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1遺産分割協議がまとまらないと困る理由
理由①相続登記義務化でペナルティー
相続登記とは、相続による不動産の名義変更です。
令和6年(2024年)4月1日から相続登記には、3年の期限が決められました。
3年以内に相続登記をしないと、ペナルティーの対象になります。
ペナルティーの内容は、10万円以下の過料です。
遺産分割協議がまとまらないと、事実上相続登記ができなくなるでしょう。
理由1つ目は、相続登記義務化でペナルティーです。
理由②口座凍結を解除できない
口座の持ち主が死亡したことを金融機関が知ると、口座は凍結されます。
口座凍結とは、口座取引を停止することです。
口座取引には、次のものがあります。
・ATMや窓口での引出し
・年金などの振込み
・公共料金などの引落し
遺産分割協議がまとまらないと、口座凍結と解除できなくなります。
理由2つ目は、口座凍結を解除できないことです。
理由③不動産管理が不明確になる
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
遺産分割協議がまとまらないと、だれがどのように管理するのか不明確になります。
だれがどのように管理するのか、新たなトラブルに発展するでしょう。
理由3つ目は、不動産管理が不明確になることです。
理由④家族の精神的負担が大きい
遺産分割協議がまとまらないと、感情的な対立に発展しがちです。
親族関係が将来に向かって、修復困難になることがあるでしょう。
相続人間の対立は、被相続人と関係が深かった相続人にとって大きな精神的苦痛になります。
理由4つ目は、家族の精神的負担が大きいことです。
理由⑤相続税で特例が使えない
相続財産全体の規模が一定以上大きい場合、相続税の対象になります。
相続税の申告納税の期限は、相続があったことを知った日の翌日から10か月です。
申告期限までに遺産分割協議がまとまらないと、配偶者控除や小規模宅地の特例などが使えなくなる可能性があります。
理由5つ目は、相続税で特例が使えないことです。
2遺産分割協議がまとまらない原因と対処法
原因①多く相続したい相続人がいてまとまらない
理由
相続人になる人は、法律で決められています。
各相続人が相続する相続分も、法律で決められています。
相続分を大幅に超えて相続したいと主張すると、遺産分割協議がまとまらなくなります。
例えば、長男だから多く相続して当然だなどの主張です。
対処法
対処法は、遺産分割審判では法定相続になることを理解してもらうことです。
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停や審判を利用することになるでしょう。
遺産分割審判では、法定相続分による遺産分割が採用されます。
家庭裁判所へ出向く手間と時間を考えると、相続人間で解決する方がメリットが大きいでしょう。
原因②寄与分の主張でまとまらない
理由
寄与分とは、被相続人の財産の維持増加に特別な貢献をした場合、他の相続人より多く相続分を認める制度です。
寄与分は、公平のための制度です。
寄与分の主張があると、遺産分割協議がまとまりにくくなります。
特別な貢献は、どこからが特別なのか主観的判断になりやすいからです。
特別な貢献は、金銭的価値が算定しにくいからです。
対処法
寄与分の主張をする場合、客観的証拠が重要です。
次の証拠があると、有効です。
・療養看護の主張
介護日記、医療機関等の通院記録、領収書、介護保険の利用履歴
長期で継続性があると、有効です。
金銭的負担があれば、領収書も有効です。
・事業の従事
就労の事実と給料不払いが分かる書類、帳簿や決算書、従業員や取引先の証言
無償労働で財産形成に寄与したことをが分かると、有効です。
・財産形成への資金提供
贈与契約書、振込記録
返済義務の有無が判断材料になります。
・不動産の改修維持
工事契約書、回収前後の写真、領収書
被相続人の財産価値を高めているかが焦点になります。
原因③特別受益の主張でまとまらない
理由
特別受益とは、一部の相続人が特別に受けていた利益です。
特別に受けていた利益を相続財産に加えて、遺産分割をします。
特別受益は、公平のための制度です。
特別受益の主張があると、遺産分割協議がまとまりにくくなります。
贈与の目的や金額などによって、相続財産に加えるか判断されるからです。
法的な議論のはずなのに感情論にすり替わると、遺産分割協議がまとまらなくなります。
対処法
特別受益の主張をする場合、客観的証拠が重要です。
次の証拠があると、有効です。
