相続した遺産が振り込まれない

1相続手続完了までにかかる時間の目安

①遺言書は検認してから相続手続

相続が発生した後に遺品整理をしていると、遺言書を見つけることがあります。

被相続人が遺言書を作成して、預かっておくように頼まれることがあります。

相続人であれば、遺言書の内容が気になることでしょう。

遺言書を見つけても、勝手に開封してはいけません。

自筆証書遺言は家庭裁判所に提出して、開封してもらう必要があるからです。

遺言書の検認とは、家庭裁判所に遺言書を提出して開封してもらう手続です。

相続人に立会いをしてもらって、開封します。

封筒に入っているだけで封がされていない遺言書であっても、検認が必要です。

封筒に入っていない遺言書であっても、検認が必要です。

遺言書の検認が必要なのに検認手続をしていない場合、相続手続をすることができません。

検認手続をしていない遺言書を提出しても、銀行などの金融機関は口座を解約してくれません。

検認手続をしていない遺言書を提出しても、法務局は不動産の名義変更をしてくれません。

公正証書遺言は、検認不要です。

自筆証書遺言保管制度を利用して法務局で保管されていた場合、検認は不要です。

家庭裁判所に遺言書検認の申立てをしてから検認手続が完了するまで、1か月程度かかります。

②相続財産調査に時間がかかる

被相続人が遺言書を作成していた場合、遺言書のとおりに財産を分けることができます。

遺言書がない場合、相続人全員の話し合いをする必要があります。

相続財産の分け方を決める話し合いをするため、相続財産の全容を知りたいと思うでしょう。

相続財産には、さまざまな種類があるでしょう。

相続財産というと、プラスの財産だけに注目しがちです。

マイナスの財産も、相続財産に含まれます。

相続財産調査には、時間がかかることが多いでしょう。

相続財産の種類や量によって異なりますが、1か月程度は想定する必要があります。

③遺産分割協議書に押印してから相続手続

相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。

相続人が相続する財産が相続財産です。

相続財産は、相続人全員の共有財産です。

相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決める必要があります。

1人でも反対の相続人がいると、相続財産の分け方を決めることができません。

ときには遺産分割協議が長引いて、長期間経過することがあります。

相続が発生してから遺産分割協議が成立するまで、短ければ1日です。

長ければ、数年単位で時間がかかります。

④相続手続に時間がかかる

遺言書があれば、遺言書のとおりに財産を分けることができます。

遺産分割協議書があれば、遺産分割協議書のとおりに財産を分けます。

各相続手続先に対して、相続手続をします。

相続手続にかかる期間は、相続手続先によって異なります。

相続手続完了までにかかる時間の目安は、次のとおりです。

・銀行の預貯金 金融機関1か所につき半月~1か月

・株式の移管 証券会社1か所につき1~3か月

・不動産の名義変更 法務局1か所につき半月~1か月

2相続した遺産が振り込まれないときの対処法

①代表相続人がいるケース

相続手続は、想像以上に手間と時間がかかります。

相続手続で使われるのは、法律用語です。

日常的に、法律用語を聞くことは少ないでしょう。

相続手続は、何度も経験するものではありません。

だれにとっても、初めての手続です。

相続人全員がわずらわしい相続手続が関与するより、代表相続人に任せる方が合理的でしょう。

代表相続人を立てたとしても、代表相続人が不慣れなのは同じです。

相続した遺産が振り込まれない場合、代表相続人が相続手続を進められなくなっていることが考えられます。

仕事や家事で忙しい相続人である場合、早く手続したい気持ちがあっても手続を進められなくなるでしょう。

相続手続先は、いずれも平日の昼間だけ業務をしているからです。

相続手続は、司法書士などの専門家に依頼することができます。

相続手続を司法書士などの専門家に依頼することを提案すると、手続がスムーズに進みます。

②遺産分割協議書があるケース

遺産分割協議書は、相続財産の分け方について相続人全員の合意内容の証明書です。

通常、遺産分割協議書があれば相続手続はスムーズに進められるでしょう。

相続財産には、さまざまな種類の財産があります。

分けやすい財産と分けにくい財産があるでしょう。

相続財産が預貯金など分けやすい財産のみであれば、支払いが遅れることは少ないでしょう。

不動産などは、分けにくい財産の代表例です。

一部の相続人が不動産を相続して、他の相続人は不動産を相続した相続人から代償金を受け取る合意をすることがあります。

不動産を相続しても、代償金が準備できないかもしれません。

代償金を準備できても、支払いが惜しくなることがあるでしょう。

相続財産の分け方の話し合いにおいて、代償金を準備できるのか確認しておくことが重要です。

代償金の支払期限についても、遺産分割協議書に明記するといいでしょう。

③遺言執行者がいるケース

被相続人が遺言書を作成していた場合、遺言書のとおりに財産を分けることができます。

遺言書は、作成するだけでは意味がありません。

遺言書の内容は、自動で実現するわけではないからです。

遺言執行者は、遺言書の内容を実現する人です。

遺言執行者がいる場合、相続人は遺言執行者の妨害をすることはできません。

相続手続は、遺言執行者におまかせすることができます。

遺言執行者に指名されても、遺言執行者に就任する義務はありません。

遺言執行者が相続手続をしてくれると期待していたのに、就任を辞退していることがあります。

遺言執行者が就任を辞退した場合、相続手続をすることはありません。

相続した遺産が振り込まれるはずはないでしょう。

遺言執行者がいない場合、原則として、相続人全員の協力で相続手続をします。

相続人全員の協力が難しい場合、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをすることができます。

3遺産分割協議は一方的に解除できない

①売買契約は一方的解除ができる

一般的に、売買契約をしたのに、買主が売買代金を払ってくれないことがあります。

