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1まずは遺産分割協議
相続が発生したら、被相続人が所有していたものは、相続人全員の共有財産になります。
被相続人が住んでいた実家も、被相続人が所有していたものであれば、相続人全員の共有財産です。
被相続人が住んでいた実家が相当古い建物である場合、取り壊して更地にして売却したいこともあるでしょう。
相続財産は相続人全員の話し合いで、分け方を決める必要があります。
相続人全員で分け方を決める前であれば、相続人全員の合意で取壊しをすることができます。
建物の解体費用は通常、建物の所有者が負担します。
相続人全員で共有する建物だから、相続人全員で負担するべきでしょう。
相続人全員で分け方を決めた後なら、建物を相続する人が取壊しをすることができます。
建物の解体費用は相続する人が負担するのが一般的です。
建物をだれが相続するのか、取壊しをするときの費用はだれが負担するのかについて、一緒に話し合いによる合意をしておくと安心です。
取壊しがしやすい木造より、比較的頑丈な鉄筋コンクリート造は解体費用が高額になります。
一般的に、地方より都心部は、解体費用が高額になります。
重機が入らない細い道路があるケースや住宅密集地など近隣に配慮が必要なケースは、解体費用が割高になります。
これらの状況を加味すると、解体費用は100万円以上の負担になることもあります。
さらに、建物の中に不用品がたくさん放置されている場合、別途、不用品の処分費もかかります。
実家の解体には合意できても、解体費用は出し渋る相続人が出てくることもあるでしょう。
解体費用の負担は、軽くありません。
解体費用の負担について、具体的に合意しておくことは納得できる相続を実現するために重要です。
2登記名義が被相続人の前の所有者になっている場合
建物の登記簿を確認すると、祖父などの被相続人の前の所有者名義になっていることがあります。
祖父が死亡したときに、相続登記をしないまま先延ばししていた場合です。
まず、祖父の相続人全員の話し合いで、分け方を決めなければなりません。
祖父が死亡したときには健在だった相続人も、現在までに死亡していることもあるでしょう。
祖父が死亡したときには健在だった相続人の相続権は、死亡した相続人の相続人に相続されています。
祖父の相続人全員とは、当時健在であったが現在は死亡した相続人の相続人も含みます。
相続財産の分け方は、相続人全員の話し合いで決める必要があります。
死亡している相続人の相続人を含めず合意をしても、分け方の合意が無効になります。
必ず、相続人全員で、相続財産の分け方の合意をしましょう。
3勝手に取り壊したときのリスク
建築後何十年もたっているような建物であれば、実質的に価値は無いことが多いものです。
実質的に価値は無いからといっても、勝手に取壊しをすることはできません。
建築後何十年もたっているような建物であっても、相続人全員の共有財産だからです。
相続人それぞれが共有者として権利を持っているから、勝手に取り壊しをすると、権利侵害になります。
他の相続人から、損害賠償請求をされるおそれがあります。
実質的に価値は無いからといっても、他の相続人にとって愛着ある実家であれば、慰謝料請求は認められやすいでしょう。
実質的に価値は無いからといっても、まだ住むことができるのであれば損害が認められることが多いものです。
お金を借りるときに、被相続人が建物を担保に差し出していることもあります。
お金を貸した人は借金の返済が滞ったときのために、担保に取っています。
担保に取っていたのに、担保を取り壊されたら、借金の返済が滞ったときに困ります。
現実に借金の返済が滞っていなくても、担保が壊されたという事実が損害を与えたと考えられます。
担保を壊したら、お金を貸した人から損害賠償請求がされるおそれがあります。
そのうえ、建造物損壊罪にあたると懲役5年以下の刑になるなど刑事責任を問われるリスクもあります。
4取り壊しができる場合
実質的に価値は無いからといっても、勝手に取壊しをすることはできないのが原則です。
建築後何十年もたっているような建物であれば、老朽化が進んでいることもあるでしょう。
取り壊さないと倒壊の危険がある場合もあります。
