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1遺体遺骨の引取に法的義務はない
①遺体遺骨の引取は遺族の判断
さまざまな家庭の事情から、連絡を取り合っていない家族がいることがあります。
孤独死が発見された場合、警察などから家族に連絡がされます。
家族が死亡したことの連絡と一緒に、遺体の引取を依頼されるでしょう。
警察などは家庭の事情が分からないから、血縁関係の近い人に連絡するのが一般的です。
家族や親族であっても、遺体の引取は拒否することができます。
遺体の引取をしないことで、他の親族から心無い言葉をかけられるかもしれません。
法的義務はなくても遺体を引き取らなかったことについて、良心がとがめるかもしれません。
親族との関係性や家庭の事情で異なりますから、落ち着いて判断するといいでしょう。
②遺体遺骨の引取を指名されていることがある
死亡した人が遺体や遺骨を引き取る人を指名していることがあります。
遺言書などで指定するケースや口頭で指名するケースです。
書面が作成されていなくても、死亡した人の意思として尊重されます。
死亡した人が一方的に指名しただけなので、指名された人はご辞退することができます。
遺体や遺骨の引取をためらう場合、過去に深い事情があったことでしょう。
遺体遺骨の引取に、法的義務はありません。
引き取るにしても引き取りを拒否するにしても、他の家族の意見を聞いて冷静に判断しましょう。
2遺体遺骨の引取を拒否したら自治体が埋火葬
①身元が分からない死亡者は行旅死亡人として埋火葬
死亡した人の身元が分からない場合、死亡地の自治体が遺体を引き取ります。
身元が分からない死亡者を行旅死亡人と言います。
行旅死亡人は、行旅病人及行旅死亡人取扱法の規定に基づいて自治体が火葬します。
死亡した人が身分証明書を持っていたとしても、本人と断定できないことがあります。
身元が分からない死亡者と同様に扱われます。
②遺体の埋火葬をする人がいないときは自治体が埋火葬
家族や親族であっても、遺体の引取は拒否することができます。
遺体の引取は、遺族の権利で義務でないと考えられています。
家族や親族が引き取りを拒否した場合、埋火葬をする人がないときになります。
遺体の埋火葬をする人がいない場合、死亡地の市町村長が埋火葬をします。
③埋火葬の費用は請求される
埋火葬の費用は、次の順序で負担します。
(1)死亡した人に遺留金銭や有価証券
(2)不足分は相続人の負担
(3)相続人から支払が得られない場合、死亡した人の扶養義務者の負担
(4)最終的に回収できない費用は自治体が負担
3遺体遺骨の引取を拒否しても相続放棄
①相続人は法律で決まっている
相続が発生したら、親族のうち一定の範囲の人が相続人になります。
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になる人は、次のとおりです。
(1)配偶者は必ず相続人になる
(2)被相続人に子どもがいる場合、子ども
(3)被相続人に子どもがいない場合、親などの直系尊属
(4)被相続人に子どもがいない場合で、かつ、親などの直系尊属が被相続人より先に死亡している場合、兄弟姉妹
②遺体遺骨の引取と相続は別問題
だれが相続人になるかについては、民法で決められています。
相続人になるかどうかは、法律の定めで決まります。
被相続人と絶縁していても、相続人になるかどうかとは関係ありません。
絶縁していたとか絶交していたとかいう事情は、法律の定めとは無関係です。
被相続人の遺体遺骨を引き取っても引取を拒絶しても、相続人になるかどうかとは関係ありません。
さまざまな家庭の事情から、被相続人の遺体遺骨の引取を拒否することがあります。
被相続人の遺体遺骨の引取を拒否しても、相続人になる人は相続人になります。
③相続したくない場合は相続放棄
被相続人と連絡を取っていない状態では、死亡日に死亡の事実を知ることは少ないでしょう。
相続放棄は、家庭裁判所に届出をする必要があります。
この届出の期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。
被相続人や被相続人の家族と疎遠になっている場合、死亡直後に連絡されないことがあります。
被相続人が死亡してから何か月も経過した後に、自分が相続人であることを知るということがあり得ます。
被相続人が死亡してから3か月以上経過しているが、自分が相続人であることを知ってから3か月以内である場合、家庭裁判所に手続きすることができます。
死亡した人の遺体の引き取りを拒否した場合、死亡地の自治体が埋火葬をします。
埋火葬の費用は、次の順序で負担します。
①死亡者の財産→②相続人→③扶養義務者
相続人が相続放棄をした場合、はじめから相続人でなくなります。
②相続人として費用負担を求められることはなくなります。
相続人ではなくなっても、死亡した人の扶養義務者である場合は③扶養義務者として費用を請求されます。
4相続放棄をしても祭祀継承者
①遺骨は相続財産ではない
相続が発生した場合、被相続人のものは原則として相続財産になります。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決めなければなりません。
被相続人の遺骨は、被相続人の死後に生じます。
被相続人が生前から所有していたものではありません。
被相続人から相続するものではないから、相続財産ではありません。
②祭祀継承者が遺骨を引き取る
被相続人の遺骨は、被相続人から相続するものではありません。
被相続人の遺骨を相続人で分けるものではないことも理由のひとつです。
被相続人のものであっても、相続財産にならないものがあります。
相続財産にならない財産には、一身専属権や祭祀用財産があります。
祭祀用財産とは、墓地、墓石、仏壇、家系図などの先祖祭祀のための財産です。
被相続人の遺骨は、先祖祭祀のための財産と言えます。
祭祀用財産は、祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
祭祀を主宰すべき人を、祭祀承継者と言います。
祭祀承継者が被相続人の遺骨を取得します。
③相続放棄と祭祀継承者は別問題
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄によって受け継ぐことがなくなるのは、相続財産についての話です。
被相続人の遺骨は、相続財産ではありません。
遺骨の引取は、相続放棄とは無関係です。
祭祀承継者が被相続人の遺骨を取得します。
相続放棄をした人が、祭祀承継者になることができます。
祭祀を主宰すべき人になる資格は、特にありません。
相続人であっても相続人以外の人でも、親族であっても親族でなくても、祭祀を主宰すべき人になることができます。
苗字が同じでない人であっても、祭祀承継者になることができます。
相続のルールが適用されるものではありません。
先祖を祀ることは、親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないからです。
祭祀用財産は親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないから、相続財産一般と同様に分配することはできません。
祭祀承継者は、次のように決められます。
(1)被相続人の指定に従う
(2)慣習に従って決める
(3)家庭裁判所で決定する
被相続人が祭祀を主宰すべき人として指定する場合、一方的に指定することができます。
トラブル防止のために、本人の同意をもらっておく方がいいでしょう。
5相続放棄を司法書士に依頼するメリット
祭祀用財産の継承は、相続とは別で扱われます。
被相続人の遺骨は、一般の財産とは同じように扱うことはできないから相続財産ではありません。
被相続人の遺骨は相続財産ではないから、相続放棄とも無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、被相続人の遺骨を受け継ぐことができます。
被相続人の遺骨は祭祀承継者に受け継がれます。
現代では家意識が薄れていますから、先祖祭祀は家の継承ではなくなっています。
死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものと言えます。
被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対しこのような心情を最も強く持っている人が受け継ぐといいでしょう。
一方で、祭祀継承者がお墓の近くに住んでいるとは限りません。
親族がお墓の移転にいい顔をしないかもしれません。
お墓の移転には想像以上の費用がかかる場合があります。
このようなことも含めて、相続財産の分け方の話し合いをする必要があります。
相続や祭祀承継者を決める場合、親族のいろいろな考えが表面化します。
相続放棄を考える方は、すみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。