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1 遺産分割協議は必ず相続人全員で
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続人のひとりが勝手に処分することはできません。
相続人全員で相続財産の分け方について話し合いによる合意をして、分け方を決める必要があります。
相続財産の分け方にについて、相続人全員でする話し合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議は、必ず、全員で合意する必要があります。
一部の相続人を含んでいない場合は、無効になりますから、やり直しになります。
2 合意ができない代表例
複雑な事情が絡み合っていると、相続財産の分け方について、相続人全員の合意ができにくくなります。
合意が得られにくい代表例をご紹介します。
① 相続財産の大部分が不動産
不動産は分けにくい相続財産の代表例です。
財産を分ける場合、①現物分割②代償分割③換価分割④共有⑤用益権の設定による分割などの方法があります。
合意ができれば、どの方法でもかまいません。
2つ以上の方法を併用しても差し支えありません。
どの方法にもメリットデメリットがありますから、相続人全員が納得できる方法となると合意が難しくなります。
② 被相続人に再婚歴がある
前婚の家族と後婚の家族の間では、お互いにいい印象を持っていないのが普通でしょう。
相続財産の分け方について、話し合いをするとトラブルになりやすいです。
③ 相続人同士がもともと仲が悪い
相続が発生する前からトラブルを抱えている場合です。
相続財産の分け方についての話し合いをするだけのはずなのに、関係のない昔のことを蒸し返して、協議ができなくなります。
④ 連絡を取れない相続人がいる、疎遠で見ず知らずの人
遺産分割協議は、必ず、全員で合意する必要があります。
連絡を取れない相続人がいると、話し合いができません。
行方不明の相続人については、不在者財産管理人選任の申立をすることができます。
そこに住んでいることは確実だが連絡をすべて無視される場合、不在者とは言えないので申立はできません。
⑤ 遺産分割協議中に相続人が死亡
2人分の相続財産の分け方について、合意する必要があります。
単純に、合意すべき相続人が増えるだけでなく、話し合いをするべき項目も増えます。
⑥相続財産を独り占めする相続人がいる
通常、銀行が口座の持ち主が死亡したことを確認した時点で、銀行の預貯金などの口座を凍結させます。
口座の持ち主の死亡前後の凍結されていないときに、勝手に引き出すような場合、相続人間に大きなトラブルになります。
3 遺産分割協議がまとまらないときの対処法
相続財産の分け方は、必ず、相続人全員の合意が必要です。
合意できないからと言って、先延ばししてもメリットはありません。
相続人に相続が発生すると、相続人の地位が相続されて余計に複雑になるからです。
単純に相続人の数が増えるだけでも、合意がしにくくなります。
死亡した相続人が生前に合意していた内容や事情を知らない相続人の相続人が、合意していたはずの内容に異を唱えることもあります。
相続財産の分け方の話し合いはなるべく早く済ませましょう。
① 遺産分割調停の申立
相続財産の分け方について、相続人全員で、自主的に話し合って合意するのが、原則です。
相続人全員で話し合ってもまとまらない場合や話し合いができない場合は、家庭裁判所の助けを借りることになります。
家庭裁判所は、当事者から事情を聞いたり、資料を提出してもらったりして、当事者間の意見を取りまとめて、相続人全員の合意をめざして手助けをします。
この手助けのお願いを遺産分割調停の申立と言います。
遺産分割調停の申立をできる人は次の人です。
- 共同相続人
- 包括受遺者
- 相続分の譲受人
遺産分割調停の申立先は、相手方になる人の住所地の家庭裁判所です。
申立先の家庭裁判所を当事者で決めることもできます。
遺産分割調停の申立書に添付する書類は次のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の現在戸籍
- 相続人全員の住民票か戸籍の附票
- 相続財産に関する資料
相続人同士では譲歩できなくても、裁判所の意見として出された解決案には譲歩できることもあります。
お互いの譲歩をベースにするので、自分が正しくても譲歩しないとまとまらなくなります。
お互いが譲歩しないと家庭裁判所で話し合いをしてもまとまらなくなります。
月に1回くらいのペースで平日の日中に裁判所で話し合いをします。時間と労力がかかります。
話し合いの呼出があったのに欠席すると過料というペナルティーがあります。
仕事をしている人は自分で対応できずに、弁護士に依頼することになるでしょう。
弁護士は依頼人の利益の最大化を目標に働きますから、素人では太刀打ちできません。
ひとりが弁護士に依頼すると、相続人全員に、それぞれの弁護士がつくことになります。
それぞれの弁護士が利益最大化を目指すので家族の絆が修復困難になりやすいです。
それぞれの相続人が払う弁護士費用も無視できない額になります。
相続財産の分け方について、相続人全員で合意する必要があります。
法的に妥当な解決案であっても、ひとりでも反対する人がいると、調停不成立になります。
② 遺産分割審判へ移行
①の調停でも話し合いがつかない場合、自動的に遺産分割審判に切り替わります。
遺産分割審判は、相続人の話し合いではありません。
相続財産の分け方を家庭裁判所が決めるものです。
遺産分割調停で充分に話し合いをしても、合意できなかったはずだからです。
調停で提出された書類や相続人の意見聴取をした後、遺産分割に関する審判をします。
家庭裁判所は審判書という書類に取りまとめて、関係者に送ります。
この内容に不服があると場合は即時抗告という手続しかありません。
審判書を受け取ってから2週間以内にするもので、提出先は高等裁判所です。
通常の手続より、ハードルが高い手続です。
事実上、不服は言えないと考えるべきでしょう。
遺産分割審判が確定したら、強制執行できます。
反対する人がいても、遺産分割が実現します。
4 遺言書があれば遺産分割協議は不要
相続が発生したら、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
何も対策していなかったら、相続人全員で相続財産の分け方についての合意が不可欠です。
相続人の中に、疎遠な人や行方不明の人がいる場合、残されたれた相続人は大変な負担を負うことになります。
遺産分割協議はそうでなくても、トラブルになりやすい手続です。
対策しておけば、遺産分割協議を不要にすることができます。
この対策は、遺言書を書いておくことです。
遺言書があれば、相続財産の分け方について、相続人全員の合意は不要になります。
相続人に行方不明の人がいても、いなくても、遺言書のとおり分ければいいからです。
遺言書は隠匿や改ざんのおそれのない公正証書遺言がおすすめです。
5 遺言書作成を司法書士に依頼するメリット
相続財産の分け方は、必ず、相続人全員で合意する必要があります。
ひとりでも反対の人がいると、協議がまとまりません。
家庭裁判所の手助けを受ける方法を紹介しましたが、このような手続に進んだ場合、家族の絆は修復不能になります。
お互いが顔も見たくないという関係になる場合がほとんどです。
遺産分割調停の申立は年々増加しており、この10年で40%も増えています。
相続財産の規模も1000万円以下が全体の約30%を占めています。
全体の75%が5000万円以下の財産規模です。
相続財産の分け方について話し合いがまとまらないのは、決して資産家だけではないのです。
合意ができない代表例を紹介しましたが、その中にも資産家だからという理由はありませんし、相続税で揉めるのでもありません。
遺言書などで対策していないから、家族のもめごとに発展するのです。
大切な家族がトラブルに巻き込まれることを望む人はいないでしょう。
遺言書があることでトラブルになるのは、ごく稀なケースです。
遺言書がないからトラブルになるのはたくさんあります。
そのうえ、遺言書1枚あれば、相続手続は格段にラクになります。
実際、家族の絆のためには遺言書が必要だと納得した方は遺言書を作成します。
家族を笑顔にするために、遺言書作成を司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。