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1認知症になると自宅を売却できない
①自宅を売却するためには判断能力が必要
高齢になると、身のまわりのことが不自由になることが多くなります。
身のまわりのことが思うようにならなくなると、家族がかかり切りでお世話をすることになります。
子どもらの世話になるより、自宅を売って施設でお世話をしてもらいたいことがあります。
身体が不自由になったから施設に入りたい場合、判断能力は充分にあるでしょう。
自宅を売却する場合、自宅の持ち主の判断能力の有無が重要になります。
物事のメリットデメリットを充分に判断する能力がない場合、売買契約などの法律行為はできません。
自宅を売却するためには、自宅の持ち主の判断能力が必要です。
②認知症になると判断ができなくなる
認知症になると、物事の良しあしを適切に判断することができなくなります。
記憶があいまいになる人もいます。
物事の良しあしを適切に判断できない場合、売買契約などの法律行為はできません。
認知症になると、自宅の持ち主であっても売却ができなくなります。
自宅を売却するためには、判断能力が必要だからです。
③認知症の人が売買契約をしても無効になる
認知症の人は、物事のメリットデメリットを充分に判断することができません。
重度の認知症になると、自宅を売却することの意味も分からないでしょう。
意味が分からないまま、売買契約書を作成しても無効です。
自宅を売却するためには、判断能力が必要だからです。
不動産取引には、たくさんの人が関与します。
売買契約が無効になると、たくさんの人に迷惑がかかります。
売買契約が無効になると、損害賠償請求や訴訟に発展するでしょう。
不動産の買主は、不動産を使いたいから購入したはずです。
売買契約が無効になると、不動産が使えなくなります。
不動産の購入のため、金融機関は融資を実行したでしょう。
売買契約が無効になると、融資も不要になります。
不動産の売買には、司法書士が登記を担当するでしょう。
売買契約が無効になると、司法書士は懲戒処分を受けます。
不動産の売買には、不動産業者が仲介をするでしょう。
売買契約が無効になると、不動産業者は行政処分を受けます。
不動産の持ち主が判断能力がないのは、非常に重要な問題です。
不動産取引に関与する人は、不動産の持ち主の判断能力の有無について非常に慎重に判断します。
物事のメリットデメリットを充分に判断できないまま、売買契約をしても無効になるからです。
売買契約書を作成して押印さえすればいいといったものではありません。
認知症の人が売買契約をしても、無効になります。
④施設入所のためでも売却ができない
施設に入所するときには、まとまった金額が必要になります。
自宅を売却する理由が、売却代金を入所費用に充てるためというのは割とよくあります。
本人のためになるから、売却できると思うかもしれません。
物事のメリットデメリットを充分に判断できないまま、売買契約をしても無効になります。
売却しないと施設に入れなくなるなども、理由になりません。
物事のメリットデメリットを充分に判断できないから、自宅を売却できなくなるのです。
⑤子ども等が代わりに判断できない
自宅の持ち主が認知症になった場合、自宅の持ち主であっても売却することができなくなります。
認知症になると、物事の良しあしを適切に判断することができなくなるからです。
自宅の持ち主が判断できなければ、子どもなどの家族が代わりに判断すればいいと思うかもしれません。
自宅の持ち主の代わりに、家族が代わりに判断することはできません。
赤ちゃんなどが契約などの法律行為をする必要があることがあります。
赤ちゃんは、自分で物事のメリットデメリットを充分に判断することができません。
赤ちゃんが契約などの法律行為をする場合、親などの親権者が代わりに判断します。
親などの親権者が代わりに判断することができるのは、赤ちゃんが未成年者だからです。
認知症の人は、未成年者ではないでしょう。
未成年ではないから、子ども等が代わりに判断できません。
⑥空き家になっても売却できない
自宅を売却しないまま施設に入った場合、自宅が空き家になることがあります。
重度の認知症になった場合、自宅に帰る見込みはほとんどないでしょう。
だれも住むことがなくなった家であっても、管理はしなければなりません。
自宅に帰る見込みがなくなっても、固定資産税などの費用負担は続きます。
管理の手間と費用がかかるから、自宅を売却したいと思うかもしれません。
自宅を売却するためには、自宅の持ち主の判断能力が必要です。
空き家になっても、自宅を売却することはできません。
⑦銀行の預貯金も凍結される
認知症になると、自宅を売却することができなくなります。
凍結される資産は、自宅などの不動産だけではありません。
銀行の預貯金も、凍結されます。
認知症になると、物事のメリットデメリットを充分に判断することができなくなります。
口座の持ち主が認知症であることを知ると、銀行が口座を凍結します。
口座の凍結とは、引出や解約、引落などの口座取引をできなくすることです。
口座の預貯金を管理することは、できないでしょう。
不必要な取引をしてしまったり不利益になる契約をしてしまうかもしれません。
認知症であることに付け込んでくる悪質業者の被害を受けるおそれがあります。
自分自身がお金を引き出した事実を忘れて、混乱することも考えられます。
本人をトラブルから守るため、銀行は口座を凍結します。
認知症になると、あらゆる資産が凍結されます。
2認知症の人の代わりに成年後見人
①成年後見人が代わりに判断する
認知症になると、自分で物事の良しあしを適切に判断することができなくなります。
成年後見人は、自分で物事の良しあしを適切に判断することができなくなった人をサポートする人です。
契約などの法律行為をする場合、認知症の人に代わってメリットデメリットを判断します。
成年後見人は、認知症の人に代わって判断してくれる人です。
②成年後見人は家庭裁判所が選任する
認知症の人にサポートが必要になった場合、家庭裁判所に申立てをします。
