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1権利証は所有者の証明書
①登記名義人に権利証が発行される
登記とは、法務局の帳簿に不動産に権利があると登録することです。
登記をすると、第三者に対して権利があると主張することができます。
登記をすると、法務局から権利証が発行されます。
権利証は、不動産に権利があることの証明書です。
総称として権利証といいますが、平成17年の法律改正前は登記済証、改正後は登記識別情報といいます。
②権利証で登記名義人の意思確認をする
不動産は、多くの人にとって重要な財産です。
不動産は重要な財産だから、権利証は大切に保管しているでしょう。
不動産の名義変更をする場合、登記名義人の意思を確認します。
売買や贈与などで不動産を手放すとき、権利証が必要になります。
権利証で、登記名義人の意思確認をするためです。
権利証を提出させることで、登記名義人になりすますことを防止することができます。
③権利証を紛失しても権利はなくならない
権利証を紛失しても、再発行されません。
大切な財産の大切な権利証だから、普段は人目にさらしたりしないでしょう。
保管場所を共有していないと、家族が見つけられなくなります。
権利証を紛失してしまっても、権利はなくなりません。
権利証は、証明書に過ぎません。
証明する書類を紛失しても、所有権自体はなくならないからです。
権利証を紛失しても、不動産を売買や贈与することができます。
権利証を紛失しても、不動産を相続することができます。
権利証を紛失しても、所有権はなくならないからです。
2権利証を紛失しても相続登記ができる
①相続登記は単独申請
相続登記は、相続人の単独申請です。
相続が発生した事実に基づいて、相続登記を申請します。
不動産の登記名義人は、被相続人です。
登記名義人の意思に基づく登記申請ではありません。
死亡した被相続人の意思を確認することはできないから、意思確認は不要です。
相続登記では、権利証は不要です。
相続登記は、単独申請が認められています。
②権利証なしで相続登記ができる理由
理由(1)登記名義人の意思確認が不要
相続登記の必要書類に、権利証はありません。
相続登記は、相続の発生に基づいて登記申請をするからです。
売買や贈与は、登記名義人の意思に基づく登記申請です。
登記名義人の本人確認のため、権利証が必要です。
相続登記では、登記名義人の本人確認は不要です。
登記名義人の意思確認が不要だから、権利証なしで相続登記ができます。
理由(2)相続発生の事実は戸籍謄本で証明
相続発生の事実は、戸籍謄本等の公的書類で客観的に証明します。
戸籍謄本等の公的書類は、登記名義人の意思に代わる客観的証拠として審査の対象になります。
相続登記は、登記名義人の意思に基づかずに登記申請をします。
登記制度は、意思に基づく登記と意思によらない登記を区別しています。
登記制度は、合理的に運用されていると言えます。
相続発生の事実は戸籍謄本で証明するから、権利証なしで相続登記ができます。
3権利証が必要になる例外
例外①住所がつながらないケース
(1)住所が違うと別人扱いされる
不動産の登記簿謄本を確認すると、所有者の住所や氏名が記載されています。
相続登記をする場合、被相続人の住民票を提出します。
登記簿の所有者と被相続人が同一人であることを証明するためです。
ときには、登記簿の所有者の住所と被相続人の最後の住所が一致しないことがあります。
住所変更をしたのに、登記名義人の住所変更をしていなかったケースです。
登記簿の所有者の住所と被相続人の最後の住所が一致しないと、法務局は別人と判断します。
(2)住所の移り変わりを証明する
登記簿の所有者と被相続人が同一人物であることを確認するため、住所の移り変わりを証明します。
住民票を見ると、前住所が記載されています。
住民票の前住所と登記簿の所有者の住所が一致すれば、同一人物であることを証明できます。
戸籍の附票を取得すると、住民票の変更履歴が記録されています。
戸籍の附票と登記簿の所有者の住所が一致すれば、同一人物であることを証明できます。
住所の移り変わりを証明できれば、相続登記をすることができます。
(3)権利証で登記名義人と証明する
住民票や戸籍の附票は、永年保管ではありません。
保存期間が決められていて、古い書類は順次廃棄されます。
住民票や戸籍の附票が廃棄されてしまうと、証明することができなくなります。
住所がつながらないとは、住民票や戸籍の附票が廃棄されて住所の移り変わりが証明できないケースです。
住所がつながらないケースでは、権利証を提出します。
権利証は、不動産に権利があることの証明書だからです。
権利証で登記名義人と証明できれば、相続登記をすることができます。
(4)権利証を紛失しても他の書類で相続登記ができる
権利証を紛失していて所有者であることを証明できない場合でも、相続登記ができなくなることはありません。
相続人全員から法務局宛の上申書を提出します。
上申書は、「不動産の所有者は被相続人に間違いありません」といった内容です。
上申書は、相続人全員が実印で押印し印鑑証明書を添付します。
遺産分割協議書に上申書の記載事項を盛り込むと、相続人の手間が省けて便利です。
上申書の他に、不在籍証明書、不在住証明書、納税証明書などを提出します。
住所がつながらないケースなどイレギュラーな場合は、管轄の法務局によって取扱いが異なります。
住所がつながらないケースは、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
例外②遺言書で遺贈をするケース
(1)遺贈の登記は単独申請ではない
遺贈とは、遺言書で相続人や相続人以外の人に財産を引き継ぐことです。