老朽化した建物が倒壊したら、近隣の人や通行人に危害が及ぶおそれがあります。
このような危険な建物を取り壊さずに放置する方が無責任です。
倒壊の危険がある建物は、共有者が単独で取壊しができます。
5相続登記は不要
建物を取り壊すと、建物について登記簿は不要になります。
法務局に対して、建物は取り壊しました、登記簿をなくしてくださいと申請をする必要があります。
建物は取り壊しましたという登記申請を、建物滅失登記と言います。
相続した後、建物の取り壊しをした場合、建物の相続登記は省略することができます。
相続した後、土地を売却した場合、土地の相続登記は省略することができません。
土地でも建物でも、相続した後、売却する場合は必ず相続登記が必要です。
被相続人が生前に建物を取り壊していたが建物滅失登記をしていない場合もあります。
建物を取り壊しているので、相続人は建物を相続していません。
だから、建物の相続登記は不要です。
相続人は被相続人がするべきであった建物滅失登記を申請する義務を引き継いでいます。
建物滅失登記を申請する義務は、相続人のひとりが単独ですることができます。
相続人がたくさんいても同意は必要ありません。
建物はすでに取り壊されているので、建物滅失登記を申請しても、他の相続人に不利益は発生しないからです。
相続登記の費用も無視できませんから、勘違いしないようにしましょう。
6建物滅失登記は土地家屋調査士へ
建物滅失登記は、土地家屋調査士の担当です。
建物の表示登記に含まれるからです。
建物滅失登記に必要な書類は、次のとおりです。
①建物滅失証明書
②印鑑証明書
③相続を証する戸籍謄本
建物滅失証明書は、建物を取り壊したとき解体業者が証明する書類です。
解体業者が法人の場合、その法人の代表者の資格証明書と法人代表印の印鑑証明書を添付します。
申請書に解体業者の会社法人番号を記載した場合、法人の代表者の資格証明書と法人代表印の印鑑証明書は提出を省略できます。
建物を解体してから長期間経過して、建物滅失証明書を紛失することもあるでしょう。
解体してから長期間経過していると解体業者が分からなくなって、証明書が入手できなくなることもあります。
建物滅失証明書がなくても、所有者作成の上申書を作成して登記申請ができます。
詳しくは、建物の表示登記の専門家である土地家屋調査士に相談することをおすすめします。
自分の土地に、実際には存在しない建物の登記が存在する場合もあります。
建物を取り壊したときに、建物滅失登記をしないまま先延ばししていた場合です。
存在しない建物の登記の登記名義人が第三者の場合、土地の所有者であっても、建物滅失登記は申請できません。
建物滅失登記は登記官が職権で行うこともできます。
登記官の職権登記をしてもらえるように、土地の所有者が法務局に申出をすることができます。
自分で対応することが難しいケースも、土地家屋調査士に相談することをおすすめします。
7相続後の不動産売却を司法書士に依頼するメリット
相続した不動産を売却したいという方は少なからずいます。
相続も不動産の売却も、一生のうちに何度も経験するものではありません。
建物取り壊しをした場合、建物滅失登記を先延ばしすると10万円以下のペナルティーになるおそれがあります。
建物を取り壊したのであれば、固定資産税はかからないはずですが、自治体が取り壊しの事実を知らない場合、継続して税金がかかり続けるおそれがあります。
だれにとっても慣れない相続手続と売却手続を並行して進めるのは大変なことです。
建物が取り壊しが終わっているにもかかわらず建物の登記が残ったままの場合、土地を売却することが困難になります。
平日は仕事や家事をしながら、さらに大切な家族を失った悲しみを抱えながら、これらを手続するのは想像以上に大変です。
ご家族にお世話が必要な方がいて、お側を離れられない方からのご相談もお受けしております。
土地を売却するためには、相続登記が必須です。
建物は取り壊すのであれば、必ずしも、相続登記は必要ありません。
司法書士は土地家屋調査士と連携して、余計な費用や余計な手間をかけないように手続をします。
相続後の不動産売却を確実に進めたい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。