任意後見受任者ができることは限られている

1任意後見受任者とは任意後見人になる予定の人

①任意後見はサポートを依頼する契約

任意後見とは、将来に備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。

任意後見は、だれと契約するのか本人が自分で決めることができます。

任意後見受任者とは、任意後見人になる予定の人です。

物事のメリットデメリットを充分に判断できなくなった後に、任意後見人がサポートします。

自分の財産管理などを依頼するから、信頼できる人と契約します。

多くの場合、本人の子どもなど近い関係の家族でしょう。

法定後見では、家庭裁判所が成年後見人を選びます。

家族が選ばれるのは、20%程度と少数です。

任意後見は、サポートを依頼する契約です。

②任意後見契約をするだけでは効力がない

任意後見は、契約です。

契約だから、物事のメリットデメリットを充分に判断できるときに締結します。

任意後見契約をするだけでは、効力がありません。

任意後見契約をしたときは、物事メリットデメリットを充分に判断できるはずだからです。

判断能力が充分にあるから、任意後見人のサポートは不要のはずです。

任意後見人によるサポートが必要になるのは、判断能力が低下した後です。

任意後見受任者は、任意後見契約でサポートを依頼された人です。

本人の判断能力が低下した後、任意後見受任者は任意後見人になってサポートを開始します。

③任意後見受任者と任意後見人のちがい

項目任意後見受任者任意後見人
意味任意後見契約で任意後見人になる予定の人任意後見監督人選任後で本人をサポートする人
状態任意後見契約をしたが後見事務は開始していない任意後見監督人が選任され後見事務を開始した
権限原則、何もなし財産管理・身上監護
監督なし任意後見監督人による監督

