたはずなのに、これでは意味がありません。
税金の専門家なども対応できず、困っている遺族はどうしていいか分からないまま途方に暮れてしまいます。
裁判所に提出する書類作成は、司法書士の専門分野です。
途方に暮れた相続人をサポートして相続手続を進めることができます。
自分たちでやってみて挫折した方も、信託銀行などから丸投げされた方も、相続手続で不安がある方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。