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1相続財産の分け方は相続人全員の合意で
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人のひとりが勝手に処分することはできません。
相続財産の分け方について、相続人全員で話し合いによる合意をして分け方を決める必要があります。
相続財産の分け方にについて、相続人全員でする話し合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議がまとまったら、相続人全員の合意内容を文書に取りまとめます。
相続人全員の合意内容を取りまとめた文書のことを遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議は、必ず、全員で合意する必要があります。
相続人全員が一つの場所に集まる必要はありません。
電話でもメールでも、差し支えありません。
一度に相続人全員が合意する必要もありません。
一部の相続人と合意をして、次に、残りの相続人と合意をすることでも問題ありません。
最終的に相続人全員が合意できれば良いのです。
全ての財産をまとめて合意しなければならないといったこともありません。
一部の財産についてだけ、合意をすることもできます。
遺産分割協議書は、司法書士などの専門家に作ってもらうこともできるし相続人のひとりが作ることもできます。
2遺産分割協議の効力
①遺産分割協議書は相続人全員の合意内容の証明書
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を取りまとめた文書です。
文書にしておかない場合、後からそのような合意をしていなかったと言い出す相続人が現れるかもしれません。
合意内容を文書にしておくことで、言った言わないのトラブルを回避することができます。
遺産分割協議書を作成することで、相続人全員の合意内容を証明することができます。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容の証明書です。
②遺産分割協議は債務不履行で一方的解除ができない
相続財産の分け方について相続人全員の話し合いがまとまった場合、合意内容どおりに相続財産を受け取ります。
不動産のように高額で分けにくい財産を受け取った人は、自己の固有の財産から金銭を支払うことで調整することがあります。
一般的な売買契約において代金を支払わない場合、契約を解除することができます。
遺産分割協議においては、解除制度はありません。
いったん相続財産の分け方について相続人全員が合意した場合、遺産分割協議は終了します。
遺産分割協議が終了した後は、代償金を支払う人と受け取る人の問題になります。
金銭を支払う人と受け取る人の話し合いで、解決を図ります。
代償金を支払うと約束した人のに、支払ってくれないことがあります。
支払ってくれなくても、相続財産の分け方の合意をなかったことにはできません。
相続財産の分け方の合意において、代償金の支払が重要な要素であっても債務不履行を理由として解除することはできません。
③公正証書による遺産分割協議書は強制執行ができる
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を取りまとめた文書です。
多くの場合、司法書士などの専門家に作ってもらいます。
適切に作成することができるのであれば、相続人のひとりが作ることができます。
遺産分割協議書は、公証役場で公正証書にしてもらうことができます。
公正証書にせず私文書で作成した場合、遺産分割協議書の内容を直ちに強制執行することはできません。
強制執行をするためには、裁判所で訴訟をして勝訴判決などの債務名義を得る必要があります。
公正証書で遺産分割協議書を作成する場合、支払いをしなかったときのことを書いてもらうことができます。
「相続人○○が上記金銭の支払いをしなかったときは、直ちに強制執行に服する旨を認諾した。」
上記のような文言がある場合、公正証書で強制執行をすることができます。
お金を払ってもらう人にとっては、心強いものと言えます。
約束したお金を払ってもらうために裁判をしなければならないとなるとハードルが高いものです。
公正証書による遺産分割協議書は、裁判なしで強制執行ができます。
④遺言書があっても遺産分割協議は有効
被相続人が生前に遺言書を作成していることがあります。
遺言書は、遺言者の意思を示すものです。
被相続人の財産は、原則として、被相続人の意思が最大限尊重されるべきものでしょう。
被相続人が遺言書を作成して相続財産の分け方を指定した場合、相続人全員の話し合いによる合意は必要ありません。
ときには遺言書の内容が相続人の現状を反映していない内容であることがあります。
相続人の現状を反映していない遺言書であった場合、そのまま執行すると相続人が困惑するかもしれません。
遺言書をあえて執行して、相続人を困惑させる必要はありません。
相続財産の分け方について、相続人全員で合意した方が合理的です。
相続人全員が合意すれば、遺言書の内容と異なる内容で遺産分割協議をすることができます。
遺言書があっても、遺産分割協議は有効です。
⑤遺産分割禁止の定めは無視できない
遺言書で遺産分割が禁止されている場合があります。
遺産分割禁止の対象は、相続財産の全部でも一部でも構いません。
遺言書で5年を超えない期間について、遺産分割を禁止することができます。
遺産分割禁止の定めは、遺言書以外の方法で生前に定めることはできません。
遺言書で遺産分割が禁止されている場合、相続人全員の合意があっても遺産分割ができません。
相続人全員の合意で遺産分割協議をした場合、遺産分割協議が無効になります。
遺産分割禁止の定めは、無視できません。