家庭裁判所は、サポートの必要の有無を判断します。
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
申立てをするときに、成年後見人の候補者を立てることができます。
候補者を選任することも候補者以外の人を選任することもあります。
認知症の人の家族が成年後見人に選ばれるのは、20%程度です。
家庭裁判所が家族以外の専門家を選任した場合、不服を述べることはできません。
家族が成年後見人に選ばれなくても、申立てを取り下げることはできません。
いったん申立てを出したら審判がされる前であっても、取下げには家庭裁判所の許可が必要です。
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
③成年後見人は家族の希望をかなえる人ではない
成年後見人は、認知症の人をサポートする人です。
認知症の人に利益のために、働きます。
自宅の売却が認知症の人のために必要ないと判断されたら、売却をしてもらえません。
認知症の人の利益にならないことはできません。
たとえ家族が望んでも、客観的に認知症の人の利益にならないと判断されることはできません。
成年後見人は、家族の希望をかなえる人ではないからです。
預貯金が充分にあるのに、家族が自宅を売却を希望することがあります。
認知症の人が帰るべき自宅を失うことは、認知症の人にとって大きな不利益です。
管理の手間や費用がかかるとしても、圧倒的大きな不利益があると言えます。
成年後見人も家庭裁判所も、自宅の売却は認めてくれないでしょう。
家族の希望をかなえてくれないのは、成年後見人が家族以外の専門家だからではありません。
家族が成年後見人であっても、家族の希望をかなえることできないでしょう。
成年後見人は、家庭裁判所の監督を受けます。
認知症の人に不利益な行為を見逃してはくれません。
認知症の人に不利益な行為を見つけたら、厳重注意になるでしょう。
重大な不利益の場合、財産管理不適切を理由に解任されるおそれがあります。
成年後見人は、家族の希望をかなえる人ではありません。
④自宅売却後も成年後見は続く
成年後見人は、物事のメリットデメリットを充分に判断できない人をサポートする人です。
成年後見人を選任してもらうきっかけが、自宅の売却であったかもしれません。
自宅の売却が完了した後も、成年後見は続きます。
自宅を売却した後も、認知症の人は物事のメリットデメリットを充分に判断できないからです。
自宅を売却した後も、財産管理ができないからです。
物事のメリットデメリットを充分に判断できるようになるまで、成年後見は続きます。
事実上、認知症の人が死亡するまで成年後見は終了しません。
3認知症になる前にできること
①任意後見契約
後見制度には、2種類あります。
任意後見と法定後見です。
任意後見は、認知症になったときに備えて信頼できる人にサポートを依頼する契約です。
任意後見人は、自分で選ぶことができます。
認知症になる前だけ、契約することができます。
法定後見は、認知症になった後に家庭裁判所にサポートする人を選んでもらう制度です。
成年後見人は、家庭裁判所が選任します。
成年後見人には、家族を選任してもらいたいという希望は少なくありません。
法定後見の場合、家族を選任してもらいたいと希望しても認めれらないケースがほとんどです。
任意後見人は、自分で選ぶことができます。
認知症になる前に、任意後見契約をしておくといいでしょう。
②家族信託
所有者はものを自由に売ったり、自由に管理したりして、ものから利益を受け取ることができます。
だから、所有権は、自由にものを売る権利であるし、自由に管理する権利であるし、ものから利益を受け取る権利であるといえます。
所有権はよく見ると、たくさんの権利の集合体といえます。
たくさんの権利の集合体である所有権から、自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡して、自分はものから利益を受け取る権利だけ持っていることができます。
自由に売る権利や自由に管理する権利を信頼できる家族に渡して、自分はものから利益を受け取る権利だけ持つ仕組みを家族のための信託といいます。
この仕組みを利用すると、信頼できる家族は自由にものを売ることができるし、自由に管理することができます。
家族信託は、信頼できる家族とする契約です。
認知症になる前に、自宅を信託することができます。
信託された家族は、信託契約に基づいて自宅を売却することができます。
自宅の持ち主が何も対策しないまま認知症になったら、自宅を売却することはできません。
認知症になる前に家族信託を契約したら、認知症になった後も、家族が自宅を売却することができます。
信託された家族は、自分の判断で信託契約の範囲内で売却などの処分ができるからです。
認知症になる前に、自宅や預貯金を信託する信託契約をするといいでしょう。
4認知症対策を司法書士に依頼するメリット
高齢化社会が到来したといわれて、多くの方は長生きになりました。
平均寿命は男性も女性も80歳を超して、認知症になる方が多くなりました。
認知症になると、物事のメリットデメリットが充分に判断できなくなります
本人の財産は、本人しか処分できません。
本人が判断できなくなると、資産が凍結されてしまいます。
本人が介護施設入所するためであっても、家族が不動産を勝手に売却することはできません。
本人の実の子どもであっても、本人の定期預金を解約することはできません。
一部の金融機関では、本人以外の家族がキャッシュカードを使っていることを確認したら、キャッシュカードを回収しています。
本人の意思確認を重視する流れは、他の金融機関にも広がっていくでしょう。
認知症対策は、本人の判断能力がしっかりしているうちしかできません。
いつか認知症対策をしようではなく、今なら元気だから対策しようが正解です。
認知症になると、本人はもとより家族も困ります。
自分のためにも家族のためにも認知症対策を考えている方は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。