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1遺言執行者とは
①遺言執行者は遺言書の内容を実現する人
遺言書は、遺言者の意思を示したものです。
遺言書を書いただけでは、意味がありません。
遺言書を書いただけで、自動的に遺言内容が実現するわけではないからです。
遺言書の内容を実現する人が遺言執行者です。
相続人は遺言の内容を見たら、被相続人の意思を尊重し、実現してあげたいと思うでしょう。
相続人にとって不利な内容になっている場合、遺言の実現に協力してくれないこともあります。
遺言執行者を選任しておくと、遺言執行者が遺言書の内容を実現してくれます。
遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な行為をする権限があります。
協力しない相続人が遺言執行を妨害した場合、原則として、妨害行為は無効になります。
遺言執行者はいてもいなくても、遺言書の効力に違いはありません。
遺言執行者がいると、確実に遺言者の意思を実現してもらえますから、安心です。
②遺言執行者の選任方法
遺言執行者を決める方法は、次の3つがあります。
(1)遺言書で指名する
(2)遺言執行者を指名する人を遺言書で指名する
(3)遺言者が死亡した後、家庭裁判所に選んでもらう
(3)家庭裁判所に遺言執行者を選んでもらうことを遺言執行者選任の申立てと言います。
相続発生後に、家族が家庭裁判所で手続をするのは手間がかかります。
家族に面倒をかけるより、遺言書で遺言執行者を指名するのがおすすめです。
遺言者は、遺言執行者を自由に指名することができます。
親族のうちから選んでも構わないし、司法書士などの専門家に依頼することもできます。
家族から選んだ場合、相続人同士の関係性や財産状況が分かっているので相続手続がスムーズに進むかもしれません。
難易度の高い相続手続や財産状況が複雑な場合、対応しきれなくなることがあります。
司法書士などの専門家に遺言執行者になってもらう場合、専門性や中立性の面から安心です。
③遺言執行者がいると家族がラク
遺言執行者がいても遺言執行者がいなくても、遺言書の効力にちがいはありません。
遺言執行者がいる場合、遺言執行者が遺言書の内容を実現します。
遺言執行者がいない場合、相続人全員の協力で遺言書の内容を実現します。
相続人全員が遺言書の内容に納得していて相続手続に協力できる場合、必ずしも遺言執行者を選任する必要はありません。
相続人の中には遺言書の内容に納得していても、相続手続に協力する時間的余裕がない人がいるでしょう。
相続手続に協力する気持ちがあっても、知識不足から行き違いを起こすことがあります。
相続手続は何度も経験するものではないから、だれにとっても不慣れでスムーズに手続を進めることができません。
相続が発生したら、膨大な手続があります。
相続手続をする先は、銀行などの金融機関や役所、法務局、家庭裁判所などです。
いずれも、平日の昼間しか手続できません。
相続手続をカンタンに考えていると、スムーズに行かない手続にイライラします。
仕事や家事で忙しい人にとって、不慣れな手続にさらにイライラが募ります。
遺言執行者がいる場合、面倒な相続手続をおまかせすることができます。
家族は待っているだけです。
遺言執行者がいると、家族はラクができます。
2遺言執行者になれる人なれない人
①未成年・破産者は遺言執行者になれない
未成年・破産者は、遺言執行者になることができません。
遺言書を作成したとき、未成年者であっても相続が発生したときに成年に達していれば遺言執行者になることができます。
結婚している人は未成年であっても、成年扱いされます。
破産申立の後、裁判所から免責許可決定を受けていれば、遺言執行者になることができます。
②相続人・受遺者は遺言執行者になれる
遺言者は、遺言執行者を自由に指名することができます。
財産を受け継いでもらう人を遺言執行者に指名することができます。
遺言書で相続人や相続人以外の人に財産を受け継いでもらうことを遺贈と言います。
遺贈で財産を譲り受ける人を受遺者と言います。
受遺者を遺言執行者に指名することができます。
多くの場合、遺贈で財産を受け継いでもらうのは相続人以外の人です。
相続人に財産を受け継いでもらう場合、相続させればいいからです。
不動産を遺贈する場合、遺贈登記が必要になります。
遺言執行者がいない場合で、かつ、相続人以外の人が受遺者として遺贈登記を申請する場合、相続人全員の協力が必要になります。
相続人以外の人が財産を受け取ることに、納得できない相続人がいるかもしれません。
遺言書の内容に納得できない相続人は、遺贈登記に協力してくれないでしょう。
遺言執行者がいる場合、相続人全員の協力は不要です。
遺言執行者は、遺言書の内容を実現する人だからです。
協力しない相続人が遺言執行を妨害した場合、原則として、妨害行為は無効になります。
③司法書士に遺言執行を依頼できる
遺言執行者は、遺言書の内容を実現する人です。
相続手続を相続人全員の代わりにやってくれます。
相続手続はカンタンに考えがちですが、想像以上に面倒で手間と時間がかかります。
相続手続は法律の知識が必要になることも少なくありません。
家族を遺言執行者に指名することができますが、荷が重いものです。