⑥遺産分割協議書のコピーで相続手続はできない
相続財産の分け方について相続人全人の合意ができた後は、相続手続をします。
相続手続において、遺産分割協議書原本を提出しなければなりません。
遺産分割協議書のコピーは、受け付けてもらえません。
遺産分割協議書原本を提出する場合、原本は返して欲しいと依頼しましょう。
相続手続先でコピーをとって返却してくれます。
法務局などでは、遺産分割協議書原本と一緒にコピーを添付してコピーに「原本と相違ない」と記載のうえ記名押印が必要になります。
相続手続先に問い合わせをして、原本還付の方法を確認するといいでしょう。
遺産分割協議書は相続人の人数分作成し、相続人全員が原本を保管します。
相続人全人の合意内容について争いが発生した場合、遺産分割協議書のコピーでは証明力が弱いからです。
遺産分割協議書のコピーで、相続手続はできません。
⑦遺産分割協議の内容に遡及効がある
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意をして、分け方を決めます。
相続財産の分け方について相続人全員で合意ができた場合、相続人全員の合意は相続発生時にさかのぼって効力が生じます。
相続人全員の合意ができたときに、効力が生ずるのではありません。
相続人全員の合意の効力は相続発生時にさかのぼって効力が生ずることを、遺産分割の遡及効と言います。
遺産分割協議の内容には、遡及効があります。
⑧被相続人の債権者に遺産分割協議の内容を主張できない
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産には、プラスの財産とマイナスの財産があります。
プラスの財産とマイナスの財産の両方が相続財産です。
相続財産は相続人全員で話し合いによる合意をして、分け方を決めます。
マイナスの財産も相続財産だから、相続人全員の合意で分け方を決めることができます。
相続人全員の合意でマイナスの財産の分け方を決めた場合、相続人間の内部的合意です。
被相続人の債権者には、関係のない合意です。
被相続人の債権者は、相続人全員に対して法定相続分で借金の返済を請求することができます。
相続人全員の合意でマイナスの財産は相続人〇〇が負担すると合意したから、借金の請求をしないで欲しいと文句を言うことはできません。
相続人全員の合意でマイナスの財産の分け方を決めた場合、相続人間の内部的合意だからです。
被相続人の債権者に対して、遺産分割協議の内容を主張することはできなせん。
⑨相続人の債権者に遺産分割協議書の内容を主張できない
遺産分割協議の内容には、遡及効があります。
相続人全員の合意の効力は、相続発生時にさかのぼって効力が生じます。
相続人が、莫大な借金を負っていることがあります。
債務者が相続人になる相続が発生した場合、債権者は相続財産から借金を払ってもらえると期待します。
債権者は債権の保全のため、債務者の財産を差し押さえることができます。
債権者は差押など強制執行の準備のため、相続登記を申請することができます。
差押などの強制執行をするためには、相続人名義である必要があるからです。
法定相続分で共有する場合、共有する一部の相続人から相続登記を申請することができます。
債務者が権利行使をしない場合、債権者は債権の保全のため債務者に代わって権利行使をすることができます。
債務者が相続登記をしない場合、債権者は債権保全のため債務者に代わって相続登記をすることができます。
債務者がするべき登記申請を債権者が代わりにすることを代位登記と言います。
代位登記をした後、債権保全のため差押をすることができます。
債権者は、債務者の事情などお構いなしで登記します。
相続人全員の話し合いによる合意がどうなったのか待つことはありません。
遺産分割協議の内容に遡及効があっても、登記されていなければ代位登記ができます。
代位登記と差押の登記がされた後で、相続人全員の合意内容と違うから消して欲しいなどの文句を言えません。
債権者は、差押など強制執行の準備のために代位登記をします。
相続人が勝手に消すことはできません。
相続人の債権者に対して、遺産分割協議書の内容を主張することはできません。
⑩相続人から権利を取得した第三者に遺産分割協議書の内容を主張できない
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人全員が法定相続分で共有しています。
相続人全員が法定相続分で共有する場合、共有する一部の相続人から相続登記を申請することができます。
一部の相続人が自分の共有持分を処分することがあります。
不動産を共有する場合、自分の共有持分は自分の判断だけで処分することができます。
他の共有者の同意を受けなくても、売却したり担保に差し出したりすることができます。
不動産の共有持分を買い受けた場合、すぐに持分移転登記をしてもらうでしょう。
登記がないと、権利主張ができないからです。
遺産分割協議の内容に遡及効があっても、登記されていなければ持分移転登記ができます。
持分移転登記がされた後で、相続人全員の合意内容と違うから消して欲しいなどの文句を言えません。
買主の権利主張のために登記をしたものです。
相続人が勝手に消すことはできません。
相続人から権利を取得した第三者に対して、遺産分割協議書の内容を主張することはできません。
3遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。
合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。
書き方に不備があると、トラブルを起こしてしまう危険があります。
せっかくお話合いによる合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。