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1任意後見契約はサポートを依頼する契約
①信頼できる人と契約する
認知症や精神障害や知的障害などで判断能力が低下すると、物事の良しあしが適切に判断することができなくなります。
記憶があいまいになる人もいるでしょう。
任意後見とは、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
任意後見は契約だから、だれと契約するのか本人が自分で決めることができます。
任意後見契約をした場合、物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなった後にサポートしてもらいます。
自分の財産管理などを依頼するから、信頼できる人と契約します。
多くの場合、本人の子どもなど近い関係の家族でしょう。
家庭裁判所で成年後見開始の審判をしてもらう場合、成年後見人は家庭裁判所が決めます。
家庭裁判所が成年後見人を決める場合、家族が成年後見人に選ばれるのは20パーセント程度です。
任意後見契約では、本人が選んだ人にサポートを依頼することができます。
②判断能力が充分なうちに契約する
任意後見とは、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
任意後見契約は契約だから、本人が物事のメリットデメリットを充分に判断する必要があります。
認知症や精神障害などで判断能力を失った場合、契約は無効になります。
本人が物事のメリットデメリットを充分に判断する必要があります。
認知症や精神障害などで判断能力を失った場合、任意後見契約をすることができなくなります。
物事のメリットデメリットを充分に判断できない場合、家庭裁判所で成年後見開始の審判をしてもらうことになります。
③公正証書で契約する
任意後見契約は、物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなった後にサポートしてもらう契約です。
重要な契約だから、公正証書で契約をしなければなりません。
公正証書は、公証人に作ってもらう文書です。
単なる口約束や個人間の契約書では、効力がありません。
2公正証書で任意後見契約
①公正証書は公証人に作ってもらう文書
任意後見は、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
任意後見契約は、公正証書でする必要があります。
公正証書は、公証人に作ってもらう文書です。
公証人は、法律の専門家です。
法律の専門家が当事者の意思を確認して作成します。
公正証書で契約した場合、契約当事者が自分の意思で契約したことが推定されます。
公正証書は、公証役場で厳重に保管されます。
公正証書は厳重に保管されていますから、トラブル防止に役立ちます。
②公証役場で任意後見契約
任意後見契約は、公正証書でする必要があります。
公正証書を作成していない場合、任意後見契約に効力はありません。
公正証書は、公証人に作ってもらう文書です。
公正証書を作ってもらう場合、原則として、公証役場に出向く必要があります。
公証役場は、公証人が執務する役所です。
愛知県内であれば、11か所あります。
名古屋市内には、葵町公証役場、熱田公証役場、名古屋駅前公証役場の3か所です。
身体が不自由などの理由で公証役場に出向くことができない場合、公証人に自宅や病院などに出張してもらうことができます。
③任意後見契約に証人は不要
任意後見は、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
サポートをお願いする人とサポートする人で契約します。
任意後見契約をする場合、証人は不要です。
公正証書遺言を作成する場合、証人が2人必要になります。
任意後見契約を公正証書で作成するときに、証人は必要ありません。
④公正証書作成は手数料がかかる
任意後見契約は、公正証書でする必要があります。
公正証書は、公証人に作ってもらう文書です。
公証人に公正証書を作成してもらう場合、手数料を払わなければなりません。
任意後見契約を公正証書にする作成手数料は、1契約あたり1万1000円です。
契約書の枚数が増えると、1枚あたり250円加算されます。
任意後見契約を公正証書で作成したとき、登記がされます。
戸籍には、何も記録されません。
後見登記は、公証人から嘱託されます。
登記嘱託手数料として1400円、印紙代2600円、郵便料は600円程度かかります。
公正証書の正本と謄本の作成手数料は、1枚あたり250円かかります。
公証役場に出向いて公正証書を作成する場合、おおむね2万円程度かかります。
身体が不自由などの理由で公証役場に出向くことができない場合、公証人に自宅や病院などに出張してもらうことができます。
公証人の出張日当を負担しなければなりません。
公証人の出張日当は、半日で1万円、1日で2万円です。
公証人の交通費は、実費で請求されます。
3任意後見契約をするときに決めること
①サポートをする人
任意後見は、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
だれにサポートをしてもらうか自分で決めることができます。
サポートをお願いする人とサポートする人で契約します。
②やってもらいたいこと
任意後見は、将来に備えてやってもらいたいことを決めてサポートを依頼する契約です。
任意後見契約で決めた内容以外のことは、サポートしてもらうことができません。
具体的には、次のような内容を決めておきます。
(1)預貯金の管理
(2)年金の受け取り
(3)税金や公共料金の支払い
(4)不動産の売却、管理、収益不動産の入居者との契約
(5)遺産分割協議や相続放棄の代理
(6)介護施設等の入居契約や入居費用の支払い
(7)介護サービス・医療の契約や費用の支払い
(8)要介護認定の申請
自宅を売却して介護施設に入りたい場合、任意後見人が自宅を売却することを決めておく必要があります。
任意後見契約に不動産の売却の権限が書いていない場合、自宅の売却が必要になっても任意後見人は何もできません。
任意後見人に自宅を売却してもらいたくない場合、任意後見契約で売却権限を与えないでおくことができます。
