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1相続放棄は家庭裁判所へ手続
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄は、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する旨の申立てをします。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続が発生した場合、被相続人の財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決めます。
相続人の中には、プラスの財産をまったく受け取らないことがあります。
相続人全員が合意できれば、財産をまったく受け取らない合意をすることができます。
プラスの財産をまったく受け取らないことを相続放棄をしたと表現することがあります。
相続財産の分け方を決める相続人全員の話し合いは、遺産分割協議を言います。
プラスの財産をまったく受け取らない合意をする場合でも、遺産分割協議です。
プラスの財産をまったく受け取らない合意は、相続放棄と表現しても相続放棄ではありません。
相続放棄は、家庭裁判所に対して申立てが必要な手続だからです。
2相続放棄の必要書類
相続放棄は、必要な書類を添えて相続放棄を希望する旨の申立てをします。
この申立ては、相続があったことを知ってから、原則として、3か月以内にする必要があります。
相続放棄を希望する旨の申立てを相続放棄申述書と言います。
相続放棄申述書に添付する書類は、次のとおりです。
①被相続人の戸籍謄本
②被相続人の除票
③相続放棄する人の戸籍謄本(3か月以内のもの)
④収入印紙
⑤裁判所が手続で使う郵便切手
基本的には①~⑤の書類を添えて届出をすれば充分ですが、場合に応じてこの他のものが必要になることがあります。
相続放棄申述書は、窓口に出向いて提出することもできるし郵送で提出することもできます。
提出書類や相続放棄申述書の書き方に不安な人は、家庭裁判所の受付で目を通してもらうと安心です。
3相続放棄の申立てで収入印紙が必要になる
①相続放棄の申立書に収入印紙800円貼付
相続放棄は、相続放棄申述書に必要な書類を添えて家庭裁判所に提出します。
相続放棄申述書の様式や記入例は、裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
家庭裁判所の窓口で受け取ることもできます。
相続放棄申述書の様式を見ると、右上に収入印紙の貼り付け欄があります。
相続放棄を希望する人1人あたり、収入印紙800円分必要です。
成年も未成年も、同じ金額です。
1枚で800円の収入印紙はありません。
400円の収入印紙2枚など複数の枚数で準備します。
複数の相続人がまとめて相続放棄をする場合、連名で相続放棄申述書を作成することはできません。
1人1通相続放棄申述書を作成します。
1通づつ収入印紙800円分貼り付けて納入します。
②収入印紙に消印をしない
収入印紙は、相続放棄をするときの手数料を納入するために貼り付けます。
手数料を受け取った家庭裁判所が消印を押します。
相続放棄を希望する人は、消印を押しません。
一般的に、領収書や契約書などに収入印紙を貼り付けます。
領収書や契約書などに収入印紙を貼り付けるのは、印紙税の課税文書だからです。
収入印紙を貼って消印をすることで、印紙税を納入します。
相続放棄をするときに収入印紙を貼るのは、手数料納入のためです。
印紙税の納入のためではないから、提出する人は消印を押してはいけません。
③収入印紙を購入できる場所
(1)郵便局
郵便局の郵便窓口で収入印紙を購入することができます。
大きな郵便局には、ゆうゆう窓口が設置されています。
ゆうゆう窓口も収入印紙を取り扱っています。
ゆうゆう窓口であれば24時間利用可能だから、好きなときに収入印紙を購入することができます。
(2)コンビニエンスストア
コンビニエンスストアは、いたるところにあり24時間営業しています。
昼間に時間が取れない人にとって、コンビニエンスストアで購入できるのは便利です。
コンビニエンスストアでは、主に200円印紙のみの取り扱いです。
収入印紙を4枚貼り付けることになります。
手間がかかりますが、貼り付けてあれば差し支えありません。
(3)法務局の印紙売りさばき窓口
法務局の印紙売りさばき窓口で収入印紙を購入することができます。
法務局の業務時間中のみ購入することができます。
(4)裁判所の売店
裁判所に売店が設置されていることがあります。
裁判所の売店で収入印紙を購入できることがあります。
裁判所の業務時間中のみ購入することができます。
名古屋家庭裁判所では、収入印紙を購入することはできません。
2相続放棄の申立てで予納郵券が必要になる
①予納郵券は裁判所が使う連絡用の切手
相続放棄の申立てをする場合、相続放棄申述書と一緒に予納郵券を提出します。
予納郵券とは、家庭裁判所が手続や連絡用で使う郵便切手のことです。
相続放棄申述書を提出した後、家庭裁判所から相続放棄照会書が送られてきます。
相続放棄照会書を送るときや回答書を返送するときの郵便料は、予納郵券で提出した切手を使います。
家庭裁判所は、切手代を負担してくれません。
②相続放棄の提出先は最後の住所地の家庭裁判所
相続放棄申述書は、担当の家庭裁判所へ提出します。
提出先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
