家督相続で長男が全財産を相続

1家督相続は戸主の地位と財産を相続する

①家督相続は戦後廃止された制度

戦前の民法においては、家制度が重視されていました。

その家の戸主が家族を統制し、家を維持していました。

家督とは、戸主の権利義務、家名、家業や家の財産が一体化したものです。

家督相続が発生すると、戸主の権利義務、家名、家業や家の財産が一体となって相続されます。

家督相続制度は、戦後廃止されました。

現代の憲法においては、基本的人権の尊重が重視されます。

戦前の民法は、基本的人権の尊重を重視する憲法に反すると考えられています。

家の維持のため、個人の基本的人権が侵害されることがあるからです。

具体的には、明治31年から昭和22年5月2日までの制度です。

現代の相続では、家督相続は適用されません。

家督相続は、戦後廃止された制度です。

②戸主は戸籍に記載された

戦前の民法においては、戸主が大きな力を持っていました。

戸主は、家族を統制し家を維持する人だからです。

戸籍の筆頭に、戸主が記載されていました。

③家督相続人の順位

家督相続人は、1人だけです。

家督相続人の順位は、次のとおりです。

(1)第一種法定家督相続人

第一種法定推定家督相続人は、直系卑属です。

(2)指定家督相続人

指定家督相続人は、前戸主が指定した人です。

(3)第一種選定家督相続人

第一種選定家督相続人は、被相続人の父が選定します。

家女である配偶者、兄弟、姉妹、家女でない配偶者、兄弟姉妹の直系卑属の順で、選定します。

(4)第二種法定家督相続人

第二種法定家督相続人は、直系尊属です。

複数の直系尊属がいる場合、親等が近い人が優先されます。

男と女で同順位の場合、男が優先されます。

(5)第二種選定家督相続人

第二種選定家督相続人は、親族会で選定します。

正当な理由があるときは、家庭裁判所の許可を得て他人を選定することができます。

④家督相続人は相続放棄ができない

家督相続人は、相続放棄をすることができませんでした。

戸主は、家族を統制し家を維持する人だからです。

⑤戦前は長男が全財産を相続

家督相続があると、家督相続人が相続します。

嫡出男子が最先順位です。

同順位の人が複数いた場合、年長者が家督相続人になります。

戸主の長男が家督相続人になっていました。

戦前は、家督相続人として長男が全財産を相続するのが当然でした。

2遺言書作成で現代に家督相続を実現させる

①遺言書で財産の分け方を決めておく

家督相続は、戦後廃止された制度です。

法律上廃止されても、まだまだ家督相続の意識は残っているかもしれません。

高齢者が経験してきた相続は、家督相続だったでしょう。

自宅などは、家族にとって重要な財産です。

自宅などの財産を長男に受け継いでもらいたいと、考えていることがあります。

被相続人は、生前に自分の財産を自由に処分することができます。

遺言者は遺言書を作成して、自分の財産をだれに引き継ぐのか自由に決めることができます。

相続が発生したら、被相続人の財産は相続人全員の共有財産になります。

現代の相続では、家督相続は適用されないからです。

相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決める必要があります。

遺言書を作成して相続財産の分け方を指定した場合、遺言書のとおりに分けることができます。

遺産分割協議は、相続人間でトラブルになりやすい手続です。

遺言書があると、遺産分割協議は原則として不要です。

遺言書を作成して、財産の分け方を決めておくことができます。

②公正証書遺言があっても遺留分侵害額請求ができる

遺言者は遺言書を作成して、自分の財産をだれに引き継ぐのか自由に決めることができます。

自由に決めることができると言っても、無制約の自由にすることはできません。

遺言者の名義になっているとは言っても、ひとりで築いた財産ではないでしょう。

家族の協力があってこそ、築くことができた財産のはずです。

無制約の自由にすると、今まで協力してきた家族に酷な結果となるおそれがあります。

被相続人に近い関係の相続人には、相続財産に対して最低限の権利が認められています。

遺留分とは、相続財産に対して認められる最低限の権利です。

配分された財産が遺留分に満たない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。

戦前の家督相続においては、家の財産すべてを家督相続人が相続していました。

現代の相続では、家督相続は適用されません。

長男に全財産を相続させる遺言書を作成した場合、他の相続人はがっかりするでしょう。

遺言書を作成するだけで、他の相続人の遺留分を奪うことはできません。

公正証書遺言があっても、遺留分侵害額請求をすることができます。

③遺言書があっても遺産分割協議ができる

高齢者が経験してきた相続は、家督相続だったでしょう。

自分が家督相続人として、家の全財産を相続したかもしれません。

家督相続が当然の時代だから、他の家族は何も言わなかったでしょう。

長男が全財産を相続して当然だと、考えていることがあります。

長男に全財産を相続させる遺言書を作成するかもしれません。

長男に全財産を相続させる遺言書は、他の相続人にとってあまりに偏った内容と言えるでしょう。

あまりに偏った内容の遺言書をそのまま執行すると、相続人間で大きなトラブルになります。

大きなトラブルになる遺言書なのに、わざわざ執行してトラブルにする必要はありません。