遺言書を作成して不動産を遺贈した場合、遺贈の登記をします。
遺贈の登記は、原則として単独申請ではありません。
遺贈を受けた人と遺贈義務者の協力で、登記申請をします。
遺贈義務者とは、次の人です。
・遺言執行者がいる場合 遺言執行者
・遺言執行者がいない場合 相続人全員
・遺言執行者も相続人もいない場合 相続財産清算人
(2)遺贈は意思に基づく登記
遺言書は、遺言者の意思を示すものです。
遺言者の意思によって、遺贈がされます。
登記名義人の意思に基づいて、登記申請をすると言えます。
登記名義人の意思を確認するため、権利証が必要です。
(3)権利証を紛失したとき本人確認情報提出が現実的
権利証を紛失していても、遺贈の登記ができなくなることはありません。
権利証を紛失した場合、司法書士が本人確認情報を作成し登記申請をするのが一般的です。
例えば、遺言執行者がいる場合、遺言執行者の本人確認情報を作成します。
司法書士などの専門家以外の人は、本人確認情報を作成することはできません。
(4)遺贈義務者の協力があれば事前通知制度
事前通知制度とは、権利証を提出できないときに本人確認を補う制度です。
法務局から登記申請の通知を送り「申請内容は真実である」と申出をしたときに、登記がされます。
遺贈義務者の協力があれば、事前通知制度を利用するといいでしょう。
遺言執行者がいない場合、相続人全員に対して事前通知がされます。
一部の相続人が「申請内容は真実である」と申出をしないと、登記が却下されます。
事前通知制度を利用できるのは、遺贈義務者の協力が確実なときだけと言えます。
(5)相続人に対する遺贈は権利証不要
相続人が遺贈を受けることがあります。
相続人が遺贈の登記をする場合、遺贈義務者の協力なしで申請することができます。
相続人に対する遺贈は、権利証不要です。
例外③法定相続で登記後に遺産分割協議成立のケース
(1)法定相続の登記で権利証が発行される
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産です。
相続財産は、法定相続分で相続人全員が共有しています。
法定相続分で相続人全員による共有名義で、相続登記をすることができます。
法定相続の登記で、権利証が発行されます。
(2)申請人以外の相続人に権利証が発行されない
相続登記が完了すると、権利証が発行されるのが原則です。
権利証は、登記名義人が登記申請人であるときだけ発行されます。
登記名義人であっても登記申請人でないと、権利書は発行されません。
一部の相続人が法定相続分で相続人全員による共有名義で相続登記をすることができます。
相続人全員が登記名義人になるのに、一部の相続人が登記申請人になって相続登記をすることができます。
法定相続分で相続人全員による共有名義で相続登記をすることは、保存行為だからです。
申請人以外の相続人に対して、権利証が発行されません。
権利証は、登記名義人が登記申請人であるときだけ発行されるからです。
(3)共同申請では権利証が必要になる
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方について相続人全員でする話し合いです。
相続人全員による共有名義で相続登記をした後に、遺産分割協議が成立することがあります。
法定相続分で登記されているから、遺産分割協議の内容どおりに登記を変更する必要があります。
相続分を得る相続人と相続分を失う相続人の協力で登記申請をする場合、権利証が必要です。
遺産分割は、登記名義人の意思による登記申請だからです。
登記名義人が登記申請人でないと、権利証は発行されていません。
権利証がないときは、本人確認情報提出や事前通知制度で対応します。
(4)所有権更正登記で権利証は不要
法定相続で登記後に遺産分割協議成立のケースでは、所有権更正登記をすることができます。
令和5年4月1日法律改正により、手続が大幅に簡素化されました。
所有権更正登記は、相続分を得る相続人による単独申請です。
相続人全員による共有名義でした相続登記は、錯誤であったと扱われます。
錯誤を更正するのだから、登記名義人の意思による登記ではありません。
遺産分割協議書等で事実を確認して、所有権更正登記をすることができます。
法定相続で登記後に遺産分割協議成立のケースでは、登記申請の内容によって権利証が必要になるケースと不要になるケースがあります。
わざわざ手間と時間がかかる登記申請をする必要はないでしょう。
所有権更正登記をするのがおすすめです。
法定相続で登記後に遺産分割協議成立のケースなど判断が難しいケースは、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
4相続登記を司法書士に依頼するメリット
相続が発生すると、相続人は悲しむ暇もなく相続手続に追われます。
ほとんどの人は相続手続は不慣れで、聞き慣れない法律用語で疲れ果ててしまいます。
インターネットの普及で多くの人は簡単に多くの情報を手にすることができるようになりました。
多くの情報の中には正しいものも、適切でないものも同じように混じっています。
相続登記も簡単にできる、ひとりでできたという記事も散見されます。
不動産は、重要な財産であることが多いでしょう。
登記手続は一般の方から見ると些細なことと思えるようなことでやり直しになることも多いものです。
住所がつながらない場合などは、シンプルな事例とは言えない事情がある場合です。
申請を取下げて、やり直しになることが多いでしょう。
司法書士は、登記の専門家です。
スムーズに相続登記を完了させたい方は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
