遺言執行者が不動産売却

1遺言書で相続財産を売却してもらうことができる

遺言書を書くといった場合、財産の分け方を決めておくことをイメージします。

通常は、財産をそのままの形で受け取ってもらいます。

不動産であれば、そのままの不動産を受け取ってもらいます。

不動産は高額で分けにくいことが多いものです。

遺言書で分け方を決める場合、平等な分け方にするのは難しいでしょう。

受け取る側からすると、使うかどうか分からない不動産を受け取るより、お金で受け取った方がありがたいことがあります。

このような場合、財産を売却して得られた金銭を分けるように決めておくことができます。

財産を売却して得られた金銭は、相続させることができるし遺贈することができます。

遺贈とは、被相続人が遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげることです。

遺贈で財産を譲ってあげる人のことを遺贈者、譲ってもらう人を受遺者と言います。

遺贈では、法定相続人に譲ってあげることができるし、相続人以外の人に譲ってあげることができます。

財産を売却して得られた金銭を分けるように決めておく遺言を、清算型遺言と言います。

清算型遺言では、財産すべてを売却してもらうことができるし、指定した財産だけ売却してもらうことができるし、指定した財産だけを除いて売却してもらうことができます。

売却で得られた金銭から遺言者の債務、現金化に要した費用、遺言執行のための費用、お葬式のための費用を差し引きして残りを受け取ってもらうのが一般的です。

売却して得られた金銭を一人の人に全部受け取ってもらうことができるし、何人かの人に割合を指定して受け取ってもらうことができます。

2遺言執行者とは

遺言書は遺言者の意思を示したものです。

遺言書を書いただけでは、意味がありません。

遺言書を書いただけで、自動的に遺言内容が実現するわけではないからです。

遺言書の内容を実現する人が遺言執行者です。

相続人は遺言の内容を見たら、被相続人の意思を尊重し、実現してあげたいと思うでしょう。

相続人にとって不利な内容になっている場合、遺言の実現に協力してくれないこともあります。

遺言執行者を選任しておくと、遺言執行者が遺言書の内容を実現してくれます。

遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な行為をする権限があります。

協力しない相続人が遺言執行を妨害した場合、原則として、妨害行為は無効になります。

遺言執行者はいてもいなくても、遺言書の効力に違いはありません。

遺言執行者がいると、確実に遺言者の意思を実現してもらえますから、安心です。

3遺言執行者いる場合、相続人は何もしなくていい

一部の相続人が協力しない場合、清算型遺言の執行ができなくなってしまうため、遺言執行者を指名するのが一般的です。

遺言執行者がいる場合、遺言執行者が遺言執行をします。

清算型遺言の執行は次のとおりです。

①相続人名義に相続登記をする

清算型遺言を執行する場合、いったん相続人名義に相続登記をする必要があります。

相続が発生した場合、相続財産は相続人全員の共有財産になるからです。

相続人に移転した後、相続人から買主に所有権が移転します。

所有権が移転する経過を忠実に登記しなければなりません。

だから、相続登記を省略することはできないのです。

遺言執行者がいる場合、遺言執行者が登記手続をします。

相続人の同意や承諾は、必要ありません。

相続人は印鑑証明書を用意することもないし委任状に押印する必要もありません。

自称専門家が相続登記は必要がないのに、司法書士が余計な登記をしているなどと説明しています。

すぐに売却するのだから登録免許税などの費用を節約したいと思うと、この意見に飛びついてしまいそうです。

相続登記をせずに、清算型遺言を執行することはできません。

所有権移転の実態を表していない場合、登記制度への信頼が失墜するからです。

このようなことが許されるはずがありません。

このような自称専門家には、充分に注意しましょう。

②不動産の売却

遺言執行者がいる場合、遺言執行者が不動産の売却手続を進めます。

遺言執行者がいる場合とは、遺言書に遺言執行者の指名があれば遺言執行者が就任承諾をする前であっても、「遺言執行者がいる場合」とされます。

遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言執行者の遺言執行を妨げることはできません。

遺言執行者がいるのに、相続人が勝手に不動産を売却することはできません。

相続人が勝手に不動産の賃貸借契約をすることはできません。

相続人が勝手に不動産を担保に差し出すことはできません。

相続財産を売却して欲しくないという気持ちであっても、相続人は不動産を占拠することはできません。

相続人は勝手に家屋の取壊しや増改築などもできません。

遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産を処分する権限を失います。

遺言書の内容を実現するために必要な行為は、すべて遺言執行者がします。

遺言書の内容を実現できないようにする行為は、遺言執行を妨げたと判断されます。

遺言執行を妨げた場合、遺言執行者から損害賠償請求をされるおそれがあります。

遺言内容を実現するため、相続人に対して妨害を排除する訴訟を起こされることがあります。

遺言執行者が単独で不動産売却に関する決定をします。

不動産を売却する場合、不動産業者に仲介を依頼します。

不動産業者と仲介契約をするのも遺言執行者です。

