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1遺産分割協議書は相続人全員の合意内容の証明書
①相続人全員の合意で遺産分割協議成立
相続が発生したら、被相続人の財産は相続人が相続します。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容の証明書です。
一部の相続人を含めずに合意しても、無効の合意です。
相続人全員の合意で、遺産分割協議は成立します。
②遺産分割協議書のコピーは使えない
相続手続をする場合、遺産分割協議書や印鑑証明書を提出します。
遺産分割協議書や印鑑証明書は、原本を提出します。
遺産分割協議書や印鑑証明書のコピーを提出しても、受け付けてもらえません。
③遺産分割協議書の原本は返してもらえる
遺産分割協議書や印鑑証明書を提出した場合、原本は返してもらえます。
原本還付の手続は提出先によって異なるから、確認して対応します。
法務局などではコピーを取って原本に相違ありませんと記載したうえ、記名押印を求められます。
金融機関などでは、次の方法が多いでしょう。
・提出先でコピーを取るので、コピーの提出不要
・コピーを提出するだけで、原本に相違ありませんなどの記載をしない
④提出先ごとに遺産分割協議書を作成できる
遺産分割協議書は、相続財産すべてについて1通で作成することが多いでしょう。
一部の財産の分け方についてだけ記載しても、遺産分割協議書は有効です。
一部の財産の分け方についてだけ、合意することがあるからです。
例えば、不動産の分け方について合意した場合、不動産だけの遺産分割協議書を作成することができます。
他に預貯金があっても、不動産だけの遺産分割協議書は無効になりません。
不動産だけの遺産分割協議書で、相続登記を進めることができます。
預貯金だけの遺産分割協議書で、預貯金口座の凍結解除をすることができます。
さらに、銀行ごとに遺産分割協議書を作成することができます。
預貯金口座の凍結解除では、1か月以上かかることがあります。
銀行ごとの遺産分割協議書を作成すると、同時進行で相続手続を進めることができます。
提出先ごとに遺産分割協議書を作成すると、相続手続が速やかに完了します。
⑤遺産分割協議書だけでは相続手続ができない
相続手続では、たくさんの書類が必要になります。
相続手続では、次の書類が必要になります。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・相続人全員の現在戸籍
たくさんの戸籍謄本に代わりに、法定相続情報一覧図があると便利です。
法定相続情報一覧図は、戸籍謄本の内容を一目で分かるように家系図状に取りまとめた書類です。
戸籍謄本の内容を一目で分かるから、相続手続がスムーズになります。
2遺産分割協議書の提出先
①相続登記で法務局へ提出
被相続人が不動産を保有していた場合、不動産の名義変更をします。
相続登記とは、相続による不動産の名義変更です。
複数の相続人がいる場合、遺産分割協議で単独所有にするのがおすすめです。
不動産を共有すると、デメリットが大きいからです。
令和6年(2024年)4月1日から、相続登記には3年の期限が決められました。
3年以内に相続登記の義務を果たせないと、ペナルティーの対象になります。
ペナルティーの内容は、10万円以下の過料です。
未登記建物は、市区町村役場で手続します。
②預貯金口座の凍結解除で金融機関へ提出
銀行など預貯金口座の持ち主が死亡したら、口座は凍結されます。
口座凍結とは、口座取引を停止することです。
口座取引には、次のものがあります。
・ATMや窓口での引出
・公共料金などの引落し
・年金などの受取り
口座の預貯金は、相続財産です。
一部の相続人が口座の預貯金を独り占めすることは、許されることではありません。
相続人全員の合意ができるまで、預貯金口座は凍結されます。
預貯金口座の凍結に、期限はありません。
遺産分割協議書を提出するまで、口座凍結は続きます。
③自動車の名義変更で運輸支局へ提出
被相続人が自動車を保有していた場合、自動車の名義変更をします。
自動車の名義変更をする場合、原則として、遺産分割協議書の提出を求められます。
査定額が100万円以下の普通自動車は、遺産分割協議書の提出までは求められません。
遺産分割協議書の代わりに、遺産分割協議成立申立書を提出すれば済みます。
遺産分割協議成立申立書は、自動車を引き継ぐ相続人だけが記名し実印で押印します。
相続人全員の記名や実印での押印が不要になりますから、手続がカンタンになります。
書類の作成がカンタンになるだけで、相続人全員の合意が不要になるわけではありません。
相続人全員の合意は、不可欠です。
遺産分割協議が成立してから、15日以内に名義変更をする必要があります。
被相続人名義のままにすると、車検が受けられなくなり任意保険の更新ができなくなります。
④株式の名義変更で証券会社へ提出
被相続人が証券会社に口座を持っていた場合、相続手続が必要になります。
口座の持ち主が死亡したら、預貯金口座と同様に証券口座も凍結します。
株式の相続手続をする場合、株式を相続する人が口座を開設している必要があります。
証券口座の凍結に、期限はありません。
遺産分割協議書を提出するまで、口座凍結は続きます。
⑤相続税申告で税務署へ提出
相続財産全体の規模が一定以上である場合、相続税の対象になります。
相続税申告が必要になる人は、全体の10%にも満たないわずかな人です。
相続税には、基礎控除があるからです。
基礎控除額は、次の計算式で求められます。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数
基礎控除額を超す場合、相続税申告が必要になります。
遺産分割協議書などの書類とともに、相続税申告書を税務署に提出します。
相続税を軽減する特例の適用を受けるためには、遺産分割協議の成立が条件になっています。
相続税申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行います。
遺産分割協議が長引いても、期限が延びることはありません。
