このページの目次
1売買契約後に売主が死亡しても契約は消滅しない
①売買契約締結で権利義務が発生する
不動産などの売買契約をすると、売主と買主に権利義務が発生します。
売主の権利義務は、次のとおりです。
(1)買主から代金を受け取る権利
(2)買主に不動産を引渡す義務
(3)所有権移転登記をする権利と義務
上記を合わせて、契約上の地位と言います。
契約上の地位は、契約によって発生した財産上の権利義務の集合体です。
②契約上の地位は相続財産
売買契約締結後に、売主が死亡することがあります。
契約当事者が死亡しても、契約の効力は消滅しません。
契約によって発生した財産上の権利義務は、相続人が引き継ぐことができるからです。
契約上の地位は、相続財産のひとつです。
相続人全員に、契約上の地位が相続されます。
相続人が売買契約に反対していても、契約は白紙になりません。
③不動産売買では所有権移転時期の特約がある
売買契約を締結したら、締結時に所有権が移転するのが原則です。
不動産の売買契約では、所有権移転時期の特約があるのが一般的です。
売買代金全額の支払時に、所有権が移転する内容の特約です。
不動産の売買契約を締結しても代金支払まで、不動産の所有者は売主のままです。
④契約の履行が難しいとき手付解除が選択肢
売買契約締結後に売主が死亡しても、売買契約は消滅しません。
現実には、相続人間で意見が対立して、契約を履行できなくなることがあります。
相続人間で意見対立が長期化すると、買主が待てなくなることがあるでしょう。
手付解除によって、売買契約を白紙にすることができます。
手付解除をする場合、相続人全員の合意が必要です。
手付解除とは、契約締結時に交付された手付金を放棄または返還することで、一方的に解除できる制度です。
手付解除をするためには、契約内容や状況の確認が必要です。
2売買契約締結後で代金支払前に売主が死亡
①売買契約締結後に所有者が死亡
不動産の売買契約を締結しても、所有者は売主のままです。
不動産の売買契約では、売買代金全額の支払時に所有権が移転する特約があるからです。
売買契約締結後で代金支払前に、売主が死亡することがあります。
売買契約の目的不動産は、相続財産です。
不動産の所有者は、売主のままだからです。
売買契約の目的不動産は、売主の相続人が相続します。
②相続登記は省略できない
被相続人が不動産を保有していた場合、不動産の名義変更をします。
相続登記とは、相続による不動産の名義変更です。
売買契約締結後で代金支払前に売主が死亡した場合、相続登記は省略できません。
死亡した売主から直接買主に、所有権移転登記をすることはできません。
不動産登記は、不動産の権利移転を公示する履歴書です。
現在の所有者だけでなく、所有権移転の過程を正確に公示する必要があります。
正確な公示ができていないと、登記制度の信頼を失います。
登記制度が正確に運用されているからこそ、不動産取引の安全と信用が保たれています。
現実においても、売主→相続人→買主と所有権が移転しています。
相続人は不動産を相続しているのだから、相続登記は省略できないのです。
相続登記は、登記制度全体の公示機能を維持するため不可欠な手続です。
③売主の義務は遺産分割協議で一人に集約できない
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。
遺産分割協議とは、相続財産の分け方について相続人全員でする話し合いです。
売買契約締結後で代金支払前に売主が死亡した場合、契約上の地位は相続財産です。
売主の権利は、遺産分割協議でだれが引き継ぐか決めることができます。
売主の義務は、遺産分割協議でだれが引き継ぐか決めることができません。
契約上の地位は、共有ではなく連帯債務的な義務と考えられています。
遺産分割協議書に実印を押しても、売主の義務は一人に集約できません。
契約上の地位は、買主との契約関係に基づく義務です。
買主の承諾なく一方的に、売主の義務から逃れることはできません。
④代金支払時に売買による所有権移転登記
代金支払時に、不動産の所有権は買主に移転します。
買主へ売買による所有権移転登記を申請します。
通常は、売主と買主の依頼を受けて司法書士が登記申請を代理します。
所有権移転登記がされることによって、買主は第三者に権利主張をすることができます。
登記簿上、買主が所有者であることが明確になるからです。
⑤相続人全員の協力が不可欠
(1)相続登記のために必要書類を準備する協力
売買契約後で代金支払前に売主が死亡した場合、相続登記を省略できません。
遺言書がない場合、相続登記には次の書類が必要です。
