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1遺産分割協議は原則としてやり直しができない
①相続人全員の合意で遺産分割協議は成立する
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
相続人全員の合意がまとまったら、遺産分割協議は成立し終了します。
遺産分割協議は、原則としてやり直しができません。
②遺産分割協議書とは相続人全員の合意内容の証明書
相続人全員の合意がまとまったら、合意内容は書面に取りまとめます。
遺産分割協議書とは、相続人全員による合意内容の証明書です。
合意内容に間違いがないか、相続人全員に確認してもらいます。
合意内容に間違いがない場合、相続人全員に記名し実印で押印してもらいます。
③やり直しができるのは例外的
遺産分割協議やり直しとは、すでに成立した遺産分割協議を取消して再度新たな内容で遺産分割をすることです。
法律上、遺産分割協議やり直しの制度はありません。
法的根拠がある場合だけ、例外的にやり直しができます。
2遺産分割協議やり直しが必要な条件
ケース①遺産分割協議が無効
(1)一部の相続人が合意していない
遺産分割協議成立には、相続人全員の合意が不可欠です。
遺産分割協議に先立って、相続人調査をします。
相続人調査が不充分であると、相続人なのに見落とすことがあります。
一部の相続人を含めずに合意をしても、遺産分割協議は無効です。
一部の相続人が合意していないと、遺産分割協議やり直しが必要です。
(2)一部の相続人に判断能力がない
認知症になると、物事のメリットデメリットを適切に判断することができなくなります。
物事のメリットデメリットを適切に判断できないまま、遺産分割協議はできません。
遺産分割協議をするためには、充分な判断能力が必要だからです。
判断能力が低下した相続人のために、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう必要があります。
判断能力が低下した相続人と合意しても、遺産分割協議は無効です。
一部の相続人に判断能力がないと、遺産分割協議やり直しが必要です。
(3)利益相反の代理人
未成年者は、物事のメリットデメリットを適切に判断することができません。
物事のメリットデメリットを適切に判断できないまま、遺産分割協議はできません。
未成年者が法律行為をする場合、親などの親権者が代理します。
未成年者が相続人になる場合、親などの親権者も相続人であることがあります。
未成年者と親などの親権者が同時に相続人になる場合、利益相反になります。
利益相反とは、一方がソンすると他方がトクする関係です。
利益相反になる場合、親などの親権者は未成年者を代理できません。
未成年者の利益を守るためです。
親などの親権者が未成年者を代理すると、遺産分割協議が無効になります。
利益相反の代理人が代理すると、遺産分割協議やり直しが必要です。
ケース②遺産分割協議が取消
相続人全員の合意とは、相続人全員が納得して合意していることが必要です。
他人から欺かれて誤った認識の下で意思表示をした場合、納得して合意したとは言えません。
詐欺によって相続財産の分け方に合意した場合、合意を取消すことができます。
他人から強迫されて真意による意思表示ができない場合、納得して合意したとは言えません。
強迫によって相続財産の分け方に合意した場合、合意を取消すことができます。
詐欺や強迫による意思表示は、取消すことができます。
合意が取消されると、遺産分割協議やり直しが必要です。
ケース③相続人全員の同意がある
相続人全員が遺産分割協議やり直しに同意している場合、すでに成立した遺産分割協議を無効にすることができます。
ひとりでも反対すれば、遺産分割協議やり直しができません。
過去の遺産分割協議を無効にして、再度の遺産分割協議をする意思が明確であることが重要です。
相続人全員の同意があると、遺産分割協議が無効になります。
相続人全員の同意があると、遺産分割協議やり直しが必要です。
3遺産分割協議やり直しが不要な条件
ケース①遺産分割協議成立後に相続人が死亡
相続人全員の合意がまとまったら、遺産分割協議は成立し終了します。
遺産分割協議成立後に相続人が死亡しても、遺産分割協議の効力に影響はありません。
死亡した相続人が生前に作成した遺産分割協議書は、有効です。
遺産分割協議の内容で、そのまま遺産分割をします。
死亡した相続人は、遺産分割協議の内容を相続するからです。
死亡した相続人が生前に作成した遺産分割協議書を使って、相続手続をすることができます。
死亡した相続人は、合意した内容の財産を相続します。
遺産分割協議は無効にならないから、遺産分割協議やり直しは不要です。
遺産分割協議書は無効にならないから、遺産分割協議書作り直しは不要です。
遺産分割協議成立後に相続人が死亡しても、遺産分割協議やり直しは不要です。
ケース②感情的な不満はトラブルに発展する
遺産分割協議は、相続人全員の合意で決定したはずです。
相続人全員が納得したうえで合意したはずなのに、一部の相続人の感情的理由でやり直しはできません。
納得できない、気持ちが変わったなど感情的理由でやり直しを求めると、相続人間でトラブルに発展します。
最初から、遺産分割協議で充分に話し合うことが重要です。
後から不満を残さないように、充分納得して合意します。
感情的な不満があると、トラブルに発展します。
ケース③代償金が支払われなくてもやり直しはできない
