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1相続した不動産を売却する理由
①不動産の維持管理が負担

相続した不動産を保有し続けると、さまざまな維持費がかかります。
例えば、固定資産税や修繕費などです。
遠方の不動産を相続すると、維持管理の手間が無視できなくなります。
相続した不動産を売却すると、維持管理の負担を免れることができます。
②不動産を利用する予定がない
相続した不動産が生活圏から遠い場合、利用することができないでしょう。
利用する予定がない不動産であっても、維持管理にコストがかかり続けます。
③円滑に遺産分割ができる
不動産は、家族にとって重要な財産であることが多いでしょう。
相続財産の大部分が不動産である場合、遺産分割が難航します。
不動産を共有で相続すると、デメリットが大きく後々トラブルに発展するおそれがあります。
金銭であれば、公平に分割することができます。
相続した不動産を売却すると、円滑に遺産分割ができます。
④資産価値下落リスク
不動産の価値は、地域や経済状況によって変動します。
不便な地域や築年数の経過した物件は、将来的に資産価値が下落することが予想されます。
相続した不動産を売却すると、資産価値下落リスクを回避することができます。
⑤相続した不動産を売却する社会的背景
(1)団塊の世代が75歳以上で超高齢化社会到来
団塊の世代が75歳以上になり、超高齢化社会が到来しました。
団塊世代とは、昭和22~24年(1947~1949年)に生まれた世代です。
団塊の世代が高齢化したことにより、施設入所や相続による売却が急増しています。
(2)単身世帯増加で実家じまいが浸透
核家族化と単身世帯の増加しています。
実家に住む選択肢が現実的ではなくなりました。
思い出が詰まった実家でも、物理的に経済的に維持が困難です。
実家じまいと言う概念が浸透してきました。
(3)制度的圧力の強化
令和6年(2024年)から相続登記には、3年の期限が決められました。
相続登記を放置すると、10万円以下のペナルティーの対象になります。
管理不適切な特定空き家と認定されると、固定資産税の軽減措置が受けられなくなります。
固定資産税が最大6倍になります。
制度的にも、相続した不動産を放置できなくなっています。
2相続した不動産を売却するときの手続
①相続した不動産を売却するときの流れ
手順(1)遺言書の確認
被相続人が生前に、遺言書を作成していることがあります。
遺言書があれば、遺言書のとおり遺産分割をすることができます。
相続人は、公正証書遺言の有無を確認することができます。
相続人は、法務局保管の自筆証書遺言の有無を確認することができます。
手順(2)相続人の確認
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得して、相続人を確認します。
被相続人の子どもは、戸籍の広域交付を利用することができます。
相続人の現在戸籍を取得します。
相続人の戸籍の附票を取得すると、相続人の住所が分かります。
手順(3)遺産分割協議
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方を決めるため相続人全員でする話し合いです。
相続した不動産を売却して金銭で分ける合意をすることができます。
遺産分割協議がまとまったら、相続人全員による合意内容を書面に取りまとめます。
遺産分割協議書の内容が合意内容に間違いがないか、相続人全員に確認してもらいます。
間違いがないことを確認して、相続人全員が記名し実印で押印します。
遺産分割協議書に実印で押印したことを証明するため、印鑑証明書を添付します。
手順(4)相続登記
被相続人の名義だった不動産を相続人名義に変更します。
相続登記は、司法書士などの専門家にサポートしてもらうことが一般的です。
相続した不動産を売却するときであっても、相続登記は省略できません。
手順(5)不動産会社と媒介契約
不動産会社に売却を申込み、信頼できる会社と媒介契約を締結します。
媒介契約には、専属選任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約があります。
手順(6)売買契約締結
買主が決まったら、売買契約を締結します。
手付金を受領します。
手順(7)代金決済と引渡し
残代金を決済します。
同時に、鍵を引渡します。
司法書士が不動産の所有権移転登記をを申請します。
手順(8)確定申告
不動産を売却したことで売却益を得た場合、翌年3月15日までに確定申告をします。
取得費加算や相続空き家特例3000万円控除を適用できるか、検討するといいでしょう。
②相続した不動産を売却するときの注意点
注意(1)相続登記義務化でペナルティー
令和6年4月1日から、相続登記は義務になりました。
相続登記には、3年の期限が決められました。
相続登記の期限は、相続したことを知った日からスタートします。
自己のために相続の開始があったことを知って、かつ、不動産を取得することを知った日から、スタートします。
相続登記の義務を果たしていない場合、ペナルティーが課されます。
ペナルティーの内容は、10万円以下の過料です。
過料とは、行政上の義務違反に対するペナルティーです。
過料は刑罰ではないから、前科が付きません。
前科が付かないと言っても、10万円以下のペナルティーは負担が重いでしょう。
注意(2)被相続人から直接買主名義にできない
相続が発生したら、不動産の名義変更をします。
被相続人の不動産が相続人に相続されるからです。
相続した不動産を売却するときであっても、被相続人から直接買主名義にすることはできません。
登記は、現在の所有者だけを公示しているわけではないからです。
相続登記を省略すると、登記の信頼が失われます。
実際に被相続人→相続人→買主と、所有権は移転しています。
