このページの目次
1遺産分割協議書と遺産分割協議証明書のちがい
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人のひとりが勝手に処分することはできません。
相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意をして、分け方を決める必要があります。
相続財産の分け方にについて、相続人全員でする話し合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議は、相続人全員で合意する必要があります。
相続人全員が一つの場所に集まる必要はありません。
電話でもメールで合意しても差し支えありません。
口頭で合意しても、遺産分割協議は有効です。
相続手続先には、有効な遺産分割協議があったことを客観的に証明する必要があります。
口頭の合意は、客観的に有効な合意があったとは認められないでしょう。
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書は、どちらも相続人全員の合意内容を記載した書面です。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を記載した書面1通を用意し、相続人全員が記名し実印を押印する形式です。
遺産分割協議証明書は、相続人全員の合意内容を記載した書面を相続人の人数分用意し、相続人各自が記名し実印を押印する形式です。
どちらの形式でも、相続人全員の合意内容を客観的に証明することができます。
一般的には遺産分割協議書の形式が多く用いられます。
相続手続先の担当者が不慣れな場合、遺産分割証明書は受け付けてもらうために長時間待たされるおそれがあります。
2遺産分割協議証明書のメリット
①相続人全員が一堂に集まらなくてよい
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を記載した書面1通を用意し、相続人全員が記名し実印を押印する形式です。
相続人の人数が少なく、一堂に集まりやすい場合は便利です。
遺産分割協議証明書は、相続人全員の合意内容を記載した書面を相続人の人数分用意し、相続人各自が記名し実印を押印する形式です。
相続人全員に一斉発送し、記名押印後返送してもらうことができます。
遺産分割協議書より遺産分割協議証明書の方が効率的です。
②紛失リスクが軽減される
相続人が各地に散らばっていて集まりにくい場合、郵送で遺産分割協議書を一巡していくことになります。
途中の相続人が遺産分割協議書を紛失するおそれがあります。
遺産分割協議書は、1通に相続人全員が記名押印をしなければなりません。
途中で紛失したら、最初からやり直しになります。
相続人の人数が多くなるほど紛失リスクは大きくなります。
遺産分割協議証明書では、相続人全員に一斉発送し、記名押印後返送してもらいます。
紛失した場合、紛失した相続人の分だけやり直しになります。
遺産分割協議証明書では、紛失リスクを軽減することができます。
③短期間で書類作成ができる
郵送で遺産分割協議書を一巡していく場合、のんびりした相続人が次の人に郵送するまでに時間がかかりがちです。
連絡が取りにくい相続人がいる場合、なかなか記名押印をしてくれないかもしれません。
疎遠な相続人がいる場合、連絡が取りにくく時間が長くかかる傾向があります。
④相続手続先の手続がスムーズ
遺産分割協議書の記名押印は、相続人全員が集まりやすいときにされるのが一般的です。
多くは、お正月、GW、お盆の時期でしょう。
お正月、GW、お盆の時期の後に、相続手続先に書類が殺到しがちです。
相続手続先によっては、通常より手続きに時間がかかります。
遺産分割協議証明書では、相続人全員に一斉発送し、記名押印後返送してもらいます。
相続人全員が一堂に会する必要がないので、書類が集まり次第に相続手続を進めることができます。
相続手続先の繁忙期に重ならずに相続手続を進めることができます。
3遺産分割協議証明書の書き方と注意点
①遺産分割協議証明書の記載例
遺産分割協議証明書
共同相続人である私たちは、以下の相続について、下記のとおり遺産分割協議が成立したことを証明する。
被相続人の最後の本籍 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地
被相続人の最後の住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
被相続人のの氏名 〇〇 〇〇
被相続人の生年月日 昭和〇〇年〇〇月〇〇日
被相続人の死亡日 令和〇〇年〇〇月〇〇日
1
相続財産中、次の不動産については、相続人○○○○が相続する。
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番○
地目 宅地
地積 200㎡
2
相続財産中、次の被相続人名義の財産については、相続人○○○○が相続する。
金融機関名 ○○銀行 ○○支店
預金種別 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
金融機関名 ○○銀行 ○○支店
預金種別 定期預金
口座番号 ○○○○○○○
令和 年 月 日
相続人の住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人の氏名 〇〇 〇〇 (実印)
②同じ内容で相続人の人数分作成
遺産分割協議は、相続人全員で合意する必要があります。
相続人全員の合意内容を証明する書面だから、遺産分割協議証明書は相続人全員が同じ内容にします。
