死後事務委任契約で依頼できないこと

1死後事務委任契約で死亡後のサポートを依頼する

①死後事務委任契約で死亡後の手続を依頼する

死後事務委任契約とは、死亡後に必要になる手続を依頼する契約です。

通常の委任契約は、死亡によって終了します。

死後事務委任契約は、当事者が死亡しても終了しません。

死後事務委任契約で死亡後の事務を依頼しておくと、家族に迷惑をかけなくて済みます。

死後事務委任契約を利用することで、安心して自分らしく人生を送ることができます。

②死後事務委任契約で依頼できること

(1)親族や知人への連絡

(2)葬儀や埋葬の手配

(3)治療費や施設代の精算

(4)賃貸借契約の解除

(5)ペットの引き継ぎ

(6)健康保険や年金手続などの行政手続

(7)デジタルデータの解約や処分

③死後事務委任契約の依頼先

(1)友人や知人

(2)司法書士などの専門家

(3)社会福祉協議会

(4)民間企業

死後事務委任契約をする相手方は、特別な資格は不要です。

家族以外の第三者でも、死後事務委任契約の相手方になることができます。

本人が信頼できる人であることが重要です。

④死後事務委任契約がおすすめの人

死後事務委任契約がおすすめの人は、主に次の人です。

(1)おひとりさまなどひとり暮らしで身寄りがない

(2)子どもなど家族に迷惑をかけたくない

(3)事実婚・同性婚のパートナーに任せたい

(4)自分のことを自分で決めておきたい

2死後事務委任契約で依頼できないこと

①相続手続を依頼できない

死後事務委任契約をすると、さまざまな死亡後の手続を依頼することができます。

死亡後の手続と言うと、相続手続が思い浮かぶかもしれません。

死後事務委任契約で、相続手続を依頼することはできません。

具体的には、遺産分割の方法の指定、預金の解約、相続登記などは依頼できません。

相続手続は、相続人全員の合意や遺言書内容で決まることだからです。

死後事務委任契約は、死亡後の事務処理を依頼するに過ぎません。

死後事務委任契約を利用しても、相続手続を依頼できません。

②身分行為を依頼できない

身分行為とは、身分関係に関する効果を発生させる行為です。

死後事務委任契約で、身分行為を依頼することはできません。

具体的には、結婚や離婚、養子縁組や離縁、子どもの認知などの行為は依頼できません。

身分行為は、本人の意思と人格に関わる行為だからです。

依頼や代理すべき内容ではないでしょう。

死後事務委任契約を利用しても、身分行為を依頼できません。

③生前の財産管理を依頼できない

死後事務委任契約は、文字どおり死後の事務を依頼する契約です。

死後事務委任契約で、生前の事務を依頼することはできません。

具体的には、生きている間の口座管理や介護手続、施設の入所手続、入院手続は依頼できません。

死後事務委任契約は、死亡後に事務に限定されているからです。

死後事務委任契約を利用しても、生前の財産管理を依頼できません。

④死亡届の提出を依頼できない

人が死亡したら、死亡届を提出する必要があります。

死亡届の届出人は、次のとおりです。

(1)同居の親族

(2)その他の同居人

(3)家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人

上記の人は順序に関わらず、届出人になることができます。

次の人は、届出をすることができます。

(1)同居の親族以外の親族

(2)後見人、保佐人、補助人、任意後見人

(3)任意後見受任者

死亡届の届出義務は、ありません。

死後事務委任契約の依頼先は、死亡届の届出人になれません。

上記の届出人が作成した死亡届を市区町村役場に持って行くだけなら、依頼することができます。

持って行くだけなら届出人ではなく、使者だからです。

死後事務委任契約を利用しても、死亡届の提出を依頼できません。

⑤医療同意を依頼できない

医療同意とは、治療について医師から充分な説明を受けて同意をすることです。

死後事務委任契約で、医療同意を依頼することはできません。

具体的には、医療行為への同意、延命措置に関する決定を依頼できません。

医療同意は、本人や家族だけができる行為です。

自己決定権に基づく、本人や家族の意思が重視される行為だからです。

死後事務委任契約を利用しても、医療同意を依頼できません。

3併用して自分の希望を実現する

①制度を併用して依頼できないことを補完する

死後事務委任契約だけでは、依頼できないことがあります。

自分の希望を実現するためには、複数の制度を組み合わせるといいでしょう。

司法書士などの専門家に相談すると、適切な組み合わせを提案してもらうことができます。

元気なときから死亡後まで、切れ目なくサポートを受けることができます。

下記の図は、各制度の役割を整理したものです。

制度の名称主な役割効力発生時期対象
死後事務委任契約死亡後の手続を依頼死亡後葬儀納骨
遺品整理
遺言書遺産分割の方法の指定死亡後相続手続
遺贈
任意後見契約判断能力低下後のサポート判断能力低下後財産管理
身上監護
財産管理委任契約判断能力低下前のサポート判断能力がある間財産管理

