任意後見受任者と任意後見人のちがい

1任意後見受任者は任意後見人になる予定の人

①信頼できる人と契約する

認知症や精神障害や知的障害などで判断能力が低下すると、物事の良しあしを適切に判断することができなくなります。

記憶があいまいになる人もいるでしょう。

任意後見とは、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。

任意後見は、だれと契約するのか本人が自分で決めることができます。

次の人は、成年後見人になれません。

(1)未成年者

(2)後見人を解任されたことのある人

(3)破産者で復権していない人

(4)本人に訴訟をした人と訴訟をした人の配偶者、直系血族

(5)行方不明の人

任意後見受任者は、任意後見人になる予定の人です。

物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなった後に、任意後見人がサポートします。

自分の財産管理などを依頼するから、信頼できる人と契約します。

多くの場合、本人の子どもなど近い関係の家族でしょう。

法定後見では家庭裁判所が成年後見人を選びます。

家族が選ばれるのは、20%程度と少数です。

任意後見受任者は、任意後見契約でサポートを依頼された人です。

②任意後見契約は公正証書で作成

任意後見契約は、判断能力が低下したときにサポートを依頼する契約です。

重要な契約だから、公正証書で契約をしなければなりません。

公正証書は、公証人に作ってもらう文書です。

単なる口約束や個人間の契約書では、効力がありません。

公証人は、法律の専門家です。

法律の専門家が当事者の意思確認をして、公正証書を作成します。

任意後見契約は、公正証書で作成します。

③任意後見契約をするだけでは効力がない

任意後見は、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。

契約だから、物事のメリットデメリットを充分に判断できるときに締結します。

任意後見契約を締結するだけでは、効力がありません。

任意後見契約をしたときは、物事のメリットデメリットを充分に判断できるはずです。

物事のメリットデメリットを充分に判断できる間、サポートは必要ないでしょう。

物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなったら、サポートが必要になります。

サポートが必要ないから、任意後見契約は効力がありません。

任意後見受任者は、サポートが必要になったときに任意後見人になる予定の人です。

任意後見契約をするだけでは、任意後見受任者は本人を代理することはできません。

2任意後見人にサポートを依頼する

①任意後見監督人は不要にできない

任意後見は、任意後見人が選任されてからスタートします。

成年後見(法定後見)制度では、家庭裁判所の判断で成年後見監督人が置かれることも置かれないこともあります。

任意後見制度では、任意後見監督人は必ず置かれます。

任意後見監督人は、不要にできません。

任意後見人が選任されないと、任意後見はスタートしないからです。

②サポート内容は契約書に明記

任意後見は、サポートを依頼する契約です。

サポート内容は、契約書にはっきり記載します。

サポート内容がはっきりしていないと、サポートする人が困ります。

サポートする人が勝手にやったことと、判断されるからです。

例えば、自宅を売却して施設の入所費用に充てたい場合、売却権限を与えると明記します。

自宅は売却しないで守ってほしい場合、売却権限は与えないと明記します。

任意後見契約の内容は、登記簿に記録されます。

サポートする人の権限は、登記簿謄本で証明することができます。

サポート内容は、任意後見契約書に明記します。

③任意後見は登記される

任意後見契約を締結すると、契約の内容は登記されます。

任意後見契約をしても後見が開始しても、戸籍に記載されません。

仮に戸籍に記載されるとしたら、不安を覚える人がいるでしょう。

戸籍ではなく後見登記簿で管理されています。

任意後見契約をした当事者は、自分で登記申請をする必要はありません。

自動的に、公証人が法務局に登記を嘱託するからです。

3任意後見受任者と任意後見人のちがい

ちがい①法的地位

任意後見受任者は、任意後見人になる予定の人です。

任意後見人は、本人をサポートする人です。

ちがい②代理権

任意後見受任者は、本人を代理することはできません。

本人は、自分で判断できるはずだからです。

任意後見人は、本人を代理することはできます。

ちがい③できること

任意後見受任者は、法律で決められたことのみできます。

例えば、任意後見監督人選任の申立てや死亡届の提出です。

任意後見受任者は、本人を代理することはできません。

任意後見人は、任意後見契約で決められたことができます。

本人を代理して、財産管理や身上監護をします。

身上監護とは、本人の日常生活や健康管理、介護など生活全般について重要な決定をすることです。

ちがい④本人の状態

任意後見受任者は、本人が元気なときです。

本人の判断能力が充分あるから、任意後見人のサポートは不要です。

任意後見人は、本人の判断能力が低下したときです。

本人の判断能力が低下しているから、任意後見人がサポートします。

ちがい⑤家庭裁判所の関与

任意後見受任者は、家庭裁判所は関与しません。

任意後見受任者は本人を代理できないから、家庭裁判所の監督は不要です。

任意後見人は、家庭裁判所が関与します。

任意後見人は本人を代理して財産管理をするから、家庭裁判所が監督します。

家庭裁判所が監督するから、任意後見の公平性と透明性を確保することができます。

ちがい⑥契約の解除

任意後見受任者は、一方的に契約解除ができます。

本人は元気なうちは、本人の同意がなくても契約解除ができます。

任意後見人は、正当理由があるときに家庭裁判所の許可を得て解除ができます。

任意後見人がいるのは、本人の判断能力が低下したときです。

本人を保護するため、一方的に解除することはできません。

正当理由があると認めたときだけ、家庭裁判所は解除を許可します。

任意後見人が契約解除をするのは、高いハードルがあります。

ちがい⑦報酬

任意後見受任者は、無報酬です。

任意後見受任者は、本人をサポートしていないからです。

任意後見人は、任意後見契約で決められた報酬を受け取ることができます。

任意後見契約で明記して、無報酬としても差し支えありません。

任意後見監督人は、家族以外の専門家がなることが多いでしょう。

