遺言書が原因で相続した不動産が売却できない

1相続した不動産は売却できる

①相続人が売却手続

相続した不動産は、相続人が自由に処分できます。

遺言書の存在が相続した不動産の売却を妨げることはありません。

遺言書の内容や手続の進め方によって、不動産の売却手続が進まなくなります。

②売却するまで固定資産税はかかり続ける

固定資産税とは、不動産を保有していると課される税金です。

相続した不動産に、固定資産税は課されます。

遺産分割協議中は、相続人全員が連帯して固定資産税全額を納付する義務があります。

売却できない状態が長引くと、固定資産税が嵩みます。

不動産を売却するまで、固定資産税はかかり続けます。

③遺言書があっても遺産分割協議ができる

遺言書を作成して、財産の分け方を指定することができます。

遺言書で相続財産の分け方が指定されている場合、遺産分割協議は不要です。

遺産分割協議とは、相続人全員による相続財産の分け方についての話合いです。

ときには、遺言書の内容が大きく偏っていることがあります。

内容が極端に偏った遺言書をそのまま執行すると、相続人間で深刻なトラブルになります。

相続人間でトラブルになるおそれがあるのに、わざわざ執行してトラブルにする必要はありません。

相続人全員で話し合って、相続財産の分け方を決める方が合理的です。

遺言書があっても、相続人全員の合意で遺産分割協議をすることができます。

④売却する前提で遺言書を作成できる

遺言書を作成すると言うと、財産の分け方を真っ先にイメージするでしょう。

相続財産に不動産が含まれる場合、分け方に困ることがあります。

不動産をそのまま分ける方法の他に、売却して金銭で分けることができます。

売却する前提で、遺言書を作成することができます。

2遺言書が原因で相続した不動産が売却できない

ケース①自宅保管の自筆証書遺言

(1)売却できない理由

遺言書を作成する場合、公正証書遺言か自筆証書遺言を作成することがほとんどです。

公正証書遺言とは、遺言内容を公証人に伝え公証人が書面に取りまとめる遺言書です。

自筆証書遺言とは、自分で書いて作る遺言書です。

遺言書は、遺言者が死亡したときに効力が発生します。

公正証書遺言は、遺言者が死亡した後すぐに執行することができます。

自宅などで保管していた自筆証書遺言は、遺言者が死亡した後すぐに執行することができません。

家庭裁判所で、検認手続をする必要があるからです。

検認手続とは、自筆証書遺言を家庭裁判所に提出して開封してもらう手続です。

検認手続が必要なのに検認手続をしないと、相続手続を進めることができません。

相続手続を進められないと、不動産の売却手続を進めることができません。

(2)売却するための対策

自筆証書遺言を見つけた人や預かっていた人は、家庭裁判所に対して自筆証書遺言検認の申立てをします。

自筆証書遺言検認の申立てを受付けたら、相続人全員を家庭裁判所に呼び出します。

検認期日では、遺言書を開封し遺言書の内容や形状を確認します。

検認が終わったら、検認済証明書を発行してもらいます。

自筆証書遺言と検認済証明書を添えて、相続手続をします。

相続登記が完了したら、不動産の売却手続を進めることができます。

ケース②内容が不明瞭な遺言書

(1)売却できない理由

自筆証書遺言は、専門家のサポートなしで作られることがほとんどです。

専門家のサポートがないと、適切な記載をすることは難しいでしょう。

「自宅は、お兄ちゃんに任せる。」

上記の記載は、内容が不明瞭な遺言書の代表例です。

自宅とは、どこに所在するどの不動産なのか分かりません。

お兄ちゃんとは、だれなのか分かりません。

任せるとは、相続させるのか管理させるのか分かりません。

内容が不明瞭な遺言書があっても、相続手続を進めることができません。

相続手続を進められないと、不動産の売却手続を進めることができません。

(2)売却するための対策

遺言書があっても、相続人全員の合意で遺産分割協議をすることができます。

相続人全員で適切な合意をした後、合意内容を書面に取りまとめます。

合意内容を取りまとめた書面を遺産分割協議書と言います。

適切な内容の遺産分割協議書を添えて、相続手続をします。

相続登記が完了したら、不動産の売却手続を進めることができます。

ケース③書き方ルール違反の遺言書

(1)売却できない理由

遺言書には、厳格な書き方ルールがあります。

公正証書遺言は、公証人が書面に取りまとめます。

公証人は、法律の専門家です。

公証人が関与したのに、書き方ルールに違反することは考えられません。

自筆証書遺言は、ひとりで作成されることがほとんどです。

書き方ルールに違反すると、遺言書が無効になります。

例えば、次の遺言書は書き方ルールの違反で無効になります。

・遺言書の本文がPCなどで作成

・遺言者以外の人が代筆

・〇月吉日など日付と特定できない

・日付スタンプが押してあって、自書していない

・押印がない

無効の遺言書があっても、相続手続を進めることができません。

相続手続を進められないと、不動産の売却手続を進めることができません。

(2)売却するための対策

遺言書が無効の場合、遺言書による相続手続はできません。

遺言書が無効になると、遺言書がなかった扱いになるからです。

遺言書がない場合、相続財産の分け方は相続人全員の合意で決定します。

遺産分割協議が成立したら、相続手続を進めることができます。

相続登記が完了したら、不動産の売却手続を進めることができます。

ケース④共有で相続させる遺言書

(1)売却できない理由

遺言書で相続財産の分け方が指定されている場合、遺言書の内容どおりに遺産分割をすることができます。

遺言書の内容が共有で相続させる場合、不動産は共有になります。

不動産が共有になると、一部の相続人だけで不動産を売却することはできません。

共有する不動産を売却するためには、共有者全員の同意が必要だからです。

(2)売却するための対策

遺言書の内容が共有で相続させる場合、共有で相続登記をすることができます。

