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1死亡した人の預貯金引出しで刑事責任は問われない
①同居の親族は刑事事件にならない
銀行口座は、日常生活に欠かせません。
多くの人は、銀行に口座を持っているでしょう。
口座の持ち主が死亡した場合、口座の預貯金は相続人が相続します。
口座の預貯金は、相続財産です。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
共有財産なのに、一部の相続人が勝手に引き出すことがあります。
他人の預貯金を勝手におろした場合、窃盗罪や横領罪になるはずです。
預貯金をおろした人が同居の親族である場合、刑事責任は問われません。
刑法には、親族相盗という特例があるからです。
窃盗罪や横領罪が成立する犯罪であっても、刑が免除されます。
親族間のトラブルは、親族間の自律に任せる方がいいとされているからです。
国家の刑罰権の行使を差し控えて、家族で解決することが望ましいと考えられています。
親族相盗とは、一定の範囲の親族間の犯罪を処罰しない特例です。
親族相盗で刑が免除される親族は、次のとおりです。
(1)配偶者
配偶者は、法律上の配偶者のみ適用されます。
事実婚・内縁の配偶者は、対象外です。
(2)直系血族
養子縁組によって親子関係がある場合、直系血族に含まれます。
兄弟姉妹やいとこは血族であっても、対象外です。
(3)同居の親族
親族は、民法の定めに従います。
民法上の親族とは、6親等内の血族と3親等内の姻族です。
相続が発生した後に預貯金をおろした場合、刑事責任は問われません。
相続が発生する前であっても、刑事責任は問われません。
②親族相盗にあたらないときは刑事責任を問われる
親族相盗とは、一定の範囲の親族間の犯罪を処罰しない特例です。
親族でない第三者が関与していた場合、刑事責任が問われます。
例えば、親族以外の第三者が代理で預貯金をおろす場合です。
同居の親族以外の人が預貯金をおろした場合も、刑事事件になります。
親族相盗にあたらないと、刑事責任が問われます。
③刑事事件にならなくても民事責任
一部の相続人が被相続人の預貯金を勝手におろしても、親族相盗にあたるでしょう。
窃盗罪や横領罪になっても、刑事責任は問われません。
被相続人の預貯金は、相続人全員の共有財産です。
勝手におろして自分のものにすることは、許されることではありません。
他の相続人から、勝手に引き出した金銭を返して欲しいを請求されるでしょう。
他の相続人は、不当利得返還請求や不法行為損害賠償請求をすることができます。
刑事事件にならなくても、民事責任はあるからです。
不当利得返還請求や不法行為損害賠償請求がされると、相続人間で大きなトラブルになるでしょう。
刑事事件にならなくても、民事責任が問われます。
④銀行は責任を問われない
相続が発生したら、被相続人の預貯金は相続人全員の共有財産です。
一部の相続人が勝手に引き出すことは、許されることではありません。
銀行が引き出しに応じたことについて、他の相続人は責任を問うことはできません。
銀行は、だれの意思で預貯金の引出しをしたのか判断することができないからです。
預貯金の引出しに応じても、銀行は責任を問われません。
⑤死亡した人の預貯金口座は凍結される
一部の相続人が勝手に預貯金を引き出した場合、相続人間で大きなトラブルになるでしょう。
銀行が安易に引出しに応じた場合、相続人間のトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
口座の持ち主が死亡したことを知った場合、銀行は口座を凍結します。
口座の凍結とは、口座取引を停止することです。
口座取引の代表例には、次のものがあります。
・ATMや窓口での引出
・年金などの振込
・公共料金の引落
相続人間のトラブルに巻き込まれないため、口座を凍結します。
口座の持ち主が死亡しても、病院や市区町村役場から自動で銀行に連絡されることはありません。
病院や市区町村役場から個人情報が漏れたら、大きな責任問題になるからです。
口座凍結のタイミングは、相続人などから連絡があったときです。
相続があったら、口座の有無や相続手続の方法を問い合わせるでしょう。
問合せがあったときに、銀行は相続の発生を知ります。
相続の発生があったことを知ったタイミングで、口座を凍結します。
一部の相続人が勝手に預貯金を引き出す心配がある場合、すみやかに銀行に連絡するといいでしょう。
口座が凍結されると、預貯金は勝手に引き出すことができなくなるからです。
死亡した人の預貯金口座は、凍結されます。
⑥預貯金を勝手におろすと相続放棄ができなくなるおそれ
相続が発生したら、相続人は相続を単純承認するか相続放棄をするか選択することができます。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に対して相続放棄をする申立てをします。
家庭裁判所は相続放棄の申立ての書面を見て審査をします。
提出された申立書に問題がなければ、相続放棄を認める決定をするでしょう。
家庭裁判所が相続放棄を認める決定をしても、絶対ではありません。
相続放棄ができないのに、相続放棄の申立てを提出していることがあるからです。
単純承認をした後に、相続放棄をしても無効です。
単純承認をしたら、撤回することはできないからです。
相続財産を利用・処分した場合、単純承認をしたと見なされます。
単純承認をした後に、相続放棄をすることはできません。
被相続人の預貯金を勝手に引き出して自分のものにした場合、単純承認を見なされます。
単純初認をしたら、相続放棄はできません。
家庭裁判所は事情を分からずに、相続放棄を認める決定をしてしまうでしょう。
後から裁判で、相続放棄は無効になります。
被相続人の預貯金を勝手におろすと、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