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・相続人の現在戸籍
・被相続人の住民票の除票
・不動産を相続する人の住民票
・遺産分割協議書
・相続人全員の印鑑証明書
・固定資産税評価証明書
必要書類を準備するため、相続人全員の協力が必要です。
(2)遺産分割協議をする協力
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
遺産分割協議は、相続人全員の合意で成立します。
一部の相続人を含めずに合意しても、無効の合意です。
遺産分割協議書は、相続財産の分け方について相続人全員による証明書です。
合意内容に間違いがないか、相続人全員に確認してもらいます。
間違いがない場合、相続人全員が記名し実印で押印します。
相続人全員が協力しないと、遺産分割協議が成立しません。
相続人全員が協力しないと、遺産分割協議書を作成できません。
(3)不動産を引渡す協力
契約上の地位は、相続人全員に相続されます。
被相続人が売買契約を締結していた場合、売主の義務があります。
買主との間で契約を履行する場合、相続人全員が関与します。
一部の相続人だけが代表して関与することは、原則できません。
買主を含む契約当事者全員が同意しなければ、有効な履行行為になりません。
⑥相続登記には時間がかかる
売買契約後で代金支払前に売主が死亡した場合、相続登記を省略できません。
相続登記には、時間がかかります。
書類準備の時間、遺産分割協議の時間、相続登記審査の時間がかかるからです。
売買契約を締結したら、代金支払日は1か月後程度が多いでしょう。
遺産分割協議に時間がかかると、売買契約が予定どおり履行できなくなります。
登記申請中は、登記簿謄本を請求することができなくなります。
代金支払日に登記簿を確認できないと、買主は代金を支払うことができないでしょう。
相続登記が完了しないと、売買手続が止まってしまいます。
売主が死亡したら、速やかに買主と支払日の打ち合わせをします。
死亡した時期によっては、支払日の変更が必要になるからです。
3代金支払後で登記未了のまま売主が死亡
①代金支払時に所有権は移転する
親族間など信頼関係がある間柄で、不動産を売買することがあります。
売買契約締結後、代金を支払います。
代金支払時に、所有権は買主に移転します。
②所有権移転登記をする権利と義務を相続する
通常、売主と買主から依頼を受けて、司法書士が所有権移転登記を代理します。
親族間など信頼関係がある間柄では、所有権移転登記を先延ばしすることがあります。
売買契約の当事者は、お互いに所有権移転登記をする権利と義務があります。
所有権移転登記をする義務を果たさないまま、売主が死亡することがあります。
所有権移転登記をする権利と義務は、相続されます。
所有権移転登記をする権利と義務は、相続財産だからです。
相続人全員が、所有権移転登記をする権利と義務を相続します。
③代金支払後に死亡したときは相続登記不要
売買契約後で代金支払前に売主が死亡した場合、相続登記を省略できません。
売買契約後で代金支払後に売主が死亡した場合、相続登記は不要です。
代金支払時に、所有権は買主に移転したからです。
死亡した売主から直接買主に、所有権移転登記をすることはできます。
売主の相続人は、不動産を相続していません。
相続人は、所有権移転登記をする権利と義務を相続しただけです。
④相続人全員の協力で所有権移転登記
所有権移転登記をする権利と義務は、売主の相続人全員に相続されます。
相続人全員の協力で、所有権移転登記をする必要があります。
所有権移転登記をする権利と義務は、遺産分割協議で特定の相続人に集約することはできません。
一部の相続人の協力が得られないと、登記手続が進められなくなります。
最終的には、所有権移転登記請求訴訟の勝訴判決が必要になるでしょう。
信頼関係がある間柄であっても、登記手続はすみやかに行うことがおすすめです。
4相続登記を司法書士に依頼するメリット
相続が発生すると、相続人はたくさんの相続手続に追われて悲しむ暇もありません。
ほとんどの人は、相続を何度も経験しません。
手続に不慣れで聞き慣れない法律用語で、へとへとになります。
相続登記は、その中でも難しい手間のかかる手続です。
不動産は、重要な財産であることが多いものです。
知識がない人からすると、些細なことと思えるようなことでやり直しになります。
司法書士は、このような方をサポートしております。
相続登記を自分でやってみたけど、挫折した方の相談も受け付けております。
相続登記をスムーズに完了させたい方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
