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1任意後見契約締結だけでは効力はない
①任意後見契約は元気なときに締結
認知症や精神障害などにかかると、判断能力が低下します。
人によっては、記憶があいまいになります。
任意後見とは、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
だれにサポートを依頼するのか、本人が自分で決めます。
どんなことをサポートしてもらいたいのか、本人が自分で決めます。
任意後見契約は、自分らしく生きるための契約です。
自分で、いろいろなことを決めなければなりません。
本人が自分で判断することができなくなったら、契約することはできません。
任意後見契約は、本人が元気なときに締結します。
②任意後見監督人選任で任意後見がスタート
任意後見契約を締結した直後、サポートすることはありません。
本人は元気で、判断能力があるはずだからです。
本人の判断能力が充分にある間は、自分で判断できます。
サポートをしてもらう必要は、ありません。
本人がひとりで判断することが不安になったら、効力が発生します。
本人が自分で決めることが心細くなったら、家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。
任意後見監督人が選任されるまで、サポートを開始しません。
任意後見監督人が選任された後、任意後見がスタートします。
2任意後見監督人は不要にできない
①任意後見監督人は任意後見人をサポートする
任意後見監督人は、任意後見人を監督する人です。
監督と聞くと、監視されるイメージを持つかもしれません。
任意後見人は、監視する人というよりサポートする人です。
任意後見契約は、本人が信頼できる人をする契約です。
本人が信頼できる人は、本人の子どもなど近い関係の家族でしょう。
本人の家族が法律などに詳しいことは、あまりありません。
法律の知識がないから、不安になりながら後見事務をすることになります。
法律の知識不足から、不適切な事務をしてしまうかもしれません。
心配な点があれば、家庭裁判所に相談することは大切です。
家庭裁判所は、身近な役所ではないでしょう。
任意後見監督人は、任意後見人の良き相談相手です。
任意後見監督人は、任意後見人から相談を受けて適切な事務をサポートします。
任意後見監督人は、任意後見人をサポートする人です。
②任意後見人の家族は任意後見監督人になれない
任意後見監督人が選任された後、任意後見がスタートします。
任意後見監督人選任の申立てをする際に、任意後見監督人の候補者を立てることができます。
候補者を立てても立てなくても、家庭裁判所は自由に任意後見監督人を選任します。
候補者を選任することも候補者以外の人を選任することも、あります。
任意後見監督人に選任されるのは、原則として、家族以外の専門家です。
家庭裁判所が選んだ人について、不服を言うことはできません。
候補者以外の人が選任されても、任意後見監督人選任の申立てを取り下げることはできません。
次の人は、任意後見監督人になることはできません。
(1)任意後見受任者や任意後見人の配偶者
(2)任意後見受任者や任意後見人の直系血族
(3)任意後見受任者や任意後見人の兄弟姉妹
任意後見受任者や任意後見人の家族は、任意後見監督人にふさわしくないという意味です。
任意後見人が不正をした場合、指摘して不正をたださなければなりません。
任意後見監督人が家族の場合、任意後見人の不正を見つけてもわざと見逃すかもしれません。
多くの場合で任意後見人が本人の家族だから、任意後見監督人は専門家がふさわしいといえます。
原則として、任意後見人の家族は任意後見監督人になることができません。
③任意後見監督人解任は正当事由があるとき家庭裁判所が判断
任意後見人として家庭裁判所が選んだ人について、不服を言うことはできません。
家族や任意後見人が任意後見監督人を解任することはできません。
家族や任意後見人は、家庭裁判所に任意後見人解任の申立てをすることができます。
任意後見監督人は、正当理由があれば解任されます。
解任するのは、家庭裁判所です。
正当事由があるか家庭裁判所が判断します。
正当理由とは、任意後見監督人が不正行為をしたなどの重大な理由です。
3任意後見がスタートしたら金融機関へ届出
①成年後見の届出が必要
任意後見契約は、将来に備えてサポートを依頼する契約です。
任意後見人がサポートを開始した場合、金融機関に届出が必要です。
金融機関は、口座の持ち主が認知症などになっても分かりません。
任意後見監督人が選任されても、家庭裁判所は金融機関などに通知しません。