所有権の移転の過程も公示しているから、被相続人から直接買主名義にできません。
注意(3)境界確定・測量は早めに着手
不動産取引において、境界の確認は重要な意味があります。
契約の安全性や隣地との信頼関係構築の基礎になるからです。
境界杭が不明確である場合、買主は不安を感じて契約を見送る可能性があります。
売買に先立って、境界確定測量が必要になるでしょう。
境界確定には、隣地所有者の立会いと同意が必要です。
土地家屋調査士作成よる境界確定図があれば、境界確定済みで争いがないことを証明できます。
買主は安心して、契約することができます。
境界確定には、隣地との調整で時間がかかります。
半年程度時間と50~100万円程度の費用がかかることを見込むといいでしょう。
境界確定・測量は早めに着手することがおすすめです。
③売却に伴う税金と特例
(1)譲渡所得税における取得費加算の特例
譲渡所得とは、不動産などの財産を売って得た利益です。
譲渡所得税とは、譲渡所得に対して課される税金です。
譲渡所得は、次の計算式で求めることができます。
譲渡所得=売却価格-(取得費+売却にかかった費用)
相続で取得した不動産を売却したときに、譲渡所得が発生することがあります。
相続材が課された不動産を売却する際に、相続税の一部を取得費に加算することができます。
取得費加算の特例を利用すると、譲渡所得が少なくなるから譲渡所得税が軽減されます。
譲渡所得税における取得費加算の特例の主な利用条件は、次のとおりです。
・相続や遺贈で財産を取得した
・相続税を納めている
・相続開始から3年10か月以内に売却している
・相続空き家特例3000万円控除を利用していない
国税庁の「取得費加算の特例チェックシート」の提出がおすすめです。
(2)相続空き家の特例3000万円控除
譲渡所得を得たら、譲渡所得税が課されます。
相続空き家の特例3000万円控除とは、譲渡所得から最大3000万円控除ができる特例です。
条件を満たせば、譲渡所得が3000万円までなら税金が課されない可能性があります。
相続空き家の特例3000万円控除の主な利用条件は、次のとおりです。
・被相続人が死亡まで住んでいた家屋
・昭和56年5月31日以前に建築された家屋
・相続後だれも住んでいない、貸していない
・売却価格1億円以下
・相続開始から3年以内に売却
・買主は親族等ではない
・取得費加算の特例を利用していない
相続空き家の特例3000万円控除は、空き家解消を目的とした制度です。
社会的意義と税務メリットを両方兼ね備えています。
国税庁の「空き家特例チェックシート」の提出がおすすめです。
(3)確定申告が必要になる
取得費加算の特例や相続空き家の特例3,000万円控除を利用する場合、確定申告が必要です。
取得費加算の特例や相続空き家の特例3,000万円控除は、自動で適用されないからです。
取得費加算の特例を利用するためには、譲渡所得の計算式に反映させる必要があります。
相続空き家の特例3,000万円控除を利用するためには、一定の条件を満たす必要があります。
確定申告では、一定の条件を満たすこと証明する書類を提出します。
取得費加算の特例と相続空き家の特例3,000万円控除は、併用できません。
どちらの制度が有利なのか、譲渡益や相続税額によって異なります。
税務署や税理士などに相談して、確定申告をするのがおすすめです。
3不動産売却には相続人の意見調整が重要
トラブル①住みたい相続人と売却したい相続人の対立
一部の相続人が相続財産である実家に住んでいることがあります。
他の相続人が公平な現金分配を希望すると、相続人の意見調整が難しくなります。
生活基盤を失う相続人と経済的公平性を主張する相続人が対立するからです。
実家の相続を主張する相続人に資力があれば、代償分割をすることが解決策になります。
代償分割とは、一部の相続人が不動産を相続し、残りの相続人は不動産を相続した人から、その分のお金をもらう方法です。
代償金でバランスを取ることができるから、公平に遺産分割をすることができます。
相続人に資力がなければ、実家を売却して金銭で分割する方法が解決策になります。
実家を手放すことの罪悪感など、感情面についても配慮する必要があるでしょう。
トラブル②共有名義で共有者全員の協力が必要になる
不動産のような分けにくい財産を平等に分けたい場合、共有にする方法が思い浮かぶかもしれません。
安易な共有は、おすすめできません。
不動産を共有にした場合、活用方法や処分方法について共有者間で合意ができなくなるおそれがあるからです。
例えば、不動産を売却する場合、共有者全員の合意が必要です。
共有者全員の合意ができなくなると、共有物分割協議をすることになるでしょう。
結局のところ、問題の先送りになります。
共有物分割協議をするより、遺産分割協議で解決することがおすすめです。
トラブル③分筆ラインでトラブル
土地を分筆して、相続する方法があります。
土地の形状や建物の配置によっては、公平な分割が困難であることがあります。
分筆後の評価額や利用可能性にちがいがあると、相続人間でトラブルになる可能性があります。
相続人に資力があれば、代償分割をすることが解決策になるでしょう。
相続人に資力がなければ、売却して金銭で遺産分割することが解決策になります。
4相続後の不動産売却を司法書士に依頼するメリット
相続した不動産を売却したいという方は、少なからずいます。
相続も不動産の売却も、一生のうちに何度も経験するものではありません。
だれにとっても慣れない相続手続と売却手続を並行して進めるのは大変なことです。
平日は仕事や家事をしながら、さらに大切な家族を失った悲しみを抱えながら、これらを手続するのは想像以上に大変です。
土地を売却するためには、相続登記が必須です。
司法書士は、余計な費用や余計な手間をかけないように手続をします。
相続後の不動産売却を確実に進たい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。