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1家庭裁判所は本人にだけ通知する
被相続人が多額の借金を残して死亡したとき、相続人は相続放棄をするでしょう。
分かっている借入先だけでも相続人が返せる額ではない、あちこちから借りていたので、他からも借りているだろう、借入先を把握し切れないという場合があります。
相続放棄の申立をすると、借入先から何か言われるのではないかと心配する人がたくさんいます。
相続放棄の申立をすると、何かしら不利益を受けるのではないかと心配する人がたくさんいます。
被相続人の借金だけでも大変なのに、自分や家族が将来に渡って困ることがあるのではないかと不安になっている場合です。
家庭裁判所に相続放棄の手続をしても、だれかに通知する義務はありません。
相続放棄の申立を提出しても、家庭裁判所からだれかに通知されることはありません。
相続放棄が認められた後、家庭裁判所は申立てをした人に結果を通知する義務があります。
家庭裁判所がわざわざ他の人に通知する義務は、ありません。
裁判所の掲示板に貼りだすことはありません。
家庭裁判所に相続放棄の申立をしても、通常は、だれにも知られることはないのです。
債権者などの利害関係人は、家庭裁判所に対して相続放棄をしているか照会することができます。
家庭裁判所が通知するのは、わざわざ照会があったときのみです。
2相続放棄をしても債権者に通知する義務はない
相続放棄の手続は、家庭裁判所に対して必要書類を添えて相続放棄の申立てを提出します。
相続放棄の申立てに必要な書類は、次のとおりです。
①被相続人の戸籍謄本
②被相続人の除票
③相続放棄する人の戸籍謄本
この他に、裁判所が使う郵便切手や収入印紙が必要です。
債権者の同意書や債権者に通知したことの証明書などはありません。
家庭裁判所は、提出された書類を見て審査をします。
相続放棄の審査をするにあたって、被相続人の債権者が相続放棄を知っているのか知らないのかは関係ありません。
提出された書類を見て、必要な書類が揃っているか提出された戸籍や住民票に矛盾したことはないか点検をします。
家庭裁判所は、債権者がだれであるのか債権者が相続放棄の申立てについて知っているのかについて、関心がありません。
債権者について、家庭裁判所が独自で調査することはありません。
家庭裁判所も相続放棄をした人も、債権者に相続放棄をしたことを通知する義務はありません。
債権者に相続放棄をしたことを通知しなかった場合、ペナルティーはありません。
ほとんどの場合、気付かないうちに相続放棄の手続をしていて、知らないうちに相続放棄が認められていた、となります。
債権者は、借主の戸籍や住民票を取り寄せることができます。
債権者は借金を返して欲しいので、相続人を調べて連絡してきます。
相続放棄について何も知らないから、債権者は被相続人の借金を相続人に払ってもらいたいと考えて催促をしてきます。
催促されたら相続放棄が認められたことを知らせてあげるといいでしょう。
ほとんどの場合、相続放棄申述受理通知書のコピーを渡せば催促をやめてくれます。
わざわざ債権者を調査して、相続放棄が認められたことを知らせる義務はありません。
借金の返済を催促されてから、対応すればいいでしょう。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまった場合、相続放棄申述受理証明書を家庭裁判所に作ってもらうことができます。
相続放棄申述受理証明書は、債権者が家庭裁判所に請求することもできます。
3債権者は相続放棄をしたか確認することができる
相続放棄の申立てをしても相続放棄が認められても、家庭裁判所は申立てをした人にだけ通知します。
相続放棄をした人は、相続放棄をしたことを債権者に通知する義務はありません。
相続放棄をした人が通知してくれなくても、債権者は困ることがありません。
債権者は、家庭裁判所に対して相続放棄をしたか確認することができます。
相続放棄をしたかどうかを家庭裁判所に質問する制度のことを、相続放棄申述の有無の照会と言います。
債権者は、借用書や契約書を提出して照会します。
返信用の封筒と切手を同封しておくと、郵送で回答してもらえます。
相続放棄申述の有無の照会に手数料はかかりません。
相続放棄申述の有無の照会申請書を提出してから、回答がされるまでにはおおむね半月ほどかかります。
4債権者は相続放棄の無効を主張することができる
相続放棄申述受理通知書を見せても、被相続人の借金の取立が続く場合があります。
債権者が相続放棄は無効だと主張している場合です。
相続放棄が無効になる場合、無効にするための手続はありません。
無効の法律行為は、何もしなくても無効だからです。
例えば、債権者は相続放棄は無効だから、相続人に借金を払って欲しいと交渉することができます。
相続放棄は、家庭裁判所の書類審査だけで認められます。
相続放棄の要件をきちんと満たしているか、家庭裁判所が独自で調査することはありません。
相続放棄の要件を満たしていないのに、相続放棄の書類がきちんと揃っている場合、家庭裁判所は事情が分からず、相続放棄を認めてしまいます。
債権者は裁判所の決定に不服があれば、相続放棄は無効だから、相続人に借金を払って欲しいと訴えを起こすことができます。
債権者が相続放棄は無効だと主張して、裁判所に訴えを起こしたら、裁判所から訴状が届きます。
裁判所から訴状が届いたら、すぐに専門家に相談することをおすすめします。
たとえ債権者が不適切なことを主張している場合でも、適切に主張と立証をしないと裁判で負けてしまうからです。
裁判に欠席すると、相手方の言い分を全面的に認めたことになってしまいます。
裁判に負けると、払う必要のない借金を払うことになります。
債権者が不適切なことを言っているからと思っても絶対に放置してはいけません。
適切に相続放棄をしたことを、裁判所の法廷で、裁判官に分かってもらう必要があるのです。
5相続放棄が無効になる場合
①本人が知らないうちに相続放棄がされていた
本人に無断で、相続放棄の書類が作られて相続放棄の手続きがされた場合です。
本人の意思がないので、相続放棄は無効になります。
家庭裁判所は意思確認を厳格にしていますから、相続放棄が認められるのは、めったにありません。
②相続財産を処分・利用していた場合
相続放棄をする前に単純承認をしていた場合、相続放棄はできません。
相続放棄が撤回できないように、単純承認も撤回できないからです。
相続財産を処分したり、利用した場合、単純承認をしたとみなされます。
相続財産を処分したり、利用した場合は相続放棄ができなくなります。
家庭裁判所は事情が分からず書類に問題がなければ、相続放棄を受理してしまいます。
家庭裁判所が相続放棄を受理した後でも、相続財産を処分したり利用した場合は、無効です。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続人の関係性が良くない場合や疎遠な場合、相続放棄をしたことを知らせてあげた方がいいと思っていても先延ばししがちです。
ほとんどの場合、次順位の相続人が相続人になったのを知るのは相続発生から3か月以上経過しています。
相続発生から3か月以上経っている場合、相続放棄の申立は、原則として認められません。
相続が発生してから3か月以内に届出ができなかったのは止むを得なかったと家庭裁判所に納得してもらって、はじめて、家庭裁判所は相続放棄を認めてくれます。
通常は家庭裁判所に対して、上申書や事情説明書という書類を添えて、説得することになります。
司法書士であれば、家庭裁判所に認めてもらえるポイントを承知していますから、認めてもらいやすい書類を作成することができます。
3か月の期限が差し迫っている方や期限が過ぎてしまっている方は、すみやかに司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。