司法書士は、相続手続をはじめとする法律の専門家です。
司法書士などの専門家に遺言執行を依頼することができます。
家族がわずらわしい相続手続から解放されるから、家族のトラブルが軽減されます。
④遺言執行者が司法書士に遺言執行を依頼できる
遺言執行者は、未成年や破産者でなければだれでも指名することができます。
遺言執行者に就任した後、あまりの大変さに音を上げることがあります。
相続手続はだれにとっても経験が少ないためスムーズに進めるのが難しいからです。
遺言執行者は、司法書士などの専門家に遺言執行を依頼することができます。
2019年7月1日以前作成の遺言書で遺言執行者に指名された場合、止むを得ない理由があれば司法書士などの専門家にその任務を任せることができます。
遺言執行者に指名されたのが2019年7月1日以降作成の遺言書であれば、遺言執行者は自己の責任で司法書士などの専門家にその任務を任せることができます。
止むを得ない理由がなくても、専門家に任せることができるように変更になりました。
遺言執行は法律知識が必要な手続が多いので、専門家に任せる方がスムーズでしょう。
法律改正で、専門家に任せやすくなったといえます。
3遺言執行者の役割
①遺言執行者就任を通知する
遺言執行者は、遺言書の内容を実現する人です。
遺言書の内容を実現するために必要な権限があります。
遺言執行者のやることは細々とあります。
遺言書の内容と遺言執行者に就任したことを相続人や遺贈を受ける人にお知らせします。
遺言執行者に指名されてもお断りができます。
お断りの理由を言う必要はありません。
仕事が忙しいでも、自信がないでも、何となく気が進まないでも構いません。
断るときは、すみやかに意思表示をしましょう。
②遺言書の検認の申立て
法務局保管でない自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、遺言書の検認が必要です。
公正証書遺言は、検認不要です。
遺言書の検認には時間がかかることから、遺言書作成は公正証書遺言がおすすめです。
③相続人調査
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せます。
戸籍の取り寄せは、思う以上に時間や労力がかかります。
古い戸籍は現在の戸籍と書き方が違ううえに、手書きなので読み解くのに苦労するかもしれません。
④財産調査
相続財産には、プラスの財産とマイナスの財産があります。
不動産の権利証や預貯金の残高証明書や借入金等を調査して、財産の全容を明らかにします。
財産を一覧表に取りまとめ、すみやかに相続人に交付します。
⑤遺言内容の執行
(1)預貯金などの解約
ほとんどの場合、相続財産に預貯金が含まれています。
銀行などの金融機関は口座の持ち主が死亡したことを確認すると口座を凍結します。
銀行の預貯金口座は日常生活に不可欠なので、すみやかに手続きする必要があります。
遺言書の内容を越えて手続きすることはできません。
例えば、〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇を相続人〇〇に相続させる
上記遺言がある場合、普通預金だけ解約できます。
別の支店の口座や定期預金は解約できません。
(2)不動産の名義変更
遺贈をする場合も、相続する場合も、遺言執行者が登記申請ができます。
遺言執行者は、司法書士や弁護士に依頼することができます。
(3)家庭裁判所へ申立てや役所への届出
子どもの認知や相続人廃除の申立て、相続人廃除の取消の申立てなどは遺言執行者がします。
申立てが認められた後、戸籍の届出も遺言執行者が行います。
⑥相続財産の換価
財産を売却して得られたお金を相続人に平等に分けるように指定してあることがあります。
不動産の場合、売却が指定してある場合でも、相続登記が必要です。
⑦遺言執行の完了報告
すべての任務が終了したら、相続人全員に職務完了を報告します。
4遺言執行を司法書士に依頼するメリット
遺言執行者は遺言書の内容を実現する人です。
相続人が遺言書の内容に納得していて、手続に協力的であれば、必ずしも、遺言執行者を選任する必要はありません。
子どもの認知など遺言執行者しかできない手続がある場合、遺言執行者を選任しておかないと、相続人に余計な手間をかけさせることになります。
遺言執行者は、相続開始後すみやかに手続を進めることができる時間と知識がある人を選ぶことが重要です。
その意味でも、家族より司法書士などの専門家に遺言執行を依頼する人が増えています。
以前は、遺言執行者は止むを得ない場合だけ、他の人に職務を任せることができるとされていましたが、現在は、止むを得ないなどの理由は不要になりました。
遺言執行者に指名され、職務をしてみたところ、思ったよりタイヘンだという場合、自己の責任で司法書士などの専門家におまかせすることもできます。
今後も、専門家に依頼する人は増えていくでしょう。
遺言執行を司法書士などの専門家に依頼した場合、相続人は基本待っているだけなので、トラブルになることが少なくなるからです。
家族を笑顔にするためにも、遺言書作成と遺言執行者選任しましょう。
家族の幸せのためにも、遺言書作成と遺言執行者選任を司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。