・住宅資金の援助
贈与契約書、振込記録、登記簿謄本、住宅ローン契約書
贈与の目的、時期、援助額が明確な場合、特別受益と認められやすいでしょう。
・結婚資金の援助
結婚式費用の領収書、振込記録、親族の証言
一時的な援助か生活支援か、区別が重要です。
・事業資金の援助
資金提供の契約書、振込記録、事業計画書、開業届
贈与であるのか貸付であるのか、争点になりやすいでしょう。
・教育資金の援助
学費の領収書、振込記録、進学先の証明書
通常の扶養義務の範囲が特別な援助か、争点になりやすいでしょう。
原因④使い込み疑惑でまとまらない
理由
被相続人と同居している家族がいる場合、事実上、通帳やキャッシュカードを管理するでしょう。
通帳やキャッシュカードを管理する家族が勝手に引き出して、自分のために使うことがあります。
たとえ家族が使い込みをしていなくても、他の相続人から疑いの目を向けられることがあります。
被相続人の預貯金が想像以上に少ない場合、使い込みが疑われるからです。
対処法
他の相続人から使い込みを疑われて、自分から認めることはないでしょう。
使い込みの主張をする場合、客観的証拠が重要です。
使途不明金の存在、使った人の特定、不当性の証明が必要です。
次の証拠があると、有効です。
口座の取引履歴、通帳やキャッシュカードの保管状況、領収書、被相続人とやり取りの分かるメールやメモ、親族や金融機関職員の証言
出金の前後関係や被相続人の判断能力の有無が重要になります。
原因⑤疎遠・相続人多数でまとまらない
理由
さまざまな家族の事情から、被相続人や被相続人の家族と疎遠になることがあります。
代襲相続や数次相続があると、関係のうすい相続人が遺産分割協議に参加します。
代襲相続とは、相続人になるはずの人が死亡したため相続人になるはずの人の子どもなどが相続することです。
数次相続とは、相続が発生したときには元気だった相続人が相続手続中に死亡して新たな相続が発生することです。
死亡した相続人の配偶者や子どもなどが遺産分割協議を引き継ぎます。
関係がうすい相続人がいると、遺産分割協議は難航しがちです。
対処法
対処法は、丁寧な説明をすることです。
いきなり遺産分割協議書を送り付けて押印を求めるより、相続発生の事実と協力のお願いの手紙を送るといいでしょう。
共通の親族がいれば、連絡を取ってもらうと不安が和らぎます。
司法書士は代理交渉はできませんが、中立的な立場で制度説明や意向確認をすることができます。
原因⑥不動産評価額でまとまらない
理由
相続財産の大部分が不動産である場合、遺産分割協議は難航しがちです。
不動産の評価方法によって、評価額が大きく異なるからです。
不動産には、次の評価方法があります。
(1)公示地価
国土交通省が発表する1平方メートルあたりの標準価格です。
国土交通省という国の機関が発表しているから、信用があります。
(2)相続税評価額(路線価方式)
相続税や贈与税を申告するときに使う評価額です。
路線価は、公示価格の80%になるように定められています。
(3)固定資産税評価額
固定資産税を計算するときに使う評価額です。
固定資産税評価額は、公示価格の60%になるように調整されています。
(4)時価
実際に、売買されるときの金額です。
市場の需要と供給で、決まります。
(5)鑑定評価額
不動産鑑定士が業として鑑定した評価額です。
対処法
対処法は、遺産分割審判では時価で遺産分割になることを理解してもらうことです。
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停や審判を利用することになるでしょう。
遺産分割審判では、時価で遺産分割が採用されます。
遺産分割の評価額と相続税申告の評価額は、異なるのが当然です。
相続税申告の評価額に固執すると、深刻なトラブルに発展するでしょう。
相続人間で遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所の助力を借りることができます。
家庭裁判所へ出向く手間と時間を考えると、相続人間で譲歩する方がメリットが大きいでしょう。
不動産の評価方法は、相続人全員の合意で決定します。
原因⑦分割方法でまとまらない
理由
不動産は、分けにくい財産の代表例です。
相続財産の分割方法は、次の方法があります。
・現物分割
不動産をそのまま分割する方法です。
・代償分割
相続人の一人が不動産を相続し、他の相続人は代償金を受け取る方法です。
・換価分割
不動産を売却して金銭にした後、金銭を分ける方法です。
・共有
複数の相続人が共同で所有する方法です。
・用益権設定による分割
