このページの目次
1遺言事項とは遺言書で法的効力が発生する事項
①遺言事項は法律で決まっている
遺言書は、遺言者の意思を尊重する制度です。
遺言書は、遺言者が死亡したときに効力が発生します。
遺言書に書くことで法的効力が発生することは、法律で決められています。
遺言事項とは、遺言書に記載することで効力が発生する事項です。
遺言事項は、次の3つに分類できます。
(1)相続に関する遺言事項
(2)身分に関する遺言事項
(3)その他の遺言事項
遺言事項は、法律で決まっています。
②法的効力がなくても遺言書に記載できる
遺言書には、さまざまなことを書くことができます。
法的効力がなくても、遺言書に記載することができます。
法的効果がない事項は、付言事項を言います。
例えば、遺言書に家族への感謝の気持ちを書くことができます。
家族への感謝の気持ちに、法的効力はもちろんありません。
感謝の気持ちが書いてあると、温かな気持ちになるでしょう。
遺言事項以外のことを遺言書に書くことができます。
③遺言書は死亡後に開封される
遺言書は、遺言者が死亡した後に効力が発生します。
遺言者の生前に遺言内容を共有することは、あまりありません。
遺言者の意思を尊重するため、生前に遺言書を見ることは遠慮するでしょう。
遺言者が死亡しても、すぐには開封されません。
追悼の区切りなどで親族が集まったタイミングで、遺言書は開封されます。
遺言者死亡後およそ1~2か月程度経過していることが多いでしょう。
例えば、遺言書に葬儀の希望が書いてあると、家族が心理的負担を感じるかもしれません。
本人の希望をかなえてあげることができなかったからです。
④遺言書が無効になると内容も当然に無効になる
遺言書には、厳格な書き方ルールがあります。
書き方ルールに違反すると、遺言書は無効になります。
たとえ遺言事項を書いてあっても、無効の遺言者に効力はありません。
2相続に関する遺言事項一覧
遺言事項①相続分の指定
相続人になる人は、法律で決められています。
相続人になる人が相続する割合も、法律で決められています。
遺言書を作成して、法定相続分と異なる相続分を指定することができます。
自分で指定しないで、第三者に指定するように委託することができます。
被相続人の子どものみが相続人である場合、法定相続分は平等です。
例えば、長男と二男が相続人である場合、法定相続分はそれぞれ2分の1です。
遺言書を作成して、長男3分の2、二男3分の1と、定めることができます。
各相続人は具体的な財産の分け方を決めるため、遺産分割協議をします。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方について相続人全員でする話し合いです。
遺言事項②遺産分割の方法の指定
遺言書を作成して、どの財産をだれに相続させるか具体的に指定することができます。
例えば、自宅は長男に相続させる、預貯金は長女に相続させるなどと記載します。
遺産分割の方法を指定すると、遺産分割協議は不要です。
自分で指定しないで、第三者に指定するように委託することができます。
遺言事項③遺産分割の禁止
遺言書を作成して、遺産分割を禁止することができます。
遺産分割を禁止する期間は、相続発生から5年を超えない範囲です。
例えば、次の理由がある場合、遺産分割を禁止することが合理的かもしれません。
・家業の継続を希望する
会社の株式を遺産分割せず維持することで、経営の安定を確保します。
・不動産を保全
土地を分割すると、価値が下がることがあります。
・相続人の感情的対立の調整
遺産分割を禁止して、感情的対立を緩和します。
・未成年者の成人を待つ
未成年者は、自分で遺産分割協議をすることができません。
成人すれば、自分で遺産分割協議をすることができます。
5年を超える期間を禁止しても、5年に短縮されます。
遺言事項③遺贈
遺贈とは、遺言書を作成して相続人や相続人以外の人に財産を引き継ぐことです。
遺贈には、2種類あります。
特定遺贈と包括遺贈です。
特定遺贈とは、遺言書に「財産〇〇〇〇を遺贈する」と財産を具体的に書いてある場合です。
包括遺贈とは、遺言書に「財産すべてを包括遺贈する」「財産の2分の1を包括遺贈する」と割合だけ書いて財産を具体的に書いてない場合です。
包括遺贈を受けたら、具体的な財産の分け方を決めるため遺産分割協議をします。