2死亡した人の預貯金を勝手に引出すと相続人間でトラブル
トラブル①相続分を超えて引出し
被相続人と同居している家族は、生前、口座から引出しを依頼されることがあるでしょう。
ときには、預貯金の管理を任されていたかもしれません。
口座の持ち主が死亡した場合、葬儀費用や治療費・介護費の清算をすることになるでしょう。
まとまった金額の支出が予想されます。
口座凍結前であれば、キャッシュカードで引出しをすることがあるでしょう。
銀行口座の預貯金は、本来、相続人全員の共有財産です。
他の相続人からは、不正な引出しに見えるおそれがあります。
相続分の範囲内であれば、自分の相続分の先払いと考えることができます。
遺産分割協議の中で調整しやすいでしょう。
相続分の範囲内であれば、大きなトラブルになりにくいと言えます。
自分の相続分を超える引出しは、大きなトラブルに発展しがちです。
トラブル②引出しが後から判明
葬儀費用や治療費・介護費の清算は、ある程度まとまった金額になるでしょう。
自分の固有の財産から立替えをすることが難しいことがあります。
被相続人の預貯金から引出して、用立てるでしょう。
被相続人の預貯金から引出したことに、負い目を感じるかもしれません。
他の相続人に預貯金の引出しの事実を共有しないことがあります。
ときには、負い目を感じて他の相続人に通帳を見せないかもしれません。
他の相続人に通帳を見せない場合、疑いの目を向けるでしょう。
通帳を見せなくても、他の相続人は自分で調べることができます。
相続人は単独で、被相続人の口座の残高や取引履歴を取り寄せることができるからです。
預貯金の引出しを隠していると、他の相続人は疑心暗鬼になります。
他にも引き出しがあるのではないかと考えて、大きなトラブルになるでしょう。
預貯金の引出しが後から判明すると、大きなトラブルに発展しがちです。
トラブル③使い途が不明
銀行口座の預貯金は、本来、相続人全員の共有財産です。
トラブル防止の観点から、相続発生後に預貯金の引出しはおすすめできません。
葬儀費用や治療費・介護費の清算は、ある程度まとまった金額になるでしょう。
やむを得ず引き出す場合、使い途が分かる書類を保管しましょう。
葬儀費用や治療費・介護費の清算であれば、他の相続人が納得してくれるでしょう。
使い途が分かる請求書や領収書があれば、トラブルに発展することは少ないでしょう。
被相続人のために使ったが何に使ったか細かく覚えていない等は、大きな不信感を抱かせます。
自分のために使ったのだろうと疑われるでしょう。
使い途が不明である場合、大きなトラブルに発展しがちです。
3死亡した人の預貯金を引出す方法
方法①遺言書で相続
被相続人が生前に遺言書を作成していることがあります。
遺言書を作成して、自分の財産をだれに引き継いでもらうか決めておくことができます。
遺言者が死亡したときに、遺言書は発効します。
遺言書で預貯金を相続させると指定された人は、預貯金を相続することができます。
遺言書で相続する場合、他の相続人の同意は不要です。
預貯金を相続させると指定された人は、単独で相続手続をすることができます。
遺言書で相続した場合、相続した人は預貯金を引出すことができます。
方法②相続人全員で遺産分割協議
相続が発生したら、被相続人の財産は相続財産です。
相続財産は、相続人全員の共有財産です。
相続財産の分け方は、相続人全員の合意で決める必要があります。
被相続人の預貯金は、相続人全員の協力で分け方を決めます。
相続人全員の合意で分け方を決めたら、合意内容を文書に取りまとめます。
相続財産の分け方について相続人全員の合意内容を取りまとめた文書を遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議書の内容は、相続人全員に確認してもらいます。
遺産分割協議書の内容に問題がなければ、記名し実印で押印をしてもらいます。
遺産分割協議書の押印が実印による押印であることを証明するため、印鑑証明書を添付します。
相続人全員で遺産分割協議をした場合、相続した人は預貯金を引出すことができます。
方法③預貯金の仮払い制度を利用
預貯金を引出す場合、原則として相続人全員の合意が必要です。
相続人全員の合意が難しいことがあります。
相続人に認知症の人や行方不明の人がいることがあるからです。
一部の相続人を除外して相続財産の分け方を合意しても、無効の合意です。
一定の条件下で、預貯金の仮払制度を利用することができます。
銀行などの金融機関に手続をする場合、仮払い上限額の計算式は次のとおりです。
仮払いの上限額=死亡時の預金額×1/3×法定相続分
計算式で求められた上限額が150万円を超えた場合、150万円になります。
預金の金額が少ない場合や法定相続人が多い場合、150万円の仮払いを受けることができません。
預貯金の仮払い制度を利用した場合、相続人は預貯金を引出すことができます。
4預貯金の相続手続を司法書士に依頼するメリット
口座を凍結されてしまったら、書類をそろえて手続すれば解除してもらえます。
必要な書類は、銀行などの金融機関によってまちまちです。
手続の方法や手続にかかる期間も、まちまちです。
銀行内部で取扱が統一されていないことも多いものです。
窓口や電話で確認したことであっても、上席の方に通してもらえないことも少なくありません。
相続手続は、やり直しになることが多々あります。
このためスムーズに手続きできないことが多いのが現状です。
日常生活に不可欠な銀行口座だからこそ、スムーズに手続したいと思う方が多いでしょう。
仕事や家事で忙しい方や高齢、療養中などで手続が難しい方は、手続を丸ごとおまかせできます。
ご家族にお世話が必要な方がいて、お側を離れられない方からのご相談もお受けしております。
凍結口座をスムーズに解除したい方は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。