共有者全員の協力があれば、不動産を売却することができます。

共有者全員の協力が難しい場合、家庭裁判所に共有物分割調停を申し立てることができます。

共有物分割調停とは、家庭裁判所の助力を得て共有者全員による合意を目指す制度です。

共有物分割調停で合意ができないときは、共有物分割請求訴訟をすることができます。

ケース⑤遺言執行者がいる

(1)売却できない理由

遺言書は、作成するだけでは意味がありません。

遺言書の内容は、自動で実現するわけではないからです。

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する人です。

遺言書で、遺言執行者を指名することができます。

遺言執行者がいる場合、相続人は遺言執行者の妨害行為はできません。

相続人が不動産を売却したいと思っても、遺言書の実現が優先されるからです。

(2)売却するための対策

遺言執行者には、遺言書の内容を実現する義務があります。

相続人は、遺言執行者を無視して勝手に不動産の売却行為はできません。

相続人は、遺言執行者の妨害行為はできないからです。

遺言執行者は遺言書の内容を実現する人で、相続人の希望をかなえる人ではありません。

不動産の売却行為が必要で合理的であれば、遺言執行者の協力が得られるでしょう。

遺言執行者の協力が得れば、不動産を売却することができます。

例外的なケースでは、家庭裁判所に解任の申立てをすることができます。

例えば、遺言執行者が長期間職務を放置するケースや横領など違法行為をしたケースです。

遺言書に書いていないのに不動産売却に協力してもらえないだけでは、解任事由にあたらないでしょう。

遺言執行が完了したら、財産は相続人のものになります。

相続人は、相続した不動産を自由に処分することができます。

ケース⑥遺言書で遺贈

(1)売却できない理由

遺贈とは、遺言書を作成して相続人や相続人以外の人に財産を引き継ぐことです。

相続人に対して不動産を遺贈した場合、遺贈を受けた相続人は他の人の協力なしで所有権移転登記をすることができます。

相続人以外の人に対して不動産を遺贈した場合、遺贈義務者の協力がないと所有権移転登記をすることができません。

遺言執行者がいる場合、遺贈義務者は遺言執行者です。

遺言執行者がいない場合、遺贈義務者は相続人全員です。

遺言書の内容に不満がある相続人がいると、相続手続を進められなくなります。

(2)売却するための対策

遺言執行者には、遺言書の内容を実現する義務があります。

遺言執行者が協力しないことは、あまり考えられません。

遺言書で遺言執行者が指名されていない場合、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをすることができます。

家庭裁判所が選任した遺言執行者と協力して、所有権移転登記をすることができます。

所有権移転登記が完了したら、不動産の売却手続を進めることができます。

3売却予定でも相続登記は省略できない

①権利変動の過程を公示する

相続した不動産をすぐに売却する予定の場合、相続登記の手間と費用がもったいないと考えるかもしれません。

相続登記を省略することはできません。

登記制度は、現在の所有者を公示しているだけではないからです。

登記制度で、権利変動の過程も公示しています。

相続登記の省略を認めると、適切な権利変動の過程が公示されなくなります。

登記制度への信頼が大きく損なわれます。

登記制度への信頼を維持するため、相続登記は省略できません。

②すみやかな相続登記で売却手続がスムーズ

相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になるのが一般的です。

相続登記をしないと、だれが相続するのか客観的に分からないと言えるでしょう。

だれが所有者なのか分からないと、トラブルに巻き込まれるおそれがあります。

トラブルに巻き込まれるおそれがある不動産は、購入を諦めるでしょう。

相続登記をしないと、売却手続が進まなくなります。

相続登記をすると、所有者が客観的に明らかになります。

すみやかな相続登記で、売却手続がスムーズになります。

4不動産を売却しやすい遺言書を作成する

①売却して金銭で分割を明記

遺言書を作成して、不動産を売却し金銭で分けることを明記することができます。

遺言書に明記してあると、相続人間の調整が容易になります。

②遺言執行者を指名

遺言執行者がいると、遺言者にとって安心です。

遺言書の内容を確実に、実現してくれるからです。

遺言執行者がいると、相続人にとって安心です。

手間と時間がかかる相続手続をおまかせすることができるからです。

不動産を売却する場合、相続手続をしたうえ売却手続が必要です。

遺言執行者におまかせできると、相続人間のトラブルを回避することができます。

③公正証書遺言がおすすめ

公正証書遺言は、公証人が関与しています。

書き方ルールの違反などで、遺言書が無効になることは考えられません。

司法書士などの専門家にサポートしてもらうと、相続人間でトラブルになりにくい遺言書を作成することができます。

遺言書を作成するなら、公正証書遺言がおすすめです。

5相続後の不動産売却を司法書士に依頼するメリット

相続した不動産を売却したいという方は、少なからずいます。

相続も不動産の売却も、一生のうちに何度も経験するものではありません。

だれにとっても慣れない相続手続と売却手続を並行して進めるのは大変なことです。

平日は仕事や家事をしながら、さらに大切な家族を失った悲しみを抱えながら、これらを手続するのは想像以上に大変です。

土地を売却するためには、相続登記が必須です。

司法書士は、余計な費用や余計な手間をかけないように手続をします。

相続後の不動産売却を確実に進たい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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