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1損害賠償債務とは
社会生活を送っていると、わざとでなくても他の人のものを壊してしまったりケガをさせてしまったりすることがあります。
法律や契約に違反して、損害を与えてしまうこともあるでしょう。
他の人の財産や身体に損害を与えてしまった場合、損害を償う必要があります。
損害を償う義務が損害賠償債務です。
物を壊してしまったときの修理代やケガをさせてしまったときの治療費は、損害賠償債務です。
2損害賠償債務は相続放棄ができる
①マイナスの財産もプラスの財産も相続財産
相続が発生した後、相続財産は相続人全員の共有財産になります。
相続財産というとプラスの財産だけをイメージしがちですが、マイナスの財産も相続財産です。
被相続人が他の人の財産や身体に損害を与えてしまった場合、相続人が損害を賠償しなければなりません。
例えば、交通事故で被害者にケガをさせてしまった場合、被害者の治療費や慰謝料などを負担することになります。
例えば、ビルの高層階から転落して地上の施設を破壊した場合、施設の原状回復費用を賠償することになります。
この後に被相続人が死亡した場合、相続人が損害賠償債務を相続することになります。
②相続放棄とは
相続が発生したら、原則として、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続人が受け継ぎます。
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継がないことを相続の放棄といいます。
相続放棄をすると、プラスの財産を引き継がなくなりますが、マイナスの財産も引き継ぐことがなくなります。
③損害賠償債務は相続放棄ができる
被害者に大きなケガをさせてしまった場合、被害額が高額になることがあります。
相続人は家庭裁判所で相続放棄の申立てをすることができます。
家庭裁判所で相続放棄が認められた場合、損害賠償債務を免れることができます。
相続放棄をした場合、プラスの財産も相続することができなくなります。
相続によって巨額の債務を相続することになると、相続人の人生が破綻してしまいます。
相続放棄の制度は、相続人の人生が破綻しないように相続人を守るためにあります。
相続人が損害賠償債務を免れると、被害者に酷だという意見があるでしょう。
家族が責任を取るべきだと考えるかもしれません。
相続放棄は、相続人の人生を守るためにあるから、やむを得ないと言えます。
3損害賠償額が分からなくても相続放棄をすることができる
相続放棄の申立ては、家庭裁判所に対して手続をします。
家庭裁判所に提出する相続放棄申述書を見ると、相続財産の概略を記載する欄があります。
相続財産の概略で資産と負債の書く様式になっています。
資産と負債を記載しなければならないように感じるかもしれません。
相続財産の概略は、相続人の分かる範囲で記載すれば充分です。
分からなければ、分かりませんと書いて問題はありません。
例えば、鉄道におけるホームからの転落事故など賠償額が甚大になる場合、鉄道会社であっても賠償額はすぐには判明しません。
調査を終えないと、被害額を計算することができないからです。
鉄道会社が損害額を計算するためには、長期間かかるのが通常です。
相続放棄の期限は、原則として、相続があったことを知ってから3か月以内です。
「相続があったことを知ってから」とは、被相続人が死亡して相続が発生し、その人が相続人であることを知って、かつ、相続財産を相続することを知ってから、と考えられています。
被相続人にめぼしいプラスの財産がなく、かつ、明らかに甚大な損害賠償債務がある場合、相続放棄の手続をするといいでしょう。
4自己破産の場合は免責されない債務がある
損害賠償額が甚大である場合、まず相続放棄をすることが最初の選択肢です。
相続放棄ができなかった場合、相続してしまった相続人が自己破産をする方法が考えられます。
自己破産をする場合、債務のすべてが免責されるとは限りません。
他の人の生命や身体に対して損害を与えた場合で、かつ、故意や重大な過失がある場合、その損害賠償債務は免責されません。
被相続人が故意や重大な過失で他の人の生命や身体に対して損害を与えた場合であっても、相続人は相続放棄をすることで、損害賠償債務を免れることができます。
相続放棄は、自己破産と較べると強い効力があります。
5相続放棄をした後に自己の財産から支払をすることができる
①相続放棄が認められたら支払いは不要
相続放棄が認められた場合、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことはありません。
損害を賠償して欲しいと要求されても、応じる必要はありません。
②相続放棄申述受理通知書の提示が有効
相続放棄が認められたと口頭で伝えるだけでは、信用してもらえないかもしれません。
家庭裁判所が相続放棄を認めた場合、相続放棄申述受理通知書を送ってきます。
相続放棄申述受理通知書のコピーを提示すると納得してもらうことができるでしょう。
③相続放棄をした後に自己の財産から支払をすることができる
相続放棄が認められた場合、本人の債務を引き継ぐことはありません。
債務の支払義務はなくても、家族が迷惑をかけたのだから、いくらか支払いたい場合があります。
相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされます。
本人の預貯金で支払をした場合、相続財産を処分したと判断されるおそれがあります。
相続財産を処分した場合であっても、保存行為にあたる場合は、単純承認したとみなされません。
あえてトラブルに巻き込まれる危険を冒す必要はありません。
相続人の固有の財産から支払をした場合、相続財産を処分したと言われることはありません。
家族が迷惑をかけたのだから、被害者に支払いたい場合、相続人の固有の財産から支払をすることをおすすめします。
6相続放棄を司法書士に依頼するメリット
実は、相続放棄はその相続でチャンスは1回限りです。
家庭裁判所に認められない場合、即時抗告という手続を取ることはできますが、高等裁判所の手続で、2週間以内に申立てが必要になります。
家庭裁判所で認めてもらえなかった場合、即時抗告で相続放棄を認めてもらえるのは、ごく例外的な場合に限られます。
一挙にハードルが上がると言ってよいでしょう。
相続放棄では、戸籍や住民票が必要になります。
お仕事や家事、通院などでお忙しい人には平日の昼間に役所にお出かけになって準備するのは負担が大きいものです。
戸籍や住民票は郵便による取り寄せもできますが、書類の不備などによる問い合わせはやはり役所の業務時間中の対応が必要になりますから、やはり負担は軽いとは言えません。
このような戸籍や住民票の取り寄せも司法書士は代行します。
3か月の期限が差し迫っている方や期限が過ぎてしまっている方は、すみやかに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。