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1お墓は相続財産でない
相続が発生すると、原則として、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続人が相続する財産が、相続財産です。
被相続人の財産であっても、相続人に相続されない財産があります。
一身専属権や祭祀用財産は相続の対象になりません。
一身専属権とは、その人個人しか持つことができない権利や資格のことです。
権利行使をするかしないか、本来の権利者個人の意思次第とするのが適当とされる権利です。
祭祀用財産とは、墓地、墓石、仏壇、家系図などの先祖祭祀のための財産のことです。
お墓は相続財産ではなく、祭祀用財産です。
相続財産ではないから、遺産分割協議は必要ありません。
祭祀用財産は、祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
祭祀を主宰すべき人を、祭祀承継者と言います。
相続財産の分け方についての合意とは別に決定します。
お墓は相続財産ではありませんから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継ぐことができます。
お墓を受け継ぐのは、祭祀承継者だからです。
2祭祀承継者とは
祭祀を主宰すべき人を、祭祀承継者と言います。
お墓は、祭祀承継者が受け継ぎます。
①祭祀承継者の主な役割
祭祀承継者は祭祀を主宰する人ですから、お墓や仏壇などの管理が主な役割です。
定期的なお墓参りの他に、霊園への管理料や使用料の支払を負担します。
お墓にだれの遺骨を納めるか、お墓を移転するかなども単独で判断することができます。
祭祀承継者になった場合、一周忌などの法要を主宰して、お布施などの支払をすることになるでしょう。
祭祀承継者になった場合であっても、祭祀を行う法的義務を負うものではありません。
②祭祀承継者になるメリット
祭祀承継者は祭祀を主宰することになります。
被相続人の一周忌や三回忌などの法要をどのような形で行うか決めることができます。
このような先祖供養を主宰することで家族の中で一定の役割を果たすことになります。
責任感がある人にとっては、家族の中で一定の責任を果たすことがやりがいにつながります。
お墓や仏壇の管理を任されることから、お墓や仏壇を自宅に引き取りたいという希望のある人にはメリットになるでしょう。
③祭祀承継者になるデメリット
祭祀承継者になった場合、お墓を管理することになります。
日常的なお墓参りやお墓の掃除をしなければなりません。
霊園に対して、管理料や使用料の支払を負担しなければなりません。
お墓が災害や老朽化で倒壊した場合まず祭祀承継者に連絡が来ますから、対応する必要があります。
これらの負担が大きいのが祭祀承継者になるデメリットです。
④祭祀承継者の決め方
相続人のうちのひとりが祭祀承継者になるのが一般的です。
お墓が複数ある場合、それぞれに祭祀承継者がいる場合もあります。
祭祀を主宰すべき人になる資格は、特にありません。
相続人であっても相続人以外の人でも、親族であっても親族でなくても、祭祀を主宰すべき人になることができます。
苗字が同じでない人であっても祭祀承継者になることができます。
ときには霊園管理者が祭祀承継者になる場合もあります。
相続のルールが適用されるものではありません。
先祖を祀ることは、親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないからです。
祭祀用財産は親族の伝統や慣習、考え、気持ちと切り離せないから、相続財産一般と同様に分配することはできません。
祭祀承継者は、次のように決められます。
(1)被相続人の指定に従う
(2)慣習に従って決める
(3)家庭裁判所で決定する
被相続人が祭祀を主宰すべき人として指定する場合、一方的に指定することができます。
トラブル防止のために、本人の同意をもらっておく方がいいでしょう。
被相続人が指定しておらず慣習も明らかでない場合、家庭裁判所が指名します。
被相続人の意思、相続人の身分関係、過去の生活感情、祭祀を主宰する意欲や能力、他の相続人や周りの人の意見を聞いて総合的に判断します。
家庭裁判所は、総合的に考えて最もふさわしい人を祭祀承継者に指名します。
3お墓の承継の方法
①お墓の永代使用権の場合は霊園で手続
被相続人が霊園のお墓を購入している場合があります。
寺院の檀家になっていてお墓を受け継いでいる場合もあります。
お墓は祭祀を主宰すべき人が受け継ぎます。
祭祀を主宰すべき人を祭祀承継者と言います。
お墓の販売や墓地の分譲の広告を目にしたことがある人も多いでしょう。
お墓を購入したのだから、墓地の所有権を得たと思うかもしれません。
通常、霊園には管理規約があります。
お墓を購入するとは、霊園と使用契約を結ぶことです。
