生命保険があるときの遺産分割協議書

1遺産分割協議とは

相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。

相続人のひとりが勝手に処分することはできません。

相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意をして、分け方を決める必要があります。

相続財産の分け方にについて、相続人全員でする話し合いのことを遺産分割協議と言います。

遺産分割協議は、必ず、全員で合意する必要がありますが、全員が一つの場所に集まる必要はありません。

電話でもメールでも差し支えありません。

一度に全員合意する必要もありません。

一部の相続人と合意をして、次に、残りの相続人と合意をすることでも問題ありません。

最終的に相続人全員が合意できれば良いのです。

全ての財産をまとめて合意しなければならないといったこともありません。

一部の財産についてだけ合意をすることもできます。

2遺産分割の対象になる生命保険と対象にならない生命保険がある

①生命保険の死亡保険金は遺産分割の対象にならない

相続が発生したときは、被相続人が死亡したときです。

被相続人に生命保険がかけてあれば、保険金が支払われます。

生命保険の保険金は日常的に目にする金額より大きいこと多いでしょう。

他の相続人が生命保険の保険金を受け取っていると知ったら、穏やかな気持ちになれないものです。

原則として、生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産です。

生命保険の死亡保険金は相続財産ではないから、遺産分割の対象になりません。

生命保険の死亡保険金は、被相続人の死亡をきっかけにして、直接、受取人が死亡保険金を請求する権利を取得します。

被相続人の死亡する前に、死亡保険金を請求する権利が発生することはありません。

死亡保険金を請求する権利は被相続人の財産ではないから、相続財産にはなりません。

生命保険の死亡保険金は、遺産分割の対象になりません。

②生命保険の入院給付金は遺産分割の対象になる

死亡保険金の受取人が被相続人であることは通常は考えられません。

生命保険には、死亡保険金以外の給付金を重視した商品があります。

入院給付金や手術一時金が代表例です。

生命保険の入院給付金や手術一時金は、入院や手術をきっかけにして、被相続人が入院給付金や手術一時金を請求する権利を取得します。

入院給付金や手術一時金を請求する権利は、被相続人の財産です。

入院給付金や手術一時金を請求する権利は被相続人の財産だから、相続財産にはなります。

生命保険の入院給付金や手術一時金は、遺産分割の対象になります。

③受取人の指定がないときは保険商品によって異なる

受取人として指定されていた人が先に死亡してしまうケースがあります。

受取人を変更する手続をする必要があるケースです。

受取人を変更しないまま、本人が死亡した場合、受取人の指定がないケースになります。

この場合の取り扱いは保険会社によって異なります。

保険会社によっては、相続財産として遺産分割協議によって受取人を決めることになります。

④著しく過大な生命保険は特別受益になる

原則として、生命保険の死亡保険金は遺産分割の対象になりません。

客観的に見て、相続財産全体から考えて不相当なほど死亡保険金が高い場合で、相続が著しく不公平で著しく不平等となってしまう場合があります。

相続が著しく不公平で著しく不平等となってしまう場合、生命保険は特別受益であると言えます。

特別受益とは、特定の相続人が特別に利益を受けたということです。

被相続人が生前に、特定の相続人に住宅購入資金を援助したなどがよくあるパターンです。

不公平な財産分与があった場合に、そのまま相続をするというのは財産分与を受けていない相続人にとって納得がいかないでしょう。

特別受益があった場合、特別受益分を相続財産に戻して、相続分を計算し直します。

相続財産に戻して相続分の計算し直しのことを、持ち戻しといいます。

多少の不公平や些細な不平等は、仕方がないこととして持ち戻しは認められません。

金額でいうと、おおむね資産全体の6割以上が生命保険の保険金の場合、著しい不公平や著しい不公平と判断されやすいでしょう。

著しく不公平で著しく不平等と考えられる場合にあたるかどうかは、金額だけで一律的に決まるものではありません。

生命保険の受取人が被相続人と同居していたかどうか、介護などのお世話をしていた状況、裕福な相続人であるか、生活に困っている相続人であるか、生命保険の受取人とその他の相続人の関係などを総合的に判断されます。