相続人全員の話し合いによる合意で、相続財産の分け方を決める方が合理的です。

遺言書があっても、遺産分割協議をすることができます。

3遺産分割協議で現代に家督相続を実現させる

①家督相続を主張するとトラブルに発展する

法律上廃止されても、まだまだ家督相続の意識は残っているかもしれません。

高齢者が経験してきた相続は、家督相続だったでしょう。

長男は家の跡取りとして、大切に育てていることがあります。

長男自身が家の跡取りとして、長男がすべて相続して当然と思い込んでいることがあります。

現代の相続では、家督相続は適用されません。

相続が発生したら、被相続人の財産は相続人全員の共有財産になります。

一方的に全財産を相続して当然といった態度を取ったら、他の相続人はびっくりするでしょう。

仮に家督相続が当然の時代だったら、他の家族は何も言わなかったでしょう。

現在では、相続人が平等に相続財産を相続します。

一方的に全財産を相続して当然と主張したら、相続人間で大きなトラブルに発展します。

②相続人全員が合意できないときは遺産分割調停

相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決定します。

現代の相続では、家督相続は適用されないからです。

家の跡取りとして大切に育てられたなど、無関係な事情です。

相続人全員の合意ができない場合、家庭裁判所の助力を得ることができます。

遺産分割調停は、家庭裁判所のアドバイスを受けてする相続人全員の話し合いです。

相続人だけで話し合いをした場合、感情的になってしまうかもしれません。

家庭裁判所の調停委員に話す場合、少し落ち付いて話ができるでしょう。

家庭裁判所の調停委員から公平な意見を根拠にしてアドバイスがされると、納得できるかもしれません。

調停委員から客観的なアドバイスを受けて、相続人全員の合意を目指します。

4先祖名義の不動産は家督相続による相続登記

①先祖名義のまま相続登記が放置されている

登記簿を確認すると、父母や祖父母の名義のままになっていることがあります。

令和6年4月1日に相続登記が義務になりました。

それまでは、相続登記をしなくてもペナルティーは課されませんでした。

登記をしないと、所有者はソンをします。

登記がないと、権利主張をすることができないからです。

相続登記をするためには、時間と手間がかかります。

時間と手間がかかることを嫌って、相続登記が放置されていることがあります。

不便な地にあるなどの理由で、評価が低い不動産があります。

重要な財産でない場合、権利主張の必要がないかもしれません。

父母や祖父母、それ以前の先祖の名義のままになっていることがあります。

先祖名義のまま、相続登記が放置されていることがあります。

②旧民法適用で家督相続による相続登記

相続が発生したら、相続人は相続手続をします。

被相続人が不動産を持っていた場合、不動産の名義変更を行います。

相続登記は、不動産の名義変更です。

本来であれば相続が発生したときに、当時の法律に従って相続登記をしたはずです。

現在まで放置してしまっていても、当時の法律に従って相続登記をします。

相続が発生したのが旧民法下であれば、家督相続があるでしょう。

登記原因は、「〇年〇月〇日家督相続」です。

戸主の死亡による家督相続においては、〇年〇月〇日は死亡日です。

家督相続届の提出日ではありません。

戸主以外の家族が死亡した場合、家督相続ではなく遺産相続があります。

登記原因は、「〇年〇月〇日遺産相続」です。

現在の相続登記では、「〇年〇月〇日家督相続」「〇年〇月〇日遺産相続」は使いません。

旧民法下で発生した相続は、旧民法適用で家督相続による相続登記をします。

③令和6年4月1日以前に発生した相続も義務化の対象

令和6年4月1日に相続登記が義務になりました。

令和6年4月1日以降に発生した相続は、当然に対象になります。

令和6年4月1日以前に発生した相続であっても、相続登記は義務になります。

相続登記は、3年以内に申請しなければなりません。

相続登記の申請義務を果たしていない場合、ペナルティーが課されます。

令和6年4月1日以前に発生した相続であっても、ペナルティーが課される予定です。

5相続登記を司法書士に依頼するメリット

大切な家族を失ったら、大きな悲しみに包まれます。

やらなければいけないと分かっていても、気力がわかない方も多いです。

相続手続は、一生のうち何度も経験するものではありません。

だれにとっても不慣れで、手際よくできるものではありません。

相続手続で使われる言葉は、法律用語です。

一般の方にとって、日常で聞き慣れないものでしょう。

不動産は重要な財産であることも多いものです。

登記手続は一般の方から見ると些細なことと思えるようなことで、やり直しになります。

日常の仕事や家事のうえに、これらのことがあると、疲労困憊になってしまうことも多いでしょう。

司法書士などの専門家から見れば、トラブルのないスムーズな相続手続であっても、多くの方はへとへとになってしまうものです。

相続手続に疲れてイライラすると、普段は温厚な人でも、トラブルを引き起こしかねません。

司法書士などの専門家は、このような方をサポートします。

相続手続でへとへとになったから先延ばしするより、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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