霊園の区画を使う権利を得て、使用料や管理料を支払います。
霊園の区画を使う権利のことを永代使用権とか墓地利用権と言います。
永代利用権はお墓そのものではありませんが、お墓に付随するものとして祭祀用財産に含まれます。
永代使用権は、霊園を使う権利に過ぎません。
墓地を所有するものではありません。
お墓の契約者が死亡した場合、霊園の管理規約に基づいて家族が引き続き使うことができます。
霊園の管理規約で一定の範囲の親族のみが受け継ぐことができると決められている場合があります。
お墓をだれが引き継ぐか決めるときに、霊園の管理規約を確認しておきましょう。
永代使用権は、登記とは無関係です。
霊園の管理規約に従って、永代使用権を引き継いだ届出をします。
②お墓の相続放棄はできない
被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の選択などで祭祀承継者に選ばれると、祭祀承継者になることを拒否することはできません。
相続が発生した後、相続放棄をした場合、相続人でなくなります。
祭祀承継者には放棄する制度がありません。
お墓は相続財産ではありませんから、相続放棄とは無関係です。
相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継ぐことができます。
祭祀承継者に指名されたら、相続放棄をしても相続放棄をしなくても、お墓を受け継がなければなりません。
③墓地を所有している場合は登記が必要
現在では、墓地の永続性や非営利性を確保するため墓地を作るためには都道府県知事の許可が必要です。
都道府県知事の許可が得られるのは、原則として、墓地を作ることができる地方自治体や宗教法人などのみです。
昭和23年施行の墓地埋葬法ができる前には、個人が自分の土地に墓地を作ることができました。
これらの個人墓地は、現在も墓地として使い続けることができます。
個人墓地は永代使用権を得ているのではなく、所有権を保有しています。
所有権の移転があった場合、所有権の移転の登記をする必要があります。
④墓地が相続財産の場合がある
お墓は、原則として、相続財産ではなく祭祀用財産です。
相続財産でないから、財産の分け方を相続人全員で合意する必要はありません。
被相続人が所有する土地が、墓地である場合があります。
登記簿謄本の表題部の地目の欄に「墓地」と書いてある場合です。
墓地に先祖や親族が葬られている場合、祭祀用財産で相続財産ではありません。
墓地に先祖や親族以外の人が葬られている場合、祭祀用財産ではなく相続財産です。
先祖や親族以外の人が葬られている場合、先祖祭祀とは無関係だからです。
先祖祭祀と無関係な一般の財産と同様に相続財産になります。
相続財産だから、財産の分け方を相続人全員で合意する必要があります。
4墓じまいと墓開きは多額の費用がかかる
祭祀承継者に選ばれた場合、お墓を含む祭祀用財産を受け継ぐことになります。
祭祀承継者には放棄する制度がありません。
自宅から遠方のお墓を受け継ぐことになったら、自分でお墓を管理することができなくなります。
祭祀承継者がお墓を移転したい場合、他の親族の同意が必要になることはありません。
お墓の移転をするには、墓じまいと墓開きをすることになります。
墓じまいをするには、改葬許可申請が必要になる他、墓地の使用契約を解約する必要があります。
お墓開きをするには、改葬許可申請が必要になる他、墓地の使用契約をする必要があります。
寺院や霊園の手続や墓石の撤去と設置に思わぬ高額の費用がかかる場合があります。
祭祀承継者がこれらの負担をした場合、他の親族に当然に分担を求めることができるものではありません。
相続財産の分け方を話し合うときにお墓の移転の費用負担を含めて決めておくといいでしょう。
5お墓の相続を司法書士に依頼するメリット
お墓の分譲とかお墓の販売と聞くと、お墓を所有している気持ちになるかもしれません。
現代では、お墓を買うことは永代使用契約をすることです。
単に永代使用契約をして永代使用権を得るだけであれば、登記は無関係です。
一方で、道路わきや集落の外れなどに作られた個人墓地は現在でも使い続けることができます。
個人墓地は、多くの場合、土地を個人で所有しています。
集落の人などと共有している場合もあります。
所有権が移転した場合、登記をしておく必要があります。
墓地には固定資産税がかからないことが多いため、所有していることを認識していないかもしれません。
遠方の墓地が不便な場合、お墓のお引越しをしようとすることがあります。
墓じまいをしようとしたときに、登記が必要であることに気がつきます。
ときには、祖父やそれ以前の先祖の名義のままになっていることがあります。
お墓として利用し続けているときは気づかないものの、お墓を引っ越すときにタイヘンになります。
お墓を相続する場合は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。