持ち戻しが認められる場合、生命保険の保険金は遺留分の計算の基礎に含まれます。

3遺産分割協議書に生命保険を書くときのの記載例

①生命保険の契約者たる地位の記載例

相続人○○○○は、次の保険契約上の契約者たる地位を取得する。

保険者 ○○生命保険株式会社

被保険者 ○○○○

保険証券番号 ○○○○○○○○

生命保険の死亡保険金は、原則として、受取人の固有の財産であるため遺産分割協議書に記載不要です。

被相続人の死亡が保険金の支払事由でない場合、保険契約は継続されます。

保険契約が継続される場合、契約上の地位が相続されます。

②生命保険の入院給付金の記載例

相続人○○○○は、次の保険契約の保険金を取得する。

保険者 ○○生命保険株式会社

被保険者 ○○○○

保険証券番号 ○○○○○○○○

生命保険の入院給付金や手術一時金は、受取人が被相続人になっています。

被相続人が受け取らないまま死亡した場合、給付金を受け取る権利は相続財産です。

保険金を請求する際に生命保険会社の人が分かるように特定して記載します。

③死亡保険金は記載しない

生命保険が遺産分割の対象となる場合、遺産分割協議書に記載します。

生命保険が遺産分割の対象とならない場合、遺産分割協議書に記載する必要はありません。

生命保険の死亡保険金を受け取る権利は、受取人の固有の財産です。

遺産分割の対象となる相続財産ではないから、遺産分割協議書に記載する必要はありません。

4生命保険金を他の相続人に分配するときの注意点

①生命保険金を代償金にするのは有効

相続財産にはいろいろな財産が含まれています。

不動産のように分けにくい財産もあるし、金銭のように分けやすい財産もあります。

相続財産の大部分が、不動産のような分けにくい財産の場合、相続財産の分け方についての合意が難しくなりがちです。

不動産のような分けにくい財産を相続する人が、他の相続人に代償金を払うと合意がまとまりやすくなります。

生命保険の死亡保険金を代償金の支払いに充てることは、問題がありません。

生命保険の死亡保険金は、相続人の固有の財産だからです。

②遺産分割の対象とならない生命保険を分割の対象にすると贈与になる

生命保険の死亡保険金は、相続人の固有の財産です。

相続財産でないから、本来、遺産分割の対象になりません。

死亡保険金の受取人が他の相続人に分割することができないわけではありません。

相続人の固有の財産だから、持ち主は自由に処分ができるからです。

固有の財産を処分しただけだから、贈与になります。

分割する金額によっては、思いもよらぬ高額の贈与税を払うことになります。

生命保険の死亡保険金を考慮にして相続財産の分け方を決める場合、遺産分割です。

贈与税の課税を避けるためにも、生命保険の死亡保険金を考慮にして相続財産の分け方を決める方がいいでしょう。

③代償金名目の贈与と判断されるおそれ

遺産分割協議書に代償分割をすることをはっきり書くことで、原則として、単なる贈与ではないと示すことができます。

代償分割をすると書いて金銭を支払う場合でも、実質的に代償金でないことがあります。

代償分割は、分けにくい財産を相続した相続人が他の相続人に代償金を払う分割方法です。

分けにくい財産の評価額を大幅に超える代償金を払う合意をした場合、実質的に代償金とは認められないでしょう。

代償金名目の贈与と判断されるおそれがあります。

例えば、相続財産が自宅1000万円のみで、相続人が長男と次男の2人の場合があります。

自宅を長男が相続した場合、長男が固有の財産から500万円程度の代償金を支払うのであれば問題はありません。

長男が固有の財産から2000万円の代償金を支払う場合、代償金名目の贈与と判断されるおそれがあります。

例えば、自宅1000万円を長男が相続した場合で、かつ、次男が生命保険の死亡保険金3000万円を受け取っている場合があります。

次男から長男へ1000万円支払うのが平等に見えるかもしれません。

次男が生命保険の死亡保険金を受け取った後、長男に1000万円支払った場合、代償金とは認められないでしょう。

生命保険の死亡保険金は受取人の固有の財産であって相続財産ではないからです。

相続による遺産分割とは無関係に贈与があったと言えます。

遺産分割協議書に代償金と明記しても、実質的に代償金とは認められません。

次男が生命保険の死亡保険金を受け取った後、長男に1000万円支払うこと自体はできないことではありません。

自分の固有の財産は、自由に贈与をすることができるからです。

自分の固有の財産を贈与した場合、金額によっては贈与税が課されます。

5生命保険の死亡保険金は相続税の対象になる

生命保険の死亡保険金は相続税の対象になります。

本来、生命保険の死亡保険金の支払請求権は、相続人の固有の財産です。

固有の財産なのに相続税の対象になるから、相続財産と誤解されます。

税金だけに過度に注目していると、生命保険は相続財産との誤解が強まります。

他の相続人から生命保険金を分配するように干渉されることになります。

生命保険の死亡保険金は相続税の対象になるだけで、相続人の固有の財産です。

相続放棄をした相続人であっても、生命保険の死亡保険金は受け取ることができます。

生命保険の死亡保険金は相続財産でないからです。

相続財産でないから、相続放棄をしても関係ないのです。

6遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット

遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。

前提として、話し合いによる合意ができていなければ、文書にできません。

銀行などの金融機関から遺産分割協議書を提出するように言われて、とにかく書きたいという方もいます。

遺産分割協議書があるとトラブル防止になりますが、相続人全員の合意があり、合意を取りまとめているからです。

有効な合意を文書にしているから、後々のトラブルを防止できるのです。

相続人全員が有効な合意をしていない場合、かえってトラブルになってしまいます。

複雑な相続においても対応しています。

適切な遺産分割協議書を作り、家族のトラブルを避けたい方は、司法書士などの専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

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