任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が決定します。

成年後見監督人の報酬の目安は、次のとおりです。

・資産5000万円以下 月額2万円

・資産5000万円以上 月額3万円

上記は、基本報酬です。

任意後見監督人が特別な業務や難易度が高い業務をした場合、附加報酬が付与されます。

任意後見人や任意後見監督人の報酬は、本人の財産から支出します。

ちがい⑧期間

任意後見受任者は、任意後見契約締結後から本人の判断能力が低下するまでです。

本人の判断能力は、意思の判断が重視されます。

医師の診断書は、本人の判断能力についての医学的評価だからです。

任意後見人は、任意後見監督人が選任されてから本人が死亡するまでです。

本人の判断能力が低下すると、任意後見監督人が選任されて任意後見がスタートします。

任意後見では、任意後見監督人を不要にできません。

4任意後見監督人選任で任意後見契約に効力発生

①本人の判断能力低下で任意後見監督人選任の申立て

本人の判断能力が低下したら、任意後見によるサポートがスタートします。

任意後見契約に効力が発生するのは、次の条件を満たしたときです。

・本人の判断能力の低下

・家庭裁判所が任意後見監督人を選任

本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。

家庭裁判所が任意後見監督人を選任したら、任意後見契約に効力が発生します。

②任意後見監督人選任の申立て

(1)申立先

本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをします。

家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで確認することができます。

(2)申立てができる人

任意後見監督人選任の申立てができる人は、次のとおりです。

・本人

・配偶者

・4親等内の親族

・任意後見人になる予定の人

(3)必要書類

任意後見監督人選任の申立書に添付する書類は、次のとおりです。

①申立事情説明書(任意後見)

②親族関係説明図

③財産目録

④収支予定表

⑤相続財産目録

⑥任意後見受任者事情説明書

⑦本人事情説明書

⑧診断書(成年後見制度用)・診断書附票

⑨本人の戸籍謄本

⑩本人の住民票か戸籍の附票

⑪任意後見受任者の住民票か戸籍の附票

⑫成年後見登記事項証明書

⑬任意後見契約公正証書

⑭収入印紙800円分

⑮収入印紙1400円分

(4)選任までの期間

任意後見監督人選任の申立てから選任されるまで、1か月以上かかります。

任意後見監督人選任の申立てには、司法書士など専門家のサポートを受けるのが一般的です。

5任意後見制度を利用するときの注意点

注意①契約設計が不充分だと必要なサポートが受けられない

任意後見契約は、サポートを依頼する契約です。

本人が希望することを依頼することができます。

任意後見契約に書いてないことは、家族が望んでもサポートすることはできません。

契約設計が不充分だと、必要なサポートが受けられません。

対策は、司法書士などのサポートを受けて任意後見契約を締結することです。

任意後見契約では、財産管理や身上監護を具体的に明記します。

必要に応じて、財産管理委任契約や死後事務委任契約を一緒に締結します。

注意②任意後見人は慎重に選ぶ

任意後見人は、本人が信頼できる人を選任します。

任意後見人は、本人が自分で選ぶことができます。

任意後見人選任は、信頼性だけでなく能力を考慮すべきです。

本人の家族や知人は、感情的に信頼できることが多いでしょう。

法的手続や財産管理に、不慣れなことがあります。

本人と近い年齢である場合、本人より先に判断能力を失うおそれがあります。

対策は、司法書士などの専門家を候補者に含めて検討することです。

注意③任意後見契約締結するだけでは効力がない

任意後見契約を締結しても、効力がありません。

本人は、契約のメリットデメリットを適切に判断できるはずだからです。

本人は自分で判断できるから、任意後見人にサポートしてもらう必要がありません。

判断能力が充分にあっても、身体能力低下でサポートが必要になることがあるでしょう。

身体能力低下だけでは、任意後見人によるサポートを受けることはできません。

対策は、財産管理委任契約や見守り契約をすることです。

必要に応じて、財産管理委任契約や見守り契約でサポート体制を整えておきます。

注意④任意後見監督人選任の申立てに手間と時間がかかる

任意後見のスタートは、任意後見監督人が選任されたときです。

任意後見監督人は、家庭裁判所が選任します。

たくさんの書類を準備する必要があります。

任意後見監督人選任の申立てから選任の審判まで、1か月程度の時間がかかります。

任意後見監督人が選任されると、報酬が発生します。

任意後見監督人の報酬は、本人の財産から支払われます。

注意⑤制度の限界がある

任意後見人には、医療同意はできません。

任意後見人は、死後事務や相続手続に関与することができません。

任意後見契約の制度的限界があるからです。

対策は、尊厳死宣言書、死後事務委任契約、遺言書などを併用することです。

任意後見契約だけでなく、包括的な支援体制を構築することが必要です。

6任意後見契約を司法書士に依頼するメリット

任意後見制度は、あらかじめ契約で「必要になったら後見人になってください」とお願いしておく制度です。

認知症が進んでから、任意後見契約をすることはできません。

重度の認知症になった後は、成年後見(法定後見)をするしかなくなります。

成年後見(法定後見)では、家庭裁判所が成年後見人を決めます。

家族が成年後見人になれることも家族以外の専門家が選ばれることもあります。

任意後見契約では、本人の選んだ人に後見人になってもらうことができます。

家族以外の人が成年後見人になることが不安である人にとって、任意後見制度は有力な選択肢になるでしょう。

任意後見監督人は、任意後見人のサポート役も担っています。

家庭裁判所に相談するより、ちょっと聞きたいといった場合には頼りになることが多いでしょう。

本人が自分らしく生きるために、みんなでサポートする制度です。

任意後見制度の活用を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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