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1家族信託の終了事由は信託契約で決めておく
①委託者兼受益者死亡で信託終了が一般的
家族信託は、本人と信頼できる家族との間でする契約です。
信託契約をした後、家族信託を永久に続けることはできません。
どのようなときに信託を終了させるのか、信託契約の中で決めておきます。
家族信託の終了事由は、家族信託の目的に応じて考えます。
本人が認知症になった場合、資産が凍結されるリスクがあります。
認知症になると、物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなるからです。
物事のメリットデメリットを充分に判断できない状態では、契約などの法律行為ができなくなります。
資産が凍結されるとは、不動産の売却などができなくなるという意味です。
本人が認知症になったことを銀行などの金融機関が知った場合、銀行口座を凍結します。
口座が凍結すると、入出金や引き落としができなくなります。
本人が認知症になった場合でも、資産が凍結されないようにするためには家族信託が有効です。
本人の死亡後には、家族信託を続ける意味はないからです。
本人が生きているうちに家族信託を終了させると、認知症リスクに対して対策がないことになります。
認知症リスクに備えるために家族信託をするのであれば、本人の死亡で家族信託を終了させるといいでしょう。
本人の認知症リスクに備える目的で家族信託を利用することが一般的です。
委託者兼受益者死亡で信託終了が大多数です。
②委託者兼受益者死亡後も信託を継続することができる
家族信託は、本人の認知症対策のため以外にも活用されます。
本人の生存中から死亡後の財産管理のために家族信託をする場合です。
例えば、障害がある子どものために家族信託を利用することあります。
本人が健在のうちは本人の認知症対策のため、本人が死亡した後は障害がある子どものために家族信託を存続させる必要があります。
本人が死亡しても家族信託を続けるのがいいでしょう。
家族信託の目的に応じて、どのようなときに信託を終了させるのか決めておきます。
2委託者兼受益者死亡で信託が終了したら清算手続
①信託財産は相続財産ではない
家族信託では、自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡して、自分はものから利益を受け取る権利だけ持つ仕組みです。
信託契約で自由に売る権利や自由に管理する権利を渡した財産が信託財産です。
信託財産は、委託者兼受益者の財産でなくなって信託財産になります。
受託者は、自由に売る権利や自由に管理する権利を渡されます。
受託者は、自由に売却する権利や自由に管理する権利を行使するだけで、受託者の財産ではありません。
信託財産は、委託者兼受益者の財産ではなくなり受託者の財産にもなりません。
信託財産は、独立した財産です。
委託者兼受益者が死亡した場合、委託者兼受益者の相続財産になりません。
信託財産は、信託契約の定めにしばられる独立した財産だからです。
②委託者兼受益者の固有の財産は相続財産
信託契約で自由に売る権利や自由に管理する権利を渡した財産が信託財産です。
自由に売る権利や自由に管理する権利を渡していない財産は、信託財産になりません。
信託財産になっていない財産は、委託者兼受益者の固有の財産です。
委託者兼受益者が死亡した場合、委託者兼受益者の固有の財産は相続財産になります。
相続財産は、委託者兼受益者の相続人が相続します。
委託者兼受益者が遺言書を作成している場合、遺言書の内容に分割します。
委託者兼受益者が遺言書を作成していない場合、相続人全員の話し合いによる合意で分け方を決めます。
③信託財産を引き継ぐ人は信託契約で決めておく
委託者兼受益者が死亡した場合、信託財産は相続財産になりません。
信託が終了した場合、残った信託財産をだれが引き継ぐのか決めておくことができます。
信託財産は、信託契約で決められた人が引き継ぎます。
家族信託の受益者と同じ人でも異なる人でも構いません。
本人の認知症リスクに備えるために家族信託を利用した場合、委託者兼受益者の死亡によって家族信託を終了させることが一般的です。
信託契約で信託財産の行き先を決めてあると、財産の引き継ぎでトラブルになることが減ります。
委託者兼受益者の死亡によって家族信託を終了させる場合、家族信託は実質的に相続トラブルへの対策になります。
家族信託は本人の認知症リスクに備えるために利用することができるから、遺言書より話がしやすくなります。
④信託財産に不動産がある場合は名義変更
信託財産に不動産が含まれる場合があります。
家族信託を利用する場合、自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡します。
信頼できる家族に自由に売る権利や自由に管理する権利があることを公示するため、登記をしたはずです。
家族信託が終了した場合、信託財産は信託契約で決められた人が引き継ぎます。
信託契約で決められた人が引き継いだことと信託財産でなくなったことを公示する必要があります。
不動産の名義変更をします。
信託財産が終了した場合、信託財産は受託者が引き継ぐことがあります。
受託者が信託財産を引き継ぐ場合、登記手続の方法は明確になっていません。
名義変更は法務局と協議のうえ登記手続をすることになります。
⑤信託終了で翌月末日までに税務署に手続
信託が終了した場合、信託財産は信託契約で決められた人が引き継ぎます。
信託が終了した日の翌月末日までに管轄の税務署に手続が必要になります。
信託に関する受益者別調書と信託に関する受益者別調書合計表の2つを提出します。
この2つの書類の提出期限は、信託が終了した日の翌月末日です。
相続税申告は、10か月以内です。
期限が短いので忘れず提出しましょう。
3委託者兼受益者死亡後も信託を継続できる