被相続人の最後の住所地は、被相続人の除票を取得すると判明します。
相続放棄の申立てをする場合、相続放棄申述書を一緒に被相続人の除票を提出します。
家庭裁判所は、被相続人の除票を確認して、管轄が間違いないか点検します。
③予納郵券は家庭裁判所ごとにちがう
相続放棄の申立てをする場合、相続放棄申述書を一緒に予納郵券を提出します。
予納郵券は、家庭裁判所ごとに事件の種類ごとに異なります。
名古屋家庭裁判所で相続放棄申述書を提出する場合、予納郵券は次のとおりです。
84円切手 5枚
10円切手 5枚
名古屋家庭裁判所で失踪宣告の申立書を提出する場合、予納郵券は次のとおりです。
500円切手 2枚
350円切手 8枚
100円切手 1枚
84円切手 20枚
10円切手 10枚
2円切手 10枚
名古屋家庭裁判所のホームページに、申立添付書類等一覧表が出ています。
収入印紙と予納郵券を申立添付書類等一覧表で確認することができます。
切手の種類と枚数を間違えないように準備しましょう。
合計額が同じでも、切手の種類と枚数が間違っている場合、後から切手を追送することになります。
ホームページに掲載していない家庭裁判所は、電話などで直接問い合わせをします。
④余った切手は返してもらえる
予納郵券は、家庭裁判所が手続や連絡用で使う郵便切手です。
手続や連絡用で使わなかったら、事件が完了したときに返してもらうことができます。
事件の内容によっては郵送物が増えてしまうことがあります。
予納郵券が不足した場合、追加で予納するよう指示されます。
⑤切手を貼り付けて送らない
予納郵券は、家庭裁判所が手続や連絡用で使う郵便切手です。
家庭裁判所が郵送物に貼り付けて使用します。
切手を紙に貼り付けて提出した場合、家庭裁判所が困ります。
切手をそのまま提出すると扱いにくく、紛失する心配があります。
小さな袋に切手を入れて相続放棄申述書にクリップ止めをするといいでしょう。
切手に直接クリップをつけると、クリップで切手が破損してしまうおそれがあります。
3相続放棄申述受理証明書申請書に収入印紙が必要になる
家庭裁判所が相続放棄を認める場合、本人に対して相続放棄申述受理通知書を送ります。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄を認めましたよという本人あてのお知らせです。
家庭裁判所は、相続放棄を認めた場合、本人にだけ通知をします。
相続放棄が認められた人や債権者などの利害関係人は、相続放棄が認められたことを証明してもらうことができます。
相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所で相続放棄を認められたことの証明書です。
相続放棄申述受理証明書を取得するためには、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書申請書を提出します。
相続放棄申述受理証明申請書は、家庭裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
家庭裁判所によっては、相続放棄申述受理通知書と一緒に、送られてくることもあります。
手数料を払って手続をすれば何枚でも発行してくれるし、再発行もしてくれます。
相続放棄申述受理証明申請書の手数料は、証明書1通あたり150円です。
相続放棄申述受理証明書申請書に150円分の収入印紙を貼り付けて納入します。
4相続放棄の有無の照会は収入印紙不要
相続放棄申述受理証明書を取得したい場合、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書申請書を提出します。
相続放棄申述受理証明書申請書には、事件番号を記載する必要があります。
事件番号は、相続放棄申述受理通知書を確認すると判明します。
事件番号が分からない場合、家庭裁判所に照会することができます。
家庭裁判所に照会する制度を相続放棄の有無の照会と言います。
相続放棄の有無の照会をした場合、相続放棄がされたか、されていないか、相続放棄がされた場合は事件番号を回答してもらうことができます。
相続放棄申述の有無の照会に手数料はかかりません。
相続放棄申述の有無の照会は、手数料がかからないから収入印紙は不要です。
郵送で相続放棄申述の有無の照会をすることができます。
相続放棄申述の有無の照会を郵送で提出する場合、返信用の封筒と切手を同封すると送り返してもらえます。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎませんという裁判所に対する申立てです。
相続人らとのお話合いで、プラスの財産を相続しませんと申し入れをすることではありません。
家庭裁判所で認められないとマイナスの財産を引き継がなくて済むというメリットは受けられないのです。
実は、相続放棄はその相続でチャンスは実質的には1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知していますから、認めてもらえやすい書類を作成することができます。
先順位の相続人がいる場合、相続放棄をしたのかしていないのか分からないと、不安な日々を送ることになります。
相続放棄は簡単そうに見えて、考慮しなければならないことがたくさんある手続です。
3か月の期間内に手続きするのは思ったよりハードルが高いものです。
相続放棄を考えている方はすみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。