2任意後見受任者ができることは限られている

①死亡届を提出できる

人が死亡したら、市区町村役場に死亡届を提出します。

死亡届を出すことができる人は、戸籍法で決められています。

死亡した人の子どもなどの親族は、死亡届を届出人になることができます。

おひとりさまや親族と疎遠である場合、死亡届を提出することが難しくなります。

任意後見受任者は、戸籍法上、死亡届を提出することができます。

任意後見契約をしておくと、死亡届を提出してもらえるので安心です。

死亡届は、法的効果を伴う届出義務行為と考えられています。

任意後見契約で死亡届の提出を依頼されなくても、任意後見受任者は死亡届を提出できます。

任意後見受任者や任意後見人が死亡届を提出する場合、証明書を提示する必要があります。

任意後見受任者は、次の書類を提示します。

・登記事項証明書

・任意後見契約にかかる公正証書の謄本

適切な書類を準備できないと、死亡届を受理してもらえません。

任意後見契約は、本人死亡で終了します。

死亡届を提出した後の相続手続や死後事務は、遺言執行者や相続人が行います。

②任意後見監督人選任の申立てができる

(1)任意後見監督人選任後に任意後見がスタートする

任意後見監督人とは、任意後見人を監督する人です。

任意後見人が不正をしないか、きちんと監督するのが仕事です。

任意後見は、任意後見監督人が選任されてからスタートします。

任意後見監督人なしで、任意後見人が本人を代理することはできません。

任意後見受任者は、家庭裁判所に対して任意後見監督人選任の申立てをすることができます。

任意後見監督人選任の申立ては、任意後見受任者にとって最も重要な行為です。

(2)任意後見監督人に相談できる

日常生活を監視されるイメージから、任意後見監督人に不安を感じる人もいるかもしれません。

任意後見人は、本人の家族であることが多いでしょう。

本人の家族が法律の専門家であることは、あまりありません。

客観的には不正と判断されることを知識不足によってやってしまうことがあります。

任意後見監督人は、任意後見人の相談相手です。

家庭裁判所は、身近な役所ではありません。

一般の人が気軽に相談するのは、難しいでしょう。

任意後見人から相談に応じることで、適切に後見事務ができるように監督したと言えます。

任意後見監督人は、任意後見人を監視する人というよりはサポートする人です。

任意後見人が任意後見契約どおりに後見事務を行えるようサポートし、家庭裁判所に報告します。

任意後見監督人は、家庭裁判所に監督されます。

(3)任意後見監督人による監督で制度の公平性が確保される

任意後見人は、任意後見監督人に監督されます。

任意後見監督人は、家庭裁判所に監督されます。

本人の利益保護のため、公平性と透明性が確保されます。

本人が判断能力を失っても、安心して任意後見制度を使うことができます。

③任意後見契約の解除ができる

(1)本人と任意後見受任者が合意解除ができる

任意後見契約は、サポートを依頼する契約です。

任意後見契約がスタートする前は、本人に充分な判断能力があるはずです。

本人と任意後見受任者が合意のうえ、任意後見契約を解除をすることができます。

合意解除をする場合、任意後見契約合意解除書を作成します。

任意後見契約合意解除書に本人と任意後見受任者が署名押印をして、公証人の認証を受けます。

公証人の認証を受けないと、有効に解除することができません。

(2)任意後見受任者が一方的に解除することができる

任意後見契約は、契約当事者の信頼関係を基礎にした契約です。

信頼関係を失ったら、契約を維持することはできません。

任意後見契約は、一方的に解除することができます。

本人が任意後見受任者の同意なく、一方的に解除することができます。

任意後見受任者が本人の同意なく、一方的に解除することができます。

一方的に解除をする場合、任意後見契約合意解除書を作成します。

任意後見契約合意解除書に解除する人が署名押印をして、公証人の認証を受けます。

配達証明付き内容証明郵便で、任意後見契約の解除を相手方に通知します。

配達されたら、証明書のハガキが届きます。

(3)任意後見スタート後の解除は家庭裁判所の許可が必要

任意後見契約がスタートした後は、本人に判断能力が失われています。

任意後見契約がスタートした後は、一方的に解除することはできません。

判断能力を失っているのにサポートする人がいなくなると、本人が困るからです。

任意後見契約を解除するためには、家庭裁判所の許可が必要です。

家庭裁判所は正当な理由がある場合に限り、許可をします。

正当な理由とは、任意後見人の事務が困難と認められる理由です。

具体的には、次の理由が考えられます。

・病気などで療養に専念したい

・遠方に転居した

・本人や本人の家族との信頼関係がなくなった

家庭裁判所の許可を得てから、相手方に意思表示をして契約を終了させます。

④将来の後見開始に備えて信頼関係の強化

任意後見契約を締結しても、任意後見監督人選任まで本人を代理することはできません。

任意後見契約を締結しても、契約に効力がないからです。

将来の後見開始に備えて、本人や本人の家族との信頼関係強化につとめます。

3任意後見監督人選任の申立て

①任意後見監督人選任の申立てをする条件

(1)任意後見契約を締結している

任意後見契約は、公正証書で締結する必要があります。

公正証書とは、公証人が作成する公文書です。