相続人は相続財産に対する処分権限がありませんから、勝手に仲介契約を結ぶことはできません。

仲介契約は相続財産を処分する行為ではありませんが、処分のための前提行為だからです。

遺言執行者が信託銀行などの場合、仲介業者はグループ内の不動産業者以外は認められないでしょう。

相続人が懇意にしている不動産業者に仲介を依頼したくても、聞き入れられることはないでしょう。

③買主への所有権移転登記

相続登記の後、買主へ所有権移転登記をします。

買主が見つかる前に、相続登記を済ませておくといいでしょう。

相続登記が済んでいない状態で、買主が銀行にローンを申し込んでも、銀行は融資を認めてくれません。

銀行の融資が認められない物件の場合、現金で買うことができる人を探さなければならなくなります。

不動産売却の難易度が一挙に上がると言えます。

4遺言執行者が著しく不当な低額で売却したら

遺言執行者がいる場合、遺言執行者が遺言執行をします。

遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言執行者の遺言執行を妨げることはできません。

遺言執行者がいるのに、相続人が勝手に不動産を売却することはできません。

①相続人に照会権と遺言執行者に報告義務がある

遺言執行者は遺言実現のために全面的な権限があります。

相続人は、遺言執行者の遺言執行について照会をすることができます。

不動産が売却されてしまった後に照会するより、売却する前から気付いたことを照会するといいでしょう。

遺言執行者は、遺贈を受け取る人や相続人から請求があった場合、いつでも遺言の執行状況を報告しなければなりません。

相続人と遺言執行者でトラブルになる前に、分からないことを照会し報告してもらうようにしましょう。

適切な時期に照会権と報告義務を活用すれば、適正な遺言執行が期待できます。

②遺言執行者は解任できる

正当な理由があれば、家庭裁判所に遺言執行者を解任してもらうことができます。

遺言書で指名された場合であっても、家庭裁判所に選んでもらった場合であっても、遺言執行者を解任してもらうことができます。

家庭裁判所に遺言執行者を解任してもらうのであって、相続人が解任するのではありません。

正当な理由になるのは次のような理由です。

(1)遺言執行者の職務を行っていない、職務を怠けている

(2)病気やけがで職務ができない

(3)相続財産の使い込みをした

(4)一部の相続人に不公平な扱いをしている

(5)遺言執行者が長期不在や行方不明

(6)遺言の執行状況を報告しない

遺言執行者は相続人の利益を図るための人ではありません。

相続人の思い通りにならないなどの理由は正当理由と認められないでしょう。

③遺言執行者に損害賠償請求ができる

不動産が著しく不当な低額で売却がされてしまった場合、本来売れるはずであった価格との差額が損害になります。

遺言執行者に対して本来売れるはずであった価格との差額について、損害賠償請求をすることができます。

本来売れるはずであった価格は、相続人が証明しなければなりません。

固定資産税評価額の4割程度で売却した事件で、裁判所は個別要因を適切に反映していないから、固定資産税評価額は売れるはずの価格とは言えないと判断しています。

不動産鑑定士による鑑定評価額についても考え方の相違があるから、鑑定評価額が売れるはずの価格とは言えないと判断しています。

結局、不合理である理由はないとして、相続人の損害賠償請求は認められませんでした。

固定資産税評価額や不動産鑑定士による鑑定評価額であっても、実際の売買価格とは関係ないと結論づけました。

損害賠償請求をするためには、実際の損害を証明することが非常に困難です。

5譲渡所得税に注意

清算型遺言の遺言執行をする場合、相続人名義に相続登記をします。

売却代金は形式的にはいったん相続人が受け取った後、受遺者に渡ります。

譲渡所得税が課される場合、相続人に対して課税されます。

遺言者は財産的利益を受けない相続人に納税をさせたいと考えていないでしょう。

遺言執行者は売却代金から譲渡所得税を差引し、申告と納税をするところまで管理する必要があります。

6清算型遺言による遺言書作成と遺言執行を司法書士に依頼するメリット

相続手続はタイヘンですが、相続人がいない場合はさらにタイヘンです。

相続人がいないから、国に持っていかれるより、お世話になった人に受け取ってもらいたい、自分の気持ちを活かしてくれる人に使ってもらいたいという方もいるでしょう。

不動産は、価値が高いものの、人によっては使いにくかったり不便であることがあります。

不動産は管理の手間もありますから、かえって、持て余すこともあるでしょう。

このような場合に、不動産を売却してお金で受け取ってもらうことは有効です。

不動産を売却してお金で受け取ってもらうためには、遺言書は欠かせません。

遺言書は自筆証書遺言でも、公正証書遺言でも効力に変わりはありませんが、形式の不備などがない確実な公正証書遺言をおすすめします。

遺言執行者を指名しておけば、余計な事務負担をかけることになくなりますから、安心です。

遺言執行は手間と時間がかかるだけでなく、法律の知識が不可欠です。

司法書士などの法律の知識がある専門家に依頼するのがいいでしょう。

遺言書作成に併せて、遺言執行を依頼すれば、登記までスムーズに手続してもらえます。

清算型遺言を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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