遺産分割協議が成立したら、合意内容のとおりに財産を相続します。
相続財産の大部分が不動産など分けにくい財産であることがあります。
分けにくい財産が含まれる場合、代償分割で合意できることがあります。
代償分割とは、一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人からその分の代償金をもらう方法です。
一般的な売買契約において、代金を支払わない場合、契約を解除することができます。
相続財産においては、このような一方的な解除制度はありません。
相続人全員で相続財産の分け方が同意できたら、遺産分割協議は成立し終了します。
たとえ代償金を払ってもらえなくても、遺産分割協議は有効のままです。
遺産分割協議が終了した後は、代償金を支払う人と受け取る人の問題になります。
金銭を支払う人と受け取る人の話し合いで、解決を図ります。
代償金を払ってもらえなくても、遺産分割協議のやり直しはできません。
ケース④新たな財産が見つかった
遺産分割協議が終了してから、新たに財産が見つかることがあります。
新たな財産が見つかっても、遺産分割協議は無効になりません。
一部の財産だけ、分け方の合意をすることができます。
一部の財産の分け方だけ、記載した遺産分割協議書を作成することができます。
原則として、新たに見つかった財産だけ遺産分割協議をします。
すでに成立した遺産分割協議は、無効になりません。
すでに成立した遺産分割協議のやり直しは、不要です。
新たに見つかった財産が重要な財産であることがあります。
例外として、重要な財産である場合、遺産分割協議やり直しをする余地があります。
重要な財産であれば、相続人が財産の存在を知っているでしょう。
重要な財産の存在に気づかずに、他の財産だけ遺産分割協議をすることは考えられません。
新たな財産が見つかったケースで、遺産分割協議やり直しが必要になるのはレアケースと考えられます。
ケース⑤遺産分割調停や遺産分割審判があった
さまざまな家族の事情から、相続人で遺産分割協議ができないことがあります。
相続人だけで話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の助力を得ることができます。
遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停委員のアドバイスを受けてする話し合いです。
家庭裁判所の調停委員は、中立的立場からアドバイスします。
遺産分割調停で話し合いがまとまらない場合、遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判とは、家庭裁判所が遺産分割の方法を決定する手続です。
たとえ相続人全員が希望しても、家庭裁判所の決定は変更できません。
遺産分割調停や遺産分割審判があったケースでは、遺産分割協議やり直しはできません。
4遺産分割協議やり直しの注意点
注意①再協議で登記もやり直し
遺産分割協議やり直しをすると、想像以上に手間と時間と費用がかかります。
遺産分割協議が成立すると、内容どおりに相続手続を進めるからです。
相続財産に不動産がある場合、相続登記をするでしょう。
遺産分割協議やり直しをすると、相続登記もやり直しが必要です。
相続登記をやり直しても、納入した登録免許税は還付されません。
所有権抹消登記と再度の相続登記が必要です。
相続登記やり直しで、手間と時間と費用がかかります。
注意②第三者に渡った財産は取り戻せない
遺産分割協議が成立すると、財産は相続人のものになります。
相続人は、相続した財産を自由に処分することができます。
相続した財産を売却した後で、遺産分割協議をやり直すことがあります。
遺産分割協議をやり直しても、第三者の手に渡った財産は取り戻せません。
第三者は遺産分割協議やり直しに非がないから、保護されるべきだからです。
注意③税務上は贈与と見なされる
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議やり直しができます。
遺産分割協議やり直しで相続財産を引き継ぐ場合、税務上は贈与と見なされます。
贈与と見なされるから、贈与税の対象となるでしょう。
最初の遺産分割協議で納めた相続税は、還付されません。
注意④遺産分割協議の取消は5年の期限がある
相続人全員の合意で遺産分割協議やり直しをする場合、期限はありません。
詐欺や強迫による意思表示は、取消すことができます。
詐欺や強迫で意思表示を取消す場合、5年の期限があります。
5年の期限のスタートは、追認できるときからです。
追認できるときとは、相続人本人が遺産分割協議の内容を理解し承認したときです。
具体的には、詐欺や強迫などの不正の影響がなくなり自発的に意思表示ができるときです。
5年経過すると、詐欺や強迫で意思表示を取消すことができません。
5年の期限は、除斥期間と考えられています。
消滅時効ではないから、請求などで更新されることはありません。
5遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書は遺産の分け方について、相続人全員による合意を取りまとめた文書です。
合意がきちんと文書になっているからこそトラブルが防止できるといえます。
つまり、書き方に不備があるとトラブルを起こしてしまう危険があります。
せっかくお話合いによる合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。