公正証書には、高い信頼性があります。

(2)本人の判断能力が低下している

本人の判断能力が低下した後、任意後見監督人選任の申立てをします。

判断能力の低下は、医師の判断が重視されます。

本人や任意後見受任者の判断ではありません。

身体能力が低下しても判断能力が充分あれば、任意後見監督人選任の申立てはできません。

(3)本人が同意している

任意後見契約は、本人の意思を尊重する制度です。

本人がサポートしてもらいたい人に、サポートしてもらいたい内容を決めて契約します。

任意後見契約の効力発生についても、本人の意思が尊重すべきだからです

本人の判断能力低下によって意思表示ができないときは、同意しなくても差支えありません。

②申立先

本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで確認することができます。

③申立てができる人

申立てができる人は、次のとおりです。

(1)本人

(2)配偶者

(3)4親等内の親族

(4)任意後見受任者

本人の家族でなくても、任意後見受任者は任意後見監督人選任の申立てをすることができます。

任意後見契約で、任意後見監督人選任の申立てをする義務を定めることが多いでしょう。

任意後見監督人選任の申立てをしないと、任意後見人によるサポートを受けることができないからです。

④必要書類

任意後見監督人選任の申立書に添付する書類は、次のとおりです。

(1)本人の戸籍謄本

(2)本人の住民票または戸籍の附票

(3)任意後見受任者の住民票または戸籍の附票

(4)本人の後見登記事項証明書

(5)任意後見契約公正証書の写し

(6)本人が成年被後見人等の登記がされていないことの証明書

(7)任意後見監督人候補者の住民票

(8)申立事情説明書

(9)任意後見受任者事情説明書

本人と任意後見受任者の間で、金銭消費貸借、担保提供、保証、立替があるときは、資料を添付します。

(10)親族関係図

(11)本人情報シート

(12)本人の診断書

(13)本人の財産目録

財産目録の内容を裏付ける資料を添付します。

不動産は登記事項証明書、預貯金は通帳のコピー、株式や有価証券は取引残高証明書などです。

(14)本人の収支予定表

収支予定表の内容を裏付ける資料を添付します。

資料は、直近3か月程度準備します。

収入に関する資料は、年金支払通知書、株式配当金通知書などです。

支出に関する資料は、施設の請求書、医療費の領収書、住居費の領収書、納税通知書などです。

⑤費用

(1)申立手数料

手数料は、800円です。

申立書に収入印紙800円分を貼り付けて、納入します。

(2)登記手数料

登記手数料は、1400円です。

申立手数料とは別に、収入印紙で納入します。

(3)連絡用郵便切手

家庭裁判所が手続で使う郵便切手を予納します。

家庭裁判所によって、納入する切手の額面や枚数が決められています。

例えば、名古屋家庭裁判所では、次のとおり提出します。

・500円切手 2枚

・350円切手 2枚

・110円切手 14枚

・10円切手 10枚

⑥申立書提出後は取下げに家庭裁判所の許可が必要

任意後見監督人選任の申立てをした後、取下げをするためには家庭裁判所の許可が必要です。

たとえ審判がされる前でも、家庭裁判所の許可なしで取下げはできません。

⑦任意後見監督人が選任されるまでの流れ

手順(1)必要書類の準備

任意後見監督人選任の申立てには、たくさんの書類が必要になります。

医師の診断書などは、作成してもらうまでに時間がかかることが多いです。

早めに準備すると、いいでしょう。

手順(2)任意後見監督人選任の申立書を提出

申立書と必要書類を取りまとめて、家庭裁判所へ提出します。

窓口に出向いて提出することも郵送で提出することも、できます。

窓口に出向くときは、受付時間に注意しましょう。

手順(3)家庭裁判所の審査

任意後見監督人選任の申立書を受付けたら、家庭裁判所は審査をします。

必要に応じて、医師による鑑定があります。

手順(4)任意後見監督人選任の審判

家庭裁判所は、適任者を任意後見監督人に選任します。

任意後見監督人の候補者を立てても、家庭裁判所は自由に選任します。

手順(5)任意後見契約に効力発生

任意後見監督人が選任されたら、任意後見契約に効力が発生します。

任意後見受任者は、任意後見人として本人のサポートを開始します。

任意後見人は、定期的に任後見監督人に報告する義務があります。

任意後見監督人がいるから、後見制度の公平性と透明性が確保されます。

安心して、任意後見制度を利用することができます。

4任意後見を司法書士に依頼するメリット

任意後見とは、、サポートを依頼する契約です。

本人の判断能力がしっかりしているうちに、契約します。

契約ですから、本人の判断能力がしっかりしているうちしかできません。

任意後見が実際にスタートするのは、契約してから長期間経過してからです。

任意後見契約は、公正証書にする必要があります。

任意後見契約は締結することばかり注目されがちですが、締結して終わりではありません。

本人のよりよく生きることを支えるために、みんながサポートしています。

任意後見契約を考えている方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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