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1共有者は共有持分を放棄することができる
①共有者の一方的意思だけで共有持分の放棄ができる
共有者は自分の持分を放棄することができます。
持分を放棄した場合、放棄した共有持分は他の共有者のものになります。
他の共有者の持分割合に応じて、分割されます。
共有者の一方的な意思表示だけで、共有持分の放棄ができます。
他の共有者の承諾は必要ありません。
共有物を放棄するのに、決まった文書が必要といったことはありません。
口頭の意思表示であっても効果が発生します。
口頭で通知するより、文書で通知することをおすすめします。
後でトラブルになることを防止するため、内容証明郵便で通知するといいでしょう。
②持分移転登記は共同申請
共有者が持分を放棄した場合、他の共有者に持分が移転します。
他の共有者に持分が移転した場合、持分移転登記の申請が必要です。
持分の放棄は、一方的な意思表示で効果が発生しますが、登記は単独で申請することができません。
持分の放棄をする人を登記義務者、他の共有者全員を登記権利者として共同申請をします。
持分の放棄は、口頭の意思表示であっても効果が発生しますが、登記申請においては持分の放棄があったことを証明する書類が必要になります。
③共有持分が高額である場合、税金に注意
共有者の一方的な意思表示で、共有持分の放棄をすることができます。
財産を譲ってあげる人と譲ってもらう人の契約である贈与とは別物です。
法律においては贈与ではないにもかかわらず、税金においては贈与税が課されます。
共有持分が移転するという意味では、贈与と実質的に同じ効果だからです。
贈与税の免脱行為として、持分の放棄を使うことを防ぐためです。
共有持分の評価額が高額である場合、他の共有者に贈与税が課される場合があります。
固定資産税は、1月1日現在の登記名義人が課税対象者になります。
年内に持分の放棄の意思表示をした場合、年内に他の共有者に権利が移転します。
持分移転の登記が年を越した場合、所有権がないのに固定資産税の納税義務者のままになります。
2相続人全員が相続放棄してもいい
相続放棄は、多くの場合、被相続人のマイナスの遺産を引き継がないために行われます。
相続人が全員相続放棄をしたら、被相続人の借金なのに、相続人のだれも責任をとらないことになります。
相続人がだれも責任をとらないことに対して、後ろめたく思う人もいるかもしれません。
相続放棄は、相続人ひとりひとりが自分の意思で自由に判断できるものです。
結果として、相続人全員が相続放棄を選択することになっても、法律上、やむを得ないことです。
配偶者と子ども全員が相続放棄をした場合、次順位の親などの直系尊属が相続人になります。
親などの直系尊属全員が相続放棄をした場合、次順位の兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹全員が相続放棄をした場合、次順位の相続人はいません。
相続人全員が相続放棄をした場合、相続人不存在になります。
相続人が全員相続放棄をしたとしても、やむを得ません。
3共有者である被相続人に相続人がいない場合の共有持分の行方
被相続人が天涯孤独で親族がいないこともあります。
相続人がいても相続放棄をして相続人でなくなっている場合があります。
①相続債権者がいる場合
家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらいます。
通常、相続財産清算人を選んでもらうためには家庭裁判所に予納金を納めます。
予納金は管理する財産の状況によって違いますが、100万円程度かかる場合があります。
相続財産清算人によって相続財産は売却されて、相続債権者への支払にあてられます。
通常、共有持分は売却しようとしても、買い手が見つかりません。
買い手が見つかったとしても、著しく価格が低くなってしまいます。
共有持分を買い取る業者がいますが、買い取り額はおおむね時価の1~3割程度です。
多くの場合、被相続人と共有していた人に買取をお願いすることになります。
被相続人と不動産を共有していた人が対価を支払って、被相続人の共有持分を買い取ることになります。
②特別縁故者がいる場合
特別縁故者とは、内縁の配偶者や事実上の養子など被相続人と生計を同じくしていた者や被相続人の療養看護に努めた者など特別な縁故のあった人のことです。
家庭裁判所に認められれば、特別縁故者は被相続人の財産を受け取ることができます。
受け取る財産は、家庭裁判所が決めます。
被相続人の財産の全部のこともあるし、一部だけのこともあります。
被相続人がたくさんの財産を残しても、特別縁故者が受け継ぐ財産はほんの少ししか認められないこともあります。
③相続債権者も特別縁故者もいない場合
被相続人と不動産を共有していた人が共有持分を取得します。
共有持分を持つ人が死亡した場合、まずは相続人、次に相続債権者、その次に特別縁故者、特別縁故者もいなかったら他の共有者が受け継ぎます。
そのためには、手続が複雑で、費用も時間もかかります。
共有者が特別縁故者と話し合いをしたり、財産を勝手に分けたりすることはできません。
被相続人が死亡してから、共有者が受け継ぐまで1年以上の時間がかかります。
4マンションは共有者が取得できない
マンションは、建物部分と敷地権の共有部分があります。
建物部分は単独所有、敷地権は共有です。
建物部分と敷地権の共有部分は、所有者を一致させるルールになっています。
所有者を一致させないと、売却のとき混乱するからです。
相続債権者も特別縁故者もいない場合、相続財産は国庫に帰属します。
建物部分は単独所有なので、国庫に帰属します。
所有者を一致させるルールがあるから、敷地権が共有になっていても、他の共有者が取得することはできません。
所有者を一致させるルールを守れなくなるからです。
建物部分が国庫に帰属しますから、所有者を一致させるルールによって、敷地権も国庫に帰属します。
5生前対策がしてあると手続がラク
相続人がいないおひとりさまは、遺言書を書いて財産の行き先を指定しましょう。
共有持分は、遺言書で共有者に遺贈することや死因贈与をすることができます。
相続財産清算人と家庭裁判所の手を借りて、1年以上の時間をかけて手続するよりはるかにラクです。
遺贈は、相続人や相続人以外の人に、財産を受け取ってもらう制度です。
だれに受け取ってもらうかは遺言者本人が決めることができます
共有持分を特別縁故者に遺贈することや死因贈与をできます。
家庭裁判所は特別縁故者と認めてくれることも、認めてくれないこともあります。
被相続人がたくさんの財産を残しても、特別縁故者が受け継ぐ財産はほんの少ししか認められないこともあります。
6遺言書作成と遺言執行を司法書士に依頼するメリット
相続手続はタイヘンですが、相続人がいない場合もタイヘンです。
相続人がいないから、財産は国に持っていかれて、何もしなくていいと軽く考えがちです。
実際は、被相続人が死亡してから、国庫に帰属するまで1年以上の時間がかかります。
財産の内容によっては、100万円以上の費用の負担があることも見逃せません。
国に持っていかれるよりは、お世話になった人に受け継いでもらいたい、事情を知っている共有者に受け継いでもらいたい人もいるでしょう。
お世話になった人に受け継いでもらいたい、事情を知っている共有者に受け継いでもらいたいという意思は、遺言書で実現できます。
家庭裁判所の手続は一般の人にはハードルが高いものです。
遺言書に、遺贈することを書き、遺言執行者を決めておけば、手間はかかりません。
お世話になった人は待っているだけで済みます。
遺言書は書き方に細かいルールがあります。
適切な遺言書作成と遺言執行者選任は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。