相続人全員に対して一斉発送するから、同じ書面を相続人の人数分用意します。
遺産分割協議証明書は、手書きで作成してもパソコンなどで作成しても差し支えありません。
相続人全員の遺産分割協議証明書が同じ内容である必要があるから、手書きよりはパソコンなどで作成した方がいいでしょう。
③日付はバラバラでよい
遺産分割協議証明書は、相続人全員が各自合意内容を証明する形式です。
証明日がバラバラになるのは当然のことです。
遺産分割協議はいつまでにしなければならないといったルールはありません。
相続が発生した日以降であれば、日付はいつでも構いません。
④押印は必ず実印で
遺産分割協議は、相続人全員の合意が不可欠です。
相続人全員の合意があれば、口頭の合意であっても無効とは言えません。
相続手続先には、相続人全員の合意を客観的に証明する必要があります。
相続人全員の合意を客観的に証明するため、遺産分割協議証明書は実印で押印しなければなりません。
⑤印鑑証明書を添付してもらう
遺産分割協議証明書の押印が実印による押印であることを証明するため、印鑑証明書を添付します。
実印がない相続人には、あらかじめ印鑑登録をしてもらう必要があります。
本人が市区町村役場に出向いて手続きをすれば、その場で印鑑登録と印鑑証明書を発行してもらうことができます。
相続登記をする場合、遺産分割協議証明書に添付する印鑑証明書に有効期限はありません。
以前取得したものがあれば、古いものでも差し支えありません。
銀行などの相続手続先では独自ルールを決めている場合があります。
多くは、3~6か月以内の印鑑証明書を必要とします。
4遺産分割協議証明書が送られてきたら
遺産分割協議証明書は、相続人全員の合意内容が記載されているはずです。
内容をよく読んで確認しましょう。
記名押印をした場合、記載内容に同意したとみなされます。
いったん記名押印をしたら、後からやり直すのは非常に困難になります。
相続人全員の合意内容に間違いがない場合は、すみやかに記名し実印で押印しましょう。
返送する場合は、印鑑証明書を忘れず添付しましょう。
5遺産分割協議証明書の提出先
遺産分割協議証明書は、相続人全員の合意を客観的に証明する書面です。
相続手続をする場合に必要になります。
遺産分割協議証明書の提出先は、主に次の5つです。
①相続登記をするとき法務局へ提出
②預貯金の解約をするとき銀行など金融機関へ提出
③自動車の名義変更をするとき運輸支局へ提出
④株の名義変更をするとき証券会社へ提出
⑤相続税申告をするとき税務署へ提出
相続手続をする場合、遺産分割協議証明書や印鑑証明書は原本を提出しなければなりません。
遺産分割協議書や印鑑証明書のコピーを提出しても受け付けてもらえません。
遺産分割協議証明書や印鑑証明書を提出した場合、原本は返してもらえます。
返してもらうための手続は、提出先によって違います。
6数次相続があった後の遺産分割協議証明書
①数次相続とは
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
共有財産になった相続財産は、相続人全員で話し合いによる分け方の合意が不可欠です。
相続財産の分け方について話し合いがまとまる前に、相続人が死亡して新たな相続が発生することがあります。
最初の相続の手続中に相続人が死亡して、さらに相続が発生した状態を数次相続と言います。
②相続人が一人だけになったら遺産分割協議ができない
例えば、最初の相続で相続人が配偶者と子どもの場合があります。
最初の相続で相続財産の分け方について話し合いがまとまる前に、相続人が死亡して新たな相続が発生することがあります。
最初の相続の被相続人の配偶者が死亡した場合、配偶者の相続人は子ども一人です。
最初の相続において、配偶者と子どもが相続人です。
最初の相続で、配偶者と子どもは相続財産を共有しています。
次の相続で、配偶者の持分が子どもに帰属したというべきです。
子どもは直接の相続人の地位と配偶者の相続人の地位があることを理由に遺産分割協議をすることはできません。
③遺産分割協議後に相続人が一人だけになったら
相続財産は、相続人全員の合意で分け方を決める必要があります。
相続人全員の合意は、口頭であっても有効です。
相続人全員で相続財産の分け方の合意ができた場合、通常は、合意内容を文書に取りまとめます。
相続手続先に対して、相続人全員の合意で分け方を決めたことを客観的に証明するためです。
相続人全員で相続財産の分け方の合意ができた後、文書に取りまとめる前に、相続人が死亡することがあります。
文書に取りまとめる前に相続人が死亡した場合、相続財産の分け方の合意に影響はありません。
相続人全員の合意事項は、有効です。
例えば、最初の相続において、配偶者と子どもが相続人です。
配偶者と子どもで相続財産の分け方の合意ができた後、文書に取りまとめる前に、配偶者が死亡することがあります。
配偶者と子どもでした合意事項は、配偶者の死亡後も有効です。
子どもは配偶者の死亡後に、口頭の合意内容を文書に取りまとめることができます。
子どもが遺産分割協議証明書を作成して、生前に合意があったことを客観的に証明します。
7遺産分割協議証明書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。
前提として、話し合いによる合意ができていなければ、文書にできません。
話し合いによる合意を適切に文書にする必要があります。
書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。
せっかくお話合いによる合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。