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1遺産分割協議書は相続人全員の合意の証明書
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人のひとりが勝手に処分することはできません。
相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意をして、分け方を決める必要があります。
相続財産の分け方にについて、相続人全員でする話し合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議がまとまったら、相続人全員の合意内容を文書に取りまとめます。
相続人全員の合意内容を取りまとめた文書のことを遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議は、必ず、全員で合意する必要がありますが、全員が一つの場所に集まる必要はありません。
電話でもメールでも差し支えありません。
一度に全員合意する必要もありません。
一部の相続人と合意をして、次に、残りの相続人と合意をすることでも問題ありません。
最終的に相続人全員が合意できれば良いのです。
全ての財産をまとめて合意しなければならないといったこともありません。
一部の財産についてだけ合意をすることもできます。
遺産分割協議書は、司法書士などの専門家に作ってもらうこともできるし相続人のひとりが作ることもできます。
より確実にするのであれば、公証役場で公正証書にしてもらうといいでしょう。
2遺産分割協議書を公正証書にするメリット
①公正証書は信用力が高い
遺産分割協議書を公正証書にする場合、公証人という法律の専門家が関与します。
公正証書を作成したい当事者の本人確認と本人の意思確認をします。
法律の専門家が公正証書にしますから、書き方の不備のために相続手続ができないという事態はあり得ません。
公証人が確認をしたうえで公正証書にしますから、一般の書面と較べると後から無効を主張されにくくなります。
裁判などに提出した場合でも高い証拠力があります。
公証人が関与するから、公正証書には高い信頼性があります。
②公正証書は公証役場で20年間保管される
遺産分割協議書を公正証書にした場合、原本が公証役場で20年間保管されます。
公証役場で厳重に保管されるから、紛失や改ざんの心配がありません。
③強制執行することができる
遺産分割協議の合意において、金銭の支払いを約束する場合があります。
遺産分割協議書を公正証書にする場合、金銭の支払いをする点だけでなく支払いをしなかったときのことを書いてもらうことができます。
相続人○○が上記金銭の支払いをしなかったときは、直ちに強制執行に服する旨を認諾した。
上記のような文言がある場合、公正証書で強制執行をすることができます。
お金を払ってもらう人にとっては、心強いものと言えます。
公正証書でない遺産分割協議書では、強制執行ができません。
強制執行をするためには、裁判所で訴訟をして勝訴判決などの債務名義を得る必要があります。
約束したお金を払ってもらうために裁判をしなければならないとなるとハードルが高いものです。
遺産分割協議書を公正証書にすると、裁判をすることなく直ちに強制執行することができます。
3遺産分割協議書を公正証書にした方がいいケース
①相続人間のトラブルを防止したい場合
(1)相続人同士の仲が良くない、疎遠である
(2)相続人間に関係性が薄い相続人がいる
(3)包括受遺者など親族でない人がいる
(4)財産が多種類で複雑である
相続財産の分け方は、相続人全員の合意が不可欠です。
上記のような事情がある場合、相続人全員の合意がまとまりにくい傾向があります。
相続人全員で合意ができたはずなのに、無理矢理印鑑を押させられたから白紙に戻すべきだなどと話を蒸し返すことが考えられます。
遺産分割協議書を公正証書にする場合、公証人が本人確認と本人の意思確認をします。
後になって、だまされたから白紙にしたいと言っても、認められることはほとんどありません。
公正証書にすることでトラブル防止に役立ちます。
②代償分割をした場合
相続財産の大部分が自宅不動産の場合、相続財産の分け方の合意は難しくなります。
一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分のお金をもらう方法で合意がされる場合があります。
一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分のお金をもらう方法のことを、代償分割と言います。
相続財産の大部分が不動産で、かつ、値段の高い不動産だった場合、残りの相続人に払うお金を用意することが難しい場合があります。
相続人同士の関係性が良くない場合、代償金を払うのが惜しくなるかもしれません。
売買契約などで買主が売買代金を支払わない場合、売主は売買契約を解除することができます。
遺産分割協議では、代償金を支払わない場合でも遺産分割協議を解除することはできません。
代償分割をする場合、代償金をきちんと支払ってもらうことが重要になります。
遺産分割協議書を公正証書にした場合、強制執行をすることができます。
代償金の支払いがない場合、裁判で勝訴判決などの債務名義を得なくても強制執行をすることができます。
代償金を支払ってもらう人にとっては、公正証書にすることは心強いものと言えるでしょう。
4遺産分割協議書を公正証書にする方法
①相続人を調査する
相続が発生したら、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得します。
相続人は、戸籍謄本を読み解けば判明します。
相続人が判明したら、相続人の戸籍謄本を取得します。
②財産調査をする
相続人調査と並行して、財産調査をします。
不動産があれば、名寄帳を取得して登記簿謄本を確認するといいでしょう。
銀行などの預貯金がある場合、残高証明書を取得するといいでしょう。
③相続人全員で相続財産の分け方を合意する
相続人全員で相続財産の分け方の合意をします。
相続人全員が一堂に会して話し合いをしてもいいし、電話やメールで話し合いをしても構いません。
相続人全員が一度に合意してもいいし、一部の相続人で合意した後に残りの相続人で合意しても差し支えありません。
最終的に相続人全員が合意できればいいのです。
④遺産分割協議書を公正証書にする
公証役場に遺産分割協議書を公正証書にする予約をします。
公証人の指示に従って書類を用意します。
5遺産分割協議書を公正証書にするときの必要書類
公証役場に遺産分割協議書を公正証書にする予約をするときに、必要書類が指示されます。
一般的な必要書類は、次のとおりです。
①遺産分割協議書案
②被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
③相続人の戸籍謄本
④相続人の印鑑証明書
⑤財産についての証明書
(1)不動産 固定資産評価証明書、登記簿謄本
(2)預貯金 預金通帳の写し、残高証明書
(3)負債 借入残高証明書
遺産分割協議書を公正証書にする場合、公証人に手数料を支払う必要があります。
公証人に支払う手数料は財産の規模によって違います。
公正証書にするまでに打合せが必要ですから、手数料の額について確認しておくといいでしょう。
6遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。
合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。
つまり、書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。
もともとトラブルの火種があるのなら、いっそう慎重になる必要があります。
遺産分割協議書は公正証書にしなくても済むことが多いものですが、慎重を期して公正証書にした方がいい場合があります。
せっかくお話合いによる合意ができたのに、その後にトラブルになるのは残念なことだからです。
公正証書にするためには、手間と費用がかかります。
公正証書にする手間と費用を惜しむと、裁判をするなど大きな手間と高額な費用を負担することになります。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を公正証書にしたい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。