特定遺贈を受けたら、遺産分割協議に参加する権利も義務もありません。
遺言事項④特別受益の持戻しの免除
特別受益とは、一部の相続人だけが特別に受けた利益です。
一部の相続人のみが特別に利益を受けた場合、そのまま遺産分割をするのは不公平です。
特別受益は、相続財産に戻して計算します。
持戻しとは、特別受益を相続財産に戻して計算することです。
特別受益の持戻しをすることで、相続人が公平に遺産分割をすることができます。
遺言書を作成して、特別受益の持戻しを免除することができます。
特別受益の持戻しが免除されると、特別に受けた利益は相続財産に戻して計算しません。
相続人間の公平より、遺言者の意思が尊重されます。
特別受益の持戻しの免除がされると、他の相続人は不公平感を募らせます。
相続人間のトラブルに発展するリスクがあります。
遺言事項⑤相続財産の担保責任
遺産分割によって取得した財産について、後から欠陥が見つかることがあります。
例えば、「被相続人の財産と思っていたけど実は他人の財産だった」「問題がない建物と思っていたけど実は壊れていた」などです。
欠陥がある財産を取得した相続人は、ソンをします。
欠陥がある財産を取得した相続人がソンをするのは、不公平です。
相続財産の担保責任とは、相続人全員で損害を分担する仕組みです。
遺産分割後の不測の損害を公平に調整するため、安全装置と言えます。
遺言書を作成して、相続財産の担保責任を変更することができます。
例えば、次のように定めることができます。
・相続財産の担保責任を免除する
後に相続財産に欠陥や権利の問題があっても、他の相続人に填補責任は発生しません。
・責任の範囲を限定する
遺言書で、負担割合を軽減することができます。
・責任の範囲を拡張する
遺言書で、相続分を超えて負担割合を指定することができます。
・特定財産のみ定める
株式については責任を免除するが、不動産は原則どおり責任を負うと定めることができます。
相続人間の公平より、遺言者の意思が尊重されます。
遺言事項⑥遺留分侵害額請求の負担方法
遺留分とは、相続人に認められた最低限の権利です。
被相続人に近い関係の相続人に認められます。
配分された財産が遺留分に満たない場合、相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分は、利益を受けた人に請求するのが原則です。
遺言書を作成して、遺留分侵害額請求の負担方法を指定することができます。
例えば、次のように定めることができます。
・特定の相続人に負担させる
・相続分の割合に応じて負担させる
・各相続人の負担割合を指定する
・財産ごとに負担を指定する
相続人間の公平より、遺言者の意思が尊重されます。
遺留分は相続人の最低限の権利だから、遺留分侵害額請求を排除することはできません。
3身分に関する遺言事項一覧
遺言事項⑦認知
認知とは、婚姻関係にない男女の間に誕生した子どもを自分の子どもと認めることです。
遺言書を作成して、子どもを認知することができます。
認知された子どもは、相続人になります。
認知されると、被相続人の子どもになるからです。
成人した子どもを認知する場合、子どもの承諾が必要です。
遺言書で認知した場合、遺言執行者が認知届を提出します。
遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことができます。
遺言事項⑧相続人の廃除・廃除の取消
相続人の廃除とは、相続人の資格を剥奪することです。
遺言書を作成して、相続人の廃除や廃除の取消を申し立てることができます。
遺言書で相続人を廃除した場合、遺言執行者が相続人廃除の申立書を提出します。
遺言書に相続人を廃除すると書いても、実際に廃除するか家庭裁判所が判断します。
相続人廃除が認められるのは、次の場合です。
・相続人が重大な侮辱をした
・暴力を振るうなどの虐待をした
・重大な非行があった
家庭裁判所は、客観的証拠に基づいて非常に慎重に判断します。
相続人の廃除には、高いハードルがあります。
遺言事項⑨未成年後見人・未成年後見監督人の指定
未成年後見人とは、親権者がいない未成年のための法定代理人です。
未成年後見人は、親権者と同様の権利義務があります。
未成年者に最後に親権を行う人は、遺言書を作成して未成年後見人や未成年後見監督人を指定することができます。
