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1第三者が相続放棄を確認できる
①家庭裁判所は通知しない
相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄するか選択することができます。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをします。
相続放棄が認められたら、家庭裁判所は申立てをした人にだけ通知します。
家庭裁判所は、自主的に債権者に対して通知しません。
家庭裁判所は、積極的に次順位相続人に対して通知しません。
②相続放棄の確認が必要になるケース
ケース(1)相続人間で協力が得られないケース
家庭裁判所で相続放棄が認められたら、はじめから相続人でなくなります。
被相続人の子どもが相続放棄をしたら、相続人でなくなります。
子ども全員が相続放棄をしたら、子どもがいない場合になります。
被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属が相続人になります。
相続放棄が認められても、家庭裁判所は次順位相続人に対して通知しません。
家庭裁判所で相続放棄が認められても、次順位相続人に通知する義務はありません。
相続人間で協力が得られない場合、先順位の人が相続放棄したのか確認する必要があります。
ケース1つ目は、相続人間で協力が得られないケースです。
ケース(2)債権者が借金の請求をするケース
被相続人が借金を抱えたまま、死亡することがあります。
被相続人の借金は、相続財産です。
相続財産だから、相続人が借金を引き継ぎます。
借金を引き継ぎたくない場合、相続放棄をするでしょう。
相続放棄が認められても、家庭裁判所は債権者に対して通知しません。
家庭裁判所で相続放棄が認められても、債権者に通知する義務はありません。
相続債権者が借金の請求をする場合、相続放棄したのか確認する必要があります。
ケース2つ目は、相続債権者が借金の請求をするケースです。
ケース(3)債権者から通知が届いたケース
被相続人が借金を抱えたまま、死亡することがあります。
被相続人に子どもがいる場合、子どもが相続人になります。
次順位相続人は、相続に関係ないものと安心しているでしょう。
被相続人に子どもがいるのに、借金の返済を求める通知が届くことがあります。
相続放棄が認められても、家庭裁判所は次順位相続人に対して通知しません。
家庭裁判所で相続放棄が認められても、次順位相続人に通知する義務はありません。
債権者から通知が届いた場合、先順位の人が相続放棄したのか確認する必要があります。
ケース3つ目は、債権者から通知が届いたケースです。
ケース(4)他の相続人が相続手続をするケース
相続が発生したら、相続人は相続手続をします。
不動産があれば、法務局で名義変更をします。
預貯金があれば、金融機関で口座凍結解除をします。
相続手続では、相続人全員の協力が必要です。
相続放棄をした人は、相続手続に協力する必要はありません。
相続放棄をした人は、はじめから相続人でなくなるからです。
相続放棄が認められても、家庭裁判所は法務局や金融機関に対して通知しません。
家庭裁判所で相続放棄が認められても、法務局や金融機関に通知する義務はありません。
他の相続人が相続手続をする場合、相続放棄したのか確認する必要があります。
ケース4つ目は、他の相続人が相続手続をするケースです。
ケース(5)相続財産清算人が相続財産を国庫に帰属するケース
法律で決められた相続人がまったく存在しない場合、相続財産は国庫に帰属します。
相続財産清算人とは、相続財産を清算して国庫に帰属する人です。
相続人が存在しないか確実に確認して、国庫に帰属します。
相続財産清算人が相続財産を国庫に帰属する場合、相続放棄したのか確認する必要があります。
ケース5つ目は、相続財産清算人が相続財産を国庫に帰属するケースです。
③相続放棄の確認ができる第三者
相続放棄をした本人は、相続放棄の確認をすることができます。
相続放棄が認められた後、他の相続人の相続放棄の有無を確認することはできません。
相続放棄が認められると、はじめから相続人でなくなるからです。
相続放棄の確認ができる第三者は、法律上の利害関係がある人です。
具体的には、次の人です。
・共同相続人
・後順位相続人
・被相続人の債権者
・相続財産清算人
相続放棄の確認をするためには、法律上の利害関係があることを疎明する必要があります。
疎明とは、家庭裁判所に分かってもらうことです。
2第三者が相続放棄を確認する方法


①相続放棄の照会をするタイミング
相続放棄には、3か月の期限があります。
相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか判断するため、3か月の猶予があります。
相続が発生してから3か月経過していない場合、相続人が熟慮中であると考えられます。
相続発生後3か月経過後以降に、照会します。
②照会先
相続放棄の申述の有無の照会先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
被相続人の最後の住所地は、被相続人の住民票や戸籍の附票で確認することができます。
家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで確認することができます。
③必要書類
(1)相続人が照会する場合
・被相続人の本籍地入り住民票または戸籍の附票
・照会者と被相続人の関係が分かる戸籍謄本(発行から3か月以内のもの)
・相続関係説明図
・照会者の本人確認書類
具体的には、運転免許証やマイナンバーカードなどのコピーです。
・返信用の封筒と切手
(2)利害関係人が照会する場合
・被相続人の本籍地入り住民票または戸籍の附票
・照会者の資格を確認する書類
個人の場合は、照会者の本人確認書類
具体的には、運転免許証やマイナンバーカードなどのコピーです。
法人の場合は、法人の登記簿謄本
・利害関係を証明する書類
