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1失踪宣告で相続が開始する
①失踪宣告で死亡と見なされる
相当長期間、行方不明になっている場合、死亡している可能性が高い場合があります。
条件を満たした場合、死亡の取り扱いをすることができます。
失踪宣告とは、行方不明の人が死亡した取り扱いとするための手続です。
失踪宣告がされたら、たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをします。
行方不明が長期化した場合、家族が困ります。
家族であっても、行方不明の人の財産を処分することができません。
行方不明者の配偶者は、再婚することができません。
残された家族のために、行方不明者を死亡したものと扱う制度が失踪宣告の制度です。
失踪宣告がされると、死亡した取り扱いをします。
失踪宣告がされた人に、相続が発生します。
相続財産は、相続人全員の共有財産になります。
相続人全員の合意があれば、相続財産を自由に分けることができます。
遺産分割協議によって相続した後は、相続人が自由に処分をすることができます。
②普通失踪は生死不明7年
一般的に失踪宣告といった場合、普通失踪を指しています。
生死不明の期間を失踪期間と言います。
普通失踪では、失踪期間が7年必要です。
生死不明のまま7年経過した場合に、自動的に死亡と見なされるわけではありません。
家庭裁判所が失踪宣告したときに、死亡と見なされます。
生死不明の人の家族や利害関係人は、家庭裁判所に失踪宣告の申立てをすることができます。
家庭裁判所に失踪宣告の申立てをした後、家庭裁判所が死亡と認めていいか調査します。
家庭裁判所の状況や事件の内容によっては、調査のために1年ほどかかる場合もあります。
生死不明のまま7年以上経過したと認められる場合、家庭裁判所は失踪宣告をすることができます。
③特別失踪(危難失踪) は生死不明1年
行方不明の人が大災害や大事故にあっていることがあります。
大災害や大事故に遭った場合、死亡している可能性が非常に高いものです。
特別失踪(危難失踪)とは「戦地に行った者」「沈没した船舶に乗っていた者」「その他死亡の原因となる災難に遭遇した者」などを対象にする失踪宣告です。
死亡している可能性が非常に高いので、失踪期間は短い期間です。
特別失踪(危難失踪)では、失踪期間が1年で済みます。
生死不明のまま1年以上経過したと認められる場合、家庭裁判所は失踪宣告をすることができます。
④死亡と見なされる日に相続開始
失踪宣告がされると、たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをします。
普通失踪では生死不明になってから7年間経過したときに、死亡したものと見なされます。
特別失踪(危難失踪)では危難が去ったときに、死亡したものと見なされます。
たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをするから、相続が開始します。
死亡と見なされる日が、相続が開始する日です。
失踪宣告の手続は、長期間かかります。
相続が開始する日は、失踪宣告の申立てをした日ではありません。
裁判所が失踪宣告をした日でもありません。
相続手続の基準になるのが、死亡と見なされる日です。
2行方不明なら家族に取立てができない
①家族に返済義務はない
お金を借りたら、借りたお金を返さなければなりません。
お金を返す義務は、お金を借りた人だけの義務です。
お金を借りた後、借金を返せなくなることがあります。
借金を返せなくなった場合、お金を借りた人が責任を取ります。
お金を返す義務は、お金を借りた人だけの義務だからです。
借金がきっかけになって、行方不明になることがあります。
借金の返済を滞らせて行方不明になっても、家族に返済義務はありません。
お金を借りた人の責任であって、家族はお金を借りた人ではないからです。
借金を滞らせても、家族が自動で借金を返済する義務を負うことはありません。
②連帯保証人は肩代わりの義務がある
お金を借りるときに、連帯保証人を立てることがあります。
連帯保証人は、借金を返せなくなったときに肩代わりをする人です。
借金を返せなくなった場合でも肩代わりをしてくれるから、安心してお金を貸すことができます。
お金を借りるときに、家族が連帯保証人になることがあります。
お金を借りた人が返済を滞らせた場合、連帯保証人は肩代わりをしなければなりません。
お金を借りた人が返済を滞らせたまま行方不明になった場合、代わりに返済をしなければなりません。
連帯保証人は、借金を返せなくなったときに肩代わりをしますと約束した人だからです。
連帯保証人は、肩代わりの義務があります。
③第三者への取立ては違法行為
お金を返す義務は、お金を借りた人だけの義務です。
連帯保証人には、肩代わりに義務があります。
家族であっても、お金を返す義務はありません。
連帯保証人になっていないのに、自動で借金を返済する義務を負うことはありません。
債権者は借金を返してもらいたいから、家族に連絡を取ってくるでしょう。
お金を返す義務がない人に対して、みだりに催促する行為は違法です。
貸金業者は、行政から監督を受けています。
執拗な催促をする場合、行政に苦情を申し入れることができます。
違法な取り立てと認められた場合、業務停止などの行政処分が行われます。
第三者への取立ては、違法行為です。
3失踪宣告後は借金は相続財産
①失踪宣告で相続人に返済義務
失踪宣告がされると、たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをします。
失踪宣告で、相続が発生します。
相続が発生すると、被相続人のものは相続人が相続します。
被相続人のプラスの財産とマイナスの財産が相続財産です。
被相続人が借金を抱えたまま死亡した場合、借金は相続人全員に相続されます。
借金は相続されるから、相続人は借金の返済義務を相続します。
失踪宣告がされると、相続人全員に借金の返済義務が引き継がれます。
②失踪宣告後は借金の調査ができる
お金を返す義務は、お金を借りた人だけの義務です。
借金がいくらあるかなどの信用情報は、重要な個人情報です。