任意後見人はサポートの一部として、口座を管理することを知らせる必要があります。
成年後見の届出に必要な書類は、おおむね次のとおりです。
(1)成年後見の届出書
(2)成年後見登記事項証明書
(3)任意後見監督人選任審判書
(4)確定証明書
金融機関によって、必要な書類が異なります。
事前に必要書類を問い合わせをして、窓口を予約しておくとスムーズに手続ができます。
銀行の利用者全体から見ると、後見制度を使う人は多くはありません。
事前打ち合わせをせずに窓口に行った場合、担当者不在で手続ができないことがあります。
任意後見人に就任した場合、成年後見の届出が必要です。
②口座名義が変更で引落ができなくなる可能性
口座名義の取り扱いは、金融機関によって異なります。
成年後見の届出をした際、口座名義が変更されることがあります。
「成年被後見人○○○○成年後見人□□□□」などです。
成年後見人の名義に変更することは、できません。
成年後見人は、財産管理のサポートをする人であるに過ぎないからです。
銀行口座から引き落としがされているでしょう。
公共料金などの支払いは、本人の生活に欠かせないものです。
口座の名義が「○○○○」から「成年被後見人○○○○成年後見人□□□□」に変更された場合、
引落ができなくなることがあります。
名義が変更されても引き続き公共料金が引き落とされるのか、銀行窓口で確認することをおすすめします。
口座名義が変更されても、しばらくは引落ができることが多いものです。
一定期間経過すると、口座名義相違で引落ができなくなることがあります。
引き落としができない場合、引落機関に依頼して対応が必要になります。
③貸金庫契約に届出が必要
任意後見人が財産管理だけでなく、重要な書類の管理を依頼されることがあります。
本人が以前から貸金庫を利用していた場合、成年後見の届出が必要です。
成年後見の届出は、口座と貸金庫は別々に必要になります。
本人は貸金庫を利用していなかった場合でも、重要書類を貸金庫で保管することが適切なことがあります。
任意後見人は、本人のために貸金庫契約をして重要書類を保管することができます。
貸金庫契約をする場合、任意後見人名義で契約するのは不適切です。
本人の財産と任意後見人の財産の分別管理をする必要があります。
任意後見人は、他人の財産を預かっているだけだからです。
本人の家族であっても、他人の財産を預かる立場だからです。
任意後見人名義ではなく「成年被後見人○○○○成年後見人□□□□」名義などが適切でしょう。
④証券会社に届出が必要
本人が株式や有価証券を保有していることがあります。
任意後見契約で株式や有価証券の管理を依頼されることがあります。
証券会社に、成年後見の届出が必要です。
株式を保有している場合、配当金が支払われることがあるでしょう。
銀行口座に振り込まれるのであれば、特別な手続は不要です。
配当金受領に手続が必要になる場合、本人は自分で手続できないでしょう。
株主名簿管理人を確認して、配当金受領の書類を任意後見人に送付してもらう必要があります。
任意後見人に議決権行使を依頼している場合、議決権行使書類についても同様に送付先を変更してもらう必要があります。
4任意後見契約を司法書士に依頼するメリット
任意後見制度は、あらかじめ契約で「必要になったら後見人になってください」とお願いしておく制度です。
認知症が進んでから任意後見契約をすることはできません。
重度の認知症になった後は、成年後見(法定後見)をするしかなくなります。
成年後見(法定後見)では、家庭裁判所が成年後見人を決めます。
家族が成年後見人になれることも家族以外の専門家が選ばれることもあります。
任意後見契約では、本人の選んだ人に後見人になってもらうことができます。
家族以外の人が成年後見人になることが不安である人にとって、任意後見制度は有力な選択肢になるでしょう。
一方で、任意後見制度では、必ず任意後見監督人がいます。
監督という言葉の響きから、不安に思ったり反発を感じる人もいます。
任意後見人が不正などをしないように監督する人と説明されることが多いからでしょう。
せっかく家族が後見人になるのに、あれこれ外部の人が口を出すのかという気持ちになるのかもしれません。
任意後見監督人は任意後見人のサポート役も担っています。
家庭裁判所に相談するより、ちょっと聞きたいといった場合には頼りになることが多いでしょう。
任意後見契約は締結して終わりではありません。
本人が自分らしく生きるために、みんなでサポートする制度です。
任意後見制度の活用を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。