具体的には、金銭消費貸借契約書、訴状、競売申立書、競売開始決定、債務名義等の各写し、担保権が記載された不動産登記簿謄本、その他債権の存在を証する書面などです。
・返信用の封筒と切手
必要書類は、家庭裁判所によって運用が異なります。
管轄の家庭裁判所に確認したうえで、照会するといいでしょう。
④郵送で照会できる
相続放棄の申述の有無の照会は、郵送で家庭裁判所に提出することができます。
⑤手数料
相続放棄の申述の有無の照会は、手数料は無料です。
⑥回答までにかかる期間
相続放棄の申述の有無の照会は、郵送で結果が通知されます。
回答までにかかる期間は、家庭裁判所によって異なります。
多くの場合、1週間~1か月程度で、通知されます。
⑦相続放棄申述受理証明書は別途申請
相続放棄の申述の有無の照会の回答書で、相続手続が進められないことが多いでしょう。
相続手続のため、相続放棄申述受理証明書を別途申請します。
相続放棄申述受理証明書を申請する場合、手数料150円が必要です。
⑧法律上の利害関係が必要になる理由
理由(1)プライバシーの保護
相続を単純承認するか相続放棄をするか、相続人の重大な意思決定です。
無関係な第三者が自由に照会できるとすると、プライバシーが侵害されます。
被相続人や相続人のプライバシーを侵害することは、許されません。
プライバシーを保護するため、法律上の利害関係が必要になります。
理由1つ目は、プライバシーの保護です。
理由(2)権利濫用の防止
相続を単純承認するか相続放棄をするか、相続人の財産権に直接大きな影響があります。
無関係な第三者が自由に照会できるとすると、相続人に対する嫌がらせを誘発する危険があります。
相続人に対する嫌がらせを防止するため、法律上の利害関係が必要になります。
理由2つ目は、権利濫用の防止です。
理由(3)家庭裁判所の事務の効率化
相続放棄は、家庭裁判所に対して手続します。
家庭裁判所に対して、相続放棄を確認することができます。
無関係な第三者が自由に照会できるとすると、家庭裁判所に事務負担が重くなります。
家庭裁判所の事務の効率化のため、法律上の利害関係が必要になります。
理由3つ目は、家庭裁判所の事務の効率化です。
理由(4)法的権利の正当な行使
相続放棄をすると、後順位相続人の相続権や債権者による債権回収など具体的な影響があります。
無関係な第三者が自由に照会しても、法的権利の正当な行使につながりません。
法的権利の正当な行使のため、法律上の利害関係が必要になります。
理由4つ目は、法的権利の正当な行使です。
3照会が認められないケース
ケース①照会できる資格がないケース
相続放棄の申述の有無の照会は、だれでも自由に照会できるわけではありません。
単なる知人など無関係な人は、照会が認められません。
認められないケース1つ目は、照会できる資格がないケースです。
ケース②必要書類が不足不備のケース
相続放棄の申述の有無の照会には、たくさんの書類が必要になります。
必要書類が不足すると、相続放棄の申述の有無の照会が認められません。
利害関係人が照会する場合、法律上の利害関係があることを家庭裁判所に分かってもらう必要があります。
例えば、金銭消費貸借契約書を提出する場合、金銭消費貸借契約書の借主の住所氏名が被相続人の住所氏名と異なることがあります。
家庭裁判所は別人と判断して、利害関係を認めないでしょう。
利害関係を認めてもらうため、住所氏名の移り変わりが分かる戸籍謄本や戸籍の附票を提出します。
法律上の利害関係があると分かってもらえないと、照会が認められません。
認められないケース2つ目は、必要書類が不足不備のケースです。
4相続放棄を確認するときの注意点
注意①調査対象期間は家庭裁判所によって異なる
相続放棄の有無の照会で確認できる期間は、家庭裁判所によって異なります。
10年以上過去の相続放棄である場合、家庭裁判所によっては確認できないかもしれません。
10年以上過去の相続では、調査対象期間が次のとおり限定されています。
・第1順位の相続人 死亡日から3か月以内
・後順位の相続人 先順位の相続人の相続放棄から3か月以内
相続放棄から30年以上経過すると、どこの家庭裁判所であっても確認できません。
相続放棄の書類は、永年保管ではないからです。
注意点1つ目は、調査対象期間は家庭裁判所によって異なることです。
注意②確認できるのは相続人目録に記載した人だけ
相続放棄の有無の照会の2枚目は、相続人目録です。
家庭裁判所に相続放棄の有無を確認したい対象者を記載します。
相続人目録に記載していない場合、家庭裁判所は調査をしません。
先順位の相続人が相続放棄をしたか確認したい場合、先順位の相続人全員の氏名を記載します。
注意点2つ目は、確認できるのは相続人目録に記載した人だけです。

注意③却下されても再照会ができる
法律上の利害関係があると分かってもらえないと、相続放棄の有無の照会が認められません。
法律上の利害関係があるのに適切な書類を提出できないと、家庭裁判所に分かってもらえません。
書類の不足が理由で照会が却下された場合、不足を補って再度照会することができます。
却下された理由がよく分からない場合、司法書士などの専門家に相談することが有効です。
注意点3つ目は、却下されても再照会ができることです。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
相続放棄は、家庭裁判所に対して手続する必要があります。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄をすると、初めから相続人でなくなるからです。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、相続に関する手続には関与しなくて済むと安心してしまいがちです。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合であっても、相続財産を処分した場合、相続放棄が無効になります。
相続放棄は簡単そうに見えて、実はいろいろなことを考慮しなければならない手続です。
相続放棄を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。