②遺言書を作成して相続手続と子どもの認知

相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。

相続財産は、相続人全員の共有財産です。

相続財産の分け方は、死後事務委任契約で依頼先に決めてもらうことはできません。

相続財産の分け方に希望がある場合、遺言書の作成が必要です。

遺言書がないときは、相続人全員の合意で決定します。

相続財産の分け方だけでなく、遺言書で子どもを認知することができます。

遺言書は、作成するだけでは意味がありません。

遺言書の内容は、自動で実現するわけではないからです。

遺言書で遺言執行者を指名することができます。

遺言執行者とは、遺言書内容を実現する人です。

遺言執行者がいると、遺言者にとって安心です。

遺言書内容を確実に、実現してくれるからです。

遺言執行者がいると、相続人にとって安心です。

手間と時間がかかる相続手続をおまかせすることができるからです。

③任意後見契約で認知症の備え

任意後見契約とは、認知症などに備えてサポートを依頼する契約です。

死後事務委任契約は、文字どおり死亡後の手続を依頼する契約です。

依頼者が生きている間のサポートを依頼することはできません。

認知症になったときに備えて、任意後見契約をすることができます。

認知症になると、物事のメリットデメリットを適切に判断することができなくなります。

任意後見人は財産管理をして、本人の生前のサポートをします。

死後事務委任契約と任意後見契約を同じ人とすることができます。

元気だったときから死亡後まで、引き続きサポートをしてもらうことができます。

④財産管理委任契約で認知症になる前のサポート

任意後見契約は、本人が認知症になった後にサポートを開始します。

本人が認知症になるまでは、任意後見契約でサポートを受けることはできません。

認知症が発症しなくても、身体能力が低下することがあるでしょう。

財産管理委任契約を利用して、認知症が発症するまでのサポートを依頼することができます。

死後事務委任契約と任意後見契約、財産管理委任契約を同じ人とすることができます。

元気だったときから死亡後まで、引き続きサポートをしてもらうことができます。

⑤尊厳死宣言で延命治療を拒否する

尊厳死宣言とは、回復の見込みのない状態になったとき、過剰な延命措置を行わず尊厳を持って自然な死を迎える意思を示した文書です。

死後事務委任契約で、医療同意を依頼することはできません。

医療同意は、本人の自己決定権に基づくものです。

代理や依頼になじむものではありません。

元気なときに、尊厳死宣言をすることで過剰な延命治療を拒否することができます。

4死後事務委任契約の注意点とトラブル防止の対策

注意①依頼できること依頼できないことがある

死後事務委任契約を利用すると、死亡後に必要になる手続を依頼することができます。

依頼できることに限界があることに気を付ける必要があります。

死後事務委任契約で依頼できないことは、先に説明したとおりです。

注意1つ目は、依頼できること依頼できないことがあることです。

死後事務委任契約で実現できないことでも、他の契約と併用することで実現できることがあります。

相続手続は、遺言書を作成することで実現することができます。

生前のサポートは、任意後見契約や財産管理委任契約をすることで実現することができます。

他の契約などを併用することで、自分の希望をかなえることができます。

対策は、他の契約などを併用することです。

注意②契約内容の明確化

死後事務委任契約で依頼できることは、多岐にわたります。

依頼したいことは、明確にして契約書に記載します。

どのようにやってもらいたいのか、詳細に契約書に記載します。

依頼内容があいまいな契約は、トラブルを招くからです。

注意2つ目は、契約内容の明確化することです。

死後事務委任契約は、口頭の合意でも成立します。

口頭の合意では、合意したことを証明できません。

口頭の合意では、合意内容を証明できません。

死後事務委任契約は、文書で契約するといいでしょう。

できれば、死後事務委任契約は公正証書でするのが特におすすめです。

公正証書とは、公証人が作成する公文書です。

公証人は、当事者の本人確認のうえ本人の意思確認をして公正証書を作成します。

公正証書には、高い信頼性があります。

対策は、公正証書で死後事務委任契約です。

注意③依頼先の事業終了

死後事務委任契約をしてから契約に効力が発生するまでに、長期間経過します。

長期間経過するうちに、依頼先と連絡が取れなくなることがあります。

過去には公益財団法人が全国規模で死後事務委任契約をして預託金を預かったまま事業終了した事件がありました。

約束したサービスを受けられないまま預託金が返還されず、多大な損害が発生しました。

注意3つ目は、依頼先の事業終了です。

公益財団法人だから安心できるなどの名称に飛びつかないことが重要です。

死後事務が履行できないときに備えて、預託金の管理方法を確認します。

対策は、信頼できる人に依頼することです。

注意④親族や相続人とトラブル

死後事務委任契約は、依頼者と依頼先の合意ですることができます。

親族や相続人が死後事務委任契約をしたことや内容を知らないと、トラブルに発展するおそれがあります。

例えば、死後事務委任契約で簡素な家族葬を希望していたのに、親族が盛大な葬儀を出そうとするケースです。

注意4つ目は、親族や相続人とトラブルです。

死後事務委任契約を締結する際に、親族や相続人と情報共有すると有効です。

死後事務委任契約の内容と自分の希望を話しておきます。

親族や相続人に話して理解してもらうと、トラブル防止に役立ちます。

対策は、親族や相続人と情報共有です。

5生前対策を司法書士に依頼するメリット

生前対策=相続「税」対策の誤解から、生前対策はする方はあまり多くありません。

争族対策として有効な遺言書ですら、死亡者全体からみると10%未満です。

対策しないまま認知症になると、家族に大きな面倒をかけることになります。

認知症になってからでは遅いのです。

お元気なうちに準備する必要があります。

なにより自分が困らないために、大切な家族に面倒をかけないために生前対策をしたい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

keyboard_arrow_up

0527667079 問い合わせバナー 事前相談予約