一部の相続人が不動産を使う権利を相続して、他の相続人が負担付所有権を相続する方法です。
対処法
対処法は、各相続人の事情や要望を聞いて対処することです。
現物分割は、土地が広く分割しやすいときにおすすめです。
代償分割は、不動産を残したい相続人がいるときにおすすめです。
換価分割は、現金化しないと分ける金銭がないときにおすすめです。
共有は、デメリットが多くおすすめできません。
用益権設定による分割は、所有者と用益権者の関係が良好なときにおすすめです。
原因⑧相続人が認知症でまとまらない
理由
遺産分割協議をするためには、判断能力が必要です。
認知症などで判断能力が低下すると、自分で遺産分割協議に参加することができません。
対処法
対処法は、成年後見人選任してもらったうえで遺産分割協議をすることです。
認知症の相続人のために、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうことができます。
成年後見人とは、認知症の人をサポートする人です。
成年後見人は、認知症の相続人の代わりに遺産分割協議をすることができます。
3相続人間で遺産分割協議がまとまらないときの解決方法
手順①話し合いの継続
相続人が独自の主張をする場合、遺産分割協議はまとまらなくなります。
司法書士は紛争になると、介入できません。
紛争になる前であれば、司法書士などの第三者から制度説明をすることができます。
冷静な協議を促すことで、話し合いを進めることができるでしょう。
話し合いが継続できる段階では、弁護士を介入させるのはおすすめできません。
弁護士は中立的立場の仲裁者ではなく、依頼者の利益最大化をする人だからです。
相手方の警戒心を掻き立て、トラブルが深刻化するでしょう。
寄与分や特別受益、使い込みなど争点を整理して、証拠を提示します。
冷静な話し合いを促すため、書面のやり取りに切り替えるのが有効です。
相続人間の話し合いが紛争に発展した場合、弁護士に依頼するといいでしょう。
手順1つ目は、話し合いの継続です。
手順②家庭裁判所へ遺産分割調停の申立て
(1)家庭裁判所で話し合いをする
遺産分割調停とは、家庭裁判所で調停委員を交えてする話し合いです。
調停委員から公平な立場でアドバイスされると、納得できることがあります。
法的強制力はなく、相続人間の合意を目指します。
(2)申立てができる人
相続人の一人から他の相続人全員を相手方として、申立てができます。
(2)申立先
相手方の一人の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立てをします。
家庭裁判所の管轄は、裁判所のホームページで確認することができます。
(3)必要書類
・遺産分割調停の申立書
・申立書の写し相手方の人数分
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の住民票または戸籍の附票
・相続財産の分かる書類
(4)費用
・被相続人1人につき収入印紙1200円分
・予納郵券
予納郵券は、家庭裁判所ごとに異なります。
(5)遺産分割調停の流れ
①家庭裁判所から調停期日通知書が届く
遺産分割調停は、月1回程度開催されます。
半年~1年程度かかることが多いです。
②調停期日当日
調停員が当事者を仲介して、話し合いをします。
必要に応じて、不動産の鑑定評価などの資料を求められます。
③遺産分割調停成立
遺産分割調停がまとまれば、合意内容は調停調書に取りまとめられます。
調停調書の内容に従わないときは、強制執行をすることができます。
遺産分割調停不成立のときは、自動的に遺産分割審判に行こうします。
手順2つ目は、家庭裁判所へ遺産分割調停の申立てです。
手順③遺産分割審判へ移行
遺産分割審判とは、遺産分割調停で合意できないとき裁判官が遺産分割を決定する手続です。
調停とは異なり、法的拘束力がある審判書が出されます。
審判書の内容に従わないときは、強制執行をすることができます。
手順3つ目は、遺産分割審判へ移行です。
4遺産分割協議書作成を司法書士に依頼するメリット
遺産分割協議書とは、相続財産の分け方について相続人全員の合意内容を取りまとめた文書です。
合意内容がきちんと文書になっているからこそ、トラブルを防止できるといえます。
書き方に不備があると、トラブルを起こしてしまう危険があります。
せっかく合意ができたのに、取りまとめた文書の不備でトラブルになるのは残念なことです。
トラブルを防止するため、遺産分割協議書を作成したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。