①信託は永久にすることはできない
信託法上、信託の存続期間についての制限はありません。
最初の受益者が死亡したときに信託を終了させないで次の受益者が利益を受け取る場合、信託の効力について特別なルールがあります。
信託がされてから30年経過した後に受益権を引き継いで受益者になった人が死亡するまで、とするルールです。
信託がされてから30年経過した後、次の受益者に引き継ぐことができるのは1回限りです。
引き継いだ受益者が死亡した場合、信託は終了します。
②受益権を引き継ぐ人は信託契約で決めておく
家族信託では、自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡します。
家族信託を利用するときは、多くの場合、本人は委託者兼受益者として信頼できる家族は受託者として信託契約を締結します。
受託者は、信託目的達成のために自由に売る権利や自由に管理する権利を行使します。
自分が最初の受益者になり、自分が死亡した後は第2受益者が引き継ぎ、第2受益者が死亡した後は第3受益者が引き継ぐと決めることができます。
自分の血縁関係者に引き継ぎたいという希望がある場合、第2受益者や第3受益者に血縁関係者を指名すれば実現することができます。
第3受益者、第4受益者…と先の先まで決めておくことができます。
家族信託では、さまざまなことを信託契約で決めておくことができます。
最初の委託者兼受益者が死亡した場合、信託契約において信託を継続させると決めておくことができます。
最初の受益者が死亡した場合、信託契約において次の受益者を指名しておくことができます。
信託契約において、現在の受益者が死亡した場合に受益権が引き継がれる定めのある信託を後継遺贈型受益者連続型信託と言います。
③信託財産に不動産がある場合は受益者変更
信託財産に不動産が含まれる場合があります。
家族信託を利用する場合、自分はものから利益を受け取る権利だけ持っていることができます。
自分はものから利益を受け取る権利だけ持っていることを公示するため、登記をしたはずです。
委託者兼受益者が死亡した後も信託が継続する場合、ものから利益を受け取る権利は第2受益者が引き継ぎます。
ものから利益を受け取る権利を第2受益者が引き継いだことを公示する必要があります。
信託財産である不動産の受益者変更の登記をします。
④受益者変更で翌月末日までに税務署に手続
委託者兼受益者死亡後も信託を継続する場合、ものから利益を受け取る権利は第2受益者が引き継ぎます。
委託者兼受益者死亡の翌月末日までに管轄の税務署に手続が必要になります。
信託に関する受益者別調書と信託に関する受益者別調書合計表の2つを提出します。
この2つの書類の提出期限は、信託が終了した日の翌月末日です。
相続税申告は、10か月以内です。
期限が短いので忘れず提出しましょう。
4家族信託で節税はできない
①家族信託にする前と後で財産的価値は同じ
家族信託を利用した場合、信託財産は委託者兼受益者の財産ではなくなり受託者の財産にもなりません。
信託財産は、独立した財産です。
委託者兼受益者が死亡した場合、委託者兼受益者の相続財産になりません。
委託者兼受益者の相続財産にならないから、相続税を節税できると期待するかもしれません。
家族信託を利用した場合、委託者兼受益者はものから利益を受け取る権利を持っています。
ものから利益を受け取る権利は、財産的価値があると言えます。
信託財産から利益を受け取る権利の財産的価値は、信託財産と同じ方法で計算されます。
財産を所有している場合と財産を信託して信託受益権を持っている場合の財産的価値は同じです。
②財産的価値が移転すると課税される
家族信託を利用した場合、委託者兼受益者はものから利益を受け取る権利を持っています。
財産を所有している場合から財産を信託して信託受益権を持っている場合になります。
家族信託を利用する前も後も、委託者兼受益者が財産的価値を持っています。
相続税や贈与税は、財産的価値が対価なく移るタイミングで課税されます。
財産的価値が移転しないタイミングに課税はされません。
③家族信託終了で帰属権利者に課税
委託者兼受益者が死亡によって信託が終了した場合、信託財産は信託契約で決められた人が引き継ぎます。
委託者兼受益者が持っていた財産的価値が帰属権利者に引き継がれたと言えます。
信託契約で決められた人に対して相続税が課されます。
④家族信託継続で第2受益者に課税
委託者兼受益者が死亡によって信託が継続する場合、ものから利益を受け取る権利は第2受益者が引き継ぎます。
委託者兼受益者が持っていた財産的価値が第2受益者に引き継がれたと言えます。
第2受益者に対して相続税が課されます。
5家族信託を司法書士に依頼するメリット
高齢化社会が到来したといわれて、多くの方は長生きになりました。
平均寿命は男性も女性も80歳を超して、認知症になる方が多くなりました。
認知症になると、物事のメリットデメリットが充分に判断できなくなります
本人の財産は本人しか処分できないため、本人が判断できなくなると資産が凍結されてしまいます。
たとえ、本人が介護施設入所のためであっても、本人の不動産を勝手に売却することはできません。
たとえ、本人の実の子どもであっても、本人の定期預金を解約することはできません。
一部の金融機関では、本人以外の家族がキャッシュカードを使っていることを確認したら、キャッシュカードを回収しています。
本人の意思確認を重視する流れは、他の金融機関にも広がっていくでしょう。
認知症対策は、本人の判断能力がしっかりしているうちしかできません。
いつか認知症対策をしようではなく、今なら元気だから対策しようが正解です。
認知症になると、本人はもとより家族も困ります。
家族信託は認知症対策として有効です。
自分のためにも家族のためにも認知症対策を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。