お金を借りた人が生きている間、家族が勝手に借金を調査することはできません。
お金を借りた人に失踪宣告がされた場合、相続人は借金の調査をすることができます。
消費者金融やクレジット会社は、指定信用情報機関に加入しています。
信用情報を確認すると、ローンやクレジットなどの取引内容、返済状況が詳しく分かります。
(1)日本信用情報機構(JICC)
(2)株式会社シー・アイ・シー(CIC)
(3)全国銀行協会全国銀行個人信用情報センター(KSC)
相続人は、信用情報機関に対して情報開示を請求することができます。
信用情報機関に開示請求をすることで、被相続人の借金を調べることができます。
③失踪宣告後は相続放棄ができる
失踪宣告がされるまでは、行方不明の人は生きている扱いです。
相続が発生した後、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄を希望する申立てをします。
被相続人が生きている間は、相続放棄をすることできません。
相当長期間行方不明であっても、失踪宣告されずに行方不明のままなら生きている扱いです。
行方不明のままなのに相続放棄の申立てを提出しても、受け付けてもらえません。
④相続放棄をしても生命保険の死亡保険金
相続が発生した後、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。
単純承認と見なされる行為は、法律で定められています。
相続財産の名義変更をした、相続財産である銀行の預貯金を引き出して使ってしまった場合が典型的です。
単純承認をしたのに、家庭裁判所で相続放棄が認められても無効です。
単純承認をしたら、撤回することはできないからです。
失踪宣告がされると、たとえ死亡していなくても死亡した取り扱いをします。
行方不明になった人に生命保険がかけてあった場合、生命保険の死亡保険金が支払われます。
原則として生命保険の保険金を受け取る権利は、相続人の固有の財産です。
受取人が「相続人」と指定してあっても、相続で受け取るものではありません。
被相続人の死亡をきっかけにして、保険契約によって受取人が保険金を受け取るものです。
相続によって、被相続人から受け継いだものではありません。
相続人の固有の財産だから、相続放棄をした人は生命保険の保険金を受け取ることができます。
生命保険の保険金を受け取ったことで、相続放棄が無効になることはありません。
相続放棄をした場合、消費者金融の借金を引き継ぐことはありません。
相続放棄をしても、生命保険の死亡保険金を受け取ることができます。
債務者の家族であっても、生命保険の死亡保険金で債務者の借金を返済する義務はありません。
4失踪宣告を受けた人が生きていたら
①失踪宣告の取消は家庭裁判所で手続
失踪宣告がされたけど、実は本人は新天地で元気に生きていたということがあります。
失踪宣告をされた人が生きていると分かっても、自動的に失踪宣告が取り消されるわけではありません。
家庭裁判所は失踪宣告された人が、その後、生きているかどうか分からないからです。
失踪宣告された人が生きていることが分かった場合や失踪宣告されたときと異なる時期に死亡したことが判明した場合、家庭裁判所に失踪宣告の取消の審判の申立てをします。
家庭裁判所が失踪宣告を取消した場合、失踪宣告による死亡の効果がなかったことになります。
失踪宣告の取消をしたときも、官報にお知らせを出します。
②財産は返還しなければならない
失踪宣告とは、行方不明の人が死亡した取り扱いとする手続です。
失踪宣告がされると、相続が開始します。
失踪宣告が取り消されると、行方不明者が死亡したことはなかったことになります。
死亡がなかったことになりますから、相続もなかったことになります。
相続によって財産を得た人は、行方不明者に財産を返さなければなりません。
たとえ、行方不明者が生きているとは思わなかったとしても、財産は返す必要があります。
返す財産は、現に利益を受けている限度とされています。
相続人が遊興費などで使ってしまっている場合は、返す必要がありません。
生活費や自分の借金の返済に充てている場合などは、現に利益を受けていると言えます。
その分は、返還が必要です。
現に利益を受けている限度とは、同じ形で残っている意味ではありません。
形を変えて残っている場合も含みます。
生活費として使ったのであれば、自分のお金をその分使わずに済んでいます。
生活費分の利益を得ていると言えます。
③生命保険も返還しなければならない
死亡により支払われるものとして、生命保険の保険金は高額なものでしょう。
失踪宣告が取り消されると、返還しなければなりません。
住宅ローンを組むときに団体信用生命保険に加入している場合、生命保険金で住宅ローンの残額を支払っているでしょう。
住宅ローンの残額を支払わなくてもよくなったという形で利益が残っていると考えられます。
現に利益を受けていると言えますから、この利益を返還しなければなりません。
5生死不明の相続人がいる相続を司法書士に依頼するメリット
相続人が行方不明であることは、割とよくあることです。
行方不明の相続人がいると、相続手続を進めることができません。
相続が発生した後、困っている人はたくさんいます。
自分たちで手続しようとして、挫折する方も少なくありません。
失踪宣告の申立ては、家庭裁判所に手続が必要になります。
通常ではあまり聞かない手続になると、専門家のサポートが必要になることが多いでしょう。
信託銀行などは、高額な手数料で相続手続を代行しています。
被相続人が生前、相続人のためを思って、高額な費用を払っておいても、信託銀行はこのような手間のかかる手続を投げ出して知識のない遺族を困らせます。
知識のない相続人が困らないように高額でも費用を払ってくれたはずなのに、これでは意味がありません。
税金の専門家なども対応できないでしょう。
困っている遺族はどうしていいか分からないまま、途方に暮れてしまいます。
裁判所に提出する書類作成は、司法書士の専門分野です。
途方に暮れた相続人をサポートして、相続手続を進めることができます。
自分たちでやってみて挫折した方も、信託銀行などから丸投げされた方も、相続手続で不安がある方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。