⑥遺産分割協議書の提出が不要のケース
(1)相続人が1人だけ
相続人になる人は、法律で決められています。
法律で決められた相続人が1人だけの場合、その相続人が相続財産すべて相続します。
遺産分割協議の余地は、ありません。
相続人が1人だけのケースでは、遺産分割協議書不要で相続手続をすることができます。
(2)遺言書で遺産分割
遺言書を作成して、遺産分割の方法を指定することができます。
遺言書がある場合、遺言書の内容どおり遺産分割をすることができます。
遺言書の内容どおり遺産分割をするから、相続人全員で分け方を決める必要はありません。
遺言書で遺産分割するケースでは、遺産分割協議書不要で相続手続をすることができます。
(3)相続人全員が法定相続分で共有
相続人が相続する相続分は、法律で決められています。
相続人全員が法定相続分で共有する遺産分割をすることができます。
相続人全員が共有するのは、デメリットが大きいのでおすすめできません。
相続人全員が法定相続分で共有するケースでは、遺産分割協議書不要で相続手続をすることができます。
(4)家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判
相続人全員の合意がないと、遺産分割協議は成立しません。
相続人がそれぞれの主張をして話し合いがまとまらないことがあります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所のアドバイスを受けてする相続人全員の話し合いです。
家庭裁判所の調停委員から公平な意見を根拠にしてアドバイスがされると、納得できるかもしれません。
遺産分割調停で相続人全員が合意できたら、合意内容は調停調書に取りまとめます。
遺産分割調停で話し合いがまとまらない場合、遺産分割審判に移行します。
家庭裁判所が審判をして遺産分割をします。
家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判のケースでは、遺産分割協議書不要で相続手続をすることができます。
3遺産分割協議でよくあるトラブルと対処法
トラブル①遺産分割協議書に押印しない
(1)相続人が疎遠
相続財産の分け方は、疎遠な相続人も含めて合意する必要があります。
疎遠な相続人が遺産分割協議書に押印を拒むと、トラブルに発展します。
対処法は感情的にならずに、丁寧に話し合いをすることです。
(2)相続人が行方不明
相続財産の分け方は、行方不明の相続人も含めて合意する必要があります。
行方不明の相続人が遺産分割協議書に押印できないと、トラブルに発展します。
行方不明の相続人のため、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらうことができます。
不在者財産管理人は、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議をすることができます。
対処法は、不在者財産管理人を選任してもらうことです。
(3)相続人が認知症
認知症になると、自分で遺産分割協議をすることができません。
物事のメリットデメリットを適切に判断できないからです。
相続財産の分け方は、認知症の相続人も含めて合意する必要があります。
認知症の相続人が遺産分割協議書に押印できないと、トラブルに発展します。
認知症の相続人のため、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうことができます。
成年後見人は、認知症の相続人の代わりに遺産分割協議をすることができます。
対処法は、成年後見人を選任してもらうことです。
(4)相続人が未成年
未成年者は、自分で遺産分割協議をすることができません。
物事のメリットデメリットを適切に判断できないからです。
未成年者が相続人になる場合、親などの親権者も相続人になるでしょう。
未成年者と親などの親権者が同時に相続人になる場合、親などの親権者は未成年者を代理することができません。
相続財産の分け方は、未成年の相続人も含めて合意する必要があります。
未成年の相続人が遺産分割協議書に押印できないと、トラブルに発展します。
未成年の相続人のため、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらうことができます。
特別代理人は、未成年の相続人の代わりに遺産分割協議をすることができます。
対処法は、特別代理人を選任してもらうことです。
トラブル②合意内容に従わない
遺産分割協議で合意したのに、一部の相続人が合意内容に従わないことがあります。
代償分割で合意したのに、代償金を支払わないのが典型的です。
代償分割とは、一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分の代償をもらう方法です。
代償金を支払うと約束したから合意したのに、払ってもらえないと深刻なトラブルになります。
公正証書で遺産分割協議書を作成した場合、強制執行認諾文言を入れることができます。
強制執行認諾文言とは「代償金が支払わない場合、直ちに強制執行に服する」といった文言です。
対処法は、強制執行認諾文言入りの公正証書で遺産分割協議書を作成することです。
トラブル③後日新たな財産が見つかる
遺産分割が終わった後で、新たに相続財産が見つかることがあります。
新たに相続財産が見つかっても、前の遺産分割協議は無効になりません。
相続財産全部をまとめて、遺産分割する必要はないからです。
新たな財産だけの遺産分割協議をすることができます。
対処法は、新たな財産だけの遺産分割協議です。
4遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。
合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。
つまり、書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。
せっかくお話合いによる合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。