任意後見契約は、やってもらうことを自分で決めることができます。
法定後見と違い、自分らしく生きるため自分で決めておきます。
③その他の契約内容
任意後見契約でサポートを依頼する場合、サポートする人に報酬を払うことができます。
サポートする人に報酬を払う場合、報酬の額や支払方法は任意後見契約で決めておきます。
報酬の支払いは、義務ではありません。
任意後見契約で無報酬と決めておくことができます。
本人の子どもなどと任意後見契約をする場合、無報酬と定めることは割とよくあります。
4任意後見契約を公正証書で作成する方法
①契約内容を決める
任意後見契約をする場合、サポートする人と契約をします。
サポートする人を自分で決めることができます。
だれと契約するのか契約の相手方を決めます。
任意後見契約は、サポート内容を自分で決めることができます。
どんな内容をサポートしてもらうのかサポート内容を決めます。
サポートする人とサポート内容が決まったら、契約内容を書面に取りまとめます。
自分で書面に取りまとめてもいいし、司法書士などの専門家に依頼することもできます。
②公証役場と打合せ
任意後見契約は、公正証書でする必要があります。
公正証書は、公証人に作ってもらう文書です。
公証人は、法令に違反する文書を公正証書にすることはできません。
公証人は、公序良俗に違反する文書を公正証書にすることはできません。
任意後見契約の案文は、あらかじめ公証人に点検してもらいます。
任意後見契約の案文を司法書士などの専門家に作ってもらった場合、公証役場との打ち合わせは代わりに担当してもらうことができます。
③公証人の予約
公正証書を作ってもらう場合、原則として、公証役場に出向く必要があります。
いきなり窓口へ出向いても、公証人が出張しているかもしれません。
公証人の予約が必要です。
忙しい公証役場では、予約が1か月先になることがあります。
④任意後見契約を公正証書で作成
任意後見契約を公正証書で作成する当日、契約当事者が公証役場に出向きます。
契約当日は、契約書の内容を読み上げて問題がないか確認します。
事前に公証人と打合せをしてあるので、スムーズに終わるでしょう。
任意後見契約にかかる時間は、10~15分程度です。
公証役場の手数料を払ったら、終了です。
5任意後見契約で注意すべきポイント
①判断能力を失うと契約できない
任意後見とは、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
サポートする人を自分で決めます。
サポートしてもらうことを自分で決めます。
本人が認知症などで物事のメリットデメリットを充分に判断できない場合、任意後見契約をすることはできません。
本人が充分に判断できない場合、自分で決めていないからです。
本人の判断能力を失って判断ができない場合、契約書を作成しても無効の契約です。
公証人は、無効の契約を公正証書にすることはできません。
本人が認知症などで物事のメリットデメリットを充分に判断できない場合、任意後見契約を締結することはできません。
②任意後見のスタートは家庭裁判所で手続
任意後見契約は、本人の判断能力が充分にあるときに締結します。
判断能力を失うと契約できないと、任意後見契約を締結できないからです。
任意後見契約を締結した時点では、任意後見人はサポートを依頼されただけでサポートをしません。
任意後見人がサポートを開始するのは、本人が判断能力を失ったときです。
本人が判断能力を失ったとき、家庭裁判所に任意後見監督人を選んでもらいます。
任意後見監督人が監督を始めたとき、任意後見人はサポートを開始します。
任意後見監督人の仕事は、監視というよりサポートです。
任意後見監督人は、任意後見人の相談相手です。
任意後見監督人は、任意後見人をサポートする人です。
任意後見人は、任意後見監督人にサポートしてもらえます。
任意後見監督人は、家庭裁判所にサポートしてもらえます。
任意後見監督人と家庭裁判所のサポートがあるから、任意後見人は安心して本人をサポートできます。
③任意後見契約で依頼できないことがある
任意後見契約では、サポートしてもらうことを自分で決めることができます。
任意後見契約で、依頼できないことがあります。
例えば、次のことは依頼できません。
(1)事実行為
食事の世話や着替えの手伝いなどの行為は、任意後見で依頼できません。
介護サービスの契約をして、サービスの一環として食事の世話や着替えの手伝いなどをしてもらうように手配をすることができます。
(2)身分行為
結婚や養子縁組は、任意後見で依頼できません。
本人の意思が重視される行為だからです。
(3)医療同意
医師から説明を受け医療行為に対して承諾することは、任意後見で依頼できません。
尊厳死などを希望する場合、尊厳死公正証書を作成するなどの方法があります。
(4)財産の積極的運用
本人が収益不動産を保有している場合、大規模修繕などの積極的な投資が必要になることがあります。
任意後見契約で、積極的な資産運用は依頼できません。
収益不動産について積極的資産運用をしてもらいたい場合、家族信託契約をした方がいいでしょう。
(5)死後の事務
任意後見契約は、本人が生きている間サポートを依頼する契約です。
本人が死亡した時点で、サポートは終了になります。
本人の死亡後の遺体の引取や葬儀について依頼したい場合、死後事務委任契約をしておく必要があります。
6任意後見契約を司法書士に依頼するメリット
任意後見制度は、あらかじめ契約で「必要になったら後見人になってください」とお願いしておく制度です。
認知症が進んでから任意後見契約をすることはできません。
重度の認知症になった後は、成年後見(法定後見)をするしかなくなります。
成年後見(法定後見)では、家庭裁判所が成年後見人を決めます。
家族が成年後見人になれることも家族以外の専門家が選ばれることもあります。
任意後見契約では、本人の選んだ人に後見人になってもらうことができます。
家族以外の人が成年後見人になることが不安である人にとって、任意後見制度は有力な選択肢になるでしょう。
任意後見契約は締結して終わりではありません。
本人が自分らしく生きるために、みんなでサポートする制度です。
任意後見制度の活用を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。