被相続人の死亡を知らなかったときの相続放棄

1被相続人の死亡を知らなかったケース

ケース①被相続人と疎遠

相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。

だれが相続人になるかについては、民法で決められています。                                   

さまざまな家族の事情から、被相続人や被相続人の家族と疎遠になっていることがあります。

被相続人や被相続人の家族と疎遠になっても、相続人は相続人です。

長期間疎遠になっていると、連絡先が分からないことがあります。

被相続人の死亡を知らせることができなくなります。

被相続人の死亡を知らないまま、長期間経過することがあります。

ケース②認知された子どもや前婚の子ども

被相続人に子どもがいる場合、子どもは相続人になります。

認知とは、婚姻関係にないカップルの間に生まれた子どもについて自分の子どもと認めることです。

認知したことや認知した子どもについて、家族に秘密にしていることがあります。

被相続人の家族が相続人の存在や連絡先を知らないと、連絡できないでしょう。

被相続人の死亡を知らないまま、長期間経過することがあります。

2被相続人の死亡を知らなかったときの相続放棄

①相続放棄は家庭裁判所の手続

相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。

相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをします。

相続放棄は、家庭裁判所の手続です。

家庭裁判所で相続放棄が認められたら、はじめから相続人でなくなります。

②相続放棄の期限3か月のスタートは知ってから

相続放棄には、期限があります。

相続があったことを知ってから、3か月以内です。

「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。

3か月以内に戸籍謄本や住民票などの必要書類を揃えて管轄の家庭裁判所に提出しなければなりません。

被相続人が死亡してから3か月以上経過しても、相続放棄の期限3か月はスタートしていないことがあります。

相続放棄の期限3か月のスタートは、知ってからだからです。

③被相続人の死亡を知らないと相続放棄の期限3か月はスタートしない

被相続人や被相続人の家族と疎遠である場合、死亡直後に連絡がされないことがあります。

被相続人の死亡を知らないまま、長期間経過することが少なくありません。

相続放棄の期限3か月のスタートは、知ってからです。

被相続人の死亡を知らないまま長期間経過しても、相続放棄の期限3か月はスタートしていません。

相続があったことを知ってから3か月以内であれば、家庭裁判所に相続放棄の手続をすることができます。

④先順位相続人の相続放棄を知ってから3か月

被相続人に子どもがいる場合、子どもが相続人になります。

子どもが相続人になると考えていると、遠縁の親族に被相続人の死亡を連絡しないことがあります。

相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。

子どもが相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。

子ども全員が相続放棄をした場合、子どもはいない場合になります。

先順位の人全員が相続放棄をしたら、次順位の人が相続人になります。

家庭裁判所で相続放棄が認められても、次順位相続人に連絡する義務はありません。

家庭裁判所は相続放棄を認めても、次順位相続人に通知しません。

相続人になったことを知らないまま、長期間経過することがあります。

相続人になったことを知らない場合、相続があったことを知らないと言えます。

相続があったことを知らないから、相続放棄の期限3か月はスタートしていません。

被相続人が死亡してから3か月以上経過しても、相続放棄の期限3か月はスタートしていません。

相続があったことを知ってから3か月以内であれば、家庭裁判所に相続放棄の手続をすることができます。

⑤相続財産があることを知ってから3か月

被相続人と別居している場合、被相続人の経済状況を詳しく知らないことが多いでしょう。

被相続人の死亡を知っても、財産状況を知らないことがあります。

相続財産には、プラスの財産とマイナスの財産が含まれます。

相続財産調査をしても、マイナスの財産に気づけないことがあります。

マイナスの財産があることを知らなかった場合、相続財産を相続することを知らなかったと言えます。

相続財産を相続することを知らない場合、相続があったことを知らないと言えます。

相続があったことを知らないから、相続放棄の期限3か月はスタートしていません。

被相続人が死亡してから3か月以上経過しても、相続放棄の期限3か月はスタートしていません。

相続があったことを知ってから3か月以内であれば、家庭裁判所に相続放棄の手続をすることができます。

⑥3か月の期限があることを知らなかったは認めれられない

相続放棄の申立ての期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。

相続放棄の期限が3か月であることは、法律で決まっています。

相続放棄の期限3か月を知らなくても、3か月経過で相続放棄ができなくなります。

「相続放棄の期限3か月を知らなかったから」は、理由にできません。

相続があったことを知ってから3か月経過したら、単純承認になります。

相続放棄の期限が3か月であることを知らないまま長期間経過すると、相続放棄が認められなくなります。

3被相続人の死亡を知らなかったときの注意点

注意①続放棄の期限3か月を過ぎたときは上申書

相続放棄の期限3か月のスタートは、相続があったことを知ってからです。

相続があったことを知らなければ、相続放棄の期限3か月がスタートしません。

相続が発生してから3か月以上経過して相続放棄の申立てをした場合、家庭裁判所は期限後の提出と誤解するでしょう。

期限3か月を過ぎても認められる理由があることを積極的にアピールする必要があります。

例えば、被相続人と疎遠であった場合、次の点を書くといいでしょう。

・相続人間の交流はない

・相続人であることを知ったきっかけ

・きっかけとなった証拠の有無

手紙などを受け取ったことで相続人であることを知った場合、手紙や封筒は重要です。

相続人であることを知ったきっかけを裏付ける証拠になるからです。

相続放棄の申立てをする際に、上申書を一緒に提出します。

上申書には、客観的事実や経緯を淡々と書きます。

家庭の事情や家族の感情などは、信頼性を失わせるからです。