買主が売買代金を支払ってくれない場合、売主は売買契約を一方的に解除することができます。

売買契約を解除して、他の人に買ってもらう方が合理的だからです。

遺産分割協議では、売買契約のように一方的に解除する制度はありません。

遺産分割協議で合意したのに、一部の相続人が代償金を払ってくれないことがあります。

相続人が代償金を払ってくれない場合、遺産分割協議は一方的に解除することはできません。

②相続人全員の合意で遺産分割協議のやり直しができる

遺産分割協議書は、相続財産の分け方について相続人全員の合意内容の証明書です。

遺産分割協議で合意した内容を守ってもらえない場合、遺産分割協議をやり直したいと思うでしょう。

遺産分割協議は、一方的に解除することはできません。

相続財産の分け方について相続人全員が合意した場合、遺産分割協議は成立し話し合いは終了するからです。

遺産分割協議のやり直しを希望する場合、相続人全員の合意が必要です。

相続人全員の合意があれば、遺産分割協議のやり直しをすることができます。

③遺産分割協議成立後は相続人同士の話し合い

相続財産の分け方について相続人全員が合意した場合、遺産分割協議は成立し話し合いは終了します。

相続人全員の合意がなければ、やり直しはできません。

遺産分割協議で合意した内容を守ってもらえない場合、当事者同士の話し合いで解決を目指します。

4遺産分割協議の内容を確実に守ってもらう方法

方法①代償金の支払と遺産分割協議書の押印は同時履行

遺産分割協議では、売買契約のように一方的に解除する制度はありません。

遺産分割協議で合意した内容を守ってもらうことが重要です。

例えば、代償金を支払う合意をしたのに、支払ってもらえないことがあります。

代償金の支払と遺産分割協議書の押印を同時履行にすることができます。

代償金の振込を確認して、遺産分割協議書に押印する方法です。

当事者同士が一緒に銀行に出向いて、振込を確認するといいでしょう。

スマートフォンなどから、振込を確認することができます。

代償金の振込を確認できなければ遺産分割協議書に押印をしないから、合意した内容を守ってもらえるでしょう。

代償金の支払と遺産分割協議書の押印を同時履行にするのは、有効な方法です。

方法②公正証書で遺産分割協議書作成

遺産分割協議書は、相続財産の分け方について相続人全員の合意内容の証明書です。

多くの場合、相続人同士で書面を作成するでしょう。

公証役場で遺産分割協議書を公正証書にしてもらうことができます。

遺産分割協議書を公正証書にする場合、金銭の支払いをする点だけでなく支払いをしなかったときのことを書いてもらうことができます。

相続人○○が上記金銭の支払いをしなかったときは、直ちに強制執行に服する旨を認諾した。

上記のような文言がある場合、公正証書で強制執行をすることができます。

公正証書でない遺産分割協議書では、強制執行をすることはできません。

代償金を支払ってもらう人にとって、強制執行ができる点は心強いものと言えます。

公正証書で遺産分割協議書を作成するのは、有効な方法です。

方法③代償金支払いに連帯保証人を立ててもらう

連帯保証人とは、金銭の支払いを確実にするため主債務者と同様の返済の義務を負う人です。

代償金の支払いがない場合、連帯保証人に請求することができます。

連帯保証人を立ててもらった場合、代償金の支払を確実にすることができるでしょう。

連帯保証契約は、書面で締結する必要があります。

代償金支払いに連帯保証人を立ててもらうのは、有効な方法です。

方法④不動産に抵当権設定

抵当権とは、金銭の支払いを確実にするため担保に取る権利です。

代償金の支払いがない場合、抵当権を実行することができます。

抵当権を実行するとは、担保に取った不動産を取り上げて競売して売却代金から代償金を支払ってもらうことです。

抵当権を設定した場合、抵当権設定登記をします。

抵当権設定登記には、登録免許税を納めなければなりません。

抵当権設定登記を司法書士などの専門家に依頼した場合、報酬がかかります。

抵当権設定をした場合の費用負担について、合意しておく必要があります。

代償金支払いに不動産に抵当権設定するのは、有効な方法です。

方法⑤支払期限を決めて遅延損害金の約束

お金の貸し借りをする場合、返済期日までに返済できないときに備えて遅延損害金を払う約束をします。

遅延損害金は、通常の利息より高い利率で約束するでしょう。

高い利率の遅延損害金を払うことになるから、何とかして返済期日までに返済します。

代償金が支払期日までに支払われない場合に備えて、遅延損害金を払う約束をすることができます。

高い利率の遅延損害金を払うことになるから、心理的プレッシャーを与えることができます。

代償金の支払いに支払期限を決めて遅延損害金の約束をするのは、有効な方法です。

方法⑥家庭裁判所で遺産分割調停

遺産分割調停とは、家庭裁判所の助力を得て相続財産の分け方について話し合いをすることです。

相続人全員が相続財産の分け方について合意した場合、合意内容は調停調書に取りまとめられます。

調停調書は、確定判決と同じ効力があります。

遺産分割調停で合意した内容が守られない場合、調停調書に基づいて強制執行をすることができます。

代償金を支払ってもらう人にとって、強制執行ができる点は心強いものと言えます。

家庭裁判所で遺産分割調停をするのは、有効な方法です。

5遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット

遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。

合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。

書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。

せっかくお話合いによる合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。

トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

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