遺言書で未成年後見人を指定していない場合、家庭裁判所に未成年後見人選任の申立てをすることができます。
家庭裁判所が未成年者の利益を考慮して、未成年後見人を選任します。
遺言書なしで生前に依頼しても、家庭裁判所の判断によります。
4その他の遺言事項一覧
遺言事項⑩遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する人です。
遺言執行者を指定すると、遺言者にとって安心です。
遺言執行者が確実に、遺言書の内容を実現してくれるからです。
遺言執行者を指定すると、相続人にとって安心です。
遺言執行者が複雑で、手間と時間がかかる相続手続を行ってくれるからです。
遺言書で遺言執行者に指名されても、ご辞退することができます。
遺言事項⑪死亡保険金の受取人の変更
被相続人に生命保険がかけてある場合、死亡保険金が支払われます。
遺言書を作成して、生命保険の死亡保険金の受取人を変更することができます。
死亡保険金の受取人を変更しても、保険会社は自動で知ることができません。
変更前の受取人が死亡保険金を請求すると、支払ってしまいます。
生命保険の契約によっては、受取人の範囲が指定されています。
第三者や事実婚・内縁の配偶者などを指定できない可能性があります。
遺言事項⑫祭祀の主宰者の指定
祭祀の主宰者とは、先祖祭祀を主宰する人です。
祭祀の主宰者は、先祖の系譜やお墓などを引き継ぎます。
祭祀の主宰者として、相続人以外の人や血縁関係者以外の人を指定することができます。
遺言書を作成して、祭祀の主宰者を指定することができます。
遺言事項⑬信託の設定
信託とは、財産管理を依頼する契約です。
遺言による信託では、信託目的、受託者、受益者、信託財産を遺言で指定します。
銀行などが販売する遺言信託と言う名前の商品は、遺言による信託と無関係です。
遺言事項⑭財団法人の設立
遺言書を作成して、財団法人を設立するために財産を拠出することができます。
拠出する財産、定款で定めるべき重要事項、機関設計などを遺言で指定します。
多くの場合、具体的な定款作成や財団法人の設立は遺言執行者に委任します。
5遺言事項以外は遺言書でかなえられない
①尊厳死の希望は遺言書でかなえられない
尊厳死は、過剰な延命治療を行わずに尊厳を保持しつつ自然な死を迎えるものです。
尊厳死の希望は、遺言事項ではありません。
医師などの医療関係者が遺言書を見ることは、考えられません。
尊厳死を希望は、生前に尊厳死宣言書で医師などの医療関係者に伝えておく必要があります。
②献体や臓器提供の希望は遺言書でかなえられない
臓器移植とは、臓器の機能が低下した人に他の人の臓器と取り換えて機能回復を図る医療です。
第三者の善意による臓器提供がなければ、臓器移植をすることはできません。
献体や臓器提供の希望は、遺言事項ではありません。
医師などの医療関係者が遺言書を見ることは、考えられません。
献体や臓器提供の希望は、生前に献体や臓器提供の意思表示をする必要があります。
③葬儀や納骨の希望は遺言書でかなえられない
遺言書は、遺言者が死亡したときに効力が発生します。
葬儀の方法について記載しておこうと、考えるかもしれません。
葬儀の方法の希望は、遺言事項ではありません。
現実的にも葬儀が終わった後、一定期間経過してから遺言書が開封されます。
葬儀や納骨の希望は、死後事務委任契約などでかなえることができます。
6遺言書作成を司法書士に依頼するメリット
遺言書は、遺言者の意思を示すものです。
自分が死んだことを考えたくないという気持ちがあると、抵抗したくなるかもしれません。
遺言書は遺言者の意思を示すことで、家族をトラブルから守るものです。
遺贈とは、遺言によって、法定相続人や法定相続人以外の人に、財産を譲ってあげるものです。
遺贈は簡単に考えがちですが、思いのほか複雑な制度です。
遺言執行には法的な知識が必要になります。
遺言の効力が発生したときに、遺言執行者からお断りをされてしまう心配があります。
せっかく遺言書を書くのですから、スムーズな手続を実現できるように配慮しましょう。
お互いを思いやり幸せを願う方は、遺言書作成を司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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