家庭裁判所は、提出された書類を見て審査します。

期限3か月を過ぎても認められる理由があるか、自主的に調査をしません。

家庭裁判所が知りたいポイントを押さえて、適切にアピールすることが重要です。

期限3か月を過ぎても認めてもらうためには、上申書が有効です。

注意点1つ目は、相続放棄の期限3か月を過ぎたときは上申書です。

上申書の文例

名古屋家庭裁判所御中

私は、被相続人〇〇〇〇(令和〇年〇月〇日死亡)の相続人です。

被相続人とは、平成〇年頃から交流がなく死亡を知りませんでした。

令和〇年〇月〇日付〇〇〇銀行から相続債務について通知を受け取りました。

上記通知によって、相続人であることと相続財産について知りました。

よって、自己のために相続があったことを知った日は、令和〇年〇月〇日です。

令和〇年〇月〇日より3か月以内であるから、相続放棄の申述をします。

添付資料として、通知書の写しを同封します。

相続放棄申述人 〇〇〇〇

注意②相続財産を処分利用すると単純承認

相続人は相続を承認するか相続放棄をするか、判断することができます。

相続を承認するか相続放棄をするか判断した後に、撤回することはできません。

相続放棄をする場合、相続財産を処分することはできません。

相続財産を処分した場合、相続を承認したものと見なされます。

相続を承認した場合、承認を撤回することはできません。

家庭裁判所が事情を知らずに相続放棄を認めてしまった場合、後から無効になります。

家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書を受け取っても、相続放棄は絶対ではありません。

相続財産を処分した場合、相続を承認したと言えるからです。

被相続人の債権者は、相続放棄は無効であると主張して借金を払って欲しいと裁判を起こすことができます。

相続放棄申述受理通知書を見せても、借金の催促が止まらない場合、債権者は相続放棄の無効を主張しているかもしれません。

債権者が裁判を起こした場合、裁判所から訴状が届きます。

訴状が届いたら、直ちに弁護士などの専門家に相談しましょう。

債権者が根拠のない主張をしている場合であっても、適切に主張立証をする必要があるからです。適切に対応しないと、裁判で相続放棄の無効が認められてしまうからです。

注意点2つ目は、相続財産を処分利用すると単純承認です。

注意③熟慮期間3か月は延長してもらえる

熟慮期間とは、相続放棄ができる3か月の期間です。

例えば、相続財産が外国など各地に点在している場合、3か月では判断できないでしょう。

相続財産調査に時間がかかる場合、家庭裁判所に認められれば延長してもらうことができます。

具体的には次の事情があると、熟慮期間延長が認められやすいでしょう。

・財産が多岐にわたる

・財産の種類が多い

・評価が困難な財産がある

注意点3つ目は、熟慮期間3か月は延長してもらえることです。

4相続放棄の手続の流れ

手順①相続財産調査

相続を単純承認するか相続放棄をするか判断するため、相続財産調査をします。

どのような財産状況でも相続放棄をする場合、相続財産調査は不要です。

手順1つ目は、相続財産調査です。

手順②必要書類の準備

相続放棄の申立ての必要書類は、次のとおりです。

(1)被相続人の戸籍謄本

(2)被相続人の住民票または戸籍の附票

(3)相続放棄する人の戸籍謄本(3か月以内のもの)

(4)収入印紙800円分

(5)裁判所が手続で使う郵便切手

裁判所が手続で使う郵便切手は、裁判所ごとに金額や枚数が決められています。

必要であれば、上申書を準備します。

期限3か月を過ぎても認められる理由があることを適切にアピールしないと、相続放棄できないからです。

書類が揃わなくても、後から追加で提出することができます。

手順2つ目は、必要書類の準備です。

手順③相続放棄申述書の作成

相続放棄申述書に、必要事項を記載します。

相続放棄申述書は、相続放棄をする人の押印が必要です。

押印は、認印で差し支えありません。

手順3つは、相続放棄申述書の作成です。

手順④家庭裁判所へ提出

相続放棄申述書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで確認することができます。

家庭裁判所へ出向いて提出する場合、受付時間に制限があることがあります。

相続放棄申述書は、郵送で提出することができます。

普通郵便でも提出できますが、記録が残る郵便が安心です。

手順4つ目は、家庭裁判所へ提出です。

手順⑤相続放棄照会書に回答

相続放棄の申立てをすると、2週間ほどで家庭裁判所から相続放棄照会書が届きます。

相続放棄照会書とは、家庭裁判所から届く相続放棄についての意思確認です。

相続放棄は影響の大きい手続なので、間違いがないように慎重に確認します。

正直に回答して、返送します。

手順5つ目は、相続放棄照会書に回答です。

手順⑥相続放棄申述受理通知書の受領

回答に問題がなければ、家庭裁判所から審査結果が通知されます。

相続放棄申述受理通知書とは、相続放棄が認められた通知書です。

通常は照会から1~2週間程度申立てから1か月程度で、相続放棄申述受理通知書が届きます。

相続放棄申述受理通知書が届かない場合、家庭裁判所に問合わせるといいでしょう。

手順6つ目は、相続放棄申述受理通知書の受領です。

手順⑦他の相続人に通知

相続放棄の審査結果は、申立てをした人だけに通知します。

他の相続人に対して、積極的に通知しません。

相続放棄をしても他の相続人に通知する義務はありませんが、通知してあげると親切でしょう。

手順7つ目は、他の相続人に通知です。

5相続放棄を司法書士に依頼するメリット

相続放棄は、その相続でチャンスは実質的には1回限りです。

家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできます。

高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。

家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。

一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。

相続放棄は、慎重に判断する必要があります。

知識がない状態で、3か月の期間内に手続するのは思ったよりハードルが高いものです。

相続放棄を考えている方は、すみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします

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